忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
「おーほっほっほ! ハクさん、今日は動きが精彩を欠きますわぁ!」
「わかってる……!」
「殿方の言葉如きに惑わされるのは三流ですわよ!」
「うっさい!」
ただの口喧嘩をしているようではあるが、彼女たちは5体の第三等級を倒している最中だ。
今日も今日とて、彼女達は天忍の仕事を真っ当にこなしている。
標的は、オークと呼称される魔物。
二足歩行の巨大な人型、緑色の皮膚、筋骨隆々の肉体。
女性を凌辱するしか考えていない悪辣な敵で、知能もある程度高い。
捕まえた一般人を餌に天忍がやられたという事例も。
身に纏っている粗野な鎧。
そして手に持つ巨大な石斧。
それですらも、人類の通常兵器が勝てるようなものでは無い。
魔力を纏っている、というのはそれだけ大きい事なのだ。
ただ、多少調子が悪かろうが口喧嘩をしていようが、基本的にセカンドオーダーが負ける相手ではない。
「………………」
無言で手を動かすハク。
さながらオーケストラの指揮者のような流麗な動き。
指先の微細な変化についていくのは楽器の奏者ではない。
敵を容赦なく切り刻み、リッカが動き回る足場としても機能する鉄の糸。
魔力を用いた技術によって蜘蛛の糸を分子レベルで模倣した鋼鉄製の糸である故に凄まじい強度を誇る。
街灯の光を受けた部分がキラキラと反射を見せ、オークも、そこに何かがあると気づきはしている。
だが、だからといって容易に対処できる物でもない。
糸に絡め取られた獲物。
ギチギチと肉に食い込む細い糸を引きちぎろうとオークたちは全身に力を込める。
しかし千切れない。
逆に若干の出血を伴って食い込みが強くなった。
困惑の鳴き声を上げる。
「ゴ……!? ギギィィィィィ!」
「ブヒィィィィ!」
「ふぅ、少し時間かかっちゃった」
「おーほっほ! 我がサクラフブキのサビにしてやりますわぁ!」
ハクはあわよくば、鉄火線によってオークどもを切り刻んでやろうと思っていた。
実際血は出ている。
しかし、指に力を込めてもそれ以上動かない。
奥まで届く事はなかった。
顰めっ面でぼやく。
「……こいつら、身体を魔力で強化してるね」
「関係ありませんわぁ!」
ブォンブォンとサクラフブキを大振りに、神楽のような動きで舞い続けるリッカは満面の笑みである。
刃先からは舞に合わせて魔力の水が迸り、空中に球体となって集まっていく。
その光景は、味方にとっては神聖に思えるし、敵にとっては内心の不安を煽る禍々しいものに見える。
やがて舞を終え、一仕事終えたと言わんばかりに額を拭う。
頭上に溜まった水を見上げると、満足げに笑った。
「これで良しっ、ですわぁ!」
「あの……早く……して、くんない?」
いまだに拮抗している鉄糸とオークの肉体。
それをずっと押し留めているのはハクだ。
その額には玉のような汗。
「ピギィィィアアアアアアア!!!」
「こいつら……やけに、力が……強い……!」
「む……」
物理的な挙動を利用し、己の膂力以上の力で標的を押さえつける事が可能なハクだが、想定していたよりも遥かに大きな力で反抗してくるオーク。
ハクの様子を見て、リッカは目つきを平時よりも尖らせた。
サクラフブキの石突を地面に付け、両手で握る。
「集いし水は、雨の群雲(アメノムラクモ)!」
水球の表面に至る所で波紋が生じ、お椀を鳴らした時のような音が広がっていく。
