忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
一人、夜道を歩く。
冬の寒さに当てられて、本来ならば白い息を吐くはずなのに。その男は透明な息を吐いていた。
脳内に渦巻く、ナマズからの言葉。
短髪、男、荒々しい気質。
それは本来ならば、大した情報ではないだろう。そんな人間、探せばいくらでもいるのだから。しかし、0と1では大きな違いがある。
暗躍している奴がしっかりと人間であるということが分かっただけでもマシだ。
そして、ユキにそのことを教えてやろうとしていた。彼女が探しているやつとは関係無いかもしれないが、もしかしたら関係しているかもしれない。
家の場所は以前に聞いている。連絡を取って、尋ねても問題ないことは確認していた。
「お邪魔します」
「──いらっしゃい」
小綺麗な大学生の部屋。
それが、ゲンジの抱いた感想だった。
「普通でしょ?」
「黒魔術の研究室があるなどとは思っていない」
「意外と冗談もいけるんだ」
「そちらも、あの日ほどは酷い顔じゃないな』」
「うわ、女の子にそんなこと言うんだ。というか……あなたやっぱり若くない?」
『これで家に上がっていいというのなら遠慮なく』
「ダメダメダメダメ! 色々床とか傷つくから!」
「だろ?」
「はぁもう……君、年いくつ?」
「少なくとも君よりは上だ」
「嘘だあ!」
「ははは」
「そういう年頃なんだね」
「……若く見られるというのは、なかなか嬉しいな」
雪、もとい雪女の反応に満足げな男は、本題に入ろうと膝を叩いた。
「今日来たのは他でもない、君の大事な人につながるかもしれない情報が入ったからだ」
「っ……だよね」
この二人同士は、友人では無い。ただ、感傷に従った男と過去に縋る女がいるだけだ。何もなく訪れるわけがない。
そして、大ナマズより手に入れた情報を伝える。
「そう……そんなやつがいるのね……」
「焦られては困るからな、手に入れた情報は逐一伝える」
「逆に、それを聞いた私が飛び出すとは思わない?」
「君は自由だ。突っ込んで死ぬのも、ここで俺が情報を持ってくるのを待つのも、君に任せる」
「さっきとは言ってることが違うけど?」
「困りはする。しかし君の行動を縛るものでは無い」
「ふーん……」
「さて、本日の要件は終わった。俺はお暇させてもらう」
「もう少しいればいいのに」
「女性の家に、無意味にいつまでも居るのは良くない」
「子供なんだから気にしなくていいのに……高校生でしょ?」
「またな」
「あっ……お茶、淹れたのに……」
それから、少しずつではあるが情報が集まり始めた。
というよりも、竜胆市に妖怪達がウヨウヨと現れるようになったのだ。
『この地より、主が復活した気配を感じたのだ』
やってきた鬼。
まさに騒動通りの風貌。
単純な物理破壊力だけを見れば、間違いなくヒーロー級だ。
そんな妖怪が主人と呼ぶ。
それはきっと、凄まじいのだろう。
だが、鬼とゲンジが拳を交えることはなかった。
『今はまだ……早い』
『ならば、この地を去れ』
『盟約により馳せ参じたのだ。部外者が口を出すな』
『……暴れたら、その時は』
『理解しているとも、強き男よ』
存外に理性の通じる相手。しかし、事ここに至っては天忍──竜胆支部も動き始めた。
「ゲンジ、一体どういう事なんだこれは」
「盟主とやらが目覚め、それに従って妖怪達が馳せ参じたらしい」
「盟主?」
「正体はわからないが、例の雪女の探している人物と同一人物の可能性もある。そして、そいつとは別に、街をかき乱そうとしている奴もいる」
「例のナマズだったか」
「並行して探しはするが……見つけられるかは怪しい」
「あなたが無理なら私たちにも無理だろう」
「ヒバリ」
「あっ」
「組織の上に立つ者が、下の者達を軽んずるな」
「そ、そうだな……失言だった」
「君たちも動くのだろう」
「ああ」
「吉報を祈る」
空気に溶けるようにゲンジの姿が消え、一人きりになる。
「ふぅ」
吐息を一つ椅子に座り込んだ。
「叱られてしまった」
なぜか、顔には少しの笑みが。
最近は残業もあまり無いし大きな問題も無かったからか。顔色は極めて良かった。
ゲンジが本部の老人達を脅して以降、他支部や本部からの圧力というのはあからさまに減った。小娘と侮って無茶な要求をしていた奴らが軒並みダンマリを決め込んだからだ。
あれ以降、ゲンジは竜胆支部に堂々とやってくるようになった。それは異変の報告もあるし、ヒバリや影達の顔を確認する為でもあった。天忍たちも彼を受け入れている。
部外者を容易に施設内に入れることはあまり良く無いんじゃ無いかという議論もない事はない。しかし、どうせ侵入されるんなら真正面から来てもらったほうが天忍のメンツも立つということだ。
しかし、一つだけ問題のようなものもある。
