忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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忍者になりたいと願った男2

「みんな、何してるかなあ」

 

「彼らはきっと、今でも人類のために働き続けていますよ」

 

「まあそうだけど……」

 

 あれから少し。

 俺は無職みたいなものだ。

 今は、ウィンストンとウォッチポイントで生活している。

 情けない話だけど、俺には戸籍が無い。

 世界にいきなり現れた異分子は、オーバーウォッチという後ろ盾がいたからこそマトモに活動することができた。

 ソレがなくなれば、行く道は無い。

 

 ウィンストンは、衛星軌道に載せるためのドローンを今も作っている。

 彼らを再び、呼び戻すために。

 その下準備をするために。

 

「あなたの気持ちはわかるつもりです、私もあなたと似たようなものですから」

 

「そりゃどうも……」

 

 今も作業しながらの背中越しに同情。

 類人猿に慰められてしまった。

 

 無力感がひどかった。

 俺を導いてくれた師匠は、苦しみの中にあった。

 そんな状態で俺のような厄介者を弟子に取り、鍛え上げてくれたのだから。

 オーバーウォッチ解散と共に、メンバーは散り散りになった。

 師匠も、島田家との決着をつけた後、半ばサイボーグである自らの肉体と人間としての精神の乖離の苦しみからどこかへ行ってしまった。

 

『さらばだ』

 

「お達者で」

 

 俺は旅についていくことができなかった。

 勿論、あの時点では着いていくという選択肢はあった。

 だけど、俺のような未熟者が近くにいれば……師匠はきっと、真に求めるものを見つけることができない。

 だからウィンストンのところで厄介になっているのだ。

 

 クルクルとデスクチェアーを回転させる。

 整頓されきったラボ。

 師匠に鍛えられた肉体と技があれば、この広さ程度のラボのお手入れは朝飯前だった。

 

 ──回転が不意に止まった。

 目の前に差し出されたのは、淹れたばかりのコーヒー。

 

「飲みますか?」

 

「ありがとう」

 

 飲むと、強めの苦味にスッキリした後味だった。

 

「エスプレッソです」

 

「えすぷれっそ……」

 

『エスプレッソはカフェインが通常のコーヒーよりも多く含まれており、飲み過ぎると睡眠に支障をきたす可能性があります』

 

 ゴリラにコーヒーの淹れ方で負ける人間がいるらしい。

 俺だった。

 というか、普通に知能で負けている。

 ウィンストンは遺伝子改良で生まれたゴリラで、つまりスーパーコーディネーターみたいなものだ。

 なんでもできるし、精神も輝いてる。

 俺みたいなのとは大違いだ。

 英語もウィンストンに教えてもらった。

 

 ウィンストンは隣のチェアに腰掛けると、顔だけをこちらによこして問いかけてきた。

 

「元の世界に帰りたいと思いますか?」

 

「…………正直、あんまり思わないな」

 

 初めて聞かれたから、意表をつかれた形になって言葉に詰まってしまった。

 

「ソレはなぜ?」

 

「……あっちの世界では多分死んでるし……こっちの世界で成長できたからかな」

 

 今更帰ったところで、本来の俺を見せつけられて悲しくなるだけだ。

 それならば、こちらで成長を実感しながら生きていきたい。

 

「ご両親は?」

 

「…………合わせる顔なんてない」

 

「そうですか……」

 

「それに前にも言った通り、帰る方法なんて無いからね」

 

「すみません、不躾でした」

 

「気にしないでいい」

 

 ゴリラらしからぬ気まずい表情。

 この世界に来る前の俺よりも、ウィンストンの方がよほど人間らしい。

 

「……ん?」

 

 何かしらの着信を知らせる音が鳴り、ウィンストンはモニターに顔を向けた。

 野生の勘なのか、目を細めている。

 

「やはり……」

 

「テロか」

 

「暴動ですね……コロンビアのようです」

 

「あんなところにまで……」 

 

 そもそもオーバーウォッチは一枚岩じゃ無かった。

 俺の特異的な出自という事情もあり、直接レイエス氏と会ったこともある。

 苛烈な人だった。

 論理的で、現実的な人でもあった。

 目力に圧倒されたのを強く覚えている、そんな人だ。

 

 悲しいことが多くあった。

 裏切り、謀略、不和、個人的な事情。

 ヒーロー達も結局は感情を持った存在であり、そういったしがらみから逃れることはできなかった。

 

