忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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11_生に名誉を、死にー光を

 

 気付いたら暗闇の中。

 ガガガと何かを削るような音が聞こえる。

 自分が今どこにいるのかがわからない。

 身動きも取れない中で、痛む身体。出血もしているかもしれない。

 動かぬ体を無理やり動かし、何とか懐にあったものを掴んだ。

 

「うぁっ」

 

 身体が自由になった途端に轟音が鳴る。周囲に薄い水色のバリアが球状に発生し、瓦礫を押し退けたのだ。

 それはクナイ。

 天忍に支給されたものではなく、ゲンジから預けられていた大事なものだった。

 

「なにが……」

 

 気付いたら瓦礫の中だった。

 どれほどの時間が経ったのか。ヒサメやサキは無事なのか。響く音の出所に目を向ける。

 

「──!?」

 

 鉄と鉄がぶつかる音。誰かが戦っているのはわかっていた。しかし、その誰かというのが信じられなかった。

 

「サキ!? ヒサメ!?」

 

 2人が戦っている。

 近接戦で。

 天具は強靭な耐久力を誇る。

 故に、多少叩いた程度では凹みもしない。

 だが、今2人は天具同士をぶつけ合っている。

 より正確には、ヒサメの猛攻をサキが凌いでいるといった様子だ。

 

「2人とも、何してるでし……!」

 

 神刀マサムネ。

 天弓ハーケン。

 同期の中では上位に位置する天具を保有する2人が何故牙を交えるのか。

 ギアーズを握り、とにかく2人の元へ行くと様子が分かった。

 

「ヒサメ! やめろ!」

 

「…………」

 

「くそっ……ミク、無事だったか!」

 

「…………」

 

「うわあ!?」

 

 仲間の無事に喜ぶのも束の間、間合いを詰められる。振り抜かれたマサムネの刀身からは黒い炎が迸り、掠めたサキの忍装を削り取る。

 ヒサメが住んでいたマンションは半ば崩壊していた。

 あちこちから聞こえる苦悶に満ちた声。

 瓦礫の下からすらも。

 

「や、やめるでし……2人とも……」

 

 半ば放心した状態で、それでも制止の声をかける。

 ヒサメはいつもと違い、黒く染まった忍装に身を包んでいた。しかも結界すら無い。週に人が集まり、噂している様子が聞こえてくる。

 あまりにも突然で、サキにも結界を発動するだけの余裕はなかった。

 しかも、今から結界を張ったところで瓦礫の下にいる住民達は巻き込まれたままだ。

 

「ど、どうすれば……」

 

 呆然と見上げるミクの腕からは少なくない出血が。

 2人を止められるような状態じゃない。すぐにでも手当てをするべきだ。

 だが、サキが押されている。

 明らかに様子のおかしいヒサメを止めるためには、近接での攻撃が不可欠だ。

 単純な戦闘能力や才能で見ればサキの方が上でも、主兵装が弓のサキが距離を詰められてしまうと攻撃の手札が限られる。

 そこを補うのがヒサメであり、ミクの筈だが──

 

「──がっ!?」

 

 刀が腹を貫いた。

 弓使いの少女のハラを焼けつく痛みが襲い、身体が硬直する。

 

「っ……」

 

 引き抜かれたマサムネ(白刃)。

 血が溢れ、忍装を汚していく。

 

「サキ!」

 

 ゆっくりと見上げたサキの首へ向けて今一度、介錯の一筋が放たれた。

 

「っ…………?」

 

 しかし、手を伸ばしたミクが目にしたのは仲間の首が飛ぶ瞬間ではない。

 

「ヒサメちゃんがサキちゃんを襲ってるって……どういう状況?」

 

「あ──」

 

「サキちゃん、大丈夫?」

 

 間延びした声。

 やや小憎らしさを覚えるが、一方でとても頼もしい声だった。

 

「せん……ぱい……」

 

「やっほ」

 

 ギチギチと鳴る、不快な音。

 鉄糸がマサムネの柄部分に絡みついている。

 光を失った目でマサムネを握るヒサメと、どちらが主導権を握るか競り合っていた。

 

「──ん」

 

 鉄糸に力を込め、より強く縛り付ける。

 指先に込められた力は糸を使って何倍にも増幅され、魔物すら動かせなくなるほどのパワーが発揮される。

 