三浦綾乃。
風神来陣を操るファースト。
模擬戦以降、ずっとこっちに配属されているのだ。ボロ負けしたという事実は他支部には隠され、あくまで彼に対する抑止力という名目があった。そんな彼女は、ゲンジがこの支部に来るたびに突っかかっている。大勢の前で叩きのめされたのが大変気に食わなかったようだ。見つけるとツカツカと歩み寄り、模擬戦をしろと騒ぐ。
ほら、廊下から──
「──来たわね! このロボットお化け!」
「おお! 今日は不在かと思ったぞ!」
「今日こそ一本とってやる!」
「はははは! では、修練場へ行くぞ!」
「あんたが仕切るな!」
楽しそうに部屋から遠ざかっていく。悪様に言われているにも関わらず、ゲンジはアヤノのことを大層気に入っているようだった。
──────
「ルールはいつもと同じ! 私が制限時間内にアンタに有効打を一回与えたら私の勝ち! アンタは私への攻撃禁止!」
「よし来た!」
綾乃は少なくとも現時点で、ゲンジに戦闘で勝つこと自体は諦めた。だが、ルールを定めれば。その牙は彼に届くかもしれない。届けば次へ進める。次へ進めば、さらに牙が伸びる。
ファーストになったのは彼女に才能があったからだ。しかし、才能にかまけている人間は精々セカンドに行くのが関の山。一つ一つ積み重ねて、彼女はここまで辿り着いた。
だから、次の山に立って登ってみせるのだ。
「はぁっ!」
「そんな軸がブレブレで、当たるわけがないだろうが!」
「このっ! あ! た! れ!」
「何故一々武器を右手左手で持ち変える! 手から手へ渡る時間が無駄だ! どちらの手でも同じく振れるようにしろ!」
ゲンジは武器どころか鎧すら着ていなかった。影の男性衣を借りて着用しているだけで、全てを自分の身体能力で行っていた。
『──!?』
着替えの際、彼の肉体を見た影は驚愕した。
壮絶な傷跡。
肉体全てが傷で構成されているのではないかと思うような凄まじい痕跡の数々は、彼がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたかということを理解させた。同時に、強い敬意を抱かざるを得なかった。これほどの戦士が無償で協力してくれているのだと。
なんと心強いのか。
それは祈りにも近い感情だった。
「ぬぅあ!」
踏み締めた床が陥没し、その反動で空中に飛び出る。
勢いは天井にまで届き、同じく天井をぶち抜く勢いで蹴り付けた。
「っ!?」
まるでゴム毬のように修練場内を飛び回る。しかし、ゴムは部屋の方で、飛び回っている彼は鋼鉄であった。
アヤノは目が追い付かずに部屋の中心で固まる。
「──止まるな!」
背後に着地したゲンジは、叱咤を飛ばした。
「突っ立っているだけなら子供でもできる!」
「うらあっ!」
再び背後から気配が。
「そんな一直線に武器を振るうのが忍者か!」
「うるさい!」
「ファーストがその程度ではまるで足らぬ! 足らぬのだアヤノ!」
「──!?」
分身。
数えること六人の彼が突如、彼女の周りに出現した。
「忍者ならば!」
「真偽を見極め!」
「我が五体を切り裂いてみせろ!」
「強くなりたいのだろう!」
六方から放たれる言葉は立体音響のように彼女の頭蓋内部を何度も反射して響く。風刃を無茶苦茶に放てば、また以前のように叱責されるだろう。剣術を鍛えるのも目的なのだ。
「はあっ!」
「残念、それは残像だ!」
「無茶苦茶すぎだっつーの!」
当然のようにすり抜ける剣。理不尽もここまでくると清々しいくらいだ。一体、どんな人間がこれに対応できるというのか。一体、どんな鍛錬を積めばこうなるのか。そして、こんな人間が所属しているオーバーウォッチとはどんな人外魔境なのか。対峙しているアヤノだけでなく観戦している職員達も好き勝手に想像していた。
「逃げるもよし、隠れるもよし、最後に立っていた者が勝者だ!」
「鬱陶しい!」
自身の周りをゆっくりと歩く複数の影。
圧倒的な実力差は認めつつも、こんな事をされたら集中できないのも事実だ。あまりにも人間から離れた技。確かに忍者は分身する事もできるが、それには極めて高度な忍術を修める必要がある。その上、彼は魔力を練ることができない男だ。
それが意味するところ。
己の肉体のみでこれを成しているということだ。
皆、気になって仕方がない。
高フレームレートのカメラでも捉えきれない分身達はアヤノに尚も語りかける。
「お前の剣技ならば必ず俺の肉体を捉えられるはずだ!」
「んなこと言われたって……」
「見た目に惑わされるな!」
「…………そういうことね」
目を閉じる。
聞こえるのは音。
先ほどは気づかなかったが、とても不思議な足音だった。きっと、そこにカラクリがあるのだ。
もちろん、この場でカラクリを見極める事はできない。
だけど、場所を掴むだけなら!