 そしてペトラス法の成立。

 ヒーロー行為の違法化。

 オーバーウォッチは私設団体に過ぎないという通告に他ならなかった。

 だから俺たちは、こんなところで半隠居みたいな身に甘んじているんだ。

 

「…………今の私たちにできることはありません」

 

「くっ……!」

 

 ウィンストンは悲しげに首を振り、メガネをつけると目を背けた。

 中継された映像には、手を振り上げたオムニックが行進し、全てを薙ぎ倒していく映像が写っていた。

 卓越した科学のもとに創り上げられた彼らの膂力は、コンクリートも人も、等しく解体していく。

 ソレはかつて、ヒーロー達が……そして、俺もその一員として、命を賭けて防いだものの筈だった。

 蹂躙される街、容易く吹き飛ばされる命の灯火。

 あの家族の死体が脳裏から離れなかった。

 

「俺たちは……何のために……!」

 

 怒りに似た感情。

 視界が滲む。

 あの黄金の日々が、あまりにも遠かった。

 

「今は、ただ……見ているだけしかできません」

 

 絶望的だったフィラデルフィア突入作戦でさえ、俺たちはやってのけた。

 和平を結んでさえ、一部の暴走したオムニックによるテロは続いた。

 巨大なオムニウムに改造されたビル群を、押し寄せるオムニック達を、死に物狂いで破壊し続けた。

 そして、成し遂げた。

 終わった後は誰もが笑顔で、ぶっ倒れた。

 

 ──腕を高く上げ、空を掴んだ。

 

「もう一度……皆を……!」

 

「……いつかは、きっと」

 

『オーバーウォッチの活動は、ペトラス法により禁じられています』

 

「「…………」」

 

 アテナは、こうして一々俺たちの気分を下げるようなことを言ってくる。

 ロジハラというやつだ。

 まあ、AIがロジック以外のものに頼ったらとんでもないことになる。

 結果は見ての通りだ。

 

 

 ──────

 

 

 INITIATE OVERWATCH RECALL? Y/N

 

 夜、目覚めたらラボの明かりがついていたので来たらウィンストンがいた。

 ドローンを衛星軌道に載せることに成功して以来、こうして彼らを呼び戻すか悩んでいる姿は定番となっていた。

 

「また悩んでるのか?」

 

「…………」

 

 返答は無く、むっつりと黙り込む。

 このゴリラは、人間の可能性とか、果てなき未来とか、黄金の意思とか、そういうものが大好きだ。

 ラインハルトやモリソンに、完全に脳みそを焼き尽くされている。

 

「あなたも……内心は同じでしょう」

 

「そうだな」

 

 そう。

 偉そうなことを言っても結局は同じだ。

 俺たちの中には、迷いがあった。

 その迷いにはケリをつけるべきだった。

 

 世界は、混迷の中で血と憎しみに包まれ始めたのだから。

 

「……どう思いますか?」

 

「…………」

 

 みんなの顔が浮かぶ。

 

「平穏を望んでいるのなら……呼び戻さないという答えもあった」

 

「…………」

 

 例え法律が何と言おうと、活動し続けるエージェントがいた。

 ヌルセクターの戦艦を撃退するために、単身で突っ込んだやつもいた。

 

「だけど、俺たちは見てきた」

 

「!」

 

 タロンのテロ活動を阻止するために命を投げ打った、エージェントですらない科学者がいた。

 戦う力なんてなくても、彼らはオーバーウォッチだった。

 

「ウィンストン、俺たちが悩んでいるのは我が身が可愛いからだ」

 

「…………」

 

「ウィンストン……世界は、俺たちを必要としているんだ!」

 

 ウィンストンも俺もYesの表示を見つめていた。

 迷っているこの瞬間にも、世界では誰かが助けを求めていた。

 

「──」

 

 手を伸ばす。

 月で生まれたゴリラ。

 人類にその命を弄ばれて生まれた生命は、それでも人類を信じる誇り高きヒーローだった。

 

『侵入者を探知しました』

 

「──!」

 

「……タロンか」

 

「どうやら、我々がここにいることに勘付いたようですね」

 

「…………」

 

 鎧を纏う。

 師匠と別れてからも、教わった技は欠かさず磨き続けている。

 ──拳を握りしめた。

 

「アテナ、電気を」

 

 

 ──────

 

 

 暗闇。

 わずかな足音のみでウォッチポイント内を進む兵士たち。

 明らかに正規の兵士では無い。

 彼らはタロンの構成員。

 タロンは世界を混乱の渦に叩き落とすために活動している。オーバーウォッチの敵だ。

 その中にはヤツの姿もあった。

 

