忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

26 / 29
9_生にー誉を、死ーー光を

 

 竜胆市のとある路地裏。

 そこに集まっているのは、腹を大きくした子供のような体躯。しかし、子供とは似ても似つかぬ容貌。

 醜く、髑髏にそのまま肉をつけたような顔。爪は鋭く、腰にはボロ布を巻くのみ。ぶら下がったものが見えている。

 

「ひっ……!」

 

 十数体が、その女を取り囲む。

 仕事帰り。道端で少年に呼び止められ、向こうで女の子が倒れてると聞かされたから。最近流入した避難民なのだろうと、要らぬ親切心を発揮したところにこれだった。

 

 ──餓鬼。

 決して飢えを満たされる事はない、哀れな怪物。食欲も、睡眠欲も、性欲も。だから、貪るだけ。目の前に現れた餌を食べるだけ。

 

「あ…………あ……」

 

 動けない。

 怖くて動けない。

 こんなの、見た事がない。

 なんでこんなことになったんだ。

 人に優しくすることは決して悪いことじゃないはずなのに。

 しかし、一人じゃない。

 

「逃げてください!」

 

 側に立っているのは、黒ずくめの少女だった。目だけが見える姿──不審者としか思えないが、その声から明らかに彼女を気遣っている。

 そして、守っていた。

 腰が抜けて動けない彼女の前に現れ、日本刀のようなもので必死に化け物達を牽制している。

 しかし、根本的な解決にはなっていなかった。

 振るう腕は頼りなく、腰も引けている。

 精々が餓鬼達を少しだけ怯ませる程度の効果しか発揮していない。

 自分の身すら危ないにも関わらず、倒れている彼女へ声をかけた。

 

「は、早く!」

 

「──うわああああ!?」

 

 しかし、パニックになって叫ぶ。

 餓鬼達は手を叩いて喜んだ。

 獲物が泣き叫べば叫ぶほど、興奮するのが彼らの性質。

 あっちのは、後でゆっくり痛ぶるとしよう。

 そして、ジロリと視線を影へ集中させる。

 

「……あ」

 

 カタカタと手が震え出す。

 震えて、刀を取り落としそうになる。

 影の職務に戦闘は含まれていない。

 何せ、鍛錬を積んでも天忍になれなかった者達だ。

 気質か、体力か、筋力か、いずれにせよ戦闘することに向いていない。

 だというのに、咄嗟に飛び込んでしまった。

 本来ならば天忍達に知らせるだけの仕事なのに。

 

 餓鬼達は今から、彼女をとても酷い目に合わせるだろう。刃向かった人間には殊更に、嬲ってからコトに及ぶのが魔物の特徴だった。

 

 そんなの知ってる。

 そいつらと戦うのを諦めたから、彼女はこんな黒い布を被っているのだ。

 では、なんでこんなことをした? 

 

「…………これは……」

 

 彼のせいだ。

 

 彼の話を聞いてしまったからだ。

 

『──戦う力が無くなったらどうするか?』

 

『……俺のこの鎧は確かに無くなることもあるかもしれない』

 

『俺の力も、やがては衰えていくかもしれない』

 

『…………だが、俺は知った』

 

『肉体を凌駕する意志の力を』

 

『どこかで泣いている誰かのために立ちあがろうとする事の難しさを』

 

『故に、彼らがいた』

 

『俺が師事した英雄達は、老いてもなお誰かを守りたいと立っていたのだ』

 

『そして彼らは、今もあの場所に立っている』

 

『力など関係無い……これは──』

 

 飛びかかってきた餓鬼を目の前に、刀を握り直した。

 

「使命なんだから!」

 

『──良くぞ言った!』

 

「っ!?」

 

 風。

 音。

 光。

 目を閉じ、開いた時には餓鬼達は血溜まりに沈んでいた。

 

『微かな気配を感じて来てみれば……どうやら無茶をしたようだな』

 

「あ…………」

 

『おっと』

 

 地面に取り落とした刀。膝から崩れ落ち、そのまま支えられる。

 限界だった。

 あれが戦闘の殺気。

 とても、自分みたいな人間が立てる場ではなかった。

 

「あはは……脚が震えて……」

 

『カッコよかったぞ』

 

 気絶しているOLを、影達が運ぶ。

 彼女は座り込んでいた。

 缶ジュースを買って来たゲンジが、それを手渡す。

 鎧はすでに脱いでいる。

 

「私……減給です……」

 