「そこっ! ……当たった!」
目を瞑ったまま振り抜いた一撃。
何かに直撃した手応え。
目を開ける。
「──惜しい」
「んなっ!?」
当たったと思った手応えは、親指と人差し指でつままれていただけだった。そんな白刃取りが存在するかと憤りつつ、やられてしまったのだから仕方ない。
そしてゲンジが、気を収める。
「──」
「時間切れか」
5分間、結局またも一撃を浴びせる事はできなかった。
動きの悪いところを延々と言われるだけの時間。
目だけが見える黒ずくめ。ゲンジは影の格好のままにアヤノの肩を叩いた。
「今日はなかなか悪くなかったぞ、特に最後の一閃」
「…………ふ、ふん!」
「だが、持ち替えの動きは……せめてもっとスムーズにできないか? あれでは連携も何も無い。武器を奪われて終わりだ」
「そんなことされた事無いから!」
「俺はするぞ」
「……戦場で会ったら気をつけますよ! ええ!」
「そうしろ」
感想を言ったら満足したのか、退出していったゲンジ。
修行に付き合うのは好きだし、彼女のことも気に入っているが、それ以上のことは何も無いのだ。
「…………」
自らの手のひらを見つめるアヤノは、そこに何を思うのか。
──────
穂高未来と合流するために廊下を進んでいたら、行く手を志村氷雨が遮った。宮本怜もいるが、若干疲れているようだ。
「島田くん! 今日こそ遊びに行きましょう!」
「も、もう諦めようよお……」
驚いた。
まさか、俺が夜間巡回をしているということを知ってなおソレを言ってのけるとは。リリエル達が寄ってこようとしたのを片手で制止しつつ、問い返す。
「志村、一体どういうことだ?」
「今日は島田くんも行けます!」
「……放課後、忙しい可能性もあるけど」
「『バイト』とかは私の知り合いが穴埋めします!」
「なるほど」
どうやら、ハクや穂高未来、宵闇咲に頼んでいるようだ。
「ヒサメ!? そんなことしてたの!?」
「うん!」
「どんだけコイツと遊びに行きたいの!?」
「島田くんと一緒に遊びたいから! 頑張りました!」
なるほど、そこまでして俺を遊びに連れて行きたいか。
意図はわからないが……無碍にする必要もない。
「どうですか!?」
「……わかった、どこに行くんだ?」
「カラオケです!」
「カ、カラオケ……?」
「歌を歌う場所です!」
「それは知っている」
「ほら! ほら!」
「お、おい……」
困った。
この世界の歌は全く聴いていない。全く選曲ができないぞ。
「ふふふ……ゲンジさんの歌声を聞くチャンス……!」
背中を押す志村氷雨の歪な願望が聞こえてきたところで、再度、眼前に立ちはだかる影があった。
「ちょーっと待った!」
「カラオケ」
「私たちも」
「着いて行きます!」
むん! と気合を入れるメイガス4人娘。
まるで戦隊モノのキャラクター達のような立ち姿。
こいつらは……何をしているんだ?