「解放!」
小気味よく指を鳴らした途端に飛んでいく、水の刃。
「ギッ」
「ブヒィィィィィッッ!」
「ピギイイッ!」
鉄の糸では断ち切れない強靭な肉体。
糸と糸の隙間を狙って放たれた水刃は正確に拡散し、オーク達の肉体を捉えた。
緑色の表皮を切り裂くにとどまらず、肉を掻き分けて骨まで届く。
当然オークたちは苦痛でもがき苦しむが、ハクの渾身の力で押さえ込んでいる。
「ぐぅぅぅぅぅ…………!」
だんだんと減っていく水球の体積。
リッカは刃を飛ばすのをやめ、さらに魔力を注ぎ込んだ。
「さぁ、フィナーレですわぁ!」
「言語感……統一……しろ!」
巨大な刃が5つ空中に並んで生成され、それが薙刀の刃身であるかのように、リッカはサクラフブキを横凪に振るった。
「おーほっほっほ!」
「──っぶはぁ、はぁ、はぁ……っぐ……」
ハクは一気に鉄火線を解いた。
拘束が止み、一瞬困惑していたオーク達の元へ届いたのは止めの一撃。
「ピギッ」
「ギッ」
「なかなか、やり甲斐のある相手でしたわね!」
「本当だよ……」
時間にしてみればそれほど長いわけではない。
しかし一体一体が、シンプルにホネのある魔物だった。
速さ、力、硬さ。
どれをとってもそこそこ。
もっと上位の天忍ならば雑魚狩り出来るのだろうけれども。
バラバラになった魔物を影が片付けていく。
祈りによる浄化。
大規模忍術の一つだ。
この忍術が完成した近代以前は、秘匿の難易度はそれ以降よりも遥かに高かったらしい。
二人は、遠巻きで隠密をしていた三人をチラッと見た。手を振るヒサメに手を振りかえす。
アレからも少しずつ交流をした……というより向こうから寄ってきた。
なんだかんだで、憎めない三人組だ。
ただ──
「遅かれ早かれ、あの子達じゃあこの街は守れなくなっていたね……」
「ですわね」
常の高らかな笑いをあげる顔とは程遠い、リッカの真面目な顔。
彼女とて、世界を護るという天忍の使命を受け入れた一人だ。
想像するだに間違いない。
志村氷雨、宵闇咲、穂高未来。
3人は優秀だ。
特に宵闇咲。
彼女は、自分たちと同じ場所にやって来る将来が見える。
そして、今はまだ──黄金の雛でしかない。
この街に住む民を護るには力が足りない。
「…………」
本部の判断が間違いだったと否定するわけではない。
以前はあの3人でも事足りていたのだろう。
だが今は……混沌がにじり寄っている街、竜胆を護るにはあまりに──
それは彼女達とてしっかりと自覚している。
英雄願望に若干振り回されてはいても、自制はできていた。
リッカ達が当初思っていたほどに愚かでは無い。
眼。
三人はハクとリッカのことをしっかりと見ていた。
連携を、戦い方を、脳に焼き付ける。
上の戦いを間近で見るなど、貴重な経験だ。
サキのワガママと、そのお目付け役としての二人だが、三人一緒に。
「まっ、良いんじゃない? 今はさ」
「そうですわね」
──端末が、魔物の出現を知らせた。
「……は?」
「……嘘ですわよね?」
2連続での魔物の出現。
それは通常起こらない。
魔界からゲートの安定的な維持にはコストがかかるからだとか、一定量以上のものを魔界からこちらに送るのは魔界に影響を及ぼすからだとか、色々と言われてる。
だが、それが起こった。
「少し疲れてるんだけどな……」
「ハクさん! そんな事を言っている場合ではありませんわ!」
「分かってるよ! ……志村ちゃん達も来るんだよね?」
三人は強く頷く。