「かなり強いねっ、リッカ!」

 

「おーほっほ! では、力では振り解けない力というものを見せて差し上げましょう!」

 

 魔力による強化ということを勘案しても、異様な力強さ。何かがおかしい──瞳が虚になっていることも含め、総合的には操られている可能性が高いと判断した。

 

「ヒサメっ!」

 

「あれは……何があったの?」

 

「わかんないでし! 古の主がヒサメの同級生だったって分かって……それで…………わかんないでし……」

 

「…………ミク様、大丈夫ですわ」

 

 泣きそうな後輩の頭を撫でると、リッカは武器を構えた。

 

「それがどなたかまでは分かりませんが……きっと、どなたかに操られているのですね」

 

 卑劣な輩の所業だとリッカはインカムに手を当てた。

 

「司令!」

 

『なんだ』

 

「ヒサメ様が敵の手によって操られております!」

 

『!』

 

「敵は目視不可! そちらのレーダーに何か写っているものはございませんか!」

 

『…………高校だ! だがゲンジがそこにいるらしい!』

 

「っ……」

 

『なんとしても止めろ……!』

 

「今はハク様が鉄火線により捕縛しておりますが──」

 

 破壊音。

 何かがリッカの前を通りすぎ、家に突っ込んだのだ。

 

「──ハク様!」

 

「こんの〜! 誰だか知らないけど、ヒサメちゃんの身体を、限界を超えて使おうとしてる!」

 

「!」

 

『…………ゲンジは何故高校などに』

 

 こういう時は大抵あの男が出張っているものだが、何故こんな肝心なときにいないのか。

 

『ゲンジ……』

 

「ヒサメちゃんやめて! それ以上は、身体が……っ!」

 

 

 ──────

 

 

 夕焼けの校舎。

 部活の時間すら終わり、誰もいないはずの屋上に一つだけ伸びる影があった。

 影は頭に片手をやり、狂ったように笑い声を響かせる。

 

「はは……あはは…………あははははは!」

 

 何がおかしくてそんなに笑うのか。

 

「あは! あはは! 俺はやった! やってやった!」

 

 誰がいるわけでもなく、それなのに自慢げにそんなことを言う。

 

「忍者とか最初は信じてなかったけど、本当だった! あの屋上の話……それに、あの謎の黒い膜! 本当に忍者はいたんだ!」

 

 震えすら混じった声。

 少年が極限の興奮状態であることを指し示していた。

 

「すげえ! すげえよ……すげえ! ──」

 

 拳を握りしめ、口元を歪める。

 

「俺(・)っ(・)て(・)す(・)げ(・)え(・)!」

 

 片目を抑える。

 

「……戦ってるな! 宵闇と穂高!」

 

 悪辣で下劣な笑みだった。

 

「やれ! 志村!」

 

 彼女達が仲間であることを知って、その上で手をかけさせていた。少年は、仲間同士が戦う光景を見ることこそが至上の愉悦であると理解していた。

 

「……きひっ」

 

 意中の志村氷雨は完全に掌中にあり、どう動かすも彼次第だった。そうなれば、する事など一つだけ。

 邪魔者達を蹴散らさせたら、自分の部屋に呼びつけるだけだった。以前は道すがらで襲おうとして謎のサイボーグに邪魔されたが、今度こそ。

 

『──そうか』

 

 それは悲しみであり、憐憫であり、そして理解だった。

 眼前にいる存在が古の主の力を受け継いだ──あるいは同種の力を振るっていた張本人であるとしたならば、自分はどれほど滑稽なことをしていたのか。

 

『青木修栄』

 

「俺の名前を知ってるたあな……いつもいつも散々邪魔してくれやがって」

 

 高校の屋上で、燃える街並みを背景に2人は邂逅した。

 

『今ならばまだ引き返せる。人的被害も出ていない……とは言わないが、まだ償える』

 

「ああ? なーに言ってやがんだ?」

 

 大きく見開かれた瞳。どう考えても正気の人間のそれではない。強大な力を得た人間がどうなるか、よくよくわかるサンプルとして教科書に載せることができるような反応だった。

 

「この力があるのに、何で引き返す必要があんだよ」

 

