忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
「ああ……」
女がいた。
その美貌を余すことなく曝け出し、ただ1人、祈りを捧げている。
恍惚とした表情はまるで、彼女が何か大きなものに対して魂を捧げているようだ。
「美しい……」
歓喜に打ち震える彼女の目の前に広がるのはしかし暗闇だった。
美しいと評したナニカを見つめ、両手で触れようとして、そしてまなじりを吊り上げる。
「私の英雄さま、私の守護者さま、私のゲンジさま、私の私の私の私のあああああ邪魔をするな! この女郎が! 女狐が! 薄汚い猿が私のものに触れるな!」
悍ましく醜い気が撒き散らされ、反応するように周囲で何かが蠢く。
髪を振り乱す女の後ろに、また別の気配が現れた。
「くだらない」
暗がりから月光の元に身を晒したのは、燕尾服を着た少年だ。
すれ違えば振り返らずにはいられない美貌。
あり得ざる容姿の2人が揃いながら、少年は明確に女へ嫌悪感──拒絶感を示した。
「陛下が見ればなんとおっしゃるか」
「──」
ぴたりと動きを止めた女は、首を回して少年を睨みつけた。
「あんな
「黙れ」
「完成されたお前の方が、アレに触れることの恐ろしさは理解しているはずだ」
「黙れ! 未熟者めが!」
少年は自らの身を包む燕尾服を脱ぎ捨てた。
一糸纏わぬ少年の玉のような肌と均整は、完全であれば目にしたものを男でも女でも魅了しただろう。
だが、その身には瑕疵があった。
刻まれた傷跡が、完全を不完全に落としていた。
「竜神──奴はそう呼んだ」
傷跡をそっとなぞりながら、独り言のように呟く。
「そんなわけはない。なにせ……竜神は僕たちが滅ぼしたんだから」
「…………貴方はいませんでしたわ」
「それでも事実だ。事実で、真実だ。人の歴史から消し去るために僕たちは成し遂げた」
瞳を爛々と、唇を歪めて嬉しそうに語る。
自らはいなかったにも関わらず、過去に達成せしめられた偉業を自らのことのように誇っていた。
だが、それも一瞬のこと。
一気につまらない表情に変わり、一際大きく残された傷を強く握った。
「あれは……竜神だった」
「無視した貴方の落ち度です」
「…………」
強く。
強く。
皮膚が裂け、肉が千切れ、血が溢れて床に伝ってもまだ握り締め続ける。
やがてピンク色の破片と化したカラダの一部を地面に投げ捨てると、女へ嘲りの表情を見せた。
「アイツをずっと見ておきながら気付かなかったお前が、それを言うんだ?」
「…………あの方が龍の力を私の前で使ったのは、アレが初めてですわ」
「竜神と対峙したくせに! 倒したくせに! 食べたくせに!? ──それでも気付けないか! アハハッ! じゃあ仕方ないねえ! アハハハハ!」
「黙れっ!」
その声の怒りに同意するように、空間が赤く鳴動する。
彼女の後ろから暗闇を割って出てきたのは、剥き身の肉に薄皮をかぶせたような触手だった。
それが彼女の身体を愛おしそうに柔らかく撫でる。
対して、少年には鋭く尖った穂先を向け、いつでも突き貫けるようにしていた。
鋭敏な殺意が空間を満たし、常人であれば失神することすら許されないような重圧がかかる。
「ふう……」
少年はそれを、微風のように受け止めた。
「怖くないよ、
「アスタリク……序列を忘れたわけじゃないですね?」
「序列? 序列だって? 竜神さえ倒せば意味が無くなるものにこだわるっていうのかい?」
「できるわけもない事を……」
「クロエ、君はそう思うんだね」
「なに?」
「まあ、良いんじゃないか? 愛しの王子様が自分を迎えにくる
アスタリスクは踵を返した。
「じゃあ、僕はいくよ」
どこに?
