魔眼で壊れ行く学園生活。 作:デカ女推奨委員会
そして真夜中。僕とフリードとアーシアは、レイナーレに指定された家へとやって来ていた。
目標はただ一つ。この家の中に住んでいる、グレモリー眷属との契約者の抹殺だ。まあ契約者って言っても非力な一般人だから、やることは人殺しな訳だけど。一応名分としては「悪魔祓い」って事になってる。
「つーわけでアーシアちゃんとエロガキは、探知避けの結界を張るんですよっ。俺様のお楽しmゲフンゲフン、お仕事に邪魔が入らないようにね?ちゃんとお仕事するザンスよ?」
「はいっ!」
「うーい。」
だから既に下衆気配の隠せないフリードに対し、アーシアは目をキラキラさせて頷いている。一応「この家に悪い悪魔が住み着いているからそれ追い払う」って名目だからな。まさか一般人ブチ殺す汚れ仕事の片棒だなんて思っちゃいないんですよこの聖女様は。
「遊太郎さま!フリードさんが中で安心してお仕事できるよう、頑張りましょうね!!」
「………………おー。」
んで人員配備で完全に失念してたんだけどね。なんかめっっっちゃ僕が過保護に守られてるなくらいしか思ってなかったんだけど。これ僕とアーシアが外に二人で、フリードが中に突撃するじゃんね?
つまりアーシアと二人きりになるわけで。魅了の魔眼の毒牙に掛かっても、抱きつくだけで収まるガチモンの純粋無垢と二人きりになるわけで。
(────居心地わるッッッ。)
「?どうしました遊太郎さま。……私の顔を見ないようにしてますけど、私なにかしちゃいました?」
「いいや別に。気にするな。」
僕より背は高いが、顔は見ないようにしつつアーシアの顎を軽く撫でる。ほんと、こんな純粋無垢を魅了の魔眼で魅了しようもんなら罪悪感で首吊りかねんからな。そんな聖女様と二人きりとは、本当に僕にとってはある意味で地獄なんだよ。百パー僕が悪いんだけど。
それに前は抱きつくだけで済んでいたけど、アーシアも散々レイナーレが僕に盛り散らすところ見てるからな。今回うっかり魅了しようものなら、どんな事故を引き起こすか想像がつかない。
そして「絶対に魅了しちゃいけない」と思い詰めれば詰めるほど、逆に意識してしまうのが人間というもの。更に付け加えるならアーシアは僕が初対面で魅了やらかすレベルの美少女です。ついでに前に抱きしめられた時分かったけど、普通にミッテルトよりスタイルいいです。結構ありました。
なあやっぱ一番僕と二人きりにしちゃいけない人選じゃないか???
………まあそれ言うなら僕と二人きりどころか、こんな罰当たりの肥溜めに居ちゃいけない人種No.1だが。何やらかしたらこんな教会に飛ばされてきたんだか。
なんて、片手間に結界の編成を行いながら考えることでアーシアから気を逸らしてたんだけど。
「それがですね?……私、昔治療した人が悪魔で……」
「!?……あー。それで異端認定されたか。」
「はい。……悪魔を癒せるような神器は、邪悪だって言われちゃいました。」
気を逸らそうと必死になるあまり声に出てたらしい。不意にアーシアが僕に、そう告白してきた。
まあ神聖な宗教ってのはそこら辺厳しいイメージはあるが。とんでもない厄ネタ仕込んでるとかでなくて、なんか安心はした。要はこの娘、悪魔でも助けてしまうくらい優しい娘ってだけだから。
………ほんと叩いて埃の一つでも出れば、こんな魅了を警戒して距離置く必要も無いのに。うっかり魅了しても「まあいいか」で済めば、普通に話せるのに。済まねえんだもんこの聖女様はさあ。
「……遊太郎さまは、私に好きになられるのが嫌なんですか?」
「君はいい娘だからな。あんな
「………………………〜〜〜〜〜〜ッ///」
結構前から声に出てたのか、アーシアが恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。けど僕の言葉を聞けばナニを想像したのか、見るまでもなく分かるほどに真っ赤になって悶絶してしまった。案外ムッツリらしい。そういう事に興味湧いたばっかりだもんな仕方ない。
