忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
話を整理したいと言ってレイを戻らせ、ヒサメは内心の宣言通り、呼び方について問い詰めた。
「なんで私はフルネームでレイのことは名前呼びなんですか?」
「気に入ったからだが」
それを聞いて、モヤモヤとしていた内心が一層、黒い霧に覆われた気がした。
「……じゃあ、私のことは気に入らないっていうんですか?」
「そういうわけではないが」
ツラッとした、なんでもないような顔をしているのも気に入らなかった。先ほどレイと話している時はあんなにも楽しそうだったのに。
「ゲンジさん、前から私にだけ冷たくないですか!?」
「そんな事ないぞ」
「ミクの事は最近色々引っ張り回してるし、ハクさんとかヒバリさんのことも呼び捨てだし……ユリちゃん達には甘いし!」
「穂高未来は協力を申し出てくれたからそれなりに対応するし、ハクに関しては自分から呼べと言ってきただけだし、リリエル達に関しては旧知の仲だ」
「ヒバリさんは!?」
「ヒバリは……放っておけないからだ」
「私は!?」
「リーダーの素質があるな」
「そんなこと聞いてなーい!」
「ううむ……」
「そもそも、フルネームで呼ぶってすっごい失礼じゃないですか!?」
「そんな事はない」
「私はあんまり好きじゃないなあ〜」
「そうか」
「………………」
「…………?」
「……やっぱり、私のこと嫌いなんだ!」
「何を言い出すんだいきなり」
「いざって時は見捨てられるんだ!」
「そんなわけないだろう。例え嫌いだとしても、命がかかっている場で見捨てたりはしない」
「ほら! 嫌いなんだ!」
「はぁ……」
世間一般で痴話喧嘩と呼ぶに相応しい会話。
ヒサメは、どうしてこんなにモヤモヤしているのかがあまりにもわからなかった。それでも、溜まりに溜まった違和感が爆発していた。
「私だって仲間じゃないですか!」
「そうだな」
「それなら名前で呼んでください!」
「…………分かった」
「なんでちょっと不承不承なんですか!?」
ゲンジには最近、悩みがあった。それはあまりにも周りが姦しいことだ。それも高校生くらいの女ばかり。
歳が近いのは精々ヒバリで、しかも女。
彼は30代独身男性で元オーバーウォッチ所属一般転生者である。10年以上の月日を世界を救うために費やしてきた。既に常人の感覚など通り越したところで生きている。
現時点でも日夜襲撃をかけてくる魔物達に対処するため、文化に触れる時間すらない。精々が天気ニュースを見るくらい。曲をはじめとして、若者の流行だなんだというのはよくわからないのだ。キャピキャピとした雰囲気を外から眺めるのは微笑ましくても、その中に混ぜ込まれると困惑してしまう。
それが嫌というわけではないが、もう少し男臭い場が欲しかった。だからこそ、常に喧嘩腰のアヤノを気に入ったという無意識の事情もある。
なんなら最近は、学校の入り口にいる門番や清掃員が楽しそうに話しているのを羨ましく見ているくらいだ。
何故男子が話しかけてこないかというと、ウリエルが牽制しているからだ。
陰口を叩いているのを見て以降、そうなのである。
「ちゃんと呼んでくださいね!」
「……」
同じようなやり取りを既にハクとしている。まさか穂高未来達とも同じことをしないよな……? と、若干不安になりつつ頷く。呼び方そのものにこだわりはないためだ。
どうでも良い話を終えた後は、真面目な話。
「天忍の記憶処理とやらは、しっかりとやったのか?」
「その筈なんですけど……」
「秘匿が機能しないというのは、忍者にとって致命的だぞ」
「……この後、一緒に支部に着いてきてもらってもいいですか?」
「もちろん、俺にも関わる話だ」
──────
ヒサメとゲンジは、連れ立ってやってきた。
ヒバリは深くため息をつく。
「次から次へと……」
「そう言うな、物事にはイレギュラーがつきものだ」
「イレギュラーそのものが言うと説得力が違うな」
「イレギュラーと言うほどでは無い」
