忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男   作:goldMg

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「だ、第二等級……!」

 

 サキが冷や汗を一つ、額から跳ねさせながらつぶやいた。

 駅に現れたのは第二等級の魔物。

 あまりにも危なかった。

 仮にセカンドオーダーの2人の復帰が一日遅れていたら、壊滅していたかもしれない。

 いいや、していた。

 

「……そうだよな」

 

 その場になってみないと、本当の気持ちというのはわからない。

 ヒサメに対してはアンノウンに任せればいいと言った彼女だが、今、その状況になりかけて責任感が強く動いた。

 

「何だよ、私も捨てたもんじゃねえな」

 

 それと同時に、最近の第二等級やら第一等級やらの出現のせいで、少し感覚がおかしくなっていたことも認識した。

 アンノウンもセカンドオーダーも、本来ならここにはいないのだ。

 幸運が重なって自分は生きている。

 気を強く持たなければ。

 そう、拳を握りしめた。

 

「もう直ぐ駅だよ!」

 

 ハクが全員に注意を促す。

 すでに忍装になっている5人は、建造物群のどこに魔物がいるのかと目を凝らした。

 

「……反応は消えたらしいでし」

 

「マジか」

 

 つまり、いる。

 あの中にアンノウンが。

 ハクは、舌なめずりをした。

 

「待っててよぉ〜アンノウンちゃーん……!」

 

 ──端末が鳴った。

 

「…………え」

 

 ──端末が鳴った。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

 ──端末が鳴った。

 

「なんだよ、これ……」

 

 ──端末が鳴った。

 

「……笑えませんわ」

 

 ──端末が鳴った。

 

「マジでし?」

 

 ──端末が鳴った。

 ──端末が鳴った。

 ──端末が鳴った。

 ──端末が鳴った。

 

 鳴り止まない端末。

 五人は空を見上げた。

 

「嘘、だろ……」

 

 青白い光、そして次々と空中から現れる影。

 その圧力は──

 

「む、むりぃ!」

 

 ミクが叫び声を上げた。

 抗いようの無い絶望。

 ソレが空から降ってきた。

 

「ヒ、ヒバリさんの指令を!」

 

「……指令を待ってる暇なんかない!」

 

 ハクは全員の顔を見た。

 

「まずは向かうよ! そしたら結界を! 志村ちゃん!」

 

「はい!」

 

 

 ──────

 

 

「何が起きている!」

 

「駅の直上で多数の魔力反応! ──他の地区本部管轄区でも同様の現象が確認されています!」

 

「──侵攻か…………!」

 

 デスクに叩きつけた拳。

 竜胆市だけではない。

 多くの都市において──それこそ、天忍のての字も知らないような一般市民が、青く光る穴と、そこを通り抜けてくる異形を空に目撃した。

 

「総本部からの連絡は無いか!」

 

「…………っ! 魔人からの襲撃を受けているようです!」

 

「なんてことだ……」

 

 明らかに計画的な同時多発の戦力投入。

 ジトリとした、逃げようのない悪寒が背筋をなぞるのを感じた。

 ヒバリは前回の天魔大戦を経験していない。

 こんな時、師匠ならばどうしたか……と考えずにはいられないのは仕方のないことだった。

 

「認識阻害の結界をかける……いや、被害が出る前に早くアイツらに指示を…………」

 

 ヒバリは、恐れにも似た感情が湧いているのを感じた。

 今から自分が彼女達にかけようとしている言葉は、自殺を命じるに等しい。

 それは、果たして正解なのか。

 第二等級。

 サードオーダー。

 その差は、あまりにも大きい。

 

 すでに現場に到着している天忍である彼女達は、勇気と愛に満ち溢れている。

 いつかはファーストオーダーにも到達するかもしれない。

 だが──今はまだ、技量が追いついていなかった。

 

 そんな彼女達に、この場で戦いに身を投じろと命じる。

 

 例え無辜の民を守るためだとして、そんな指令を出すことは許されるのか。

 握った拳。

 それを振るう先は、もはや、無い。

 彼女は引退したロートルでしかなくて、戦闘する者ではないのだ。

 そして残酷な言葉を口にしようとして、オペレーターが目を白黒させるのを見た。

 

「────っ!? ま、魔力反応が次々と消えていきます!」

 

「直江達かっ! …………いや、まさか!?」

 

『──ヒバリさん!』

 