「俺たちを置いてくなんて、有り得ねえぜ!」
「志村さん……私達も、いいよね?」
「…………うん! みんな来てよ!」
というか、行くことは決定しているんだな。
……仕方ないか。
カラオケに来るのはおそらく20年ぶりくらいだろう。ニートをしていた時はカラオケなんて行かなかったしな。勿論、弟子入りしてからもカラオケは無い。
「──うっひょおおお!? これが倭の国のカラオケか! 話には聴いてたけど、すげえなあ! ゲン──」
「ゲン?」
「あっ………………」
テンションが上がったウリエルがいきなり全てを崩壊させる一言を放ちかけて、本気の殺気を放つしかなかった。天忍である志村氷雨にバレるのとは違う。本当に宮本怜と志村氷雨の人生が全て狂いかねない。
しかし、上がっていたテンションが一気に下がってしまってかわいそうだ。
「……! ──へへっ! 一緒に飲み物取りに行こうぜ!」
背中を軽く叩いて気にするなと合図を送る。
途端に元気を取り戻し、ドリンクバーに行こうと腕を引っ張られた。
「これ、飲み放題なのか!?」
「好きなだけ飲んで良いぞ」
「マジ!? えーと……じゃあコーラ飲もうかな!」
「俺はお茶で…………おい」
入れたお茶にコーラをぶちまけられた。
「へへっ!」
「はぁ……」
「あ、ちょっ……ち、ちからつよっ……やだ! 飲みたくない!」
「自分で入れたものはちゃんと飲みなさい」
「やだあ!」
……!
「お客様?」
「なんですか?」
「……あれっ?」
「ああ、なんか一人で叫び出したんですよね」
「あら……そ、そうなんですね……失礼しまーす」
ふう、危ないところだった。危うくジュースサーバーの前で女子を襲っている男として見られるところだった。
ただでさえ女6、男1。入り口でとんでも無い目で見られていたんだからな。
「うぅ〜!」
「なんだ、自業自得だろう」
「俺が変人みたいじゃねえかよ!」
「みたい……?」
「な、なんだよ!」
「冗談だ」
部屋に戻ると志村氷雨が歌っていた。宮本怜とデュエットで歌っており、リリエル達も楽しそうに囃し立てている。
ウリエルもアズラエルの隣にどさっと座ると、歌う志村氷雨に合わせて自分も口ずさみ始めた。どうやら若者に人気の歌らしい。
懐かしいな、俺もかつては曲など聴いたものだ。
「シマダ」
「うん?」
「一緒に歌おう?」
「全く分からんけど」
「それでも」
アズラエルに押し切られて、慣れない歌を一緒に歌った。これで歌わなければ、場が冷めるからな。発声方法は分かっているので、そこの調整さえすればあとは歌詞を知るだけだった。
何故俺は修行の成果をこんなことに…………いいや、遊びもまた修行か。
「ふぅ」
「楽しかった?」
「……ああ、楽しかったよ」
「良かった」
「気を使ってくれたのか」
「ん」
「ありがとう」
「んー……」
撫でる手に、気持ちよさそうに頭を揺らす。
これも成長だろう。人に気を使えるようになったのはとても良いことだ。前はお風呂の入り方すら知らなかったからな。
しかし、どうやら宮本怜は俺とアズラエル達の関係が気になるようだ。
「そもそもアズちゃんたちってどこから来たの?」
「ユーロ」
「──外人さんなの!?」
「そう」
「なんで教えてくれなかったの!?」
「聞かれてないから」
髪色を見れば日本人でないことくらいわかるだろう……と一瞬だけ思ったが、宵闇咲は金髪だし、志村氷雨も透き通る氷の色だった。
ハクは黒と白が綺麗に混ざっている。
雲雀は綺麗な銀。
確かに髪色で人種を見分けるのは難しいか。変な世界だ。
「島田ってもしかして……海外出身?」
「俺は倭の国出身だ」
「そうなんだ、普通だね」
「まあな」
何故か、志村氷雨がリリエルたちと顔を見合わせていた。
『普通って……』
『なんであんな堂々と言えるのかな……』
「島田っていつも長袖着てるけど……暑くないの?」
「寒さに弱いんだ」
「いやいや、真夏もだよ!?」
「あれくらいだとまだ寒くてな」
「……あははっ! 変なやつ!」
「お前こそ、志村のことを姫などと呼んだりしているじゃないか。そちらの方がよほど変だぞ」
「私は良いの! っていうか……島田、口調硬すぎ! マジウケる!」
「マジウケる……?」
「そこ、引っかかるところじゃ無いから!」
腹を抱えて机に突っ伏している。笑いすぎておかしくなってしまったようだが、普通に失礼だ。
リリエル達も楽しげに歌っている。彼女達がちゃんと歌うところは初めて聞いたが、ウリエルとサリエルが歌が下手ということだけはわかった。まあ、上手い下手なんてのはこの場では関係無い。
楽しければ良いんだ。
任務も役割も忘れて、今だけは素直な人間として。
だからこそ、俺しか気付くことは無かった。
「──竜神の剣を喰らぇぇえ!』
4人は後で、稽古だな。