「心配するな、そんな酷いことにはならないさ」

 

「…………やっぱり、戦うなんて私には無理です」

 

「何を言う」

 

「え?」

 

「立派に戦っていたじゃないか」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

 貰ったジュースに顔を隠し、盗み見る。

 

 高校一年生。

 自分の二つ下。

 着ているのは学生服。

 しかし、めくった長袖から見える前腕は……白い傷跡が所狭しと見えていた。

 引き絞られた肉体。

 首筋。

 鎖骨の線。

 

「…………」

 

 横目でジーッと見つめる。

 とても年下と思えないような落ち着き具合だった。

 軽い笑み。

 コーヒーを口元に運び、軽く含む動きを──視線がぶつかった。

 

「はは……視線というのは露骨なものだ」

 

「ぅ!」

 

 勢いよく顔を逸らす。

 

 バレた!? 

 うまく隠していたはずなのに! 

 スケベだと思われる!? 

 

「この傷が気になるか?」

 

 ボタンを外すと、グイッと首元を大きく出す。

 横一文字の傷が走っていた。

 

「えっっっ」

 

「?」

 

「あ、い、いや、なんでも……」

 

 誤魔化しつつ、今度は露骨に見る。

 

「これは師匠に食い下がった時の傷でな──」

 

「ふぅーん……」

 

 聞いてるふりをしながら、しっかり脳裏に収めていく。

 今日の晩御飯は決まりだ。

 しかし邪魔者が。

 

「──ゲンジ様」

 

「ん?」

 

「あまり少女を歪めるのは……」

 

「歪める? 彼女はまっすぐだ、先ほども餓鬼相手に良く持たせた」

 

「……なんでもありません…………コラッ!」

 

 ため息をついた影は、エロガキへ拳骨のジェスチャーを送った。

 

 

 ──────

 

 

「ぐごおおおお……ぐううううう……」

 

「よーっす! 島田!」

 

「おはようレイ。……ぐおおおおおお」

 

「くくっ、やっぱ変なやつ」

 

 今日も今日とて、島田は誰よりも早く学校に来てイビキをかいていた。レイが来た瞬間に顔を上げて挨拶を返してきたかと思えば、再び休息へ。

 

 ──彼はパトロール中、歪んだ人影を見つけて朝まで追いかけっこをしていた。結局正体を突き止められず……だが、その気配は完全に補足した。

 今日は必ず捕まえると、気合いの爆睡だ。

 

「んなあああああ…………」

 

「こいつ、何のバイトしてるんだろ」

 

 島田の隣の席──アズラエルの椅子に腰掛けて、眠る彼を見つめる。レイは、彼について思いを馳せた。

 

「ふすううううう……」

 

 島田龍一。

 クラス一の美少女であるヒサメに全く興味が無い変わり者。

 無いように見せているだけかもしれないけど……少なくとも、ヒサメの方から絡みにいかないと全く顔すら向けないのは事実だ。一応、ヒサメの知り合いに恋をしているらしい。

 

 そして、変わり者として見られる最たる所以。

 

 どんな授業でも──たとえば体育でも、自習でも、集会でも、隙あらば爆睡。『集会でいつも寝ている子がいますが──』と、校長に認識されるくらいの寝太郎だ。

 何度注意しても治らないので注意したら診断書を持ってきた。教壇に突き付けられたら強すぎて教師も何も言えない。

 それでいてテストの点数はいい。

 成績表に関しては渡された瞬間にリュックにしまう。

 協調性という文字をどこかにおいてきたような生徒だった。

 

 心優しいみんなの姫──氷雨だけはそんな島田のことを気にしているようだったが、ソレすらも無碍にする。とんでもねえ野郎だと男子には睨まれていた。

 少なくとも、仲間だとは思われていなかった。

 

 それが最近、怪しくなってきた。

 リリ、ユリ、サキ、アズの四人が転校してきた。ヒサメに負けない美少女四人の到来にクラスの男子は湧き立ち、女子は戦慄した。

 だが、四人の様子がどうにもおかしい。

 どう考えても。

 どう見ても。

 何度見直しても。

 誰が見ても。

 島田の事を気にしているのだ。

 

 転校してきたその初日に、彼を四人で取り囲んでどこかへ連れて行った。

 それからも、彼女達は折に触れて彼のことを気にかける。

 