「リーパー」

 

「ゲンジ……いいや、貴様か」

 

 顔見知りではある。

 何度も戦ったからな。

 

「念のために聞こう、何のためにきた?」

 

「フッフッフッフ…………知れたことよ、座標を渡せ」

 

「断る」

 

「ならば──」

 

「おおっと」

 

 銃を構えた兵士たちへと警告を促す。

 

「バナナに注意だ」

 

 リーパーの頭に被さったバナナの皮。

 

「──グォォォオオオオオ!!」

 

 頭上からウィンストンが強襲を仕掛けたが、暗い霧に包まれたリーパーには当たらなかった。

 

「──うわぁっ!」

 

「いやぁぁぁあ!」

 

「あー!」

 

 当然、それで攻撃の手を緩めるはずも無い。

 ゴリラの膂力で振り回され、しっちゃかめっちゃかになった。

 俺も見ているだけでは無い。

 

「フッフッフッフ……やはり、ゲンジに比べると拙いな」

 

「当然だ! だがお前程度を仕留めるのに、師匠は勿体無い!」

 

 放たれた散弾を弾き落とす。

 火薬により放たれた、音速にほど近い銃弾ですら師匠の剣と比べれば止まって見える。

 やはり俺の師匠はすごい人だ。

 あの人に師事した俺は間違っていなかった。

 

 世界で最高峰という呼び声が高かった、暗殺組織であるシマダ家。

 あんな物騒なヤクザは俺の世界にはいなかったけど、オーバーウォッチの力を持ってしても、なかなか切り崩すことはできなかった。

 俺と師匠が潜入して、俺を囮として撹乱を行いながら師匠が本丸を切り崩す。

 そういう策でやっとだった。

 

 そんなシマダ家のトップである師匠の技を受け継いだ。

 調子に乗るつもりはない。

 ただ、生半可なことでやられてやるつもりもない。

 師匠と共に過ごした日々は、俺にとって間違いなく誇りだった。

 

「小癪な……猿真似しかできぬ東洋人らしい!」

 

「褒め言葉だ」

 

 顔面を蹴り飛ばし、追撃の手裏剣を投げつけた。

 霧となって回避したリーパーの次の出現先を気配から読んで、袈裟斬りを合わせる。

 

「ぬぐあっ!」

 

「ぐおっ!?」

 

 体勢の崩れ様にも関わらず放たれたショットガン。腕で隠され、完全な死角から放たれたそれを回避することはできずに直撃を喰らった。

 全身に衝撃が広がり、一瞬だけブレた視界の中でリーパーがショットガンを構え直すのが見えた。

 

「──かぁっ!」

 

 自らへ喝を飛ばし、床を蹴って跳んだ。

 バゴンという音が聞こえた気がしたが、気にしない。

 跳躍は肉体を一息にリーパーの元へと運び、その胸目掛けて刀を突き貫いた。

 

「────」

 

 目の前で倒れ伏した死神。

 放置するのは良くないが、一旦はこれでいい。

 ウィンストンと合流しよう。

 

「……ああ、片付きましたか」

 

 兵士たちは完全にのされている。

 どうやらバーサーカーモードになったらしい。

 

「その呼び名はやめろと何度も……」

 

「それどころじゃない」

 

 俺たちがいることがバレた。

 最早、一刻の猶予もない。

 

「ウィンストン」

 

「……はい」

 

「これが最後のチャンスだ」

 

「ええ!」

 

 再招集を告げる鐘。

 かつて世界を護り抜いた英雄達へと、電波が放たれた。

 アテナがごちゃごちゃ言っていたが、関係無い。

 俺たちが決めたことだ。

 

 やがて一人のエージェントがリコールに応えた。

 

『──ウィンストン! 本当にあなたなの!? 久しぶり!』

 

 根っからの正義。

 レナ

 時間乖離症を患い、ウィンストンによって世界へと存在を許された時間の旅人。

 真っ先に答えたのは彼女だ。

 

 顔を見合わせ、ニヤリと片頬をあげた。

 それでこそオーバーウォッチだ。

 

 やがて、エージェントたちは招集に応じて集まり始めた。

 ウィンストンは嬉しそうだった。

 輝ける魂の持ち主たちは、今でも世界の為、人々の為に活動を続けていた。

 悪法をよしとせず、強きをくじき、弱きを助ける。

 それこそがヒーロー達の成していたことだった。

 

 そして、彼も。

 

「──お久しゅうございます、師匠」

 

『どうやら、修行は怠っていないようだな』

 

