忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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忍者になりたいと願った男4

 日本は無かった。

 倭の国、この世界ではそういう名前となっている。

 日本にはメイガスはいない。

 当然、オーバーウォッチもいない。

 

 天忍。

 そう名乗る組織が守護を行っていた。

 勿論、直接に名乗られたわけでは無い。

 潜入して調査した結果だ。

 

 魔力を使い、日常の裏側で異形と戦っている。

 戦うのは女性。

 そこはメイガスと同じ。

 違うのは、魔法ではなく忍術を呼称していること。

 日本らしいと言えばそうなのか。

 

 俺は──高校生として活動することにした。

 師匠に聞かれたら、頭がおかしくなったと思われるかもしれない。

 だが、日本で過ごすにはこれが一番だ。

 

 表側は俺の知る日本と大差ない。

 成人にも関わらずあちこちを放浪していたら眼をつけられる。

 それならば、学生としていた方が都合が良い。

 授業はサボれば良いからな。

 

 金は、のじゃロリからもらった。

 手切れ金という奴だ。

 実際は謝礼の意味が強いだろうが、別れる時にもらったのでそういうことだ。

 身分も彼女が用意してくれた。

 訳を話したら爆笑されたが。

 

 竜胆第一高校に入学することにした。

 同じクラスには天忍がいる。

 志村氷雨。

 彼女は穂高未来や宵闇咲とともにこの街を守護していたが、任務の一環で入学することになったらしい。

 志村氷雨に関しては、リリエルを思わせる性格をしている。

 宵闇咲はどこかウリエルを思い出す。

 穂高未来は一般人だが、特徴的な喋り方だな。

 

 俺は、彼女たち天忍と積極的に関わるつもりはなかった。

 メイガスと関わったのは成り行きだ。

 勿論、アンチドート──日本においては魔物──が出現したならば俺も対処する。

 だが、リリエル達と関わった時のように、天忍と共に、というのは一旦やめておくことにした。

 人類解放戦線とともに行動して理解した。俺はどこまでいっても異分子で、表で活動すればするほどに制約がついて回る。

 オーバーウォッチの時と全く同じだ。

 

 しかし……志村氷雨と他二人はこの街を任されているが、少し実力に不安がある。

 将来性はともかく、今の彼女達にこの街を守り切れるとは思えなかった。

 

「グギャオオオオオオ!!」

 

『15匹か』

 

 夜に出現する魔物は、昼間に比べると随分力を溜め込んでいた。

 それこそ、修行の様子から推測した彼女達の実力では相手にならない程度には。

 だから俺は、夜の哨戒を主に行うことにした。

 昼間は彼女達にもある程度任せる事はできたからな。

 

 そうして日々を過ごし、片手間に天忍について調べていくと、志村氷雨という女子の姿が見えてきた。

 というより、天忍がどういう組織かがわかってきた。

 彼女らは基本的に伝統主義だ。

 昔ながらを大事にする、日本らしい組織。

 積極的に関わらないと決めた判断は正解だった。

 俺も元日本人として、日本のよくないところは分かっているつもりだ。

 

 一方、メイガスは自由主義だ。

 個々の裁量が大きく、どこに行くかは自分で決めることができる。

 あちらの方が、やりやすくはあるな。

 ウィンストンもあっちの方が好きだろう。

 

 そして、天忍である志村氷雨は世俗に疎い。

 普通の女子高校生とは明らかに違う振る舞いをし、浮いていた。

 しかし志村氷雨は、宮本怜のおかげで少しずつ馴染んでいった。

 最初は志村氷雨の顔が良いから使えると踏んで近付いたようだが、絆されたようだ。

 

 微笑ましい。

 俺は一般人からオーバーウォッチになる際に師匠の力を借りたが、志村氷雨は一般人を知るために宮本怜の力を借りている。

 これもまた、一つの成長の形なのだろう。

 

 

 ──────

 

 

「ゴギャッ……」

 

『これで終わりだな』

 

 授業中にまで、志村氷雨達が対処できないような敵が現れ始めた。

 トイレに行くフリをして討伐しているが、クラスでの俺の称号はきっとうんこマンだろう。

 

『ふはっ』

 

 懐かしいな、そういうの。

 ──おっと。

 

「うああっ! まただ、アンノウンめぇ!」

 

 宵闇咲。

 

 今回は彼女が一番に到着した。

 ……危険度判定を見直す気は無いのか? 

