忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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忍者になりたいと願った男3

 俺はまたしても、よくわからない世界にやってきた。

 30代だった俺は、肉体の見た目だけ若返った。

 17,8くらいか? 

 なんの意味があるのかはわからない。

 今度はオムニックなんていない。

 オーバーウォッチもいなかった。

 少しだけ、落胆した。

 

 …………ああ、白状するよ。

 死に物狂いで探したさ。

 また彼らと出会えたならば、俺は喜んでオーバーウォッチに参加した。

 ウィンストンのコーヒーが飲みたかった。

 ルシオの曲が聴きたかった。

 師匠に再び稽古を付けていただきたかった。

 

 だが、それは叶わなかった。

 代わりに見つかったのは、醜い怪物と、何とかそいつの触手を押し留める女の子。

 随分と珍妙な姿。

 魔法使いを思わせる衣装を身に纏った少女が襲われていた。

 すでに限界のようだった。

 

 介入した。

 きっと、奴が言っていたのは彼女のことだろう。

 そう思って。

 

 助けた少女は人類解放戦線のメイガス、リリエルと名乗った。

 オムニック解放戦線と名前が被ってて、少しばかり顔を顰めた。

 しかし解放も何も、普通にみんな生活している。

 山や路地裏では確かに散々っぱら怪物を屠ったが。

 そこはどうなのかと聞いてみたら、認識阻害でバレないようにしているだけで、裏では戦いが起きていると。

 何を言っているかわからなかった。

 

 もう少し聞いてみると、魔法によるものだと言う。

 なるほど、魔法か。

 そういう世界だと理解した。

 いわゆるニチアサアニメみたいな世界なのだろう。

 

 俺は解放戦線とやらの本部に招かれた。

 もちろん、鎧を身につけたまま。

 

「お主が、ゲンジじゃの?」

 

『そうだ』

 

 この姿を纏う以上、俺はゲンジなのだ。

 師匠の名を借りることに恥を感じないわけでは無い。

 だが、あの方ならば許してくれるはずだ。

 代わりに俺は、その名に恥じぬ振る舞いをしなければいけない。

 力の振るい方、振るう方向を違えぬこと。

 それが最低限の義務だ。

 

「顔を見せてはくれんのかの?」

 

『そのつもりはない』

 

 老婆のような喋り方の少女。

 彼女が頭領だという。

 

「それは残念じゃが……リリエルを助けてくれて感謝する」

 

『礼には及ばない、当然のことをしたまでだ』

 

「そうかそうか!ところで提案なのじゃがーー」

 

 銭を出すから、リリエルと一緒に動いてくれないかと頼まれた。

 渡りに船だった。人類解放戦線という組織を知るという目的も果たせる為、しばらくリリエルと行動を共にした。

 監視も兼ねて。

 タロンのようなテロ組織である可能性もあったからだ。

 オーバーウォッチが崩壊したのだから、彼女の心に闇が潜んでいる可能性だって。

 

 しかし、俺の邪推は間違っていた。

 リリエルはとても純粋で、穢れを知らない少女だった。

 怪物──アンチドートが他の地域で被害を出したという報せを聞くたびに、彼女は心を痛めていた。

 出現の報せを聞けば、即座に家を飛び出していく。

 俺もそれに着いて行った。

 

「──また、何もできませんでした」

 

『落ち込むな、君はよくやった』

 

「…………ん」

 

 彼女は成り立てのメイガスで、勝てない敵も多かった。

 それでも……力及ばずとも、懸命に人々を救おうと走る姿を見て見ぬフリはできなかった。

 

 泣きそうなリリエルの手を握り、言葉をかけた。

 

『リリエル、誓おう。君が目指す未来へ辿り着くために、微力ながら俺も協力する』

 

「──うん!」

 

 嬉しそうな彼女を見ると、トレーサーやブリギッテを思い出した。

 俺も、ラインハルトや師匠が俺にしてくれたように、彼女を導きたくなってしまった。

 師匠なんてのは柄じゃ無いが、これまでの経験から手を差し伸べることくらいは出来る筈なのだから。

 