「疲れてるってんなら、私達がやってやるよ」
「直江さん達だけに任していられませんから!」
「見ているだけじゃ鈍っちゃうでし!」
フッ、とハクの口からため息とも笑いともつかぬ息が漏れた。
「熱いねぇ」
「おーほっほっほ! もしもサードオーダー風情でも倒せる魔物であれば、譲って差し上げますわ!」
「おい縦ロール! 言い方に気をつけろやあ!」
──────
「私たちは疲れたから見てるよーん」
「おーほっほっほ! お任せですわぁ!」
ベンチに腰掛けた二人。
既に結界は貼ってある。
市街地に現れたのは13体の骸骨型魔物。
第五等級だ。
当然、私たちだって倒せる。
第五等級の魔物は言ってしまえば雑魚だ。
忍具を使えば、そこら辺の一般人にだって倒せる。
骸骨は何も持たず、白痴のように並んで立ち止まっていた。
「えいっ」
マサムネを振るったら、それだけで1体が砕け散った。
「ふふっ、簡単だね」
「何笑ってんだ、任務中だろうが!」
「ご、ごめんなさいっ」
「……でもまあ、修行を思い出すな」
「でしょっ?」
「えいっ!」
ミクがギアーズを振るった。
骸骨はいつのまに武器を手に持っていたのか防ごうとしたけど、強度が足りずにへし折れた。
そのまま身体ごと砕かれて終わり。
ボロ布が風に吹かれて消えた。
2体目。
「とりゃっ……ん?」
次にサキが放った光の矢。
骸骨が手にしていたのは先ほどよりもまともそうな剣。
そしてボロい胸当て。
しかし、剣を矢に合わせることができずに、胸当てを突き砕いた。
3体目。
「間違いじゃない……ね?」
「ああ、少しずつ変わってる」
次に骸骨は、綺麗な鎧と、更にまともな剣を手にした。
赤いマントも身につけている。
「時間経過か、倒すほど強くなるタイプか……何にせよ、早めにカタを付けるぞ!」
「うん!」
「でし!」
4体目。
私と一合打ち合って、斬り払った。
5体目。
サキが十発打ち込んだ。
6体目。
明らかに名のある剣を取り出した。
私が切り結んでいるうちにミクが背後から崩した。
7体目。
鎖鎌を携え、私とミクの2人で抑えた。
ところどころ傷を負わされたけど、なんとか息を合わせて切り伏せた。
「──はぁ、よしっ」
「っく……ふぅ……結構、倒したでし」
「次……来るよっ!」
もはや骸骨なんて見た目ではない。
半分ほど肉体がついている。
加えて武器は脇差と刀を携え、防具は戦国時代の鎧? に似たものを纏っている。
──マサムネが弾かれた。
衝撃の大きさに腕がそのまま持っていかれる。
腕が流れた方向へとバク宙を行なって、ダメージを軽減した。
地面に降り立つと、ミクが私への追撃をブロックしてくれたところだった。
ぞわりと鳥肌が立つ。
1人だったら、今この瞬間に殺されておしまいだった。
「ヒサメ! 無事でし!?」
ミクが鎬を削っていたのは一瞬。
すぐに距離をとって、下段に構える。
ギアーズが赤く光っている。
それだけミクも本気ということだ。
未だ狼槍ギアーズの真価を完全には発揮できていないミクだけど、一部の能力だけでも十分な戦力増加となる。
「大丈夫! でも……私の剣術じゃあマトモに太刀打ちできない!」
「なら、私が正面張るでし! 援護頼むでし!」
「りょーかい!」
下段から繰り出される細かい突き。
骸骨は脚を守るために、突きへと峰を合わせていく。
そこへ、遮二無二突っ込んだ。
「はぁっ!」
ガラ空きになった首元へ横一文字を入れる。
……置かれた脇差に防がれた、けど!