 彼女一人では……とてもではないが、まともに相手できまい。

 アンチドートの別称が魔物であるならば、彼女は得意の槍でまともに打ち合うことすらできずに陵辱されるだろう。

 

 そして俺は、アンノウンと呼ばれているようだ。

 顔──というより正体が倭の国で広まっていないのは、きっと彼女が情報封鎖をしてくれたのかなんなのか。

 彼女達と同行していた時もそうだったが、隠蔽などに関して魔力を用いた方法に頼っているためか、俺の正体に自力で辿り着く気配が全くない。

 是非ともこのまま魔力頼りで頑張ってほしい。

 

 俺はなんだかんだで高校生活を楽しんでいる。

 テストも簡単だし、高校に行っているだけで若返ったような気がする。

 流行やらはあまり肌に合わないが、そこは仕方ない。

 

 志村氷雨はクラスの全員と遊ぶのを目標にしているようで、修行の時間が足りないのではないかと心配になる。

 俺のことを誘ってくれるのは嬉しい。だけど、それで俺まで遊びに行くと、街を守る人間がいなくなってしまう。

 俺は良いから、せっかくの青春を十分に楽しんでくれ。

 

 とはいえ、正体を隠していたことに起因する大きな収穫もあった。

 直江白。

 彼女の技術は素晴らしい。

 単純な好みでしかないが、あのような使い手はシマダ家にもいなかった。

 きっと師匠も絶賛するだろう。

 惜しいのは、この世界にオーバーウォッチが無かったことだ。

 

『だが……何か嫌な予感が……』

 

 当然、平穏に終わるわけもなかった。

 

 

 ──────

 

 

 やってきた大襲撃。

 竜胆に現れた敵を殲滅した後も、嫌な予感が晴れなかった。

 

 最早、裏で活動などとカッコつけている場合では無かった。

 初めて天忍と直接の接触を図った。

 街から街へ移動し、魔物を倒す。

 そのためにはヘリが最も効率が良かった。

 

 何故か好感度がやたらと高かったおかげで話はスムーズに進んだ。

 そして更に何故か、少女達もついてきた。

 刺激が強かったのか、顔面が真っ青の状態で瓦礫撤去やら炊き出しをしていたが。

 それもまた、経験なのだろう。

 

 ──許し難い敵がいた。

 言葉が、目が、考えが、動きが。

 全てが、人を嘲っていた。

 全ては自らの快楽の糧であり、餌。

 そう考える悍ましい存在。

 

 使う必要は無かった。

 あの魔人に対して師匠の力を使う必要はどこにも無かった。

 あのまま戦っていれば、いずれ俺の勝ちで終わっただけだ。

 

 師匠はお怒りになるだろうか。

 あるいは、兄君は顰めっ面をするかもしれない。

 それでも許せない敵だった。

 

 自分で手に入れた力でも無いものを振るうのは、逸脱した行為だ。

 

 それをおしても……俺は、あいつが許せなかった。

 人を懸命に守る天忍の少女達。

 彼女達の思いを踏み躙り、肉体を蹂躙し、尊厳を破壊する。

 彼らとは真逆の存在。

 彼と俺が望んだ未来からは程遠い、知性体の敵。

 

 だから──あれで良いんだ。

 

 そして潮目雲雀……気丈なことだ。

 一線より退いて久しいのだから、体力も現役の頃程にはないだろうに。

 まだ若いから体力の前借りでもしている状態なのかね。

 負債は残さない方がいいんだけど。

 個人的に彼女は気になるところだ。

 

『被害が少なかった町の地価が高騰しており──』

 

 テレビではそんな身も蓋もない内容が放送されている。

 日本は割と壊滅的だ。

 竜胆町だけなら守る自信はあるが、あの規模で何度も攻撃を受ければライフラインやサプライヤーも無くなる。

 そうなれば俺もお陀仏だ。

 

 きっと、これからだ。

 あの神様もどきが言っていた未来ってのはここからに違いない。

 どうなるのかという不安はもちろんある。

 だけど、どんな逆境であっても俺たちは折れなかった。

 

 解決の糸口はどこかにある。

 そしてそれは、俺では無い。

 天忍という組織が存在する意味は、きっとそこにあるんじゃないか。

 ワールドイーターをメイガス達と協力して打倒した時と同じように。

 

 そんなことを考えつつも、俺は実は高校生なので学校に行かなければならない。

 他の街では臨時休校どころか永久休校もあるだろうが、無事な街ではこんなもんだ。

 非常事態という意識が薄いのは日本ならではか。

 