 アズなど露骨である。島田の隣を確保するために、元々隣に座っていた女子に無言の圧をかけていた。

 イビキがうるさすぎて頭を抱えていたので喜んではいたが、そんなにこいつの隣が……!? みたいな顔をしてもいた。

 他のクラスメイトに話しかけられてもほぼ反応しないのに、島田に話しかけてひっきりなしに話しかけている。

 そして島田も、鬱陶しそうというか若干気まずそうにしながらキッチリと反応するのだ。

 

 そして面白く無いのは男子達。

 あんなに可愛い女の子達が、何故あんな陰キャに……顔だけはいいからか!? と妬み嫉み悪言流言が止まらない。

 青木などは直に突っかかっていた。

 

 しかし、そこでユリがキレた。

 完全に怒りマークを浮かべながら威嚇し、二度と関わるんじゃねえ三下とこき下ろしたのだ。

 青木は完全にビビり散らかし、普段から高圧的な彼の痴態に喜ぶモノは多かった。

 ただ、彼へ悪意を向けるモノは青木だけではなく、その全てに対してユリはガンをつけて行った。

 

 結局、女に守られる弱虫として見られているのが現状だ。

 

 レイも、カラオケに行くまでは不気味なやつとしか思っていなかったし、女に守られて情けないという認識はあった。ただ、ヒサメが無理矢理に誘って実際に遊んでみると認識は一気に払拭された。

 アズラエルやウリエルのことを仕方ないなと言わんばかりに見ているし、レイ自身とも特に引っかかりなく話す。ヒサメの件で少しだけトゲのある話し方をしていた自分が恥ずかしくなるほどだった。

 

 そして……目が冴えるような出来事があった。

 鬼の襲撃。

 そして、サイボーグ忍者 ゲンジとの出会い。

 緑に輝く光と共に、彼女達を颯爽と救ったヒーロー。

 彼女は、今まさに人生の絶頂期だった。

 もう一度、あの人に出会いたい。そんな思いがひしひしと強くなっていく。

 

「──ようレイ」

 

「あ、ユリちゃん」

 

 気づいたら、ユリがそこにいた。

 

「朝から何してんだ?」

 

「……ううん、なんでも無い!」

 

「志村はまだ来てないのか?」

 

「姫はまだだと思うよ?」

 

「……そうか」

 

「…………あのさユリちゃん」

 

「なんだ?」

 

「ユリちゃん達って、どうして島田のことが好きなの?」

 

「え」

 

「好きだよね?」

 

「な……な……な……」

 

 明らかな狼狽。

 まさか隠せていると思っていたのだろうか。

 ソレはあまりにも迂闊というか……乙女回路がキュンキュンと来てしまう。

 

「ち、ちが──」

 

「嘘つくなって〜、見てたらわかるよ〜?」

 

「…………」

 

 赤くなって縮こまってしまった。

 あまりにも可愛くて、耳元で尋ねる。

 

「ねっ、ねっ、教えてよ」

 

「ンゴゴゴゴゴゴ」

 

「ほら、島田も寝てるしさ」

 

「ち、ちげえって……別に好きなんかじゃ……」

 

「ああじゃあ……嫌いなの?」

 

「──ちがうっ!」

 

「ほら」

 

「っ…………」

 

「ねえ、どうやって出会ったの?」

 

「…………」

 

「誰にも言わないからさ!」

 

「お、俺は──」

 

 

 ──────

 

 

 俺は頭が悪い。

 すぐにカッとなってしまうし、言葉より先に手が出てしまう。養成所では何度も怒られたけど……これは性分ってやつだ。言われたところで治るわけもない。

 だから、その日も同じだった。

 

「胸ばっかでけえガキが……どうせなら娼館にでも行ってろよ……ったく」

 

「てめえ! 今何つった!?」

 

「……あ?」

 

「こっち来い!」

 

「──いいぜ」

 

 酔っ払いがいきなり突っかかってきて……買い言葉に売り言葉だった。ボコボコにしてやろうと路地裏に引っ立てたら──

 

「ただの人間だと思ったか?」

 

「ぐっ……! アンチ……ワールド……!?」

 

「誘い込まれたことすら気づかねえ雑魚が」

 

 人の言葉を理解し、擬態する怪物。

 アンチドートの上位種。

 上半身を獅子の姿に変えたそいつに軽いパンチで転ばされた。

 当然、俺もメイガスだ。すぐさま立ち上がり、魔法を放とうとした。

 

「フレイム──」

 

「──あめえよ」

 

「ごっ……!」

 