 協力してアンチドートを討伐していった。

 各地を回るのはオーバーウォッチの十八番。

 その中で、サリエルやアズラエルなど、他のメイガスとも出会った。

 当然ながら、メイガスはリリエルだけじゃ無かったということだ。

 

 まだ若く未熟だが、その心意気はオーバーウォッチにも劣らない。

 ……勝ち気な娘が多いのは仕方ないことだ。

 何せ、戦う者なのだから。

 仕方なくはあるが、鬱陶しいのは困る。

 そういう跳ねっ返りは、稽古で撫でてやれば大人しくなった。

 

 アンチドート、そしてアンチドートの上位存在であるアンチワールド達との戦いを経て。

 いつのまにか、俺はお目付け役みたいな立場になっていた。

 部隊を率いたことがないわけじゃ無いから、慣れていたってのも関係しているかもしれない。

 

『此度の戦いでは、アンチワールドが2体出現した』

 

「そうか……あやつらは不覚をとったようじゃな」

 

『戦場にイレギュラーはつきものだ、仕方あるまい』

 

「皆がお主くらいの心持ちで戦っていれば、こんな事は言わずに済むんじゃがな」

 

『年頃の子に求めるものではない』

 

 

 ──────

 

 

 俺がこの世界を巡る中で驚いたのは、メイガスはいずれも女性だということだ。

 魔力とやらを貯める器官が子宮だかららしい。

 生々しい話だな。

 

「俺はむしろ、ゲンジさんが魔力も貯められない男なのにメイガスをやれてるのが驚きだったよ」

 

『何度も言わせるな。メイガスでは無い、俺はエージェントだ』

 

 炎のメイガス、ウリエル。

 燃えるような赤い髪が特徴的な少女。

 

「それはどうでも良いんだよ!」

 

『どうでも良くないが』

 

 男勝りに振る舞っているが、芯は女の子らしい女の子である。

 ぬいぐるみを集めるのが趣味だと、はにかみながら教えてくれた。

 

「……ここまできて今更ですけど、ゲンジさんは本当に男の人なのですよね?」

 

『ああ』

 

 サリエル。

 雷を操る魔法使い。

 緑色の瞳が黄色の髪によく映える。

 

「結局、最後までお顔は見せてくれませんでしたね……」

 

 まっすぐにこちらを見つめてくる。

 毎度の事ながら、そんなことを言われても困る。

 俺には戸籍が無い。

 顔から色々と調べられれば、そこらへんもバレてしまうだろう。

 

「またどうでも良いこと考えてる」

 

『…………』

 

 アルビノのメイガス、アズラエルまで会話に入ってきた。

 女が3人集まれば姦しいとはこのことだ。

 しかし、この場には他にもいる。

 

「みんな……準備はいい?」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「ん」

 

 リリエル。

 俺が最初に出会ったメイガス。

 彼女も立派になった。

 だが、勇ましく呼びかけの声を発した割には、しょげたような顔をしている。

 犬が耳を垂れさせているような、そんな錯覚を覚えた。

 

「ゲンジさん……」

 

『ん?』

 

 ピンク色の髪をフワリと揺らして、彼女は抱きついてきた。

 

『──』

 

 突然のことに多少の驚きはあったが、抱きしめ返す。

 

「あ、あいつ!」

 

「ここは抑えて、ウリエル……最初に出会ったのは彼女なのよ」

 

「……ぶぅ」

 

 おどろおどろしいポータルの前で、何ともロマンチックなシチュエーション。

 我ながら、何をしているのかと呆れそうだ。

 

 しかし彼女の気持ちは分かった。

 

 来る最終決戦に向けて、心が逸って落ち着かないのだろう。

 フィラデルフィア突入作戦の直前は、俺も情けない姿を晒したものだ。

 