 最近は志村氷雨から遊びに誘われることも無くなった。

 いい加減に飽きたのだろう。あるいは、他の街が壊滅して人々が流入していることも大きくない影響があるだろう。

 寂しくはあるが、街の防衛に気兼ねなく専念できるのだから良しとしよう。

 防衛と言えば、あれ以降は天忍達に接触は測っていないが、特に問題は無い。直江白も夜の徘徊はしていないし、動きが鈍ったりということも見て取れない。

 きっと、順調に育ってくれるだろう。

 

 今日も、授業中に彼女達が出撃した。俺が出撃するほどの脅威は感じないから、任せても大丈夫だな。俺は寝よう。

 夜は寝ていないから、どう補おうかという事を考えるとこうなる。

 師匠との修行で培われた睡眠学習がここで役に立ってくるというわけだ。

 先生の話はしっかりと聞いている。

 触られそうになると反射的に起きてしまうが。

 

 

 ──────

 

 

 新しく発見された大陸。

 古代の伝説に則ってアトランティスと名付けられた。

 あそこからは何か嫌なものを感じる。

 きっと、一波乱あるだろう。

 さりとて一人で行くこともできまい。

 日本との間には巨大な海が広がっている。

 泳いで行ったとて、なんの意味もあるまい。

 

 竜胆本部で、潮目雲雀と面会した。

 

「──アトランティスへ乗り込まないのか、だと?」

 

『ああ、天忍は何かしらの対処は考えているのか?』

 

「…………検討中だ」

 

『そうか』

 

 潮目雲雀も答えに窮しているし、現状維持で精一杯ということか。

 前から思っていたが、彼女からはアンジェラのような雰囲気を感じる。

 苦労人なのは間違いなく、そして善人なのだろう。

 だからこそ、若くして司令などという厄介な役職に就いてしまったのか。

 

「何か変な事を考えているな?」

 

『役職があると大変だな、と』

 

「…………」

 

 笑顔だが、額がピクッと動いたのは見逃さなかったぞ。

 

「お前のような自由人はさぞかし楽だろうな」

 

『ああ』

 

「はぁ……」

 

『皆に言われているように現場に戻る気は無いのか?』

 

「当然のように内情を知っているんだな……」

 

『忍者だからな』

 

「……お前が羨ましい」

 

『なら、天忍をやめてオーバーウォッチに入るか?』

 

「! ……そのような冗談を言えるのか」

 

『冗談では無い』

 

 オーバーウォッチは、世界を守るためにある組織だ。

 すでに世界を守るために活動していて、実績も十分な彼女なら入ることもやぶさかでは無い。

 ウィンストンがいないから、こっちでは俺がオーバーウォッチの司令ということになる。

 俺が良いと言えば良いのだ。

 

「…………やめておこう」

 

『残念だ』

 

「それよりも……お前が天忍になれば良いじゃないか」

 

『おっと、痛烈なカウンターだな』

 

 他愛無い雑談を済ませ、本部を出る。

 監視はついていたが、すぐに撒いた。

 ポーズという側面もあるのだろう。

 上と下で板挟みにされて、大変だな。

 

 だが……天忍は意外と内部統制が取れている組織だ。

 

 内部の崩壊によってオーバーウォッチは終焉に導かれた。

 二つの正義があって、そこに外部からの圧力や工作、腐敗が重なった。

 

 俺にですら引き抜きの声がかかったくらいだ。

 きっと、疑念を持たせることが目的だったのだろう。

 相互の信頼を揺らがせ、崩しやすくする策。

 当時はショックだったが、後から考えると驚く事は何も無い。

 

 

 ──────

 

 

「今日は転校生が複数人います」

 

 らしい。

 珍しいこともあるものだと、顔を見ておくことにした。

 おそらく破壊された街の学生だろう。

 各地に分散させて転校といったところか? 

 

「ほら、入ってきてー」

 

「リリです!」

 

「ユリです」

 

「サリナです!」

 

「アズです」

 

 おっとぉ……

 

「せんせーい! 何で4人もこのクラスに入るんですか! 他のクラスとか……」

 

「わかりません! 詮索は聞きません! 俺は何も知りません!」

 

「ええ……」

 

 わかるよ先生、その気持ち。

 

「席はどうするんですかー?」

 

「あー……とりあえず後ろに四席追加するから、そこに座って?」

 

 流石に隣ではない。

 机を眺めて目を合わせないようにしたが、足音が近づいてきた。

 

「──」

 