 腹に重い衝撃。

 障壁すら貫通する痛みと共に体が浮き上がり、建物の外壁に衝突した。壁を突き抜け、建物の中に瓦礫と共に雪崩れ込む。

 

「あ……っ…………う……」

 

 お腹が痛くて、息が出来なくて、何も考えられなかった。

 

「おら、立てよ」

 

「あぐっ……」

 

 髪を掴まれて立たされた……だけど、足に力が入らなくてすぐに倒れ込んだ。

 この時点で、俺にアンチワールドを相手する力なんてなかった。

 識別名『ライカンスロープ』

 強靭な肉体と再生能力、そして雷を操る強大な怪物。全ての領域において、俺は劣っていた。

 

「う……」

 

「立てっつってんだろうが!」

 

「うぐぅぅぅっ……!」

 

 左頬を殴られて、目ん玉が飛び出るかと思うほどの痛みがやってきた。お腹を抑えていた手を今度は顔にやって、うめくしか出来なかった。

 

「立たねえか……じゃあ──」

 

「うああっ!」

 

 肩を乱暴に掴まれて、ビリビリと服を裂かれた。

 

「お前みてえな強気なやつを無理やりヤる時ってのが一番興奮するんだ、分かるか?」

 

「っ…………」

 

「ほら、顔見せろ…………見せろっつってんだよ!」

 

 顔の横を殴られて、コンクリートが壊れる音に怖くなった俺は顔を見せてしまった。

 

「ひっ……!」

 

「へへ……」

 

 悦びに歪んだ顔。

 涙で目が滲んだ。

 服も何もなくて、隠せない身体。

 自分の性分が恨めしい──などと思う余裕もない。

 恥ずかしくて、恐ろしくて、喚き散らした

 

「や、やだっ! ……誰か……助けて! 誰か!」

 

「ははは! 良いねえ! ──オラァッ!」

 

「うぎっ……!? あ、ああああ!」

 

 脚から、嫌な音がした。

 左足が変な方向を向いている。

 痛みで体が勝手に動く。

 

「ううううう! はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

 涙が止まらなかった。

 恐怖と痛みがとめどなく、心を覆っていった。

 だけど、そんな姿を見せるほどに敵は興奮していく。

 

「あぐっ……!?」

 

 腰を掴まれた。

 

「初モノ、いただきまーす」

 

「い、や……」

 

 ライカンが、酷薄に命令した。

 

「自分で股開け」

 

「い、いや……」

 

「顔面ぐちゃぐちゃにされたいのか?」

 

「っ…………!」

 

「──良い子だ」

 

 恐怖で、言われるままに足を開いた。

 怪物のアレがあてがわれて、恐怖で弛緩した身体。

 チョロチョロと音が鳴る。

 

「ああ……さいっこうに……!」

 

「た、たすけ……」

 

 グチュリと両手で押し広げられて、先端が──

 

『──何故、メイガスはいつも襲われているのだ』

 

「!」

 

『リリエル、お前は後ろにいろよ』

 

 バッとライカンが振り返った。

 

『おい、アンチドート──』

 

「アンチワールドです!」

 

『アンチワールド、その子を離せ』

 

「誰だてめえ……」

 

 そこにいたのは、緑色の光を放つロボットだった。そしてその背後に、桃色の髪を持つ女がいた。俺は、何が何だかわからなくて泣いていた。

 ただ、怖かった。

 助けに来てくれた誰かがいると認識しても怖かった。

 勝てるわけがないから。

 

『俺か? 俺はゲンジ』

 

「ああ? 今いいところだから、後にしろ。そうしたら相手してやっからよ」

 

『それは出来ない相談だ』

 

「あ?」

 

『何せお前は、ここで死ぬのだから』

 

「……あんまり舐めたこと言ってっとお前から犯すぞ」

 

『……貴様、同性愛者……というよりは、いわゆるバイセクシュアルなのか?』

 

「はあ? 男なんざ興味ねえよ。女しか──お前、もしかして男か?」

 

『そうだが」

 

「…………ぶっ」

 

『ぶっ?』

 

「ぶはははは!」

 

『?』

 

「お、男が俺様に! いひひひひ! 男如きが! はははははは!」

 

『……ううむ、やはりそういう常識なのか』

 

「こいつぁ傑作だ! 決めた! お前は瞼を千切って、この二人が犯されるところを見させてやる!」

 

『ほう』

 