んでそういう頃合いの娘に対して魅了の魔眼は一番の毒だ。一度魅了したが最後、どんな暴走を引き起こすか想像がつかない。
だから何かの拍子に事故る前に早く終わらせてくれフリード。さっさと目標の人間ぶち殺してずらからせてくれフリード。この状況でアーシアと二人きりは、あまりに間違いが起きるのが時間の問題すぎる。
(………そっか。遊太郎さま、私のこと大切に考えてくれてるんだ。優しい……)
んで何を考えてんのか、悶々としながらもアーシアの視線がチラチラこっち向いてるし。余計なこと考えるなよほんと。僕が魅了するのは、魅了しても心が痛まないやつだけって決めてるんだから。せめてそのくらいの囁かな願いは叶えさせてくれ。叶った試し無いけども。
……薄ら危険を感じたから、夜の闇の中でぼんやり赤く輝く両眼を手で塞ぐ。時折出くわすんだよな。こういう「魅了するのが怖い」って感じる人間が。大体の外道や悪党も、人間人外問わずに許容できる僕が唯一苦手な人種だ。触れ合い方がマジで分からん。
だから早く終わらせてくれと。そう、僕がとっくに死んだ神に祈っていた時である。
「グワーッ!?サヨナラ!!!」
「お。」
フリードの突撃した家屋の中から成人男性の断末魔が聞こえた。突然響いた人間の声にアーシアは身体を跳ね上がらせ、目に見えて動揺している。心の準備が出来てなきゃこんなものだろう。
「ゆ、遊太郎さま!中から人の悲鳴が………!!」
「僕が様子を見てくる。アーシアはここにいて。」
「!!………、はい!!」
そうアーシアに言い聞かせた後、僕は裏口から家の中へと足を運ぶ。何にしろ助かった。あそこを離れる大義名分が出来た。あの場でアーシアと二人きりは、色々な意味で生きた心地がしなかったからな。
だからこそ僕は中に入るだけに留まらず、奥の客間へと足を進めた。何なら中入った時点から悪臭はしていたが、それは客間に近付くにつれてより鉄のそれを含んだ死臭に変わる。
そして────
「────おやおやケダモノくん。寂しくなって俺様に会いに来ちゃったんでちゅか?てっきり聖女様とおっぱじめてるかと思ってやした。」
「……その男が契約者か。早かったなフリード。」
「当然です。プロですからっ☆」
行儀悪くソファに腰掛けたフリードが、仰け反りながらこっちにピースとウィンクを寄越す。普段と全く変わらない舐めきった態度だが、その足元には血溜まりに沈んだ成人男性の骸が転がっている。何なら内臓も零れてる。惨い殺し方しやがる。
幸いな事にそれだけだ。迅速……と言うには少し手間取ったようにも思えたが、グレモリーの眷属が来る前にフリードはやってくれた。
これで後はさっさと撤収すれば仕事は完遂。おまけにグレモリーと顔を合わせることも無く、僕がこの汚れ仕事に加担した事はバレずに済む。
だから仕事の確認を済ませた以上、僕はさっさと帰りたいんだが。そんな僕の思惑とは裏腹に、何故かフリードはソファに腰掛けたまま依然寛いでいる。なにのんびりしてんだこいつ。
「フリード。仕事が片付いたのならさっさと退くぞ。何くつろいでんだお前。」
「やーねえ遊太郎くん。あんた馬鹿ァ?」
「あ"?」
だから急かしたらフリードの奴は勢いよく中指を立てやがった。んーーー困ったな。このクソ神父が何をろくでもない事考えてるのか、手に取るように分かるぞ。
「あのね遊太郎くん?この人間の屑は悪魔を呼んでたんですよ?つまり、呼んでた悪魔がこれから来るわけです。ドゥーユーアンダスターンドゥ???」
「だからさっさと退くぞって言ってんだろうが。」
「はー……これだから骨なしチキンは。これから来る悪魔をみすみす見逃して帰還とか、金玉ついてるんですか?女々しいのは
はい。思った通りでした。このアホ神父、ついでとばかりに召喚されたグレモリー眷属とやり合うつもりです。あたかも正論ほざいてる雰囲気出してますが、完全に趣味で殺す気満々です。