「ぬぅぅ!」
ミクはその隙を見逃さない。
そう、信じてた。
槍を大きく引き戻し、強烈な踏み込みと同時に放った一撃。
「はぁ!」
刀での防御も間に合わない。
赤熱したギアーズは鎧を砕きながら、魔物にトドメを──
「う……そ……でし……?」
咄嗟に胸当てを外した魔物。
後ろに多く飛び、致命的な一撃を免れたようだ。
「──だから、無茶すんなって言ってるだろ」
そこへ、赤く輝く矢が飛んでいった。
ミクの乾坤一擲の一撃から逃れたはずの魔物の胸のど真ん中を抉り、向こう側へと消えていく。
8体目……
「私だっているんだから、無理に2人で戦おうとすんなよ」
「サキ! 良くやったでし!」
「分かってんのか? お前に言ってんだぞヒサメ」
「わ、分かってるもん……」
「正直、いつもより狙い辛かったぞ」
「……ごめんね、サキ……」
「──反省は後だ!」
ハッと武器を構える。
9体目が動き出した。
今以上の戦力なのは間違いない。
でも、三人ならできる!
「倒すよ!」
「「うん!」」
──────
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「っふぅ……はぁ……結構、やばい、でし……ね……」
「だけど……私達が……守る……んだよ!」
3人ともボロボロだった。
9体目の魔物。
もはやその強さは第五等級なわけもない。
第三等級なのは確実だった。
そして、第三等級の中でも強さには幅がある。
いま交戦している相手は、ヒサメ・ミク・サキが全力を賭して挑むべき相手だった。
連戦で疲労した。
万全の調子じゃ無い。
腕が重い。
『それで待ってくれるのは、修行の間だけだぞ!』
ヒサメの脳内に、教官として師事していた時のヒバリの言葉が蘇った。
相手は命を奪りに来ている。
疲れているからと待ってくれるわけがない。
それ以前に、そんな事で今更泣き言を言ったりはしない。
「ふぅ……ご先祖様、どうか私に力をください……」
マサムネを撫でる。
神頼み。
もちろん意味はない。
土壇場でパワーアップなんて稀にしか起きない。
マサムネの力を完全に引き出すには、まだまだ修行が足りない。
それでも、気持ちだけは。
少しだけ軽くなる。
「ギアーズ……頼むでし……」
ヒサメの隣で、ミクも同じように忍具を撫でていた。
視線が交錯する。
軽く微笑みを交わすと、改めて魔物に向き直った。
武器を持つ手は既に力無く、顔にも覇気は無い。
切り傷、擦過傷はあちこちにでき、特に額からの出血は邪魔でしか無い。
それでも、退く気は無かった。
「私が……決めるから……時間を……稼げ!!」
天弓ハーケンの威力は魔力によるものだ。
つまり、サキは2人よりも多くの魔力を武器に込めている。
肉体的なダメージはともかく、単純な疲労に関してはサキの方が上。
それでも彼女は力強く言った。
私が決める、と。
ならば……であるならば!
ヒサメとミクの眼の奥。
魂に、炎が宿る。
抜けそうな力を、今一度。
強く武器を握る。
本来ならば、もっと力を抜いて武器を握るべきだ。
余計な力みは威力には繋がらない。
でも、今はこれでいい。
無い力を振り絞るんだから、これくらいがいいんだ。
「やあああ!」
「うあああ!」
「頼んだぞ……2人、とも……!!」
──────
「良いなあ」
「素敵ですわね」
ハクとリッカは未だに座っていた。
何をしているかと言われれば、9体目の骸骨と交戦する3人を見ている。
助ける気が無い、悪し様に言えばそうだ。
だけど違う。
見捨てているわけではない。
あの3人の命を諦めたわけじゃない。
むしろ応援している。
勝てよ、と。
頑張れ、と。
その上で体力を温存していた。
次からが本番だ。
「9体目であの強さ……私たちが負ける事はありませんわね」
「アレが相手ならね? 問題は──」
目を向ける。未だに静止している4体。
残りは2人で受け持つつもりだ。