「……おいおい、マジで勝てると思ってんのか? 舐められてんなあ俺」

 

『それはそっくりそのまま返したいんだが……あ、いやそうか……なんでもない』

 

「はあ?」

 

『すまんな、癖が抜けなくて』

 

「何言ってっかわかんねえよ」

 

『分からなくてもいい、そのまま死ね』

 

「…………しっ!」

 

 俺の目では追えない速度。

 ライカンはあっという間にゲンジの背後に通り抜けていた。

 絶望が胸を覆った。

 助けは無駄だった。

 よりイラついたあいつに、ひどく犯されるんだ。

 それだけが分かってしまって動けない俺の目の前で、無くした片腕の断面を押さえて崩れ落ちたのはライカンの方だった。

 

『スペック頼りか……』

 

「──がああああ!?」

 

 苦悶に満ちた声が響く。

 

『何故お前らは鍛錬をしない』

 

「てめっ……ナニモンだっ……!」

 

『ん? 自己紹介はしたような気が……』

 

「俺様の腕をっ! お、男が落とすなんて有り得──ぐあああああ!」

 

 今度は左足が落とされた。

 

『ふむ、視認速度の限界は理解した』

 

「そうか……!」

 

『?』

 

「てめえ! 本当は女だな! 騙し討ちしやがって!」

 

『……性別を間違われるというのは不快だな』

 

「クソがっ! 全力ならてめえなん──」

 

 強敵の首を落としたにも関わらず、ため息をついた。

 

『スッキリしないやつだ。見た目通りの豪胆な性格かと思えば、弱者に対して強いだけか……リリエル、彼女の保護を』

 

「は、はいっ!」

 

 俺は、ゲンジとリリエルに助けられた。治癒魔法をかけられて、それだけ。

 

『気をつけろよ』

 

「じゃあね!」

 

 リリエルは、メイガスなのに男なんかに従っていた。

 それが気に食わなくて2人の後を尾けた。

 夜、2人は焚き火を囲んでいた。

 

「あの……ゲンジさん……」

 

『む?』

 

「これ、食べます?」

 

『あとでいただこう。君は先に寝なさい』

 

「あう……」

 

 どうやら、リリエルもお面の下は見たことがないらしく、どうにかして見ようとしていた。勿論、そんな意図は見透かされていて全く相手にされてなかったけど。

 リリエルがシュンとした顔でテントの中に入り、ようやくお面を外すと思った俺はジーッと見ていた。その正体を突き止めてやろうと。

 だけど、瞬きをした瞬間には消えていた。

 

「!?」

 

『何が目的だ?』

 

「わ──」

 

『しっ……寝ている子を起こすな』

 

 背後に現れたゲンジ。

 驚きで叫ぼうとした俺の口を塞いだ。

 

「…………」

 

『何故ついてきた?』

 

「…………怪しいから」

 

『君の行動の方がよほど怪しいが』

 

「…………」

 

『ともかく、君もメイガスならばこんなどうでもいいことにかかずらわっていないで、アンチドートを倒してこい』

 

「命令すんな!」

 

『では、何も言わない』

 

 ゲンジはそれっきり、背を向けると黙々と火の番をしていた。俺も、こいつが寝たら顔を見てやると思っていたらいつの間にか寝ていた。

 

「──」

 

「…………う」

 

「──て」

 

「……せぇ……」

 

「起きて!」

 

「────ハッ!?」

 

「…………目、覚めた?」

 

 起きると、リリエルはすでにテントを片付けていた。

 俺は寝袋に包まれていて、どうやらそれだけを片付ければよかったようだ。

 

「これ……」

 

「ゲンジさんがやってくれたの」

 

「…………」

 

「さっ、起きて?」

 

「あ、おう……」

 

 身支度を済ませると、またゲンジと顔を合わせた。

 だけどゲンジは特に反応らしい反応は見せずにリリエルへ話しかけた。

 

『リリエル、行くぞ』

 

「はいっ!」

 

『……ではな』

 

 俺は──ついていった。

 この鎧の下を絶対に見てやると思って。

 

『ウリエルとやら、時間の無駄だぞ』

 

『何故そこまで性別にこだわる?』

 

『メイガスの本分を忘れたか?』

 

『民を守り、安寧を守ることこそ──』

 

『リリエル、君は違うが……メイガスとは何故こんなにも気性が……』

 

『──む』

 

「?」

 

