忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
『…………ハクか」
ミクが帰った後。夜闇に紛れてパトロールを続けるサイボーグ忍者の元へ、忍装を纏った少女がやってきた。何かの覚悟を決めた顔だ。
「ゲンジさん、お話は聞きました」
「……あぁ、妖怪のことか」
「はい! 私も何か手伝いたいです!」
ハクは最近ボサボサ髪をやめて、きちんと手入れをするようになっていた。枝毛ばかりだった髪にはキューティクルが宿り、黒艶髪が光を反射する。肩を覆い尽くしていた髪も切り揃えられ、軽くカールしている。何かの心変わりがあったのだ。
「大丈夫だ、穂高未来が手伝ってくれているからな。お前は「ハク!」ハクは引き続き魔物達の出現に気を配ってくれ」
「最近はあんまり出現しないので、余裕があります!」
「ならば、友人達とたまには遊んでこい。まだ若いのだからな」
「う゛っ」
「?」
「わ、私は学校に通う任務は与えられてないので……一般の友達はいません」
「ならば作ればいい」
「うぐうっ!?」
「?」
「──て、天忍の事がバレるリスクを考えるとあんまりそういう事は出来ないんです!」
そう、決して彼女が内弁慶の引っ込み思案だからでは無い。あくまで天忍の秘匿義務を重視した結果なのだ。
「ならばリッカでいいでは無いか」
「アイツはなんか用事があるとかで……というか、遊ぶつもりはないです! 私はあくまでゲンジさんの手伝いを──」
「ハク」
「っ…………な、なら! ゲンジさんが遊びにいくの付き合ってくださいよ!」
「うん?」
「そんなに遊びに行けっていうなら、一緒に行ってください!」
「いやしかし、俺はパトロールをしなければ──」
「ふぅー……ふぅー……」
「ううむ」
息荒く自らを睨みつけるハクを前に、ゲンジは観念した。焚き付けたのは自分だ。何かしらの地雷を踏んでしまったのも自分の落ち度。
ならばせめて、鎮火ぐらいは行おうでは無いか。
相手は天忍。いざとなれば現場に急行もできるだろう。
「では明日、授業を終えたら駅前で良いかな」
「!」
「穂高未来には一つ謝らなければ……」
次の日、昼休み中にその事を伝えたゲンジは案の定、ミクから白い目で見られた。
「……女の子を放って別の女の子とデートとか、良いご身分でしね」
「勝手に決めてしまって申し訳ないが、偶には君も休暇を取ったほうがいい。良い機会だろう」
「……ふん、厄介払いでし」
なぜか不機嫌に去っていくミクの背中を見て、頬をかく。
「年頃の女子というのはやはり難しいな…………ラインハルトでさえ制御しきれなかったのだから、仕方ないか」
そうして、少しだけミクからの好感度を下げながらもハクとの待ち合わせの場所にたどり着いた。
そこにいたのは──
「待たせたな、ハク………?」
「あ、は、はい……」
これまで見たどんな格好よりも着飾ったハクの姿だった。一生懸命に考えたのだろうか。白い長袖のセーターにフリルスカート。デニムジャケットにベージュのベレー帽。おまけに頬には紅が差して──いや、コレは紅潮しているだけか。
そしてゲンジは、少しの思い違いをしていた。遊びに行くというのはてっきり、彼女が好きなゲームセンターにでも行くものだと思っていたのだ。
それならば学生服でも良いだろうと、舐めていた。
一発。
金属を思いっきり殴りつけたような音が鳴る。
「ううわっ!?」
「──すまない、ハク」
「……へっ!? な、何がですか!?」
「10分……いや、5分だけ待っててくれないか」
何を言われるかと下を俯いていたハクの前に風だけを残し、ゲンジは消え去った。
そして、きっちり5分後。
ゲンジは再び彼女の前に現れた。
ただし、学生服では無い。
「あ──」
「少なくとも学生服よりはふさわしい格好を選ばせてもらった」
下は茶のハーレムパンツに黒のスニーカー。
上は無地の白シャツにコートを羽織っていた。
学生服はどうしたのか。
しかし、そんな事を気に止めずにハクと手を繋ぐ。
「行こうか」
「はひいっ……」
ゲンジがまず連れて行った場所、それはトリーズコーヒーだった。
「待たせてごめんな、ほらコレ」
先に彼女を座らせて持ってきたのはホットココア。すでに冬の入り、外で待っていた彼女の手は冷たかった。
勿論、天忍の彼女にとってこの程度の寒さは堪えるものでは無いが、そういう問題でも無かった。
「あ、ありがとうございます……あったかい」
「よかった」
しかし、どこか違和感が。