「アンチワールド共とやり合うのも面倒だ。僕は……新しい道を目指す」
──────
空はどこまでも青く、エメラルドの美しい海の彼方には入道雲が見えている。
夏の日差しが痛いほど照りつける中なのに、目の前にいる人は太陽よりも明るく笑っていた。
「良くぞまいられた! 地上の人!」
「ええと……参りました」
「ははは! そう固くなるな! ……それにしても美人揃い! 地上は凄まじい場所だな!」
「あはは……」
なんでこんなことしてるんだろう──というのはもちろん分かってる。
分かってるけど……あの人のことを思うと、こんな事をしている場合じゃないのにと思わずにはいられなかった。
──────
目覚めたとき、私は牢屋にいた。
冷たいコンクリート製の床だ。
「私は……あぁぁぁ……」
私はバカだった。
天忍のくせに普通の人間と同じように過ごすのが凄く楽しいなんて……そんなの許されるわけがなかったのに。
「サキ……!」
あの時の感触が忘れられなかった。
内側に閉じ込められてるのに身体の感覚だけはあって…………私は……私がサキを刺した。
この手で。
神剣で。
「おえっ」
みんな、どうなったのかな。
これからどうなるのかな。
いつもみたいにゲンジさんがなんとかしてくれるのかな。
……それで良いのかな。
でも仕方ないじゃん、私たちはまだ弱いんだから。
出来ないことを出来るとは言えないし……ちょっとゲンジさんがいなくなっただけでこれだし。
私、どうなるんだろう。
もう、みんなと一緒には戦えないのかな。
サキには謝らなきゃいけないし、ミクにだって会いたいのに。
ハクさんやリッカさんにありがとうって言わなきゃいけないのに。
リンドウじゃない、どこか別の街に行かされるのかな。
いろんな街が壊滅状態で、天忍のいない街も沢山ある筈だ。
そこに1人で行って、大変な人たちを助ける。
誰かがやらなきゃいけないことだ。
大切なことのはずだ。
それなのに……
「イヤだ……イヤだよ……」
心に浮かぶのは拒否の気持ちだけだった。
なんでだろう。
どんな任務だって引き受けるって覚悟で修行をしてきたはずなのに。
「ごめんなさい……レイ……みんな……」
「──どうやら参っているようだな」
牢屋を見にきたのは潮目司令だった。
その手に握られた鍵によって開け放たれた扉から、ツカツカと歩み寄ってくる。
「出ろ」
「…………」
「ここにお前を閉じ込めたのは暴れないか確証がなかったからであって、メソメソと引き籠らせるためではない」
「私……」
「…………志村」
ヒバリさんがしゃがみ込んで顔を覗き込んでくる。
それを直視できなくて、床を見た。
冷たくて硬い、全てを拒絶するような感触の床がある。
そんな私の頭に、暖かくて柔らかい感触がふれた。
「大丈夫」
理解できない一言だった。
「宵闇は無事だ。お前の友達も、志村もな」
「!」
顔を上げると、ヒバリさんは微笑んでいる。
「さあ、立て。動ける奴にはどんどん働いてもらうからな」
「また操られたら……」
「その時は、またアイツらに止めさせる。お前程度、抑えられないわけがないだろう?」
「…………そんな弱くないもん」
──────
「いーやーでーす!」
「うるさい! 良いから来るんだ!」
「いーやーだ!」
ヒバリさんは力が強かった。
運動してないくせに、私より力が強かった。
「運動してるわ! お前ふざけんなよ!?」
「知りません! とにかく行きません!」
こんなすぐにお見舞いなんて、気まずすぎて行けるわけないに決まってるのに! この人、私を騙して治療所に引っ張ってきたんだ!