『……それは、人が持つには大きすぎる力だ』

 

「そうかよ! じゃあお前のその力もそうだよな!」

 

『そうだ、だからこそ力の振るい方をわきまえるのだ』

 

「はっ! 何言ってんだ! 弁えるのはてめえだけだよ!」

 

『いいや……それではやがて魂が腐っていくだけなのだ。強いだけでは何も為せない、たどり着くところは無間の闇の中だ』

 

 何故、そんなにも強く拳を握りしめるのか。

 何故、悔しそうなのか。

 彼の仲間《栄光の監視者》ならば理解できたのだろうか。

 

 ここにいるのは、ただ力を得ただけの若造だった。

 それを振るい切る前に──誰かを傷つけて、取り返しのつかないことになる前にどうにかしなければならなかった。

 

『志村氷雨を解放するんだ』

 

「はぁ? なんであいつを逃さなきゃならねえんだよ。この後はゆっくりさあ、俺の家でゆっくり……ぎゃはっ」

 

『青木修栄っ!』

 

「うるっせえな……そもそもどこの誰なんだてめえはよ! コスプレイヤーか! ──いや、そうかてめえ、あの忍者どもの仲間か!」

 

 そんな、少し考えればわかることすらも気付かないほどに──男は強く言葉をかけた。

 

『まだ引き返せる! その力をイタズラに使うな!』

 

「──はは……いや、そうか。お前もお仲間だな? いっぱい使っていい事したんだろ? なあ、誰に使ったんだ? 友達か? 子供か? 通りがかり? 凄えよな、こんな力貰えるなんてさ! ──俺たちは選ばれた人類なんだよ。このクソみたいな世の中で俺たちだけが好き放題やれるんだ!」

 

『違う! 大いなる力を得たものには大いなる責任が伴うのだ! その力を振るわないならばいざ知らず、世を乱すために使用するなど!』

 

「きんもちわりいなあ……そういうのなんてーか知ってるか? 気持ち悪い、だよ」

 

『……くっ!』

 

 同じだ。

 何もなかった自分と同じ、空虚で冷めた人間がそこにいた。人と出会い、信を得て、積み上げてこその力なのに、過程を無視して得た力に酔っていた。

 己が師匠たちと出会わなかったらどうなっていたか、幾度も考えた彼にとっては決して退くことのできない相手だ。

 

「でもまあ、てめえはもう黙ってろや!」

 

 掌を唐突にゲンジに向けると、紫色の波導が広がり身体を包み込む。

 

『これは……幻惑か、あるいは洗脳の類……!』

 

「……え?」

 

『貴様……このような外道な力を志村氷雨に──誰よりも民を思う彼女に向けるなど……恥を知れっ!!』

 

「──うわあああああああっ!!?」

 

 怒りにより溢れ出た龍気。

 許せぬ気持ちは誰が為。

 振り上げられた拳はもはや、止まる気が微塵も感じられなかった。

 

『歯を食いしばれ!』

 

「ま、まっ──ごぉあっ……!?」

 

 炸裂した拳は少年の鳩尾を強かに抉った。

 身体を浮き上がらせ、吹き飛ばすほどの威力。

 人間の肉体から出される出力を遥かに超えた一撃はしかし、少年の命には届かない。それを分かった上での一撃だった。

 

「な、なんでっ、俺の力がっ」

 

『──!』

 

 烈火。

 言葉だけでは足らぬと、一線を越えてはならぬと、教育の鉄槌だった。

 

『おおっ!』

 

「げぼぁぁ!?」

 

 衝撃波が発生するほどの一撃。

 しかし少年は肉体の形を保ち、内臓を損傷するにとどまった。

 

『──貴様っ、やはり妖怪を食ったな!』

 

「……げひっ」

 

『多くの人が紡いできたものがある……! 皆、命と引き換えに何かを成し遂げてきた──希望よ未来へ届けと、願いを託して散ってきた! そんな想いを踏み躙る行いだ!』

 

「そういうのはオタクの好きなやつだろお? 俺にゃあ関係ないよなあ」

 

『自らの痛みにはつながらないから関係ない……そうやってバカにするだけでは、苦しみを救うことはできないんだ……!』

 

「何言ってっかわかんねえよ!」

 