アレがどれくらいの速度で強くなるのかによって、この街の未来が変わる。
「私たちなら倒せますわ」
「……うん、そうだね」
もしかしたら、そこまで強くはならないかもしれない。
現状の強さとしては第三等級の中〜上位程度だろう。
これで打ち止めかもしれない。
あるいは、第二等級の低位程度までは伸びるかもしれない。
……自分たちよりも強くなった時のことなんて、想像するだけ無駄だね。
──────
「はぁ……はぁ……!」
乱れた呼吸。
酸欠気味で歪んだ顔。
精彩を欠いた動き。
「っ!? ……うぁああ!」
膂力に負け、ヒサメが吹き飛ばされた。
そうなると一対一を強いられるのはミク。
魔物の武器はミクと同じく槍。
目に止まらぬ突きが彼女目掛けて放たれる。
一撃一撃に全くブレが無い。
ミクの目からは弾丸が飛んでくるのと変わらないだろう。
それでも、無挙動から一息に全速まで引き上げられた神速の連撃を、なんとか凌ぐ。
「くっ……うっ……くぁっ……あっ」
しかし、それも数合しか持たない。
ギアーズの穂先を掬い上げられ、横蹴りを脇腹にぶち込まれた。
「ごはっ……!」
確実に肋骨がいったであろう一撃。
力無く吹き飛び、地面の上を転がっていく。
「ミク!」
ヒサメが血相を変えて叫んだ。
そして、魔物は標的を変えた。
これまでの戦闘経験から、最も一撃の威力が高い天忍は誰かを理解している。
その顔が向いたのはサキ。
今もハーケンに魔力を貯めている最中だ。
「くっ…………」
コンクリートに刃を押し付け、火花を散らしながら迫ってくる魔物。
それは恐怖演出であり、行動自体に意味は無くとも確かな怖気を生じさせる。
それでもサキは動かない。
今はまだ、前衛をこなしながら魔力を貯めるほど器用な事はできない。
だから信じた。
仲間を。
「…………!?」
いきなり身動きが取れなくなり、困惑する魔物。
風に乗って声が届く。
「これくらいなら、やってあげるよん」
「──チェストォォォォォォオオ!!」
引き絞った弓から放たれる。
魔物が認識すらできないほどの速度の飛翔体。
中心部を丸々消滅させて、9体目は倒れた。
「……っはぁ……っはぁ……っあ……う…………く……おぇぇっ……」
それを放った少女は息も絶え絶えである。
両膝を地面について、なんとか9体目の最期を記憶に収めていた。
完全な魔力切れの一歩手前。
今にも気絶しそうだ。
それでも、負傷したミク、ヒサメ、そして歩いてくる2人を見た。
「やるじゃん」
「おーっほっほっほ! 見直しましたわ!」
「────ありがとう、先輩」
「あとは任せなよ」
「う、ん……」
気絶したサキ。
負傷したミクとヒサメを影が運んでいく。
「さて……ここからは私たちの仕事だね」
「おーほっほっほ! セカンドオーダーの真価を今こそ! お見せしますわあ!」
──────
「────う……?」
目を覚ますと、白い天井。
ここはどこだろう。
場所を知るために上体を起こそうとして、激痛が走った。
「いででで!」
「起きましたか?」
リッカの声だ。
「──ここ、どこ?」
「当然、病院ですわ」
「なんで?」
「記憶がハッキリしてないようですわね」
「うん」
「私達は……負けたんですわ」
「何に?」
「骸骨の魔物ですわ」
「……あぁ…………」
朧げに蘇る記憶。
首根っこを掴まれて、全身を突き刺されたんだった。
……ああ、お腹だけは守れて良かった。
赤ちゃん作れなくなっちゃうもんね。
「……ん? なんで生きてるの?」
「現れたらしいですわ」
「えっアンノウンが!? ──あいでででで!」
大声を出したせいで、全身に響く。
どこが痛いのかもわからないくらい痛い。
「淑女たるもの、あまり大声を出すものでは無いですわ」
「……ちょっと待って、あんたどこから喋ってるの?」
「ここですわ」
シャーッとカーテンが開く。
「──アンタもボコボコじゃん」