「1日たりとも欠かしたことはございません。師匠も、どこか晴れやかな……」

 

『その通りだ、迷いは晴れた』

 

 久しぶりに会った師匠は、別れる前と様子が一変していた。

 もちろん良い方向に。

 苦悶の表情を常に浮かべ、険しく周囲を睨みつけていたあの頃とは、まるで別人だ。

 

「であれば……」

 

『良いだろう』

 

 早速、稽古だ。

 

 

 ──────

 

 

「相変わらずだね〜あの二人は」

 

「修行バカってやつですね」

 

「二人でウォッチポイントにいたんでしょ? ウィンストンは修行に付き合わされたりしなかった?」

 

「……付き合わされて首がむち打ちになって以降、断っています」

 

 レナ・オクストン、通称トレーサーはウィンストンの苦々しげな顔を見て吹き出した。

 

「ゴリラでもむち打ちになるんだ!」

 

「はぁ…………彼も同じことを言っていましたよ」

 

 二人の稽古はまず、組み手から始まる。

 無手による格闘。

 刀を用いたそれよりも近接して行われる。

 相手の動きを読んで後の先を打つ一撃は、同じ流派であれば同じ結論に至る。

 鏡写しのように拳が、腕が、肩が、脚が繰り出され、衝突する。

 

「この光景も久しぶりだねっ!」

 

「最初の頃に比べれば、本当に別人です」

 

「近接戦闘だけならゲンジとハンゾーの次なんじゃない?」

 

「そうですね」

 

「ハンゾーとも良い加減、普通に接すれば良いのに」

 

「そこは彼らの問題ですから」

 

 オーバーウォッチに加入したハンゾーが目にしたのは、一族どころか、シマダ家に全く関与しない馬の骨が竜を操っている光景。

 ゲンジとの修行の一環だった。

 目を丸くしながら彼らのことを見ていたのは当然だ。

 

 突然現れた兄に驚きつつ、紹介を行うゲンジ。

 平伏しきりの彼に対し、懐の広いハンゾーは誰何を問うた。

 その答えを聞き、悩みに悩んで、彼自身が申し出た力の封印をもって赦すこととした。

 

 それ以降、彼のハンゾーに対する態度というのは変わらぬものだ。

 力を掠め取った一族の頭領にして、師匠の兄君。

 あまつさえ自分を許してくれるという。

 シマダ兄弟に対して、頭が上がらなかった。

 

 封印はしかし、とあることがきっかけで緩まった。

 

 インドのラボに現れた巨大オムニックに対して、その場にいるのは研究員達と彼だけだった。

 他のエージェント達は全員、別の場所に出払っていた。

 当然、彼は戦った。

 未熟だとしても、オーバーウォッチならばするべき事を成すのだ、と信じて。

 

 しかし、その場にはどんどんと敵性オムニックが集まって行った。

 逃げ遅れた者たちを背中に庇い、刀を振るい、瓦礫を放り投げ、時には身を呈して守る。

 

『早く逃げろ!』

 

「だけど……足が……」

 

 彼らは、そこに残りたくて残ったわけでは無い。

 逃げ得なかった者たちが自然と、安全な場所に集まってしまったのだ。

 自らが最後の砦であると自覚しつつ、このままでは先が無いことも分かっていた。

 何せ、遠距離攻撃の手段がない。

 既に手裏剣は尽きた。

 トールビョーンが授けた電撃クナイも、残り2本。

 

『………………』

 

「ひぃっ!」

 

 心中には、迷いがあった。

 誓いとは、心の軛であり最後の壁。

 無礼を働いた自分を許してくれた兄弟に対して、これ以上の無礼は働けない。

 ハンゾーへの誓い。

 龍の戒め。

 

 しかし、同じオーバーウォッチに所属する仲間を見捨てるなど。

 初めの出撃で誓ったのだ。

 目の前で誰かを失うくらいならば、何を捨ててでも戦うと。

 何もなかった自分をここまでにしてくれた彼らに対して返せるのは、それくらいなのだから。

 

 二つの誓い。

 相反するそれらは、しかし、背後に座り込む研究員達を見て一つに混じる。

 

 ヘルムの中で口を強く引き結び、彼は覚悟を決めた。

 意識を引き上げ、加速していく。

 飛び向かってくる弾丸やオムニックたちが静止した視界。

 刀を納め、教わった解号を唱えた。

 

 実戦で使うのは、初めてだった。

 