 桃色の髪が一房、机に乗る。

 見上げると、優しげな笑みを浮かべていた。

 ワールドイーターを倒す前に見せた、あの儚げな顔だ。

 あえて質問をしてみた。

 

「知り合いだったかな?」

 

「とぼけても無駄だぜ?」

 

 代わりに答えたのは男勝りな彼女だった。

 

「………………」

 

 情熱のメイガス、ウリエル。

 こいつの喋り方も変わらない。

 大人になった時に後悔するだろうな。

 

「あとで、ね?」

 

「……ばか」

 

 サリエルとアズラエルからも追撃が。

 ……うーん、早退しようかな。

 

「──うぉい! お前あの4人とどんな関係なんだよ!」

 

 昼休み、男子に囲まれていた。

 これがモテ期か。

 だけど、どんな関係って言われてもな……

 

「記憶にございません」

 

「何もったいぶってんだよ! ……いってぇ!」

 

 青木修栄がドついてきた。

 手、大丈夫か? 

 

「少なくとも、お前らに教えるような事は何も無い」

 

「はぁ? ……お前調子乗ってるよな」

 

 調子乗ってるというか……教えられる事が無いだけなんだけどな。

 チワワみたいに吠えられても困る。

 ……おや。

 

「ここにいたのか!」

 

「あっ、ユリちゃん? だったよな! 今ちょっと話し合いしててさ! ……な?」

 

 青木修栄に肩を組まれた。

 首を絞めようとしているような……

 何のつもりだコレ。

 

「…………」

 

 ウリエルは彼の顔を見て、苦々しげな表情を浮かべていた。

 いや、これは……不快感? 

 

 そんなマイナスの顔のまま、口を開いた。

 

「……おい」

 

「オハナシが終わったら俺が行くからさ! 代わりに!」

 

「──どけ、ゴミカス」

 

「……う……お……」

 

 あのなぁ……一般人にそんな殺気向けちゃダメだろ。

 コイツ見ろよ、この顔。

 ビビって動けなくなっとるやん。

 

「行こうぜ」

 

「……」

 

 どうしよう。

 めんどくさいぞ。

 まだ青木修栄とイチャイチャしてた方が楽だ。

 

「…………ねぇ」

 

「……わかった」

 

 まぁ、断れないよな。

 そんな顔されたら。

 

 

 ──────

 

 

 空き教室に3人が待っていた。

 改めて顔を合わせると、最後に見た時と全く変わっていない事がわかる。

 後から入ってきた赤髪の少女──ウリエルの背に隠れるように、カチッという音がした。

 嬉しくない密室だ。

 

「…………」

 

「…………っ」

 

 揃いも揃って泣きそうな顔をしている。

 一対一ではともかく、こんなのは初めてだ。

 

「あー…………久しぶりだな──っと」

 

 四方から衝撃が飛び込んできた。

 

「やっと……っ…………見つけ、ました……!」

 

 リリエルは、すでに声が詰まっていた。

 

「探してたのか」

 

「……当たり……前だろっ、バカ!」

 

 ウリエルは背中にくっついた。

 どうやら、余計な手間が発生したらしい。

 だが、俺は今でもあれでよかったと思っている。

 

「何も言わずに私たちを置いて行って……捨てられたと思いました……」

 

「悪かった」

 

「許しませんっ!」

 

 サリエルに脇腹を軽く殴られた。

 痛みはないが……心にくるな。

 いつもはもっと落ち着きのある子だったのに、よほど腹に据えかねているらしい。

 

「ずびっ……んんっ……ぐすっ……」

 

 ワイシャツを貫通する程に水気を感じるのはアズラエルだった。

 常は反応が薄い。

 表情の変化だって乏しい。

 そんな少女を少しだけ引き剥がすと、鼻も目も汁でべちゃべちゃになっている。

 

「そんなに泣かないでくれ」

 

「バカ……」

 

 にっちもさっちもいかず、しばらくはされるがままだった。

 こんな経験は初めてだ。

 

 

 ──────

 

 

 椅子に座ったゲンジさんを取り囲む。

 逃げられないように。

 ウリエル達も話したいだろうけど、今は私が代表して話すことにした。

 

「……どうして、置いて行ったんですか?」

 

「置いて行ったわけではないけど、そうだな…………メイガスという集団と俺が交わる最後の結節点があそこだと感じたんだ。まさかこっちに来るとはな」

 

「じゃあ、挨拶もなにもなかったのは?」

 

「別れとはそういうものだ」

 

「──仮にそうだとしても、覚悟を決める時間くらいは欲しかったですっ!」

 

「それは申し訳なかった」

 