あとこの死んでるのが召喚やってたなら、間違いなく来るのは一誠ですね。普通の悪魔は魔法陣で呼んだら即来るので。魔法陣使えないカス悪魔が来ることまで見越して、フリードは出待ち構えてる訳です。
………とはいえ、だ。
「………好きにしろ。どのみち非戦闘員が居ても足手まといだろうからな。残業は一人で勝手にやってくれ。僕は帰る。」
「はいはいお構いなく!表のアーシアちゃん共々、定時退社して構いやせんよ!!帰ってあのクソデカ堕天使様の面倒でも見てなさいな!!」
悪魔になったばかりと舐めているが、一誠は
だからここは僕も帰らせてもらう。僕が居合わせたのを一誠に見られるのは避けたいし、面と向かって一誠に加勢する事も出来ないからな。一応保険程度に「仕事終わった」ってアーシアに結界だけ解かせるが。そうすれば直にグレモリーの連中が加勢に来るだろう。
「………………お邪魔しまーす。」
………なんて、僕がその場を立ち去ろうとした時だった。なんか反対側の扉が空いて、聞き覚えのある声と顔が覗いた。
「って、卯月!?お前が俺を呼んだのか!?」
「ッ、スゥーーー(深呼吸)」
で、バッチリ顔を認識された。そりゃ天井のひとつも仰ぎたくなりますよ。来るのはええんだよこのおっぱい星人は。しかもフリードはフリードで、僕と一誠を交互に見やる。
そういやこいつ────というより教会の連中、僕がグレモリーの連中とも関係持ってるの知らないのか。バイサー戦の時もグレモリー達が来る前に逃げたものな。
なんか面倒なこと知られた気がしてならないんだが。
「え?なに!?やだやだお二人さん知り合い!?悪魔と仲良しなんて、そういう事なら早く言いなさいよ遊太郎くん!!そうすりゃもっと早くぶち殺して差し上げたのに!!」
「………卯月?誰だこの────ッ!??」
「はー……マジ最悪………」
「僕を殺すための免罪符を見つけた」とばかりに、フリードがウッキウキで僕に光の刃を向ける。そりゃそうだ。安眠妨害にお守りに鉄砲玉と、フリードは僕のこと殺したい理由が有り余ってるものな。そうでなくとも悪魔陣営とも通じてるとなれば、スパイ疑惑は免れられない。
それでも僕を殺せばレイナーレが黙ってない…….というか、間違いなくブチ切れて大暴れするのが分かるのだろう。フリードは直ぐに僕に向けた光の刃を下ろし、その鋒を惨殺死体に嘔吐する一誠に向けた。
「……なんつって!お前ブチ殺すと俺様がレイナーレ様に殺されちまうからな!!そこの腐れ悪魔くん殺しゃ、それ以上の詮索は辞めますよっと!!」
「………………ッ!??お前、何言って………卯月!?」
「ささ、どうぞどうぞ!!バッサリやっちゃってくだせえ旦那!!あんたが裏切ってると知りゃ、かのレイナーレ様が悲しみますぜ!!」
フリードが嬉々として光の刃を僕に差し出す。やっぱそうなるよな。絶ッ対そうなると思った。流石に友人ぶっ殺せってなると話が変わってくるんだが?カスの癖に正論持ち出して嫌がらせしおってからに。
とはいえ僕はレイナーレがお膳立てしてくれた手前、ここで面と向かってフリードを裏切る事も出来ない。かと言って一誠を手に掛けるのも御免被りたい。
ならどうしたものか。答えは決まっている。
「……ま、そうなるよな。構えな一誠。グレモリーのためにもここで死にたくはないだろ。」
「なんでだよ卯月……なんでお前が、そんな人殺しの外道なんかとつるんでんだ!!くそっ!!マジでやる気か!?」
「これが男相手の処世術ってやつだよ。行くぞ。」
一誠が赤龍帝の篭手を出現させたのを見計らい、フリードから受け取った光の刃を手の中で回す。そして一歩で一誠へと距離を詰めると、僕は振るわれた一誠の左手に対して刃を降ろす。
そうすれば赤龍帝の篭手と光の刃が衝突し、凄まじい金属音を立てる。それを見たフリードは、態とらしく口笛を鳴らした。
「ヒュウ〜、まさか神器持ちの悪魔さんたぁね。んでエロガキも案外動くねえ。こりゃいい見ものだ。ヒヒッ。」
「なんでだよ卯月!!なんで俺と、お前が戦わなきゃならねえんだ!!」