「最近はここら辺も治安悪いからな、遊ぶ場所も限られているだろうし……」
「は、はい」
「敬語じゃなくて良いさ、普通に」
そして気付く。
いつもはもう少し堅苦しいというか、角張った雰囲気なのだ。はるか年上と喋っているような気分にさせられる。しかし、今、目の前にいるのは……まるで、同じ年くらいの男の子のようだった。
「あの、ゲンジさ──島田くん」
「どうした?」
「雰囲気が……」
「ああコレ? まあ今は別に良いだろう、私用なんだから」
「私用?」
「そう、私用。この姿でああ振る舞うのは、師匠に対しても失礼だからな」
コレが、鎧を脱いだ彼の本来の性格。いつもより、少しだけ親しみやすい声色だった。
しかしこの男、鎧を脱いだとしても師匠万歳は変わらないのである。それに目付きもそのまま。やはり、常人という括りに入れられるほど真人間では無いのだ。
ココアを飲んで温まった身体。
二人は街へ繰り出した。
暖かくてとても良い場所から一転。
至る所にいるのは、別の市から逃れてきた避難民。皆、寒さに震えながら、物資を得てなんとか生き繋いでいる。荒んだ目、中には喧嘩をしている輩も。それを見てハクは、ギュッとゲンジの手を握りしめた。
「……」
アレは、自分たちが救えなかった結果でもあるが故に。
決して目を逸らしてはならぬのだと、悲しくて悔しい気持ちのまま。
「──」
そんなハクを、ゲンジもまた見つめていた。
──────
「で、でし……」
『今日はここまでにしようか』
「はひ」
最近、疲れっぱなしだ。それもこれも、自分から手を挙げた私が悪いんだけども……
昼間は学校だけどクラスが違うから、接点が無くて会話をひとつもしない。だけど授業が終わったら学校の外ですぐに合流して、支部に行って機材を借りる。
魔力には、色があると言われているでし。もちろんそれ自体は比喩表現だけど、人間や魔物が放つ魔力が各々で若干の違いがあるというのは有名な話でし。
支部に一つしかない、精密に魔力を測定できる天具。商業の神様から下賜されたとかいう物らしいでし。それを使いながら、街中を走り回っているでし。
「ハ、ハードスケジュールでし……」
「あはは……ミク、頑張ってるもんね?」
昼休み、氷雨達に今やっていることを報告でし。
「頑張ってるなんてもんじゃないでし! あの人、どんなスタミナしてるんでし! おかしいでし!」
左右に球が乗った天秤の形をしていて、魔力を左右の球にそれぞれ触れさせると質の違いを教えてくれるでし。雪女から借りた手拭い。愛しのご主人様の物らしいけど、それを左の球に触れさせて、道ゆく人の魔力を測定してるでし。
だけど……
「夜やってるんだろ? そりゃあ集まらねえよな」
「でも、夜の巡回にちょうど良いって……」
「…………ん? 夜の巡回?」
そうでし。あの人は夜の巡回を前からしてるらしいでし。この地に来た頃から不穏な気配を感じて、私たちの存在を認識して、私たちじゃ対処できない魔物を倒してたんでし。
「……なんだよ、そりゃ──はっ!?」
「先輩達が言ってたのって、多分そういうことなんでし……」
直江先輩は、竜胆市での志村班の討伐歴を見て、おかしいって言ってた。他の街ではもっと強力な魔物も出現しているのに、この街だけ明らかに魔物の質が低いって。
でもゲンジのことを考えれば、それは当然の話だった。
あの人は私たちのことを意識しつつ、私たちにバレないように立ち回っていた。
つまり夜の間、ゲンジがずっと巡回・討伐を行なっていたから私たちが出動することがなかっただけなんでし。
「あ〜もう、どこまであの人は……」
「敵わないでし……」
「あ、それでお前その巡回にも付き合ってるってこと?」
「とは言っても、夜9時まででし……ちゃんと宿題をやって寝ろって言われるんでし」
「か、完全な子供扱い……」
「あの人、いつ寝てるんでし」
「……授業中に寝てるってヒサメが言ってたよな」
「──え、まさかそれだけ!?」
「しかも、時折出撃してるらしいしな」
3人で頭を抱えた。
私達は、なんて恵まれた環境にいたのだろう。
しかし、そんな三人の足元がぐらつく。無力感で足の力が抜けたのでは無い。確かに揺れている。
「な、なんでしっ!?」
「空気が……揺れてる……?」
「どこから……?」
「……ゲンジさんが何か動くかもしれねえ! ヒサメ、ミク、教室行くぞ!」
「うんっ!」
──────
「おや三人とも」
「シマダ、どこ行くんだ?」
「カマをかけなくても良い」
「……さっきの?」