 少年が空に翳した手から、一気に波動が空へ。

 並々と注がれるそれを見てゲンジは目を見開いた。

 

『これほどの力を人が振るえるはずが……』

 

「げはっ……ぎゃははっ! ぎゃははははは!」

 

『正気を既に……!』

 

「あの人が教えてくれたんだ……この力があれば何でもできるって! だから、何でもするんだよ! 何でもできるんだよ! 俺の力があれば、なんでもお!」

 

『待て!』

 

 渦巻く空へ吸い込まれてゆく莫大な量の魔力。魔力においては劣等である男性が有している筈のない量が、少年の身体から発生していた。そして、少年も空高く──ゲンジの手の届かないところへ浮かび上がっていく。

 

「──間に合わなかった!」

 

 そこにやってきたのは、つい最近京の都からやってきた二人組(ミカゲとセツナ)。ミカゲは刀を構え、高い声で叫んだ。

 

「ゲンジさん! アイツを止めないと!」

 

『ミカゲ!』

 

 ゲンジの居宅にて一緒に生活する(2人を居候させる)ようになって、両者はだいぶ打ち解けていた。

 

「やっと分かったんだ! 古の主人の力は……二つあったんだ!」

 

『二つ? それはまさか……彼と宮本怜の2人か?』

 

「そう! 二つに分けられてた上に距離が近いから反応が小さかったんだ! でも……アイツが片方から奪った!」

 

『──あの人、と言っていたな』

 

 ゲンジは、他者に力を与える能力を持った超次元の存在に心当たりがあった。

 

『ヤツか?』

 

「……ヤツ? よく分かんないけど止めなきゃ!」

 

『そうだな……なんとも異様な光景だ』

 

 各地から集まってきたのだろうか。赤い目の妖怪達が空を埋め尽くしている。

 

「そうじゃない! 早くしないと大海の王が目覚めて倭の国が割れちゃう!」

 

『……大海の王とはなんだ?』

 

「古の主が最後に封印した大妖怪!」

 

『猶予は?』

 

「分かんないよ! 僕だって初めてなんだ!」

 

『……方策はあるのか?』

 

「ほうさ……え?」

 

『止める方法だ。殺すしかないのか?』

 

「違うよ! 殺すしかないどころか、殺しても意味ない! 解放したらもう、人の意思じゃ止まらないんだ!」

 

『では──』

 

「僕たちが鎮めなきゃ! あれを!」

 

 指差された先にあるのは渦巻く雲。

 魔力と呼ばれる不可思議な力が混じり、交わり、火花すら散らしていた。

 しかし、その前には夥しい数の妖怪が。

 

「僕たち2人は……そ、その為にやってきたんだ!」

 

「っ……!」

 

 ミカゲは薄く輝く刀を。

 セツナはお札を。

 未熟な身だとわかっていながらも2人はそれを掲げた。

 

『──信じよう』

 

 なればこそ、ゲンジは刀を引き抜いた。

 

『俺はどうすればいい』

 

「え?」

 

『俺は偽物だ。何かを成し遂げるための知識や力がない……だが、お前らの指示に従う程度のことならできるぞ』

 

「し、指示って……そんな、僕たちは……」

 

 2人から見てゲンジ(年上の男の子)はあまりにも大人で、口出しをするのが憚られた。

 

『……ミカゲ」

 

 途端に年頃の子供らしく縮こまったミカゲの頭へ、ポンと優しく手が置かれる。

 硬くて温もりのないサイバネティックハンドではない。人間の手だった。

 

「大丈夫だ」

 

「……」

 

「眼前の敵がどれだけ強大でも、その心意気があれば必ずや道は拓ける」

 

「僕は……できるのかな……」

 

 鞘に納められた刀を胸の前でぎゅっと抱きしめたミカゲの瞳は大きく揺れている。

 

 ──空に集まる尋常ならざる魔力を前にして、どれほどの力を過去から受け継いでいたとしても不安になるのは必然だった。

 

「手を開いて」

 

「……手?」

 

 優しく、見た目相応の青少年の声で語りかけた。

 ミカゲもそれに応え、手を開く。

 

「どんな手に見える?」

 

「……」

 