「あっ! 明日! 明日行きます! 今日は見回りしてきます!」
「空見ろ! 満天の星空だ! 月の魔力がこれだけ降り注いでて魔物が活動するわけないだろ!」
「行かないぃ〜!」
こうして無理やり病室の前に連れてこられた。
絶対に見逃さないつもりなのかジーッと私のことを見ている。
仕方ないから扉に向き直って……
「し、失礼……します……」
「──」
「あ……」
サキがベッドに横たわっていた。
落ち着いている状態みたいで、静かな寝息を立てている。
──いつの間にか、間近にまで近付いてサキの額に触れていた。
「サキ……よかった……」
私みたいな未熟なリーダーを支えてくれる、頼れる仲間。
いつも迷惑かけてばかりなのに、やれやれって顔をしながら助けてくれる。
今日も迷惑をかけてしまった。
「ごめんね、サキ……ごめん……」
ごめんね。
私がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかったのに。
──手を取られた。
「寝てる……ってのに……やかましい……やつ、だな……」
「サキ!!」
「うっ……い、いきなり抱きつくな……まだ痛えんだよ……」
「サキ! サキ! ああ、良かった……良かった……!」
「……よしよし」
安堵して取り乱して、みっともないところを見せた。
ヒバリさん呼んでくれたのかミクもやってきて…………ミクとサキに、改めてちゃんと謝った。
そしたら──
「ヒサメが謝ることなんかないでし」
「そうだぞ」
2人は私が悪くないって言い張る。
そんなわけない。
あの時、心にできた大きな隙を狙ってダレカは私を操った。
2人じゃなくて私をだ。
だから、私が悪いんだ。
「いや、お前の心が弱いのは今に限ったことじゃないし」
「そうでし」
「それをフォローすんのが私たちの役目だろ」
「でし」
2人のほっぺたを引っ張った私は悪くない。
リーダーを貶した訳だしね、うん。
一応サキには優しめにしておいた。
だけど……あの状況からどうやってサキが助かったのかわからない。
心の内に閉じ込められながら感じたのは、神剣が反転したこと。
人を傷つけ、傷の回復を阻害する力になり変わっていた。
何か、それを上回るような力を誰かが?
「実は──」
ミクが答えてくれた。
「オ、オオオーバーウォッチが助けてくれたってどういうこと!?」
「私も驚いたぞ。いきなりシステムを完全に掌握されたのだからな」
ゲンジさんが、自らを優に上回る超人で構成されていると言って憚らないオーバーウォッチ。
ペトラス法という聞いたことのない法律。
天忍の技術班でも理解の及ばない技術の出所。
忍者よりも余程隠密性の高い組織と思しきオーバーウォッチが、私たちの前に姿を現した。
そのうちの2人目を、私とサキ以外のみんなが見たらしい。
具体的には、おじいさんが現れてヒュンッて助けてくれたらしい。
本当にオーバーウォッチがいたって事に驚いた。
今はいないって言っていたゲンジさんの言葉を覆した事にも。
だけど、もっと驚いたのはミクがゲンジさんからクナイを貰っていたこと。しかも私たちにも一回もそんな話してない。
「だ、だって私が貰ったものだし……」
「言うだけならできるのに?」
「…………ゲンジさんの技術はトップシークレットでし! 仲間とはいえ、おいそれと漏らせないでし! そもそもヒサメは口が超超超超軽いじゃん! 前だって、あのなんとかって子にバレそうになってたし!」
「それとこれとは別、じゃない?」
助けてくれた人は『まだ短時間しか繋げないんじゃもんて』とか言って通信を切ってしまったらしい。
通信はよくわからないけど、ゲンジさんはどこだろう。
「ゲンジは……」
ヒバリさんの言い淀む姿に思わず体が固まる。
サキと視線がぶつかった
すごく、イヤな予感がした。
「眠っている」
「それは……その……」
「敵は倒した。だが……どうやら、ミカゲとセツナを助けるために1人だけ精神世界に残ったらしい」
「精神世界?」
呼び出した2人から話を聞いた。
ミカゲさんが持っている刀の真の力を解放したら、その中にミカゲさんとセツナさんが取り込まれて、そこにゲンジさんも巻き込まれたって。