「うむ、流石に見逃せない」
「わ、私たちも行くぜ!」
「ふむ……」
ゲンジは目を瞑った。何かを考えているようだ。
もしかしたら、私たちが着いてくるのを拒否しようとしているのかもしれない。少し不安になってミクとヒサメを見ると、同じように顔を曇らせていた。たとえ分かっていても、足手纏いだと直に言われるのは、来るものがある。
「だ、ダメ……ですか?」
「いいや、そうじゃない」
「じゃあ早く行こうぜ!」
「……まあ良いか」
校内を移動している最中、ゲンジがとんでもないことを言い出した。
「今更なんだが……この件に関しては君たちに任せるのが正解だったような気がするな」
「……えっ」
本当に今更の話だった。
直江先輩から聞いた話でも、ゲンジは今回の問題について積極的に取り組む意思を見せていたとのことだ。なんでこのタイミングで?
「俺も少々入れ込みすぎていたというか……冷静になって考えたんだ」
「ど、どういうことですか?」
「……俺は所詮、時代遅れのロートルだ。それなのに……これからを担っていく君たちの成長の機会を奪ってしまっていたと、今更ながらに自覚してね」
「いや……そんなことは……」
サキは困惑気味に否定した。
そもそも、この人は何歳なんだろうという感情。
見た目が若いのと、学生服を着ているから全く気にしていなかった。
「そんなことないですよ!」
「志村氷雨……」
「ゲンジさんがおいくつか知らないですけど、倭の国を守りたいって気持ちは私たちと一緒のはずです!」
「そうだな」
「じゃあ、水臭いこと言わないでください!」
「……ふっ」
「なんで笑うんですか!?」
「やはり君にはリーダーの素質があると思ってな」
「ええ〜? そうですか〜?」
「ああ。君のその柔らかなカリスマは、人の心に少しずつ入り込む」
「……ん? ……褒められてる……んですよね……?」
「もちろんだ」
「やった!」
そこに何故かサキが突っ込んだ。
「げ、ゲンジさん! 私は!?」
「うん?」
「素質!」
「君の武器には未だ秘めた力が多いな」
「そしつ……」
「──宵闇咲」
肩に手を置くと、優しく語りかける。
「君はあらゆる素質において俺を上回る。わざわざ何かを言う必要もない」
「適当じゃん……」
「適当では無い、師匠に聞けば迷いなく頷くぞ」
「じゃあなんで私の方が弱いんだよ……ですか」
「…………」
「……ゲンジさん?」
ゲンジは遠い目をしていた。きっと、懐かしい日々を思い返しているのだろう。柔らかくて、暖かな眼差しだった。
「俺は……修行の中で何百回、何千回と死んだ」
「え?」
なんか、いきなり凄いことを言い出した。
「心臓が止まったら電気ショックで蘇生され、そのまま修行続行だった」
「…………ぇ」
「何百回と骨折して、即時回復用パックで強制的に回復させられた」
「………………ええ……」
「なんなら、内臓が破裂したまま修行なんてこともザラにあったな。最終的には治せば良かったから、動け動けと腕を刺されたものだ」
とんでもない拷問の記憶を語りながら、その表情は穏やかだった。
始めに話を振ったサキも含めて三人ともドン引きしていた。
「腹を貫かれようが、指を切り落とされようが、治す術があった…………ああ、懐かしい」
「あの……も、もう大丈夫です……」
あのストイックなサキが涙目で制止する程度には凄惨で、過酷すぎた。というか、ストイックとかいう次元の話ではなかった。
「あれだけの修行を乗り越えたんだ、君たちくらいの女の子に負けるわけにはいかないさ」
「そ、そうですよね……ちなみに、今もその修行って……」
「もちろん続けている。だが、ここには回復用パックを新たに補充する術が無い……使い切りだからな、あの時のような無茶が出来ないのは残念だ」
懐かしむどころか、ため息までつき始めた。かと思えばサキを見つめ、朗らかに告げる。
「でも、そうだな! 天忍は薬があるから……宵闇咲、君が修行を希望するなら──」
「あ、ひ、ひ、いいです! 身の丈にあったやつやります!」
危うく仲間が拷問に掛けられるところだった。すんでのところで回避に成功したようでホッとしたでし。
だけど、今度は私の方へと顔を向けた。
「うーむ」
「あ、あの……?」
同年齢くらいの見た目の男の子にまっすぐ見つめられて、こんなに恐怖するなんて思わなかった。同じクラスの男子なんて──いや、男の人なんて本来、私たち天忍と同じ土俵にいないんだから。
「ヒバリのやつ……少し厳しめに言うか? うーん……」
なにを?
