忍者になりたいと願ったら陵辱モノのエロゲ世界に飛ばされた男 作:goldMg
『次の場所に到着するまで俺は眠らせてもらう』
座席に座ったゲンジは宣言した。
「眠る?」
『そうだ、俺は今から寝る』
隣に座ったヒサメは、キョトンと首を傾げた。
眠いのだろうか。
『眠いわけではない。次、いつ休めるかわからない以上は休める時に休むのが鉄則だ。習わなかったか?』
「な、習いました」
習いはした。
しかし先ほどの光景を見てしまった高揚感と、次の戦場へ向かう緊張。
これが合わさると心臓が高鳴って寝られるような気分ではない。
『そうだろう? だから寝る』
ゲンジは腕組みをして壁にもたれかかった。
そして、ぷつりと糸が切れたように全身の光が消える。
『──ぐごおおおおお』
「いや、いびきうるさっ」
サキが思わず突っ込む。
『すぴぃぃぃぃぃ、ふしゅるるるる、くかあああああ』
「くくっ、マジかよこいつ」
その姿は、電車で爆睡しているサラリーマンそのものだった。
『んぐごごごごご』
「……ぷっ」
「おほほほ! 愉快ですわあ!」
セカンドオーダーの2人は、あの超人の意外な姿に笑いをこぼした。
そして、中身が人間であることが本当なのだと、実感をもって納得した。
『んごごごごご』
「いーっひっひっひ!」
ミクは腹を抱えて笑い転げていた。
許されるならば動画を残したいくらいにはギャップが酷すぎた。
そして、おかしな光景に他の4人が多少なりとも笑っている中、ただ1人だけは反応が違った。
「…………うそ」
『すかぁ〜〜〜、すぅ〜〜、おごごごごごご』
両手で口を抑え、目を見開いている。
そしてゲンジのヘルムをマジマジと見つめた。
「……ヒサメ、どうした?」
「うそ、だよね?」
サキの疑問を無視して、揺れる瞳でゲンジを見つめる。
全員が、そんなヒサメに気付いた。
何か様子がおかしい。
サキはヒサメの肩に手を置き、揺さぶる。
「おい、ヒサメ!」
「──っ! ん、うん、な、なにかな!?」
「なにかな、じゃねえよ! お前がどうしたんだよ!」
「あ、あぁ〜………………なんでもないっ!」
迷いに迷った末、笑顔で誤魔化した。
「なんでもないわけないだろお〜!」
「いひゃいいひゃい! つねらないへ!」
赤くなった頬を抑え、尚も同じことを繰り返す。
「だから、本当になんでもないよ」
「本当かぁ〜?」
「うん!」
「……はぁ」
自らを見つめるまっすぐな瞳に、サキは観念した。
お手上げだ。
こうなってしまっては、口を割らないだろう。
「悪いことじゃないんだな?」
「なんのことかなあ〜」
弛緩した空気が流れるヘリの中で、うるさいイビキだけが響いていた。
『ぐごおおおおお』
──────
「はぁ、はぁ、はぁ……うぅ〜……!」
地獄。
そう、この世に地獄が顕現していた。
魔物が闊歩している。
三級ですら、彼女1人では未だ及ばぬ等級。
だというのにほとんどが二級。
「むり、むり、むり、むり……!」
彼女は瓦礫の中に身を潜めている。
一緒に戦っていた仲間ともはぐれてしまった。
手に馴染んだ王弓ミランダも、今はなんの役にも立たないガラクタ同然だ。
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
目を瞑り、耳を塞ぐ。
彼女には耐えられなかった。
外から聞こえてくる悲鳴と、地響き。
何もできない自らを呪いながら、見捨てることへの謝罪をし続ける。
本部からの指令も途絶えた。
何をする事もできず、ここで終わる。