 唐突に入ってきた通信。

 その相手は穂高未来。

 一般人から天忍になった稀なる身。

 そんな彼女が、血相を変えて叫んでいた。

 

「穂高! どうした!」

 

『りゅうが! りゅうが!』

 

「……は!?」

 

『りゅうがあ!』

 

「りゅうが!? 何を言っているんだ!」

 

 こんな時に、何をとち狂ったことを叫んでいるんだと、ヒバリだけではなくオペレーターも思っていた。

 嫌そうな顔をしている。

 しかし、次の言葉でさらに混乱が広がった。

 

『りゅう! りゅうでし! ドラゴンでし!!』

 

「……だ! か! ら! 何を言ってるんだ!」

 

 まさか彼女は精神系の攻撃を受けて錯乱しているのでは。

 ヒバリは、影へと通信を繋いだ。

 

「飯島! 報告しろ!」

 

『──りゅ、りゅうです! りゅうがいます!』

 

「お前もか!」

 

 通信をガチャ切りし、別の影へ。

 

「大井!」

 

『りゅう……にんじゃ……』

 

「なんなんだ…………っ! そうだ、状況は!?」

 

「現れた瞬間、反応が消えていきます! ……あっ! い、一級が出現し──あ、あり得ません!」

 

 あり得ざる状況にオペレーターは悲鳴をあげた。

 ヒバリは、いつの間にか尻餅をついている自分に気付いた。

 何だこれは。

 こんなのは……こんなのは、あり得ない。

 彼女の言う通りだ。

 

 メインモニターに映し出された魔力反応。

 現れては消え、現れては消え、まるで夏の夜空に浮かぶ花火のようだった。

 

「……はは」

 

 尻餅をついたまま、ヒバリの口元は笑みの形に歪んでいた。

 

「あはははは! はははははは!」

 

 常とは違う、少女のように甲高い声。

 顰めっ面だった表情は幼さすら感じさせるソレへ。

 オペレーター達は固まりつつも、彼女の狂気を憐れんだ。

 こんな状況、想定なんてできるわけがない。

 普段から多くのプレッシャーに苛まれている彼女が少しだけおかしくなっても、責められるはずがあろうか。

 

「あぁおかしい、バカみたい」

 

 彼女の心中は、そんなオペレーター達の内心とは裏腹に晴天一色だった。

 あの老害どもは、この状況で何が出来るだろう。

 どんな策を打つだろう。

 

 何もできない。

 天忍の範疇を超えた存在が現れた時──天忍の暴力を超えた存在が人類側に現れた時、天忍という組織は意味を為さなくなる。

 きっと、震え上がっているんだろうなあ。

 見てみたい。

 あの憎たらしい奴らが、黙りこくってモニターを見つめているところを。

 

 アンノウンには散々迷惑をかけられたが、今ばかりはキスでもしてやりたい気分だった。

 

「──ま、魔力反応……完全に消失……」

 

 10分後、震える声でオペレーターが告げた。

 物量と質の両方を投入してきた相手に対して、この短時間での戦闘終了。

 被害はゼロ。

 あり得ない状況には、あり得ない結果が伴う。

 こうしている今もきっと、世界中で大侵攻が行われている。

 だけど、実感が無い。

 上がってくる救援要請だけが、ソレを教えてくれる。

 ヒバリは笑みを浮かべた口元に対して、手が震えていた。

 

『────』

 

 一瞬のノイズの後、通信が入った。

 今度は直江白。

 急いで応答した。

 

「直江! どうした!」

 

『──潮目司令』

 

「……ん?」

 

 ハクは、あの現場にいたにも関わらず異様に落ち着いていた。

 というか、少しだけ笑っているような雰囲気が? 

 不思議に思ったが続きを促した。

 

『アンノウン…………ゲンジさんが、話をしたいと』

 

「!」

 

 ヒバリは理解した。

 天忍達が終ぞ真実にたどり着くことができなかったアンノウン(正体不明)が、彼女達の目の前にいるのだ。

 その名前は──ゲンジ。

 

「繋げてくれ」

 

『はい──』

 

 数秒、何かしらのやりとりをしているような微かな声が聞こえた。

 そして、再びのノイズ。

 音声は指令室全体に流れた。

 

『もう繋がってるのか? …………そうか──ならば、初めまして潮目雲雀、俺はゲンジというものだ』

 

 当然のように、名前を知られていた。

 

「初めましてとは、ご挨拶だな」

 

『挨拶は実際大事だ』

 

「……そうか」

 