「どの口で……まあ良い、念の為にもう一度記憶処理を行おう。もしかしたらミスがあったのかもしれないからな」
「…………時間の問題だろうがな」
「まあ、な」
既に壊滅した街も多いこの国で、天忍を裏方に回したままでやっていけるのかという話がある。すぐにでも存在を公表しようという話さえ。しかし、ゲンジとしては反対だった。
「ペトラス法……だったか?」
「そうだ、あれは明確に人類を陥れるために作られた悪法。表立って活動するということはそうした縛りを生むリスクを孕んでいる。民意からは隠しておいた方がいいものというのが、この世にはあるのだ」
「…………」
そんな法律、支部にいる誰も聞いたことがなかった。当然、調べても何も出てこない。
つまり本来ならば、狂った男の妄想でしか無いはずなのだが……彼の実力と実績がその言葉の真偽を裏付けしてしまう。聞けば、この国で本格的に活動する前はユーロ地方を主に活動拠点としていたそうだ。
「ヒバリ、これは先達としての警告だ。人の目に晒されるということは予想以上の結果をもたらす」
「……私も、最終的な意思決定に関わることはできない」
「まあ……いざとなれば俺は完全に姿をくらますとしよう。そちらの方がお互いに──」
「ダメだ!」
突然の叫びだった。
「ヒバリ?」
「お、お前がいなくなってしまったら……っ」
「…………」
そんな必死な反応をするとはつゆ程も思わなかった。リリエル達の時は勝手に消えて泣かせてしまったので、あえて先に言っておこうという気遣いだったのだ。しかし、眼前で身体を抱きすくめる女のなんと弱々しいことか。
「ヒバリさん……」
「あ、あいつらは……お前がいなくなったらまた……きっと……」
その脳裏に宿るもの。
それは、かつてヒバリが少女だった時の記憶。
信頼できる上司がいた。
ぶっきらぼうなヒバリにすら優しく接してくれる、尊敬できる女性だった。
彼女の下であれば、どこまででも進める気がした。
失敗しても次があるさと肩を叩いてくれる彼女に憧れていた。
『──え?』
彼女は唐突に自殺した。
不自然に思った彼女が調べて分かったのは、ヒバリの失敗の責任を庇う為、老人達に彼女が陵辱されていたということだった。
絶望した。
絶望して、恐怖した。
身を凍えさせるような恐怖だった。
それからは、失敗をしないように慎重に立ち回るようになった。常に失敗に怯え、より頑なになった彼女を支えてくれたのは、新しく出会った相棒だった。
彼女は明るく、まるであの上司のような少女だった。顔を合わせるたびに心がジクジクと痛みながら、それでも2人は研鑽して、成長していった。
やがてファーストに到達し、任務を順調にこなしていた。半ばあの時の恐怖も忘れかけ……やっと、老人達に干渉されない領域に届いたと思った。
その相棒を、魔界への潜入命令で失った。
閉じつつあるゲートへ向けて、ヒバリを巻き込むように相棒が放った一撃。肩から斜めに走る灼熱。吹き飛びながらゲートに突っ込み、最後に見えた光景。触手に四肢を掴まれた彼女の顔は……泣きながら、どこまでも安心しているようだった。
あれ以降、戦うことができなくなった。
どうしても、武器を持つ手が震えるのだ。彼女の顔が離れないのだ。
だから内業に専念し、やがて支部の司令になった。
上に立ってわかる、老人たちの圧力の強さ。何度危うい場面になったことか。それでもなんとか、足りない脳みそを回転させて、恐怖に屈しないように外面を取り繕ってきた。
そこに現れたのが、アンノウンだった。
問題を引き起こして彼女の立場を危うくした。毎夜、襲われないかと震えて眠ることすらできなかった。あの頃の小娘に戻ったかのような無力感だった。
──ゲンジ。
オーバーウォッチという組織に所属していた男。天忍という組織を揺るがしかねない力を持った彼は竜胆でしか活動せず、それ故に圧力が高まっていた。このままではいずれ──と狂いそうな恐怖に包まれ、涙が止まらない日も。
『我が名はゲンジ。オーバーウォッチ所属のエージェントにして……ヒバリの友人だ」