天忍であるにも関わらず、そんな確信をしていた。
しかし誰であろうと、彼女を責められるはずがなかった。
すでに、彼女は何度も立ち上がっていたのだ。
立ち上がり抗った上で、ボロボロになるまでに追いやられていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ヒッ!?」
突然、彼女の隠れていた瓦礫がなくなり、光が入った。
持ち上げたのは、匂いを嗅ぎつけたゴリラ型の魔物だった。
恐怖して疲れ切ったメスのフェロモンに、股間がいきり立っている。
下劣で、醜悪な存在。
本来なら、彼女が討滅するべき敵。
「──い、いや……いやだ……いやだ…………」
弓を取り落とし、後ずさる。
完全に腰が抜けていた。
早く武器を取らなければ、彼女の未来は潰えるだろう。
いや、取り落としていようがいまいが関係ない。
彼女にはもう、武器を操るための体力も、立ち向かうための気力も、一切残っていないのだから。
魔物が瓦礫を放り投げ、彼女に手を伸ばした。
けむくじゃらで、人よりも大きな手。
あれに捕まれたら、逃げ出すことは叶わない。
待っているのは陵辱か、もっと酷い結末か。
恐怖と絶望に沈む少女の表情を見て、魔物は醜い顔面をさらに歪めた。
「──ひっ……た、たすけて……だれか助けて……いやだ……! いやだよ! いや────ぇ……?」
涙と鼻水が光る顔のまま、困惑の声を上げる。
大気が緑に光ったかと思ったら、目の前の魔物が縦半分になった。
そして巻き上がる風。
魔物はどしゃりと地に沈んだ。
「……え?」
少し離れたところにいた魔物達も、同じように刻まれていく。
今まさに血霞と化す直前だった市民が、足をもがれそうになっていた影が、肩に噛みつかれていた天忍が、恐怖から崩れ落ちる。
仲間へ向けて、彼女は叫んだ。
「ミカ……!」
皆、何が起きたかわからずに呆然としていた。
ただ一つだけ確かなのは、目の前にいたクソッタレの怪物はくたばり、よわっちい自分が生き残ったということ。
そして、その原因が今、街を荒らし回っていた。
「あれは──」
崩壊した街を、遠くからでもわかるような緑色の光が抜けていく。
光は尾を引き、壁を駆け上り、宙を舞う。
後に残るのは切り刻まれた怪物だけ。
空中に飛び出した光は、尚も進み続ける。
上下にブレながら飛行型の怪物達を通り過ぎる。
バラバラになって落ちる死体。
その光景はまるで──
「──龍?」
一匹の龍が、魔物を丸ごと飲み込み、かみ砕いたような。
そんな光景。
そして、複数の足音が近づいて来た。
すわ新手かと身を固くする。
「──だぁぁあ! はええんだよあいつ!」
「やっぱり、すごい……」
振り返ると、忍装に身を包んだ五人組。
だけどおかしい。
この街の守護を任されている天忍ではない。
そもそも三人に関しては、同期ではあるが別の街に配属されているはずだ。
懐かしい面々との顔合わせに戸惑いつつも、幻覚かと頬をつねる。
だって、こんな所にいる筈がないのだから。
自分たちに救援なんて来ない。
自分たちこそが救援だ。
そもそも指令室だってそんな事は要請していないだろう。
だけど──
「久しぶりだな、レン」
この声は、間違えようもない。
アイツの声だ。
「もう大丈夫だぜ」
「…………」
弓の試験でいつも勝てなかったアイツの声でしかない。
私がこの声を聞き間違えるはずがない。
「おーい、聞こえてるかー?」
「…………な……なんで……?」
「なんでって、そりゃあ──」
宵闇咲だ。
「助けに来たからだよ」
夢?