 ゲンジは、明らかに男だった。

 通話越しだというだけでなく、音をいじっているような、電子的な音が混じってはいる。

 ソレでも話し方が完全に男だ。

 

『あなたとはジックリ話をしたいところだが、単刀直入に言わせてもらう』

 

「なんだ」

 

『俺を他の街に運んで欲しい』

 

「……なぜだ?」

 

 期待。

 都合のいい妄想。

 

 天忍として。

 天忍を束ねる者として。

 倭の国を護る者として。

 抱いてはいけない感情。

 

 太ももを殴って抑えた。

 影達も、自らの手をつねった。

 

『? ……今、何かを殴った音が』

 

「気にするな。ソレより、何で他の街へ? まさか逃げるつもりか?」

 

 だけど、抑えきれない。

 安い挑発をしてしまう程度には。

 

『感じるんだ、邪悪を』

 

「感じる?」

 

『敵がいるんだろう』

 

「……」

 

 強く、鼓動が鳴る。

 

『人類を脅かす者達がやってきたんだろう?』

 

 その言葉の一つ一つが。

 

『あの戦いのように、人ならざる者が押し寄せてきたのだろう?』

 

 まるで毒のように。

 

『ならば、戦わねば』

 

 聞くものの心へと染み渡っていく。

 

『いまだ未熟なれど、この身はオーバーウォッチなのだから』

 

 口元に、小さな笑みが湛えられる。

 

『そして人類の守護者たる天忍よ、志を同じくする同志よ、どうか聞いてほしい』

 

 少しずつ、手が動き始める。

 未だに相手は喋っているのに。

 初めて声を聞いたのに。

 何でだろう。

 

『俺のような不審者の言葉など、聞く価値は無いかもしれないが……それでも、頼む』

 

 心が熱くなっていく。

 成すべきことを成す為に。

 

『俺に協力してほしい』

 

「……一つだけ聞かせてくれ」

 

『なんなりと』

 

「オーバーウォッチとはなんだ」

 

『俺の師匠達が作り上げた、偉大な組織だ』

 

「どこにあるんだ、海外か?」

 

『どこにもない』

 

「なに?」

 

『彼らは今、空よりも遠いところにいる』

 

「……つまり、お前は個人で活動しているということか?」

 

『そうだ』

 

 ザワザワと、驚きの声が広がった。

 

『だからこそ、移動するための足が欲しい』

 

「……そういうことか」

 

『ああ、スタミナを温存したいんだ──『司令! 私からもお願いします!』』

 

「直江」

 

 突然、ハクが通信に割り込んだ。

 

『きっと、別の街でも助けを待っている人たちがいます!』

 

「それは……」

 

 この街に、また魔物の群れが現れないとも限らない。

 一気に最高戦力に躍り出た彼を手放すのに不安が付きまとうのは当然だった。

 そして何より、魔物が現れた時に戦うのは彼女達の役目だ。

 なぜそんなに明るく言えるのか。

 

『私達はもう、十分助けられました! 他の人達も……他の天忍達もきっと! 助けを待っているはずなんです!』

 

「天忍が助けなど……」

 

『死ぬかもしれない、もう、ダメかもしれない──そんな絶望に追い詰められた時に……この人なら助けられるかもしれないんです! 潮目司令! お願いします!』

 

 それは、心からの言葉だった。

 彼女は心底から、ゲンジという男を信じていた。

 あの飄々とした直江の言葉とは思えないと、ヒバリはいささかの驚きに包まれた。

 

『私からも頼みますわ! 潮目司令!』

 

「西条か」

 

 あの骸骨型の魔物と最後まで戦っていた2人はやはり、思うところが大きいのだろう。

 

『……安心していい、ここからは邪悪の気配は去った。暫くはやってこないだろう』

 

 ゲンジは何かしらの探知技術によってか、そう告げた。

 

「むぅ…………」

 

 腕組みをして迷うヒバリ。

 その選択は、多分に私情を含んだものになってしまう。

 そして、司令という立場を投げ捨ててしまいたくなるほどに──個人、あるいは1人の天忍として喉から手が出るほど欲しい答えだった。

 

「ヒバリさん、あの方へ足を用意してあげましょう」

 

「……」

 

「司令、滅んでしまったら先はないんです」

 

「…………」

 

「ひばりさん、いいじゃないですか」

 

「…………」

 

「潮目さん!」

 

「ひばりちゃん!」

 

「ヒバリ!」

 