『リリエル』

 

「…………」

 

『大丈夫か?』

 

「少しだけ……怖いです」

 

 このポータルを潜れば最後、此度の事変を引き起こした親玉を倒すまでこちらに帰ってくる事はできない。

 

『その恐れは当たり前のものだ』

 

「はい……」

 

『だけどお前は一人じゃ無い。ウリエルやサリエル、アズラエル──そして、他にも多くのメイガスが今回のために集まった』

 

「…………」

 

『みんなの顔を見てみろ』

 

「──へへっ」

 

「リリちゃん! 大丈夫!」

 

「私は最強だから、安心して」

 

 こんなにも頼もしい仲間達がいる。

 まるで……オーバーウォッチのようじゃないか。

 きっと、なんとかなるさ。

 

「──」

 

 リリエルは仲間達へ振り返った顔を、再びこちらへと向けた。

 優しい笑顔を浮かべている。

 

「ゲンジさん、お願いです」

 

『なんだ』

 

「私達を……最後まで導いてくださいね?」

 

『当然だ、そのためにこの命はあるのだから』

 

 ゲンジの名に恥じぬ為。

 オーバーウォッチとしての在り方を失わぬ為。

 そして、世界を護る彼女達を守る為。

 この命を使う事こそ、生きる事。

 

『行くぞ』

 

「はい!」

 

 

 ──────

 

 

 ポータルを潜った先。

 広がっていたのはどこまでも肉肉しい世界。

 赤黒く脈打つ空間。

 その中心には、横幅も縦幅も数百mに及ぶ肉の塊と、雑に付けられた一つの巨大な目玉がギョロギョロとあたりを睥睨していた。

 無数の触手を伸ばし、周囲にいる豆粒のような影と戦っている。

 既に数百人のメイガスが集まって、必死の攻撃を繰り返していた。

 しかし、単純な触手攻撃と魔力弾だけで蹴散らされる。

 

 ワールドイーター。

 元は変哲のない、ただのアンチドートだった。

 それが、上位種のアンチワールドーー人型の怪物の肉を食し、魔力暴走を引き起こした。

 結界を作り出して、中に迷い込んだ存在を喰らい続けた。

 やがて育ち、自我すら失いながらも本能に従って人界への侵食を始めた。

 

「みんな、行くよっ!」

 

「おう!」

 

 彼女達が吶喊の声を上げる前には既に、ゲンジの姿はなかった。

 彼の役目はメイガス達の援護だ。

 いくら刀の名手といえども、あの肉の塊を切り刻むのには時間がかかる。

 ならば、魔力により多彩な魔法を行使できる彼女達に攻撃は任せて、彼女達自身を護るのに専念した方が良いと考えた。

 

「ゲンジさん……!」

 

 緑色の曳光が蛍のように空を泳ぎ、メイガス達に向かっていた巨大な触手が切り落とされて地面に落ちていく。

 どこにいるかなんて、丸わかりだった。

 リリエル達はそんな姿を見て、自分も、と奮い立たせた。

 魔力噴射により空を飛び、飛んでくる魔力弾を避けながらワールドイーターに近付いていく。

 

「遠近感が……なくなりそう……!」

 

 巨大過ぎて、近付いてるのかどうかが分からなくなるような存在。

 開始地点から数分飛んで、ようやく接近したかと思えば、視界は肉の壁でいっぱいだ。

 

「みんな!」

 

 外しようがない。

 巨体目掛けて各々の魔法を放った。

 

「シグナルバスター!」

 

「エターナルブレイズ!」

 

「サンダーブリッジ!」

 

「グレイトメテオ」

 

 直撃すれば、数十mのアンチワールド──一つの街を容易く滅ぼす災害ですら、この奔流の中ではタダでは済まない。

 しかしその一撃を受けたワールドイーターは、表面を削られるにとどまった。

 

「くっ……やっぱり効かねえか!」

 