「宵闇ちゃん、お友達ー?」
「そうだぜ先輩、こいつは中込蓮(ナカゴメレン)。私と同じ弓使いだ」
夢じゃない。
本当にこの人達はここにいるんだ。
……いや、それより。
「な、なんで……自分の街は……?」
「それはね、あの人が助けてくれたの」
ヒサメが指さす先には、今も龍がその姿を見せている。
「あの龍が……人……?」
「やっぱそう見えるよな」
「……あれは天忍なの?」
「いいや?」
「え?」
当然のように肯定されると思った質問は、否定で返された。
天忍でないなら、なんなのか。
「……海外の人?」
「違う」
「…………じゃあ、誰?」
「それは私が説明しよう!」
ババン! と掌を見せるハク。
当然、初対面だ。
「直江白だよ、よろしくね〜」
「えと……中込蓮です」
「うん、よろしくナカゴメちゃん」
「ちゃん…………」
「それで、あの人だったね」
「はい」
「あの人がアンノウンだよ」
「え? …………最近噂になってた?」
「そう!」
「人、なんですか?」
「人だよ〜」
「直江さん達を助けたんですか?」
「うん、あの人も私たちと同じで人類を護ってるのさ」
「……だけど……天忍じゃないんですよね?」
「天忍だけが人類を守っているなんて、傲慢な勘違いって事だよ」
「………………」
「とにかく──もう、大丈夫だからね」
ハクは、後輩の肩を抱いて優しく囁いた。
「…………ふぐっ」
「……大丈夫、大丈夫だよ」
レンは張り詰めていた糸が切れたかのように、嗚咽を漏らし始めた。
ライバルのそんな姿を見て見ぬふりするだけの情けが、忍者であるサキにもあった。
やがて龍は街を一周し、蔓延っていた邪悪を根こそぎ蹴散らした。
──多くの犠牲があったが、この街にはこれ以上魔物が現れることはないだろう。
ゲンジはそう判断し、五人の元へ戻る。
そこで中込蓮の肩を抱くハクの姿を目にした。
今はハクに話しかけるべきではないと理解して、ヒサメに近付く。
『志村氷雨、もはやこの街にいる意味はない。俺は次の街へ向かう』
「はい! ……だけど、もう少しだけ待ってもらっても──」
『ダメだ』
「え」
『感傷に浸るのはあとだ、今は一刻の猶予もない』
「──わ、私は大丈夫です、直江さん」
レンは理解していた。
このサイバー忍者のなすべきこと。
自分のなすべきこと。
直江白たちのなすべきこと。
給油を行っていたヘリが到着するまでの短い間、レンはゲンジと会話をしていた。
「あの……ありがとう、ございました!」
『……』
「あ、あの……?」
『よく持ち堪えた、中込蓮』
「──私の名前を!?」
『当たり前だ、人類の守護者の名前を覚えないのは道義に反する』
「……人類の……守護者」
『そうだ、中込蓮。君たちは一人一人が人の世界を守る守護者であり、ヒーローなのだ』
拳をレンの前に突き出す。
導かれるようにレンも拳を突き出し、コツンと合わせた。
まるで、今までもそうしてきたかのように。
『力だけではない、守るべきものを守ろうとする心を保ち続けてくれ、中込蓮』
「──はい!」
到着したヘリに乗り込み、再び座席に座るとサキが冷やかす。
「かっくい〜!」
『?』
「ああやって女の子を口説くのかぁ?」
『そうだな』
「は」
『だが、俺は今この場にゲンジとして立っている。その状況でそんな事は決してしない』
「……は、はい」
真面目に返され、自分の浅ましさを恥じたサキを優しい目(ヘルム越しにそんな雰囲気を感じた)で見たゲンジは、さて、と呟いた。
『俺は再び寝る』
「また?」
『何度でもいつでも、必要ならば寝る…………ぐごおおおお!』
「だからイビキうるせえって……」
「というか、この人はいつになったらこの鎧を脱ぐんでし?」
「私たちがいる限りは脱がねえだろ」
それは当然の話だ。
守護者として同道するという事と、身元を明かさないという事は両立する。
例え同じ方向を向いていたとして、協力者の身元を無理やり知ろうとするなど、恥知らずもいいところだ。