そこで色々あって、ゲンジさんが残らないと2人が出てこれないからって無理やり2人は追い出されたらしい。
「……」
難しい顔をしている。
戦力ダウンを気にしているのか、それともまた別の気の事を気にしているのか。
──────
ゲンジさんは、サキとは違う病室に寝ていた。
アーマーは着ていない。
最初は着たままだったらしいけど、例のおじいさんが何かしたら消えたって。
「ゲンジさん……」
その手を握る。
固くてゴツゴツした手だ。
私だってそこそこ鍛えてはいるけど、こんな感触じゃない。
いつも学校で見る島田くんの顔そのままだった。
閉じ込められているとは思えない穏やかな顔。
大きく違うのは、あのイビキが聞こえないこと。
「こいつが目覚めるまでは、厳しい戦いが増えるやもしれんな」
精神世界から救出する方法はないのかな。
ミカゲさんに聞こうとした私よりも早く寄ってきたのは、メイガスのあの子だった。
いつのまにか、話を聞きつけていたらしい。
「ゲンジさんを助ける方法を教えてください」
「わかんないよ……そんなの僕だって……」
「それなら、刀を貸してください」
「なっ……だ、ダメだ! これは大事な……」
「…………」
「大事な……」
──ピンク色の髪が地面について広がった。
「お願いします」
「え……」
「あの人を返してください」
「あ──ち、ちが……」
「私から……もう……あの人を奪わないでくださいっ……」
心からの言葉だった。
張り裂けそうな心を必死に抑えている女の子がそこにいた。
ミカゲさんは、そんな人の願いを無碍にできる性格じゃない。
「分かった」
「!」
「本当は僕たちだけで方法を探すつもりだったけど……手伝ってもらえるかな?」
「うん!」
3人は行ってしまった。
部屋に残されたのは私たち天忍と、そしてゲンジさんだけ。
出来ることは何もなかった。
そして……一気に疲れがやってきて、目が回り始めた。
「お前はもう休め。今日は疲れただろう」
その言葉に従って家に帰る。
何かを思うよりも先にシャワーを浴びてベッドに身体を預けると、途端に意識が遠のいていった。
──────
「ヒサメ! おーはよっ!」
「レイ、おはよう」
次の日からは、またいつも通りに高校へ通うことになった。
人知れず人類の守護戦力が大幅ダウンしたにも関わらず、世界は相変わらず普通に続いていた。
犯罪率が急上昇して人間の中から魔物が現れるようになっても、高校生はそんなことに気付かず続いていくんだ。
みんなが気付くのは、クラスに2つの空席が出来たことだけ。
「ようヒサメ」
「よ、ようユリちゃん」
「ははっ、慣れてねーな」
「うん」
ユリちゃんは、ゲンジさんがいなくなったのに意外と普通に過ごしていた。
私がいたとかはリリちゃんしか来てなかったけど……まだお見舞いには行ってないのかな。
「ああ? 他のやつがいたらめんどくせえだろ。1人で行くんだよ1人で」
「ふぅーん」
「なんだよ」
「ひひっ、なんでもない」
「なんだよ!」
「レイがなんか言ってたなーって」
「……!?」
ユリちゃんは『ばっ! おまっ! ちょっ!』とか言って慌てふためいている。
こんな可愛い子に好かれてるゲンジさんはすごい幸せだと思う。
だけどユリちゃんは無理している。
「はあ…………」
ふとした時、窓の外を眺めては溜息を吐き出す姿を見て分からないわけがない。
ユリちゃんに限った話じゃなかった。
同じく昔馴染みだというアズちゃん、リリちゃん、サキちゃんの3人も同じように鬱々としていた。
…………サキちゃんだけ本名がサリエルなのに自称サキなんだよね、凄く間の悪いことに。
だからサキとサリエルちゃんが並んでる時はサリちゃんって呼んでる。
『じゃあはい、気をつけて帰るように──アイツらはえ〜な』
リリちゃん達は、学校が終わって早々に教室から飛び出した。
「お邪魔しまーす……」
ゲンジさんの家に行くと、ミカゲさんとセツナさんは既にいた。
既にっていうかずっといるらしいけど……この町で最初に気付いたのは私なのに、名前呼びされたことがほとんど無かったり家にも連れてきてもらってなかったりと蔑ろにされてる気がする。