 先遣隊達のもたらした絶望的な情報そのまま。

 巨大さ故の圧倒的なステータス。

 先に戦っていたメイガス達も痛感している。

 しかし、それで逃げ帰るようなら最初からここには来ない。

 

「どんどん撃つよ!」

 

「うん」

 

 意気軒昂に飛び交うメイガス達は、信じていた。

 自分たちの頑張りは無駄ではないと。

 

 

 ──────

 

 

「くっ……魔力が……」

 

「はぁっ、はぁっ……届かない……!」

 

 肩で息をしながら、それでもなんとか高度を保つ。

 片手で箒を掴み、もう片方の手に魔力を収束させた。

 

「えい!」

 

 十分な威力を持った魔力の塊。

 しかし、向かっていく先には山のような巨体。

 まるで相手になっている気がしない。

 こんなのに勝てるのか。

 

「──諦めちゃダメ!」

 

 拡声魔法。

 魔力を通じて、戦場にいるメイガス達へとその言葉は伝わる。

 

「まだ、あの人は戦ってる!」

 

 緑の線がワールドイーターの表面に張り付いて、触手を根本から切り落としていく。

 発射された魔力弾も、近ければ弾き落とす。

 一体、幾度窮地を救われたか。

 皆が理解していた。

 あの希望の光が動きを止めた時こそ、この作戦と世界が終わる時だと。

 

「私たちの体力は残り少ない! だから……一点集中で狙うの!」

 

「お前ら! あそこを狙え!」

 

 焦げついた肉。

 焼けた香りのする場所へ、その場にいる数百人のメイガスが視線を集中させた。

 ワールドイーターは敵意に反応し、触手をメイガス達に殺到させる。

 物量攻撃は、どんな敵に対してもある程度は有効だ。

 電車のような太さの触手が何十本も。

 これをどうにかするためには、相当量の魔力を消費しなければならない。

 しかし──

 

「ゲンジさん!」

 

『任せろ!』

 

 メイガス達と触手の間に飛び出た。

 息を呑む少女達を意に介さず触手を一刀両断し、触手を足場にして次を切り刻む。

 押し寄せてくる触手を膾斬りにして、押し返していった。

 その最中、叫んだ。

 

『俺ごとでかまわん! やれ!』

 

「──みなさん! 魔力をチャージしてください!」

 

「全力だ!」

 

 言いながら、リリエルとウリエルはチャージを開始した。

 この大きさに育つまでにワールドイーターに捕食された犠牲者から放出され、異界に満ちていた魔力がメイガスの手元に集まっていく。

 

 現世よりも遥かに濃い魔力。

 それは両者に恩恵をもたらしていた。

 

 あの巨体を維持するためには、これだけの魔力が必要なのだ。

 この空間から外に行けば肉体は崩壊してしまう。

 グリニッジ天文台のあった場所から発生した異界はこうしている間にも現実を侵食し、飲み込み、一般人は高濃度の魔力で即座に気絶している。

 

 触手は無限に押し寄せてくる。

 いくらゲンジがバケモノじみたスタミナをしていても、正真正銘の無限を相手するのは無理だ。

 逸る気持ちを抑えて、今貯められる限界までを──

 

「──溜まった!」

 

「俺もだ!」

 

「みんな!」

 

「うん」

 

「「「「クワトロチャージャー!!」」」」

 

 4色のビームが混ざり、螺旋を描きながら進んでいく。

 それだけにとどまらない。

 

「アビストレイン!」

 

「グロリアスセイバー!」

 

「イグニッション!」

 

「オメガスレイヤー!」

 

「ソーラーレイ!」

 

 数百の射出点から、各々の最大魔法が放たれた。

 通常時よりも増大された威力。

 それは四人の放った魔法に混ざり、干渉を起こし、一筋の光となってワールドイーターへと迫る。

 

 しかし、ワールドイーターもやられるばかりではない。

 迫り来る殺意に、もはやゲンジなどどうでも良いと、巨大なレーザーを照射した。

 