 背後から見ていた研究員達は、温かいものに包まれた。

 雄叫びを上げた彼の肉体から現れた緑の竜は、彼の今の姿同様にゲンジのソレと瓜二つだった。

 肉体を通り抜けて行く竜という超常現象に見惚れたのも束の間、竜はオムニック達へとうねりながら翔んでいく。

 オムニックは竜に照準を合わせたが、銃弾は意味を為さなかった。

 反対に、竜が通過すると機械の身体がどんどん崩れて行く。

 

 人間を取り囲んでいた機械達は、一瞬にしていなくなった。

 

 のち、記録を目にしたハンゾーからは一言。

 

「見事な竜だった」

 

 彼がシマダ兄弟に対して、より一層の敬意を払うようになったのは言うまでもない。

 

 

 ──────

 

 

 第二次オムニッククライシスの始まり。

 

「ふざけるな」

 

 リコール。

 

「なんで、こんな……!」

 

 エージェントや研究者──オーバーウォッチの再結集。

 

「ここまで来て……」

 

 オムニック解放戦線との紛争。

 

「師匠っ……申し訳ございません!」

 

 日本──故郷への遊興。

 

『修行は終わりだよ』

 

「こんな……こんな終わり方……!」

 

 オーバーウォッチとの旅路は終わりを迎えた。

 戦いの最中、光に包まれた彼は再びあの空間へと呼び寄せられたのだ。

 

 師匠が彼に伸ばした手は空を切った。

 

『君の願いは、未だ未完成なのさ』

 

「どこがだ!」

 

 忍者となって、活躍をする。

 オーバーウォッチとしての栄光は、まさにそれを体現していた。

 憤り、鎧のままに詰め寄る。

 ここを去った時とは大きな違いだ。

 

『うんうん、その反応……いい経験をしてきたね!』

 

「──おちょくりやがって!」

 

 胸ぐらを掴む。

 オーバーウォッチと共にあることこそ、今の彼の願いだった。

 人類の中で最も輝きに満ちた集団。

 オーバーウォッチである事は、誇りだった。

 情熱と、体力と、技術と、仲間。

 彼は全てを手に入れたのだ。

 それを奪われた怒りたるや。

 

『──君の思い、私は覚えてるよ』

 

「なに?」

 

『目の前にいる人間は、必ず助ける。それが君の望みであり、想いだ』

 

「それがどうした!」

 

『あの世界は、もう大丈夫さ。なにせ、最強のオーバーウォッチが再結成されたのだから』

 

「……」

 

 それはそうだ。

 元々あの世界にはゲンジがいて、ウィンストンがいて、アナがいて、ルシオがいて……オーバーウォッチがいる。

 彼がいなくとも、どうにかなるだろう。

 

『だけど、別の世界にも人類を守る者達がいる』

 

「…………」

 

『そして……これから彼女達には、異界からやってきた化け物に尊厳を奪われ、命を食い荒らされる未来が待っている』

 

「なんだと?」

 

『君は、そんな子達を放っておけるかな?』

 

 聞き捨てならなかった。

 そのような言葉を聞いて背中を向けられるような人間は、オーバーウォッチにはいない。

 かつてはそんな殊勝な心持ちではなかった彼も、朱に交わり赤くなったのだ。

 

「…………俺は……」

 

 彼の中にある誇りが叫んでいる。

 オーバーウォッチでいる事は名誉であり、望む道だ。

 だが、陰惨な未来が待ち受ける子供を見捨てて仲間の元に帰るなど──許されることじゃない、と。

 安楽な道を選ぶならば、初めから彼らのもとに行くべきではなかったのだ。

 

『それでも望むならば、君をオーバーウォッチの元に返してあげよう! ……ああ、やっぱりそれがいいね! 仲間達と世界を救って、ばんざーい!』

 

「…………」

 

 分かっているのだろう。

 既に、腹を決めた事を。

 ニヤニヤと、どこまでもいやらしい奴だった。

 

「……別の世界とやらへ送れ」

 

『ええ〜? 良いの〜? 仲間が、そして師匠が待ってるよ〜?』

 

「彼らはきっと、分かってくれる」

 

 突然現れた自分が、突然消えるのは当たり前だ。

 

 瞳を閉じ、彼は仲間の姿を思い浮かべた。

 きっと、ウィンストンが真っ先に気づいてくれる。

 彼の部屋の引き出しにしまってある手紙に。

 ……それで十分だ。

 

『じゃあ送っちゃうよー? もう、後戻りはできないよー?』

 

「くどい!」

 

『──君、変わったね!』

 

 憎たらしい笑顔を最後に見て、また白い光に包まれた。

 

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