初めてココに来たもん。
「…………?」
ちょっとだけ胸がムカムカした気がした。
それは兎も角、ゲンジさんを助ける方法をミカゲさん達が考えている。
今日、魔物の出現は確認されていないから手伝うことにした。
「くそっ、パスが複雑すぎる……古の主とかいうやつはどんだけ魔力を上手く使えたんだよ……!」
「ウリエル、集中して。探査が乱れ──っ! 下手すると引き摺り込まれる……!」
「やりゃいいんだろ! ゲンジの気配は確かにあるんだ!」
手伝うと言っても、リリちゃん達みたいにはいかない。
ミカゲさんの刀からは確かに力を感じるけど、それだけだ。
ゲンジさんの気配? とか脱出の糸口になるものは見つけられない。
だから、別方面で手伝うことにした。
「お砂糖お砂糖……」
家事は一応できる。
冷蔵庫を漁って、ミートソーススパゲッティとか作ることにした。
「──前は冷蔵庫すっからかんだったんだ。僕たちが食材を揃えたんだよ」
「なんなら食べる時間が勿体無いとか言って……好きに使って良いっていうから、今はもうキッチンは私たちの場所なんです!」
セツナさんとミカゲさんはゲンジさんと一緒に住んでいた。だから、人一倍に彼の不在を大きく感じるのかも知れない。
鼻息を鳴らして自慢げだったのは一瞬だけで、すぐに寂しそうな顔でみんなの方を見た。
「夜、2人になると思い出すんです……もういないんだって」
ミカゲさんは、見ているだけで寂しくなるような顔をした。
何か、励まさないといけないと背中を押されている気がした。
「大丈夫ですよ! みんなでやれば直ぐに元に戻せますから!」
「…………ありがとう。…………もっと頑張らなきゃな」
──────
「──新大陸の調査?」
「ああ……まさか我々にそんな任務を命じてくるとは……」
国を守るためにある天忍を資源探索のために使う。
それは、司令よりももっと上の人が拒むべきなんじゃ……
「嗅ぎ付けられたな」
「?」
「ゲンジが眠っていることだ。今なら稼ぎどきだと判断したのだろう」
「そ、そんなのおかしいですよ!」
「そうだな」
「…………ごめんなさい」
「……」
屋上に3人で集まった。
サキとミクも同じ話をやっぱりされていたらしい。
「…………」
「お、おい……アイツなんか不機嫌すぎないか?」
ミクが一番怒っていた。
サキもちょっと引くほどだ。
こんな怒っているミクは、修行の時に肉を横取りされた時くらいしか見たことがない。
ミクは本当に怒ると、むっつり黙り込んで何も言わなくなる。
「ま、街から私たちがいなくなったら誰が守るってんだよな! ……なあヒサメ!」
「え? あ、うん……」
言いたいことは色々あった。
だけど、私たちには命令を跳ね除ける実力なんかない。
結局やるしかないんだ。
だから……せめて、話だけはしておかないと。
「──そっか。ヒサメさん達は行くんだね」
「うん。それで一つ……二つ、お願いがあるんだ」
「分かってる」
「…………ありがとう」
もう、私たちにだって分かってる。
最初こそいがみ合ったりもしたけど、今じゃ一緒にカラオケやボウリングに行ったりする。
テストの点数を見せ合って、負けたらゲンジさん考案の修行なんてこともやったり。
「俺たちは何とかなるけどよ。お前ら魔力探知はどうなんだ? まだ練習途中だろ?」
「そこら辺は頑張るしかないかなあ」
メイガスのみんなから魔力探知のやり方を少しずつ教えてもらって練習しているんだけど、仕方ない。
それに向こうでも練習はできる。
「大丈夫なのか? なんか不安になってきたぜ!」
「私もちょっと不安だけどね……」
リリちゃんは兎も角、他の3人はゲンジさんの話によると危なっかしいところがあるらしいからね。
暴走しないかな。
特にユリちゃん。
「余計なお世話だ! ……あんな昔のこと言いやがって!」
「勝手にどっかにいっちゃう人の方がずっと不安」
「ゲンジさんは警戒心が強すぎるんですよねえ」
ここぞとばかりに反論してきたので、ますます不安になってくる。
…………ミカゲさんとセツナさんもいるし大丈夫かな?