しかし、彼は正体を明かした。
老人どもの、面白いおもちゃを見つけたような顔。
「ゲンジとやら、随分若いのお……」
「どこで産まれた? 親は?」
「本部に連れて行くか」
「オーバーウォッチ……所詮は子供の遊びだろう?」
「潮目め……こんな若い男と遊んでいたのか? 許せんな」
始まりは、老人の言葉だった。
「──そこのご老人、今なんと?」
「おや、聞こえなかったか? くだらぬ遊びなどやめて、我らが庇護下に入りなさい。そうだな……まずは下積みから──え?」
ぐらりと、老人が体勢を崩して倒れる。
『なるほど──魂が腐っている』
「…………わ、私の脚は……?」
『そこに転がっているだろう』
容赦というものは存在しなかった。
太腿から下を失った老人が、痛みに顔を歪めた。
「ぐぅああああああ!!」
響く絶叫。
奪われた脚の断面から血がドクドクと溢れている。
『回復しろ、便利な薬があるだろう』
「な、なにを!?」
「狂ったか!」
「お前達! やれ! …………なっ!?」
既に、護衛として立っていた4人のファーストは気絶していた。
次の瞬間、迸る殺気が老人達の身を覆う。
『この醜悪な感覚……捨て置けぬぞ、外道ども!!!』
「ひっ……!」
腰を抜かした老人達は、恐るべきものを見た。
『我らが龍神の剣を喰らうがいい』
穏やかに告げた忍者の背後。
顕現した龍神。
それはまさに荒御魂。
周囲に雷が降り注いでいた。
『脚からか頭からか、選ばせてやろう』
「あ……あ……」
白痴のように声を漏らすばかりの老人達の周囲をゆっくりと漂う龍。声は無く、牙を剥き出しにして指示を待つのみ。
「──ま、待ってくれ!」
『……ヒバリ』
「彼らは天忍のトップだ……それがいきなりいなくなれば……」
「……そ、そうだ! 潮目! 言ってやってくれ! 私たちは敵では──」
『黙れ!!』
「……う、うわあああああ!」
鼻の前までアギトを伸ばした龍に間近で見つめられ、老人の股間から湯気が出る。
『悍ましい……まさか、人の身でありながらここまで醜悪な奴らが紛れ込んでいるとは……!』
「……ゲンジ、頼む」
『…………』
ヒバリは頭を下げていた。
「頼む」
『……良いだろう、お前が言うならば』
「ほっ……」
『だが!』
安堵した老人たちめがけて、右手に取り出した小さな何かを超高速で投げつけた。
「うぐっ!?」
「痛っ!」
老人達の体に着弾。
そして──
『龍よ!』
「うわあああああああ………………?」
老人達の身体を通り抜けた龍は、しかし害はもたらさなかった。不思議そうに身体を見る醜悪な者たちに告げる。
『爆弾と龍の分身を埋め込ませてもらう! もしも龍が害悪だと判断したならば──』
閉じた拳を開き、kaboomと表す。
『こうなる』
「っ!」
ゲンジとヒバリの背後。
空中で、爆発が巻き起こった。
ちょうど半径1mくらいの爆炎、人間は確実に仕留められるだろう。
『これを以て、貴様らを放免してやろう』
「な、なんてことを……!?」
『生きているだけ感謝するがいい』
「狂人め……」
『──疾く失せよ!』
龍が、全ての邪悪を打ち払った。
彼女はそんな風に感じた。
安心して眠れる日々を、やっと手に入れた。安心して笑える日が、またやってきた。
もし、彼がいなくなってしまえば──
「──大丈夫だ、ヒバリ」
優しく、包み込むように。
ヒバリを抱きしめると、安心させるべく囁いた。
「龍を解除すれば自動的に爆発するようにしてある」
「…………物騒、だな」
「俺がいなくなろうが、世はことも無しだ」
「…………それでも、この街にいて欲しいと願うのは……ダメだろうか」
「状況次第だな」
「ひどい男だ…………あ」
しがみついていたヒバリは、この場に誰がいるかを思い出した。
「…………」
ヒサメが、ジトッとした目を向けていた。
報告に来たはずなのに、いきなりメロドラマが始まった。事情を知らない&直属の上司ということがあって口を挟めないが、そんな場所で放置するなという抗議の視線だけは忘れなかった。
「ん、んんっ……!」