 自分の手を見た。

 タコが多くて、硬くて、柔らかさとは縁遠い手だった。

 

「っ…………」

 

「閉じるな」

 

 見られるのが恥ずかしくなって咄嗟に握ろうとした手を掴まれた。

 

「いっぱい頑張ったんだろ? 手が痛くなって、血が滲んでも剣を振ったんだろ?」

 

「……うん」

 

「なら、誇らなきゃだめだ。僕はこんなに凄いんだってみんなに見せつけてやらなきゃいけないんだ」

 

「…………」

 

 あんなに威勢よく出てきたのに、空を見上げるだけで心が挫けそうになる。あれをどうにかするというのは、台風に立ち向かうに等しい。核兵器すら凌ぐエネルギーを誇るモノと対峙するなど、自殺行為だ。

 

「セツナ、キミはどうだ? ミカゲにはできないと思うか?」

 

「…………できます! ミカゲちゃんなら、絶対にできます!」

 

「ミカゲ、ああ言ってるぞ──ふむ」

 

 ゲンジは再び鎧を纏った。

 それは、時間を稼ぐため。

 

『ここで奮い立たねば……戦士として名が折れるっ!』

 

 飛び込んできた妖怪を切り捨て、返す刀で魔弾を跳ね返す。

 

『はぁぁっ!』

 

 恐るべき軍勢は、本能だとでもいうように3人の元へ向かってきた。それを微塵に切り潰し続けながら喝を投げる。

 

『選べ! 世界を救うか、それともここで束の間の安寧の後に朽ち果てるか!』

 

「!」

 

『お前たち2人は本物だ! 彼らと同じく、世界を導くに値する勇を備えた真の英雄だ! だからこそ、ここは俺が問おう! 仮にも世界を救った経験者として!』

 

 あまりにもプレッシャーな語り種(かたりぐさ)だった。

 

『さあ! どうする主人公(ミカゲ)!』

 

「…………よ」

 

『宣言しろ! 誰がこの世界を定めるか!』

 

 そんな言葉を心臓で受け止めて、何も感じないわけがなかった。

 

「──やってやるよ! 僕がやってやる! 僕たちがやってやる!」

 

「私も! やります!」

 

『ぬうあっ! ──』

 

 今一度、ゲンジは飛ばされてきた魔弾を跳ね返した。

 風船のように破裂していく百鬼夜行から踵を返し、2人の眼前でスラリと立つ。

 

『良い目だ』

 

「空へ行きたいから援護して!」

 

「飛ぶのは私に任せてください!」

 

『承知した』

 

 龍が再び、竜胆の空に飛び立った。

 

 

 ──────

 

 

「お願い……お願いします……! 止まって……!」

 

「ぐぶ……」

 

 ミクは何もできなかった。

 

 仲間がここにいる。

 目の前で苦しんでいる。

 それなのに、手を握って泣き喚くしかできない。

 

「うあああ!お願い、止まって!」

 

 気絶して拘束されたヒサメの天具、神刀マサムネは反転していた。傷つけたものの傷が治るのを阻害するという、極めて悪意に満ちたチカラ。

 腹を刺されたサキは失血でドンドンと顔を青くしていくばかりで、反応も弱々しい。

 

「やだ! やだ! サキ!」

 

 ただの同期だった。

 同じ時期にたまたま訓練を言い渡されただけ。

 数多くいる天忍達の中で、配属場所が同じなだけ。

 死んだってちょっと悲しんで終わりだな、なんて思春期らしく気取って思ったりもした。それが、いつのまにか話すようになった。

 話すのが得意じゃない自分にも容赦なく話しかけてくると、決まって言葉のドッジボールが始まる。それが心地よかった。

 気を遣われないのが、一番楽だった。

 

「やだよぉ……」

 

 赤く綺麗な鮮血は吹き出すばかりで一向に止まらない。影達はもはや処置を諦めているのか、項垂れて少し離れている。

 

「サキ……やだ……お願い……」

 

「ミク様……」

 

「…………嫌だ……こんなの、嫌だ……!」

 

 天忍の誇る軟膏や薬はダメだった。

 輸血も間に合わない。

 それでも、何か手を探さなきゃいけない。

 

 諦めない。

 諦めたくない。

 諦めるわけにはいかない。

 ヒサメに重荷を背負わせたくない。

 こんなところでお別れなんてしたくない。

 

 ──私に何ができる? 