「………………ずるいです」

 

 ずるい。

 そんな風に素直に謝られたら、責められない。

 もっと色々言いたい事があったのに。

 

「一応聞きたいんだが、お別れをしにきたって事でいいのか?」

 

「っ……ちがいます!」

 

 頭がカッ、と熱くなった。

 この人は何もわかってない。

 私たちがどんな思いをしたか。

 目が覚めて、あなたがいなかった時の底冷えするような感覚すらも。

 戦闘ではあんなに頼もしくて、助言も的確で、稽古も私たちに合わせてやってくれるのに。

 

「それならそもそも、この学校に入る意味なんて無いじゃないですか!」

 

「確かに」

 

 何で私たちがこんな、メイガスの庇護から外れたような国にわざわざやってきたのか。

 何で私たちが、学生なんていうしがらみの多い立場になろうとしたのか。

 

「わ、私たちは、ゲンジさんと……」

 

「俺と?」

 

「ゲンジさんと…………あぅ……」

 

「……なんだ?」

 

「うぅ…………」

 

 言えない。

 気持ちを口に出すのがこんなにも恐ろしいなんて、初めてだ。

 ゲンジさんは、私たちを置いてこの国に来た。

 もしかしたら、この気持ちも拒絶されるのかも……

 

「……まさか」

 

「っ!」

 

 バレた!? 

 

「稽古をつけて欲しかったのか?」

 

「──そ、そうですっ! そうなんですっ!」

 

「そういうことか……ならば納得できる」

 

「は、はいっ」

 

「「「はぁ〜……」」」

 

 ごめん、みんな……でも、みんなだって言えないでしょ!? 

 

 

 ──────

 

 

 だいぶ目立ってしまった。

 とはいえ一時的な事だ。

 教室ではあまり話しかけないように言っておいたし、1週間もすれば皆飽きるだろう。

 休養の時間をあんまりにも取られてしまっては最悪の結果に繋がりかねないからな。

 

「──なぁシマダ、ここってどういう意味だ?」

 

「……これは、ある環境にいればそこに慣れていくという意味だな」

 

「へー」

 

 少しは仕方あるまい。

 日本に来るのは初めてなのだから、知っている奴に話しかけるのは普通だろう。

 

「シマダくん、お昼ご飯一緒に食べましょう!」

 

「……裏でな」

 

 リリエルは弁当を作るのが初めてだそうで、卵焼きがどうとかフライパンがどうとか言ってくる。

 これもまた仕方のない事だ。

 楽しそうだから、水を差すわけにもいかない。

 

「シマダさん、よければ私とペアを組んでもらってもいいですか?」

 

「わかった」

 

 体育は基本的に寝て過ごしていたんだけど……まあ、良いだろう。

 サリエルは落ち着きのある子ではあるけど、放置したら何をするか分からない恐ろしさがある。

 

「ん」

 

「うん? ……図書室には司書がいるだろうから、その人に言えば返してくれるぞ」

 

「…………」

 

「……一緒に行こうか」

 

「うん」

 

 アズラエルは、なんというか幼さが消えない子だ。

 他のやつ以上に放っておけない。

 ……俺ではなくリリエル達に言えば良いのでは? 

 

 以前よりも少しだけ忙しない日常を送っていると、その合間に姿を差し込んでくる奴がいた。

 

「島田くん、ずいぶんリリさん達には甘いんだね」

 

「そんなことはない」

 

「……じゃあ、今日は遊びにいける?」

 

「悪いけど夜はやることがあるんだ」

 

「ふーん……」

 

 志村氷雨。

 襲撃後は誘いを受けることも無くなっていた筈なのだが……何故か最近、また誘いをかけてくるようになっていた。

 どういう風の吹き回しだろう。

 

「それはリリちゃん達と?」

 

 何故かリリエル達のことを気にすることが多い。

 何かへの対抗心というやつか? 