なんで私の時だけ不穏なの?
「穂高未来」
「は、はいっ!?」
「君は……まあ、色々頑張っているのは見ている。が、単純な戦闘能力は最も低いだろう」
「…………」
「強くなりたいか?」
悪魔みたいな事を言い出した。
知ってるでし。
コレで頷いたら魂を持ってかれるんでし?
でも、強くなりたく無いって答えたら嘘になるでし……
「…………」
「なるほど、大体わかった」
「!?」
「単純な戦力強化というのは安直な話だったな」
「えっと……」
「君たちは忍者だ。……だよな?」
「でし」
「ならば武器や忍術、あらゆるものを駆使して戦うのが正道だ。それが一般的に邪道と呼ばれるとしても」
「…………でし」
それは間違っていない。
間違っていないけど、ゲンジにそれを言われるのは複雑だった。
真正面から敵を全部粉砕するのは果たして忍者なのか。
「ならば、そちらを伸ばそう」
「そちら……」
「最近、一緒にやってるだろ?」
「!」
「それに、科学だけじゃない。天忍が使うのは神仏の力を宿した神槍や魔剣。単純な身体能力を伸ばすだけなら足し算だが、そちらを伸ばせば掛け算にすることもできよう」
「はい!」
「──むっ!」
「うわっ!?」
さらに大きな振動。
一体何が……そう思う暇もなく、通信が入った。
生徒たちも動揺している。
地震だと勘違いして不安になっているのだろう。それ自体は間違いだけど、危険に備えてくれるだけでも安心して戦える。これがパニックになって四方八方になんてなったら、結界だけではとても守れない。
精神が乱れ切った人間には効かないから。
『今から避難を開始します! みなさん、防災頭巾をかぶってください』
「ミク、サキ!ゲンジさん!」
「ああ、行こう」
「うっし!」
「行くでし」
私たちは、避難する生徒たちに見つからないように抜け出した。忍装に着替え、ゲンジの後をついていく。しかし……
「ぜんっぜん足音聞こえないんだけど……!?」
「もう、そういうのに一々突っ込むのも疲れたでし……」
私たちだって、屋根の上を飛んだり跳ねたりすれば多少は音が出る。それなのに、あんな大仰な鎧を着ているゲンジは何の音もしていなかった。
それを突き詰めると拷問のような修行の話に行き着くことは分かっていた。聞いても多分同じところには辿り着けないと思う。
「ゲンジさん! この地震は一体!」
『うむ、分からん。ここ2ヶ月で調べた限りではこんなものを引き起こす輩は見つからなかった』
それでも、特に気にした様子は無い。
『好都合だ』
「な、何がでし?」
『わざわざ自分の場所を知らせてくれるのならば……あとは倒すだけだ』
氷のような冷たさで、そう言い切った。
倒すだけ。それが、どれだけ大変なことかこの人は分かっているのだろうか。
分かっているのだろう。ここまで築き上げた彼は、その過程で多くのものを見て来たに違いない。
『また来たな』
「うわっ!」
『おっと、気をつけろ』
「あ、ありがとでし……」
大きな縦揺れ。足を踏み外して身体を投げ出しそうになったところで鎧の腕に抱き止められた。硬い感触だ。
そのまま背負われた。
「…………あの、もう下ろしてもいいでし」
『疲れているのだろう、少しは休め』
「ありがたいけど……鎧が硬くて休めないでし」
『ナイスジョーク』
「ジョークじゃないよ!? ────ハッ!?」
気付けば、二人の視線が。
「卑しい……ヒソヒソ……」
「あれがハッキングのプロ……男の心に侵入するのもお手のもの……ヒソヒソ……」
ものすごーく不名誉なことを言われているのは分かった。今度二人の端末にハッキングをかけて恥をかかせてやろう。そう、心に誓った。