 着いてこないように必死に説得しているようにしか思えなくて、絶対に着いていこうと逆に意思を固めたタイミング。

 ゲンジが妙な仕草をみせた。

 

『リリエル』

 

「はい!」

 

 リリエルの腕を引くと、お姫様抱っこをしたんだ。

 

「な、なにしてんだ……?」

 

『君は帰れ』

 

「はあ!? …………あ、ちょっ」

 

 文句を言おうとした途端、50mくらい離された。

 呆気に取られているうちにみるみる距離は空いていく。浮遊魔法と加速魔法を使って、ゲンジたちを追いかけた。

 

「くそっ、全然見えねえ……魔力の残滓もねえし!」

 

 イライラしながら吠えた。

 メイガスであれば、魔力の残滓が道となって場所を教えてくれるはずだった。なにせあんな速度だ、魔法を使っているのは明らかだった。

 それなのに、何も無い。

 

 代わりに見えたのは──

 

「煙…………はっ!?」

 

 それは、火事を知らせるもの。

 煙には魔力が混じって見えた。

 急いでその方向へ向かった。

 

「あれは……ファイアースワロー!?」

 

 空から、火のアンチドートが大挙して村を襲っていた。

 そして何者かがそれに攻撃を行っている。

 俺も急いだ。

 

「──マジカルフィスト!」

 

 ピンクの拳が空へ突き抜ける。

 スワローが1匹、弾け飛んだ。

 

「はぁ……はぁ……ま、魔力が……はぁ……」

 

『厳しいか?』

 

「まだ……まだいけます! …………ウォーターボール!」

 

 水玉が一つ、スワロー数匹と相殺しあった。

 これで、スワローは残り10体。

 最初は大軍だったので、だいぶ減らしたのだろう。ただ、たったの10匹でも人間には対抗できない。

 

「あう……」

 

 しかし限界。

 その場に崩れ落ちた。

 

『全く……限界を超えて戦うなど……』

 

 優しい声だった。

 飛び上がり、無造作に振るった剣で残りを粉微塵にした。

 

「……魔法じゃ…………ない……?」

 

 その攻撃には、一切の魔力が感じられなかった。本当に、ただのカタナのみでアンチドートをあいつは倒したんだ。

 倒れたリリエルの元に行くと、ゲンジが話しかけてきた。

 

『お前は何をしている?』

 

 それは、少しだけ厳しい声音だった。

 

『暇なのか?』

 

「ち、ちげえよ!」

 

『では、お前は何のために力を手に入れた』

 

「な、何のためって……」

 

『俺の正体を突き止めるためか?』

 

「…………今だけだ!」

 

『なにがだ』

 

「お前がアンチワールドじゃ無いって証拠を見つけるまでだ!」

 

『だから、何がだ』

 

「お前たちに着いていくのがだよ!」

 

『はぁ……』

 

 ゲンジは頭を振ると、リリエルを抱えて宿を取った。

 寝かせたリリエルの横に椅子を持ってきて座り、凝視する。

 

「何してんだ?」

 

『安全の確保だ』

 

「……あんた、いつ寝てるんだ?」

 

『時間のある時にだよ』

 

「だからいつだよ」

 

『…………』

 

 会話をする気は無かったのか、放置された。

 

「──着いてきたい?」

 

「きたいじゃなくて、着いていく、な」

 

「なんで?」

 

「こいつが怪しいからだろうが!」

 

「…………?」

 

「はあ?」

 

「私は怪しいとは思わないよ?」

 

「おまっ」

 

「なんで助けてくれた人を疑うの?」

 

 信じられないほどのバカだった。

 助けられたからなんだ。

 一度は助けられても、次は裏切るかもしれない。

 そうやって信じたメイガスはみんな、男に騙されて酷いことをされたんだ。

 俺たちは世界を守るために戦ってるけど、世界は、俺たちを守ってはくれないんだって。なんでそれが分からないんだ。

 

「あなたもきっと分かるよ」

 

「なにが」

 

「一緒に来るならきっと分かる」

 

「だから何が分かるんだよ!」

 

 イライラした。

 何も曇りがない瞳で、あの不審者を信じている。

 裏切られたことがないからそんなことが言えるんだ。

 姉ちゃんも、母さんも、みんなそうやって苦しんだ。今だって苦しんでる奴がいる。

 それでも俺たちは戦わないといけない。

 誰かに寄りかかって、楽しくくっちゃべっている余裕なんてないんだ。

 なのに……なんでそんなに信じられるのかが俺には分からなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。