──────
「こ、こんなおっきな船に乗るの、私初めてなんだけど……」
「私もだぜ」
「…………」
用意されたのは天忍とは関係ない──お国の軍の船だった。
メカメカしい見た目と内部で、私たちが使うような木製の隠密船とは全然違う。
乗組員は私たち3人、影が数名、あとは軍人さんだ。
全員女性なのは、体内魔力を保有していないと濃い大気魔力に耐えられないかららしい。
地上だと稀だけど、新大陸を取り囲むように異常気象が広がっているっていう話は教えられていた。
「よろしく頼む。私は艦長のナズナだ」
「よろしくお願いします! 志村ヒサメです!」
日焼けして体格のいい女性だった。
元気な笑顔? って言えばいいのかな。
そんな感じ。
「この国を陰から守る天忍か……忍者なんていうのは眉唾物だと思っていた。だが──あの怪物を見て、本物の忍者が目の前に現れたなら信じざるを得ないな」
「えっと……」
「おっとすまない、どうにも現実感がなくてな。おそらく他の乗組員も同じだろうから、不躾な視線をぶつけられる事もあるだろうが許してくれ。悪い奴らじゃない」
「はあ」
艦長さんの言った通り、すれ違った人は大抵が挨拶してくれるけど視線は露骨だった。
やっぱり忍装が目立つのかな……
「ゲンジがクリボックリとか超粘ナマコを初めて見た時くらいジロジロ見られたな」
「あはは……」
基本的には戦いに行くわけじゃない。
海と魔力嵐を越えて新大陸に辿り着くのが第一目標だ。
天忍の船じゃ海洋を越えられないし、科学技術だけだと魔力嵐を越えられない。
私たちが呼ばれた理由には得心が言った。
だけど…………
「やっぱり私たちじゃなくてよかったでし」
「うん、そうだね……」
倭の国でまともに活動できる所は、今はもうそんなに多くない。
リンドウはマトモ側の筆頭だ。
そのリンドウを天忍のメイン活動拠点にする為に大規模な敷地調達が勧められているらしいから、そのうち三浦さん以外のファーストもやってくるのかも。
「そうなったら私達いらないもんなあ……あーあ、結構頑張ってたんだけどなあ」
「……あっ!」
「?」
「そう! そうでし!」
「何だよいきなり……みんな驚いてるからやめろよ」
ミクは何かに気付いたのか手を叩いて喜ぶ──まではいいんだけど、場所がよくない。
甲板だ。
それでも興奮が収まらないようでピョンピョン跳ねる。
「この遠征で成果を見せつけてやれば、きっとリンドウに戻れるでし!」
「……ええ?」
「私たちがリンドウから出されたのは実績が足りないからでし! 資源を大量に見つけられれば、ファーストみたいな扱いも受けられるかもしれないし新総本部の近くで働くことだってできるはずでし!」
「そ……うかなあ……」
「そうでし! きっとそうでし! よーし! やるぞー!」
「おぉー……?」
色々突っ込みたかったけど、あまりにも楽しそうだからサキと顔を見合わせることしかできなかった。
──────
「初めまして!」
「……ます」
──────
「お願いします!」
「忍者なんだって? 忍術とか是非見てみたいな」
──────
「今は何してるんですか?」
「対魔力塗料とかいうのを塗ってるんです。急拵えで全部塗れなかったから航海しながらって」
──────
列に並んでもらってみたいな感じじゃないけど、乗組員はそこそこいるから断続的に挨拶をしていた。
ハクさんみたいな陰気な感じの人は少なくて、大抵は明るい。
そんな中でも眩しいぐらいに明るかったのが──
「はじめま──」
「初めまして! 私、
「えっと……」
「そういえば忍者ってやっぱり忍術とか使うんですか!? クナイとか!? 火遁の術とか!? 空を飛んだりも出来るんですか?!」
「いや、そんな大層なものでは……」
「そうなんですか!? でもあの怪物達を倒す術みたいなのあるんですよね!?」
「あははは……」
『おいハナノ! 忍者さん困ってるだろうが! 早く清掃に戻れ!』
「あ、はーい! ──また今度いろいろ聞かせてくださいね〜!」
「はあーい……」
ナツさんは私たちより少しだけ年下で、多分15歳くらい? の軍人さんだった。
他の人々に比べるとキビキビした感じがないというか、朗らかな感じ?
良い子なんだなって伝わってくる。
「ありゃ、アホっぽいって言うんだよ」
「なんて事言うの!?」
「お前と似てるわ」
「本当になんて事言うの!?」
初対面の人にこんな悪口を叩けるのはサキくらいのものだと思う。
「どいつもこいつも同じような顔してるでし」
「ミク!?」
「……ちょっと、運動したいでし」
「ど、どうしたの?」
「何でもないでし」
しかもミクまで。
さっきは前向きだったのに、今度は眉を顰めて何かを堪えている。
こんな時は……身体を動かそう!