 ──ブチッ。

 

「うるっせえええええ!」

 

『…………』

 

「色々考えてんだよこっちは! そもそも協力しないとは言ってねーだろ!」

 

「ひばりちゃん……」

 

「クソジジイどもとか、総本部とか、色々あるだろうが! そういうのも考えないといけないの!」

 

『それで?』

 

「いいよ! 飛ばしてやるよ! ヘリ、一機出せ!」

 

「はいっ!」

 

『協力、感謝する』

 

「──その代わり!」

 

『ん?』

 

「私がヘリを貸したことを後悔しないくらいの功績を上げてこいよ! そうじゃなきゃマジ許さねえからな!」

 

『──ははは、やはり貴方とはじっくり話がしてみたい』

 

「んなっ!?」

 

 視線がヒバリに集まる。

 生娘を見る、生暖かい視線だった。

 

「な、何見てんだ! 仕事しろ!」

 

 もう、司令としてある為に形作っていた口調など、どこかへ飛んでいってしまった。

 全て、やつのせいだ。

 責任転嫁しながら、指示を出していく。

 とても、やる気に満ち溢れながら。

 

「直江! お前達も同行しろ!」

 

 

 ──────

 

 

『さて、どうするか』

 

 電子的な声。

 通信を通さずとも、彼の声は他人には真実読み解くことはできない。

 

 アンノウン。

 ──否。

 オーバーウォッチ所属、ゲンジ。

 1人きりの精鋭部隊。

 サイバネティックな忍装を纏った、素顔すら見えない男。

 一頭の龍として、世界に現れた無数の魔物を一掃した怪人。

 

 彼は極めてリラックスした状態で壁にもたれかかっている。ヘリが来るまでの時間、こうしているつもりなのだろう。

 天忍や影のいる場所とは少し離れた場所にいる。

 孤独にも見えるその立ち位置。

 

 彼は天忍の指揮下には無い。

 そして現状、指揮下に入るつもりもない。

 あくまで協力関係という事だ。

 足だって要請はしたが、断られれば自分で走っていくつもりだった。

 

 そんな彼を、直江白は木陰から見ていた。

 顔を半分だけ出して。

 いじらしく、話しかけるタイミングをはかっている。

 そんな相棒に西条六花はやや驚きつつも、優しい顔で見守──

 

「ゲンジさぁん! ハクさんがお話ししたいそうですわぁ!」

 

「あっ、ばっ……やめろよお!」

 

「おほほほ!」

 

 腕組みを解いたゲンジは、木まで歩いてきた。

 

『どうしたんだ』

 

「や、あ、いや……その……へへ」

 

『?』

 

 何かを口に出そうとして、出すことが出来ずに卑屈な笑いを浮かべる。

 ゲンジはサイバネティックなヘルムを傾げ、サイバネティックに不思議がった。

 

「ガンバレー」

 

「イケー!」

 

「デシ!」

 

 遠くから、ヤジとあまり変わらない鼓舞の声が飛んできた。三人娘が拳を突き上げている。

 告白でもされそうなシチュエーションだと、場にそぐわぬ身格好をしているくせして、ゲンジはそんなことを思う。

 

 そして、タイツの上に履いたパンツの端をギュッと掴んだハクが顔を上げた。

 

「あの!」

 

『なんだ』

 

「あの時、私とリッカを助けてくれて──本当にありがとうございました!」

 

『…………』

 

「ただ、それが言いたくて……」

 

『やはり、君は強いな』

 

「え?」

 

『正直、恨み節の一つでも言われるものかと思っていた』

 

「そ、そんなことないですよー!」

 

 ブンブンと手を横に振る。

 

「命を助けてもらって、それで恨みなんて…………感謝しかないです!」

 

 しかし、ゲンジには見えていた。

 女子に対して、デリカシーなく指摘する。

 

『その首の傷、それはあの時の戦闘でついたものだな』

 

 もう痛みはないのであろう白くなった部分。

 しかし、確かに傷跡が残っていた。

 

「あ……はい」

 

『──やはり、君と彼女には俺を殴る資格がある』

 

「彼女?」

 

 リッカを見るゲンジ。

 

「私もあいつも、そんなこと気にしてないですよ〜?」

 

『……』

 

「天忍として生きる以上は、こういう傷を負うのは覚悟してますし、慣れっこですから!」

 

 むん! と腕に力を込める。

 よく引き締まった、アスリートの身体というやつだ。

 しかし、ゲンジは首を振る。

 