そっと、男の腕の中から出る。
誤魔化すために咳払いをし、話の続きをしようとした。
「な、なんの話だったかな!」
しかし、話自体はもう終わっているのだ。
再度の記憶処理という話で。
「流石に誤魔化せないです」
「うぐっ……」
「ヒバリさんって……やっぱりそうなんだ……」
「な、なんだ!」
「……もう良いです。ゲンジさん、行きましょう!」
「あっ…………」
別の女──部下がゲンジの腕を取り、部屋を出ようとする。その光景に思わず漏れた声。誤魔化すように、口を手で押さえた。
「ヒバリ」
「!」
「またな」
「──ま、またな!」
──────
プリプリと怒りながら、ゲンジの腕を引く。
「ゲンジさん!」
背中越しに言葉を飛ばした。
「なんだ」
「ゲンジさんっておいくつなんですか!」
「黙秘する」
「20!」
「…………」
「30!」
「…………」
「40!」
「…………」
「50!」
「…………」
「60!」
「あのな……」
「ろ、60!?」
「はぁ…………」
「ゲンジさんって……やっぱりヒバリさんが好きなんですか?」
仲が良い男女を見れば、恋愛に繋げたくなる年頃。殊更に、学生生活というものに触れたばかりのヒサメはそういったことに興味津々なのだ。
「君の思うような話では無い」
「?」
「俺もヒバリも、そういう感情で関わりを持っているわけでは無いぞ」
「……ええと……つまり?」
「俺たちは共に、世界を救う同志として尊敬し合っている。だから、助けられるなら助けたいだけだ」
「?????」
この人は ホントに何を 言ってるの? (心の一句)
心の底から理解ができなかった。
先ほどの光景をゲンジ自身にも見せてやりたい。
あれはまさに、ロマンスというやつだった。男が女を抱きしめてあんな顔をさせることに、それ以外の意味があるのだろうか。
少なくとも、ヒサメの薄っぺらい知識では思いつかなった。
「それに俺は根無草。誰かと添い遂げるなどということは不可能だ」
「……それでいいんですか?」
「良い」
「なんでですか?」
「自慢できる自分であり続けたいからだ」
「それは──」
立ち止まったヒサメの背後で、男は朗々と述べた。
「男として幸せを掴むことは、俺には過ぎた願いなんだよ」
「ただ……彼らと共に歩んだ旅路を忘れないでいたいんだ」
「あの、夢のような時間を……」
顕現させた刀をそっと、手に持つ。
偉大なる師匠と同じもの。
「そして──その為には、この命をかけて証明し続けなければならない」
「人生の中で得られたものがあったんだって」
「かっこいい奴らと一緒に生きていたんだって」
「今も俺はここで頑張っているぞって」
「だから……良いんだ」
それは、情熱だった。
未だ多くを語らぬ男の過去。
そこにこそ男の根源があり、今に繋がっているのだ。
ヒサメは寂しい気持ちになった。
この男は、自分たちのことを見ているわけじゃなかった。
過去の残照。美しい記憶達に誇れる自分であろうとしているだけなのだ。
──拳を握りしめた。
「……そんなの、ダメです」
「?」
「そんなんじゃ……嫌です」
「なにを……?」
「私は! 嫌です!」
「お、おう?」
「私たちを見てください!」
ヒサメは、ゲンジの左手を両手で覆った。
「見ているが……」
「そうじゃないです!」
「ん?」
「オーバーウォッチに誇れるとか誇れないとか、忍者として立派だとかじゃなくて……私たちを見てください!」
「────!」
「私たちは女の子なんです!」
「それは…………」
「最後まで責任をとってください!」
「──もちろんだ」
「!」
「君は…………本当にリリエルに似ている」
「それやめて下さい」
「す、すまん」
「でも……安心しました」
桜の花のように、誰をも魅了する笑顔だった。
「ふん、ふーん……ふふっ」
「ーー使命、か」
小さく、前を歩くヒサメにすら聞こえないくらいの声量で呟く。
新たなる覚悟。
共に歩むのではない。
この戦乱の最後まで彼女達を守り抜き、導く。
それこそが、彼が果たすべき使命だと理解した。