「訓練に混ざりたい? そりゃあ……出来るなら?」
初日のコミュニケーション? も兼ねて、甲板で訓練しているのに混ぜてもらった。
訓練自体は大したことなかったけど、身体を動かしてストレス発散できたのかミクはスッキリした顔だ。
私たちでも出来るように易しい訓練にしてもらったんだと思う。
「驚いた。まさか余裕綽々にこなしきるとは……次はもっと厳しいのを用意しておこう」
「あはは、楽しみにしてます」
訓練をしたあとは釣りの時間だ。
本来なら航海用の食料を持ってくるのが当たり前だけど、例の襲撃のせいで食料調達が間に合わないからってことらしい。
「釣りは訓練にないからな……中々、苦戦しそうだ」
「あ、それなら私たちが魚探しますよ」
私達は修行で釣りを飽きるほどしたし、ミクはギアーズの力で近くの動物の位置を把握できる。
魚群を見つけたら小型のボートで近くまで行った。
──大成功!
と、ファンファーレが鳴った気がした。
積み込まれている魚の山を見て、艦長さんは唖然としている。
「動物の声を聞く力……忍者というのは万能なのか?」
「これに関してはミクが特別なんです」
「なるほど──いや、しかし助かった。これからも食料確保について協力してもらってもいいだろうか」
「もちろんです!」
「肝心の本人がいないようだが……」
「あ、それなんですけど──」
釣りを終えたあと、ギアーズの力を使ったからちょっと疲れちゃったらしい。
ストレスも溜まってるみたいだし、報告する前に休んでもらうことにした。
「そうか……もし船酔いなら薬を出させるから言ってくれ」
「ありがとうございます」
──────
航海は順調だった。
倭の国はあんなに大変なのに、海の上にいる私たちの間にはバカンスでもしているようなのほほんとした雰囲気まで漂っていた。
その間に乗組員の人達と話す機会も増えた。
特にナツちゃんは歳も近いし向こうから良く話しかけてくれるので色々と情報交換をしたりした。
ナツちゃんが生まれたのは魔物の襲撃で滅んだ村。
魔物に襲われかけたところを艦長に助けられて軍に入ったっていう結構な経歴だ。
お母さんと2人で育ったから最初は人間の常識が良くわからなかったけど、艦長のおかげで最近はだいぶマシになったらしい。
「私、夢があるんだ!」
「そうなの? どんな夢?」
「大金持ちになって、お母さんに楽させてあげるの!」
「……いいと思う」
お母さんだけでも生きてるなら──孝行できるなら、そうするべきだと思った。
船の速度はそんなに速くはない。
速い船には海の怪物が寄ってくる──新大陸が出現して以降、漁師の船が沈没する事件が激増して、実しやかにそんな噂が流れていた。
艦長さんは、その噂を本当だと仮定して航行しているらしい。
釣りの最中に凄く大きなイカ? を倒したりもしたけど、あれは怪物じゃなくて魔物化した生き物だし……怪物はどんな姿をしているんだろう。
1ヶ月ほど航海したところで、ほぼ同時に、私たち3人はあるものを感じた。
大慌てで甲板に出ると既に数人が集まっている。
その中にはナツちゃんの姿もあった。
指差す先を見る。
「すごーい!」
それは近付かなくても理解できた。
大気を紫に染め上げるほど濃い魔力が壁のように立ち上っている。
「もしかしてあれが魔力嵐!? ヒサメさん!」
絶え間ない雷。
凍り付き、燃え上がる波。
大渦巻から顔を覗かせる魔物。
一つの現象に絞れば、魔力暴走として処理した事がないこともない。
あらゆる場所で継続的に起こる魔力暴走──それはもはや、魔力暴走じゃなくて魔力地形とでも呼べるのかもしれない。
「あれ? おーいヒサメさん? あのとんでもない数の雷とかヤバそうな波が魔力嵐なのー?」
「そう……だね……」
「…………ん? 雲が一つこっちに来てるような?」
「!」
その雲は明らかに高密度の魔力の塊だった。
「わっ! なんかサツマイモの綿菓子みたいだ! 美味しそう!」
「言ってる場合じゃない! 伏せて! ──はあああ!」
盾を張る。
船と、乗組員を守るための魔力障壁だ。
サキエルちゃんがやり方を教えてくれた。
拙いけど、3人なら少しはマシだ。
「なにこれすごーい!?」
船の上でぴたりと静止した雲。
息の詰まるような圧迫感に押し潰される前に魔力を全開にして──
「あっ」
空が弾けた。