『関係ないんだ』

 

「へ?」

 

『女の子である以上は、君が天忍かどうかは関係ない』

 

 如何な理由があるとて、女子供が死の淵に追いやられるのを許容したのだ。

 それは許されることではない。

 

「……は、はい」

 

 ヒサメのように学校生活を経験したりすれば別として──陰日向に活動している性質上、女子として見られるという事自体が稀な天忍。

 その中でも免疫が低いハクは、顔から湯気が出ていた。

 

 相手は顔すら知れないサイバー忍者だが。

 

『何か希望を言ってくれ、俺ができる範囲でなら叶えよう』

 

「──え!?」

 

『西条六花、君もだ』

 

「……わたくしもですの?」

 

 いきなりどデカい選択肢が降ってきた。

 目の前のサイバー忍者に、なんでも1つ言うことを聞かせられる。

 リッカと合わせて2つ。

 

 大侵攻を、一地域とはいえ即座に鎮圧した超級の存在。

 そんな相手に対しての命令権を手にするというのは、中々できるものではない。

 少なくとも、天忍という組織をバックに掲げての交渉から始まっていたら得られなかっただろう。

 

『贅沢を言わせてもらえるなら──この衆人環境の中で仮面を脱げとか、天忍所属になれ、というのはやめてもらえると助かる』

 

「そ、そんな失礼なこと言いません!」

 

「そうですわ! わたくし達をなんだと思っているんですの!」

 

『──そうか、そうだな。失礼な物言いをした、すまない』

 

「……その……やっぱり身バレするのは嫌ですか?」

 

『普段は普通に生活しているからな』

 

「え? それで?」

 

 指差すのは全身を覆うサイバネティックな忍装。

 こんな姿でスーパーに行ったら目立ってしょうがない。

 

『これはあくまで鎧、俺は生身の人間だよ』

 

「やっぱりロボットじゃないんだ……」

 

『そう、ロボットじゃない』

 

「…………その……みんなに見せろとは言わないんですけど、どんな姿をしてるかが──」

 

「ハクさん!? こんな貴重な権利をそんなことに使うのはおやめくださる!?」

 

 リッカが声を荒げた。

 この権利があれば──本当に必要な時、彼を動かすことができる。

 そして、彼はできるならばと言った。

 つまり最悪は、天忍に所属することも許すということだ。

 

「アンノ──失礼、ゲンジ様」

 

『なんだ』

 

「どうして天忍に所属するのが嫌なのですか? 貴方ほどの方ならば、例え総本部でも指図することはできませんし、援助などだけを公的に受けられるようになりますわ」

 

『ふむ』

 

「身元を明かすのが嫌だというのは理解できます。ですが天忍は元々、一般に対しては秘匿された存在。貴方の恐れるようなことは起こりません──とは言っても、わたくしのような木端の言葉など信用ならないでしょうが……」

 

『自分を卑下するな、西条六花』

 

「はい?」

 

『君の戦う姿──美しく気高い、凛と立つ華のような魂の有りようを、俺は確とこの目に刻み付けた。君は、決して木端などではない』

 

「あ、あら?」

 

 真正面から褒め言葉をぶつけられ、流石のリッカも常の余裕を崩して頬に手を当て、気付いた。

 コイツ、私を揶揄っておいて……とハクがジト目をぶつけてきていたのだ。

 

 しかし、ゲンジは真面目に続きを話す。

 

『俺にとって、オーバーウォッチであるという事は誇りなんだ』

 

「誇り……」

 

『俺の願いを叶えてくれた仲間との絆そのもの──今でも、この胸の中には彼らとの出会いと、そして共に過ごした日々が残っている』

 

 フッ、とリッカは息を吹いた。

 

「ならば、仕方ありませんわね」

 

 自分たちが天忍であることを誇りに思うように、彼にもまた、魂を預けた組織──オーバーウォッチがあった。

 

『──感謝する』

 

「オーバーウォッチの仲間達は、皆貴方のように強いのですか?」

 

『俺のように? ……ハハハハ! 俺など彼らの足元にも及ばないさ』

 

「うっそだろ!?」

 

 サキが、驚きで声を上げた。

 あの光景を見た後で、あれを超える強さを想像できる気がしなかった。

 

「あんたより強い奴らがいたのか!?」

 

『無論だ』

 

「マジかよ……」

 

『──来たか』

 

 極めて静穏なヘリが、やってきた。

 

 

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