『ぬぐおっ!?』

 

 真正面から衝突した魔力の奔流は、波紋という見える形になって拡散していく。

 当然、最も近くにいたゲンジは木の葉のように吹き飛ばされた。

 そしてリリエル達に、それを慮る余裕は無い。

 

「ぐぬぅぅぅううう!」

 

「うぁぁぁぁあああ!」

 

 必死の形相で魔力を注ぎ込んでいた。

 尽きかけた魔力をかき集め、メイガスの秘術により大気中から魔力を吸収する。

 それら全てを、拮抗する衝突点に向けて解き放つ。

 己らを魔力変換器として用いた、最高効率の一撃。

 

 だが、それは川の水を直接口で受け止め、そのまま尻から流すに等しい。

 少女達の身体に極めて多きな負担を強いる行為だ。

 ウリエルの目からは鮮血が流れている。

 リリエルは皮膚がところどころ裂け、サリエルは吐血、アズラエルは血尿を垂れ流している。

 

 じわじわとワールドイーターの光線を押し返している。

 だが、このままでは少女達の肉体が崩壊するのが先なのは明らかだ。

 

『──はぁっ!』

 

 一息に、巨大な目玉へ飛ぶ。

 ゲンジを親の仇かの如く睨みつける目玉はしかし、彼に対してそれ以上のことはできない。

 なぜなら、メイガス達との押し合いで手一杯だからだ。

 睨むしかできないワールドイーターの前に浮かび上がったゲンジは、刀を振るい、巨大な目玉を切り刻んでいく。

 

「ギィヤアアアアアアアアアアア!!」

 

 劈く悲鳴は、聞いたものを極めて不快にする。

 爆音故に、至近距離でなんの対策も施さなければ鼓膜も破れるだろう。

 しかし、ゲンジはアーマーを被っている。

 意に介さず刀を振るい続けた。

 彼女達はやり切ると信じて。

 

「ーーいっけええええええええ!!!」

 

 数百人の思いがこもった魔法攻撃は果たして、敵のビームを打ち貫き、その肉体へと激突した。

 巨大な爆発と閃光が、世界を覆い尽くした。

 

 

 ──────

 

 

「うあああ!」

 

 地響きと、極大の爆発。

 瀬戸際でなんとかやりくりしていたウリエルは、他のメイガス同様、墜落するように高度を下げ、肉で構成された気味の悪い地面に倒れ込んだ。

 自慢の赤髪が煤けている。

 

「ど、どうなった……?」

 

 固唾を飲んで、結果を見届ける。

 もう、何もできることはない。

 彼女達は全力で戦い、最後の力までを振り絞ったのだ。

 この場で気絶しても許されるだろう。

 それでも、どうなったかを知りたい。

 自分たちの戦いの果てに、あの怪物は倒せたのか。

 晴れた爆煙の中に、その答えを見た。

 

「──あぁ」

 

 大穴が開いている。

 直径数十メートルにもなろうかという、激烈な衝撃の痕跡。

 その奥に、ドクドクと脈打つものが見える。

 アレがワールドイーターの心臓。

 

 ワールドイーターはピクピクと苦しげに蠢き、奇声を上げる余裕すらない。

 

ーーしかし、生きている。

 

 届かなかった。

 彼女達の総攻撃は、かろうじて核を捉えるには至らなかった。

 このままではいずれ肉体を再生され、この場にいるメイガス達も含めて世界は侵食される。

 悍ましいクズ肉に満たされた世界の完成だ。

 

「…………」

 

 ならば、彼女は何故こんなにも穏やかな顔をしているのか。

 口元が緩やかに弧を描いているのは、崩壊する世界を受容しているとでもいうのか。

 

 否。

 彼女の心のうちに燃え上がる正義の炎は、一欠片たりとも揺らいでいない。

 視線の先にあるのは、決してワールドイーターなどではない。

 

『──』

 