 あるいは、メイガスだということを何と無く分かっているのかもしれない。

 

「──そーいうこと」

 

「ユリちゃん……いたんだ」

 

「悪いな志村、こいつ借りてくぜ」

 

「…………」

 

 ウリエルの後を歩く。

 うまく切り抜けられたことはありがたいが、今日は稽古では無いはずだ。

 俺の思い違いだったか。

 

「……ゲンジさん」

 

「どうした」

 

「あいつに関わるのはやめろ」

 

「何故?」

 

「あいつは、天忍って組織のやつだ」

 

「知っている」

 

「……だよな」

 

「天忍は人に仇成す者達では無い。むしろお前らと同じ、人の守り手だ」

 

「でもさあ……」

 

「仲良くしろとは言わないから、せめて敵対視するな」

 

「…………」

 

 ムッツリと黙り込んで、恨めしそうに見てくるその瞳には。

 一体どんな意味が込められている。

 

「…………俺たちとあいつらと、どっちを選ぶんだよ」

 

「ウリエル」

 

「っ……」

 

「俺が選ぶのは組織では無い、守るべき者だ。そして、俺は──」

 

 俺が選ぶ組織があるとすれば、それは──

 

「オーバーウォッチだろ、どうせ」

 

「そうだ。俺がゲンジとしてある以上は、人のために刀を振るう存在でなければならない」

 

「……ゲンジとしてじゃない、個人としては? あんた、何か大事なものとかあるのか?」

 

「君は……本当に難しいことを聞くな」

 

「良いから」

 

 俺が個人として大事にするものなんて……あるのだろうか。

 分からない。

 師匠に拾われてから──オーバーウォッチの一員になってから、彼らの姿を見てきた。

 最初の世界で生きていた頃より、よほど多くのことを学んだ。

 

 学校教育が無駄だったとは言わない。

 だが、あの頃にはあらゆる情熱が欠けていて、まさに人間失格だった。

 生きる屍。

 恥ずべき記憶だ。

 彼らの元にいる時とは人生の密度が違った。

 

 大切なもののほとんどは彼らから学んで、元の俺なんて下地程度の意味しか残っていない。

 そんな俺が、個人的に大切にしているもの。

 

「あー……そうだな…………」

 

 全く出てこない。

 

「…………ぷっ」

 

「なにがおかしいんだ」

 

「あははっ! 本当にそういう事しか考えてないんだな!」

 

「…………」

 

 ショックだ。

 つまらない人間から脱したと思っていたけど、俺はどうやら本質的には変わっていなかったらしい。

 金……はどうでも良い。

 物……も別に。

 

「…………ど、どう?」

 

「うーむ」

 

「……はぁ」

 

 こいつ、人が真面目に悩んでいるのに…………うん? 

 

 ウリエルか。

 

「ウリエル」

 

「なんだよ」

 

「君のことは大事だ」

 

「──っ」

 

 彼女達との出会いは、間違いなく俺に影響を与えてくれた。

 年下の少女達への同行は、オーバーウォッチにいた時とは違って俺自身がしっかりしていないとダメだった。

 俺は何というか……あの組織だと本当に出来損ないだったからな。

 

 リリエルはお人よしだから、人に化けたアンチドートに襲われる事が多かった。

 ウリエルは喧嘩っ早いから何度助けに行ったか分からん。服を引き裂かれている最中だったこともある。最初はそうでもなかった気がするんだが。

 サリエルは最初、捨て鉢なやつだった。自分なんかどうでも良いという態度で、ある時、誘われるままに男についていこうとした。その癖、連れ戻すと嬉しそうに微笑んだものだ。当然、叱り付けた。

 アズラエルは無垢すぎて、目を離すとすぐ誘拐されそうになった。

 

 もう本当に、目を離せなかった。

 貞操観念は普通でそういう事への耐性も無いくせに、自分が動いた後のリスク管理が終わっていた。

 呆れ返るほどのトラブルメイカー達だったけど、それが可愛く思えたものだ。

 俺自身の成長にも繋がった気がする。

 

「全ての始まりに出会いがあった」

 

「出会い……」

 

「出会いがなければ、俺は自分の部屋で死んだままだった」

 

「そんなに?」

 

「俺を鍛えてくれた師匠との出会い、あれが全てを変えてくれた」

 

「すげえ人だったんだな」

 

「ああ。そして君達との出会いも、俺にとってはかけがえのない記憶だ」

 

「…………俺も」

 

「うん」

 

「ゲンジさんと出会えて……」

 

 最後だけは掠れるような声で、聞き取れなかった。

 それでも想いは分かった。

 髪と同じく顔を赤くする彼女の頭を軽く撫でた。

 

「こ、子供扱いすんな!」

 

「ははは」

 

「そっちだって、どう見ても私たちと同い年くらいだろ!」

 

「黙秘する」

 

「ぐぬぬ!」

 

『────すまない、ここまでみたいだ』

 

「え? ……あ、まさか!?」

 

『また明日』

 

「お、俺も行く!」

 

『……ならば着いて来い』

 

「あったりまえだ!」

 

 不甲斐無い姿を見せたら指導だな。

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