顔面が腫れ上がり、右腕と左脚を吊っている。
全身包帯ぐるぐる巻きだ。
縦ロールも今はただの長髪になってしまった。
「負けたのですから仕方ありませんわ」
「はぁ〜〜……そっかぁ……」
「……不甲斐無いですわ」
「…………うん」
「ですが……」
あの時のことを思い出して……もう、堪えきれなかった。
「い゛き゛て゛て゛よ゛か゛っ゛た゛て゛す゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「う゛ん……く゛すっ、ひぐっ……」
「い゛た゛い゛て゛す゛わ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「う゛ぅぅぅぅぅ…………ずびっ……いぎでる……っ!」
本当に死んだと思った。
熱くて、痛くて、全身に力が入らなくなって、寒くなって、眠くなって。
──覚悟はしていた。
そうやって死んでいった天忍は多くいると学んだし、想像もした事はある。
同期で死んだ奴もいる。
でも……あんなに寂しいとは思わなかった。
戦って冷たい地面の上で死ぬのは、誇りなんかじゃ無くて、寂しかった。
ああ、もう終わりなんだなって。
それなのに……生き残ることができた。
アンノウンの正体は結局分からなかったとか、志村ちゃん達はどうなったとか、他にも色々気になる事はある。
でも……
あなた──あなた方? が、どこの誰だか知らないけど……目的も分からないけど……本当に……本当に、ありがとうございます。
──────
情報更新
天忍
たとえ及ばずとも。
決して諦めず、決して退かない。
顔も名前も知らぬ民草の為に戦える、高貴な人間性を保有している。
少なくとも個人に於いてはそうした傾向が強い。
それを人は英雄願望と呼ぶ事もある。
しかし、闇より這い寄る魔の手に立ち向かう彼女達は真に、ヒーローと称するに相応しい。
やはり、彼女達と同じだ。
宵闇咲(ヨイヤミサキ)
信じる。
仲間を信じる。
誰かを信じる。
それは簡単なようで、本気で実行するのは難しい。
どれくらいの力量を持っているか、どんな人間性を内包しているか。
そういったものを把握していない相手に己が身を預けるのは、恐怖すら覚えるものだ。
しかし、彼女は信じた。
学習性のAIのような魔物。
その9体目を倒せたのは直江ハクがいたから。
しかし、仮にいなくても最後まで戦ったのは間違いない。
将来が楽しみ。
志村氷雨(シムラヒサメ)
宵闇咲、穂高未来を束ねるリーダーとしての素質。
今はまだ足りない。
宵闇咲の方が上。
しかし何度も2人に声をかけていた姿は確かに、将来のリーダーとしての姿を想起させられるものだった。
時として、一つの声が世界を変えることだってある。
穂高未来(ホダカミク)
パーティーの支えとして重要なのが宵闇咲ならば、志村氷雨の支えとして重要なのは彼女。
近接戦を担う者として、同じ景色を見る者として、志村氷雨の気持ちを最も理解している。
一般家庭という出自故に今は魔力制御の精度が低いが、それも時間が解決してくれる。
一番伸び代があるのは彼女。
直江白(ナオエハク)
宵闇咲を助けたのは咄嗟のことだと思われる。
先輩風を吹かせていたようだが、身体が自然と動いたようにも見えた。
今回は負けた。
だが、それでも生き残った。
この経験がきっと、彼女を強くする。
死を恐れ、死に怯え、死を乗り越えた時、人は一段階強くなる。
西条六花(サイジョウリッカ)
12体目の魔物との戦闘中、先に倒れた直江ハクを庇って、格上に食い下がった。
普段は優雅な彼女だが、あの時だけは獣のように歯を食いしばっていた。
なりふり構わずという言葉が似合う姿。
片腕が動かなくなって、もう片方も動かなくなって、それでも戦う。
口に武器を咥えて、唸り声を上げて。
彼女の奮闘が無ければ、直江ハクは死んでいた可能性がある。
最後まで守り抜いた。
それこそが彼女の本質。