 世にも珍しい、男にも関わらずメイガスと肩を並べる存在。

 本当の姿は誰も知らない。

 頑なにサイバネティックアーマーを脱ぐことを拒むからだ。

 それでも、メイガスとは違う正義の形を証明し続けてきた男。

 

 偉大な誰かーー名すら語らぬ誰かを仰ぎ、信仰を向ける者。

 

 彼が、ワールドイーターの肉体にぽっかりと空いた大穴に立っていた。

 心臓へとつながる、皆が開けた道。

 何をするつもりなのかは分からない。

 そもそも近接武器の他はシュリケンとクナイしか持たず、魔法すら使えない。

 しかも……柄に手をかけてはいるが、刀を納めている。

 何をどうするのか。

 

 そんな疑問が浮かびながらも、彼があそこに立っているという現実に、まずは安心が来た。

 何故か。

 

「──信じてるよ」

 

 龍が、眼を開けていた。

 

 

 ──────

 

 

 しくじった。

 ワールドイーターの露出した核を破壊したのは良かったが……魔力暴走を引き起こすとは。

 破壊した核から赤い光が出た瞬間は死んだと思った。

 あの核は異界を維持するのと、莫大な魔力を溜め込む二つの役割を持っていたらしい。

 それが至近距離で爆発して、意識が消失した。

 

 気付いたらベッドの上だ。

 おそらく病院。

 アレだけの爆発を受けたのに、怪我はない。

 傷だらけではあるが、師匠達との修行や出撃でついた傷がほとんどだ。若返ったのにどうして傷だけ引き継いだのか、本当に謎だな。

 

 もっと謎なのは、なんで病院のベッドなのにリリエル達四人がそばで寝ているのかということだ。

 心配させてしまったな。

 

 ……素顔を見られてしまった。

 

「師匠に申し訳が立たないな」

 

「──意外と若いんじゃな?」

 

 開け放たれた扉の外に、のじゃロリがいた。

 

「…………」

 

「若くても二十代かと」

 

 耳が痛い話だ。

 

「わざわざこんなところまでお越しとは、どんな用かな?」

 

「英雄殿の顔を見たいと思うのは、そんなにおかしいかの」

 

「そういうのはガラじゃない」

 

「のっほっほ! 謙虚じゃの! それに、モテモテじゃ」

 

「ふっ……死語だな」

 

「なんと!?」

 

 四人を起こさないように、ベッドから起き上がる。

 

「改めて……此度の事変の解決、感謝する」

 

「こちらこそ、メイガスの全力を見させていただいた。貴方達の力がなければ、解決はあり得なかっただろう」

 

「ならばこれにて、この話は終いじゃな」

 

「ああ」

 

 肩を回す。

 そこまで寝ていた感覚はない。

 

「……この地を離れるつもりじゃの?」

 

「俺ができることには、一区切りがついただろう」

 

「分かるのか?」

 

「経験則と、勘だな」

 

 この空気には覚えがあった。

 タロンやヌルセクターと大規模な戦闘を終えた後の晴れ渡った空を見上げた時のような気持ち。

 この地方には、暫くあの連中はやってこない。

 

「すぐ行くのか?」

 

「ああ」

 

「挨拶もせんとは、薄情じゃのお……」

 

 リリエル達は穏やかに眠っている。

 起こす必要は無いだろう。

 

「何も心配は無い、彼女達は強いのだから」

 

「そういう問題ではない……女泣かせな奴じゃ」

 

「俺はゲンジとして接し、彼女達もまた人類解放戦線──メイガスとしてそれに応えた…………だからこそ、俺たちの終わりはコレでいいんだ」

 

 この出会いには意味があった。

 ならば、別れにも意味があるのだ。

 

「真名も明かさないつもりか?」

 

「オーバーウォッチとして活動する以上、俺の名前はゲンジだ」

 

「頑固な奴じゃ……」

 

 日本に向かうと決めていた。

 久しぶりに故郷の空気が吸いたかった。

 

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