 

「っ……!」

 

 だから、まずはと浮かぶ最悪の想像を振り切って、悪魔の囁きを振り払って、自分にできる何かをするのだと決意を固めた時だった。

 

「あ、熱っ……!?」

 

 懐がとんでもなく熱くなった。

 慌てて取り出したのは──

 

「ゲンジさんの……?」

 

 強い明滅。

 何かを主張するように繰り返される光はやはり熱量だった。

 何もしていない。最近色々と研究はしているが、なぜこんな時に起動したのか全くわからない。先ほど瓦礫の下に閉じ込められた時のようにバリアを発動しようとしたわけでもなかった。

 

「っ……!」

 

 あまりの熱で取り落としたクナイ。

 カチリ、と音がした。

 

「うわっ!」

 

 一瞬にして展開された青い光。

 そして──

 

『ふむ………どうやら小僧は、託すに値する相手を見つけたようじゃな』

 

「!?」

 

 ミクは腰を抜かした。

 天忍が戦場で致命的な隙を晒すとは、と雲雀であれば怒るだろうか──否、彼女も度肝を抜かれていた。

 突然に全ての電子が掌握され、老人の顔が映し出されたのだから。

 

『ふむ……』

 

 それは決して悪意によって仕掛けられたものではなかった。ただ、仕込まれた技術の一端が意図せぬ形で天忍達の電子的防御を粉砕しただけだった。

 

『なるほどなるほど……』

 

 映し出された、大きな髭を蓄えた背の低い老人が頷く。

 指先を高速で動かした。

 

「あっ!」

 

 ホログラム──としか思えない空中の光の中から何かが飛び出し、倒れている少女の身体に吸い込まれた。

 

「サキ!?」

 

「──ぅ」

 

「サ、サキ!! …………血が……!?」

 

 何をされたのかと劈く声で駆け寄り、固まった。サキの傷が塞がり、出血が止まっていたから。失血までは補えないのか青い顔のままだが、それでもこれ以上の出血は免れる。すぐに処置をすれば助かる可能性は高いだろう。

 

「サキを運んで!」

 

「は、はいっ!」

 

 影達は迅速に動き出し、倒れたままのサキを搬送した。

 なにが何やらと立ち尽くしたミクは、老人から声をかけられた。

 

『お嬢ちゃん、あれはなんじゃい』

 

「──!」

 

『坊主がいるようじゃが……他のは細かくて見えんのお』

 

 それは、空を舞う龍だった。

 ぎっしりと空を埋めるナニカに立ち向かい、喰らい尽くし、中へと入ろうとしている。

 

『なんじゃ、戦ってるのはあやつだけか? なっさけないのお……後進の育成もまともにできなんだか?』

 

「…………あの、あなたは誰でし?」

 

『ワシか? そうじゃな…………うむ! ワシは人呼んで、ハイパー超絶技巧系メカニック! じゃ!』 

 

「もしかして……このクナイを作った人でし?」

 

『んひょお!? なんで知ってるのかの!?』

 

 ああ、やっぱりそうなんだ。

 

 ミクはすんなりと納得した。世界の何処にもそんなロボット達がいなくても、一緒に過ごした時間が──何より彼が自分に嘘をつくわけがなかった。

 

『な、なんでワシのこと知っとるの……?』

 

「たくさん聞きましたから」

 

『…………そうかい』

 

 優しい笑顔だった。

 

『あやつはどうじゃ? 上手いことやっとるか? ……いや、やっとるのじゃろうな。1人で遠いところに行くのは慣れてるやつじゃし』

 

「いつも助けられてます! ……でも、お爺さんもサキを助けてくれてありがとうございました! 本当に……本当にありがとうございます!」

 

『なんのなんの。しかしそうか……学んだことをしっかりと活かしていたか。あやつの師匠も喜ぶじゃろう』

 

「! ……あ、あの、ゲンジさんの師匠ってどんな人なんでし?」

 

『????』

 

「偉大な師匠だっていう話は聞いてるんだけど……なんかフワッとしてるっていうか……詳しく聞いてみたいんでし!」

 

『どういうことなんじゃ……』

 

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