──────
総本部 指令室
「新たな魔人、出現! 周囲には第一等級が10体です!」
「ええい! アライオスの装填はまだか!」
「5分かかります!」
「くそっ!」
「各地本部より、救援要請! ……いえ、竜胆本部以外からです!」
「ダメだ、間に合わない……!」
「──石見優香(イワミユウカ)、現着しました!」
「他のファーストオーダー同様、魔人に当てろ!」
情報が縦横無尽に飛び交い、指示もひっきりなしに飛ぶ。
部も課も超えて、全ての天忍や影が必死に防衛を行なっていた。
引退して、今は指揮系統を担当していた職員もかつての忍装を身につける事態。
非常事態の対応として、一応のマニュアルはあった。
もはや棚の奥に仕舞われていたそれを引っ張り出して、なんとか今のシステムに当てはめて考えて、即席の対応策を練った。
「まるでアテにならんではないか!」
「仕方ないだろう! 50年前の襲撃を元に作られていたものなんだぞ!」
「やめろ貴様ら……桔梗本部は壊滅状態だ……雛罌粟(ヒナゲシ)も、銀杏(イチョウ)も……なぜ、竜胆だけが……」
「──失礼します!」
「なんだ! いまは会議中だぞ!」
「竜胆市の情報が入りました!」
「なにっ!? 今すぐ見せろ!」
端末へと送られた情報を閲覧し、肩を震わせる。
「なんだコレは──!?」
最も目を引くのはアンノウンの正体、そしてその戦果。
「オーバーウォッチ所属 ゲンジ……これがアンノウンの正体なのか……」
「侵攻を10分で殲滅!?」
「大量破壊兵器でも有しているのか?」
「ん? …………龍とはなんだ?」
「龍?」
「龍って、あの龍だよな……?」
「なんだこの報告は、まるでわからんぞ」
「オーバーウォッチってなんだよ」
報告書に書いてある内容自体は意味不明だったが、どうやら実力は本物らしい。
流石は天忍の探知を悉く掻い潜るだけのことはある。
だか、驚きなのは──
「一人で活動…………は?」
「そんなことがあり得るのか?」
「──どうでもいい! 大事なのは、いかにしてこいつをあてがうかだ!」
「そうだ! 戦力としてはファーストオーダー以上、今すぐこっちに来させろ!」
「いえ、それが……」
「……既に各地に向かっているぅ!?」
「失礼します!」
「なんだ! またか!」
「お、送ります!」
震える声で送信された情報。
今度こそ、時が止まったような感覚に陥った。
「──太平洋上に未知の大陸が出現、だと?」
──────
昼間、散々動き回った五人は宿に泊まっていた。
テレビをつけて、新大陸発見の報に驚愕する。
「おいおい……」
「マジでし?」
「すごーい!」
「…………」
「ハクさん、どうかしたのですか?」
「うん……ゲンジさんは今も戦っているのに、良いのかなって」
「いけませんわよ」
「え?」
「ここに残ったのは、これ以上の活動は無理だと御自身でも分かっているからでしょう?」
「…………」
「それなら今日は休んで……明日、必ずあのお方のところに馳せ参じましょう」
「……うん」
五人は疲労度や明日のことを考えて宿に泊まるよう指示が下った。ゲンジにも同じ指示は飛んでいたが、本人がそれを跳ね除けたのだ。
『俺はあなた方の指揮下には無い。ヘリが飛ばせないのならば、走っていくまでだ』
『は、走っていく?』
『今も襲撃は続いているのだろう?』
『そうだが……』
『潮目雲雀』
『な、なんだ』
『失ったものは、二度と戻ってはこないのだ』
『──』
ヒバリは自失しかけた。
そして思う。
──この男があの時、私たちのそばにいてくれたのなら。
唇を噛み締め、そして口を開いた。
『頼むっ……私たちの……私の代わりに……!』
『──承知した!』
身を翻したゲンジは救援用の物資を担ぎ、夕闇の中を凄まじい速度で駆けて行った。
『なんで…………もっと、早く……』
小さな呟きを、聞こえなかったことにして。