「生憎と僕は男との対話手段は
篭手の殴打を剣で弾きつつ、赤龍帝の篭手の能力を用いるよう促す。結果シンプルに煽りになったが、グレモリーの名を出したのが功を奏したらしい。一誠は赤龍帝の篭手を一等大きく振りかぶると、歯を食いしばりながら渾身の一撃を繰り出してきた。
「ッ、らあ!!!!!」
「とと。いい一撃じゃねえか。」
結果、僕は両手で握りしめた光の刃で一誠と鍔迫り合いを演じる形になる。そしてこうも分かりやすい隙を晒せば、それを見逃すほど一誠はバカでは無い。
「今だ!ドライグ!!」『Boost!!!』
「なにっ。」
「これで、終わりだあぁぁ!!!」
赤龍帝の篭手の宝玉が音声と共に輝きを放つ。それと同時に倍となった一誠の素の右腕は、物の見事に僕の身体を壁へと吹っ飛ばした。
お陰で僕は相当な速度で壁に叩きつけられ、そのままぐったりと崩れ落ちる。何やら一誠は驚いた顔で僕の方を見てるが……どうしたやらな。
「………あれっ!?俺、今……」
「あららもう終わり?神器持ちで悪魔相手とはいえ情けないねえ遊太郎くん。これはこれでいいザマで見ものですけど!!」
「僕は非ィ戦闘員だって言ってんだろ……ぐふっ。くそ、マジで背中痛え………」
「卯月、大丈────」
んで僕が戦闘不能と判断してか否か。崩れ落ちた僕に駆け寄ろうとする一誠の行方をフリードの光の刃が遮る。ある意味で助かった。
「オット!穢らわしいクソ悪魔さんのお触りは禁止しておりましてよ!!こいつはこいつで愛液塗れでばっちいんですけどねフヒヒ!!」
「くそっ、てめえは何なんだ!?人を殺したり卯月をけしかけたり!!仮にも神父だろうが!!」
「俺様の名前はフリード・セルゼン。悪魔やそれに縋る人間の屑を殺すスペシャリストにござあい………ますッ!!」
そして辛抱堪らんとばかりにフリードは、一誠に向けて刃を振りかぶって斬り掛かる。一応一誠の側では僕が無理やり戦わされたって認識になってるそうなので尚のこと良し。最悪フリードが訝しんだとして、レイナーレに「悪魔と知り合いだったの許して」って言や一回ブチ犯されるくらいで許されるだろう。
あとは一誠がフリードを倒してくれればいいのだが。何なら最悪殺してくれてもいいが。さっき僕に一撃叩き込む際の倍化の力が残ってるのか。フリードの光の刃をあっさり受け止めると、そのまま体重を掛けて押し返した。素人目に分かるほどの優勢である。
「ッ、このパワー……こりゃさては一端の神器じゃねえな?あのオスガキじゃ役に立たねえ訳うおっと!?」
「逃がすか!!!」
「じゃ逃げませんよバキュン!!」
かと思いきやフリードは、距離離すフリして追い縋る一誠に大口径拳銃によるアンブッシュを敢行。モロ距離詰めようとしてた一誠の右肩を撃ち抜いた。
なあなんかこれ風向きヤバいか?
「いっ、でえ!?」
「ヒャハハいいザマだなクソ悪魔ァ!!対悪魔専用儀礼弾、お味はお気に召しましたかぁ?召さなくてももっとくれてやりますけどねえ!!」
倒れてのたうち回る一誠に向け、フリードが続けざまに一誠に引き金を引く。そうして放たれる光弾は対悪魔に特化した専用弾。悪魔を撃ち抜けば天使や堕天使の光の槍同様、傷口から肉体を焼くように蝕むらしい。
そしてそれは神滅具持ちとはいえ、悪魔である以上はどう足掻いても効く。まあ一誠は一誠で、倒れたまま転がることで上手いこと躱しているけども。或いはフリードがワザと外して転がして遊んでるか。恐らく後者。
だがいくら何でも遊びすぎたようだ。不意にフリードは、その追撃の手を止める。
「………あれあれあれっ!?弾出なくなっちゃった……弾切れかなあ?」
「ッ、しめたチャンス!!」『Boost!!』
弾切れになった拳銃を見やる傍ら、一誠が咄嗟に反撃に出る。反射的に起き上がると同時に振り上げた左腕が、二度目の倍化を発動する。
それこそ僕に使った時とは比べ物にならない、倍化を二回の四倍パワースマッシュだ。当たれば間違いなく再起不能になる。
だがそれを見た瞬間。フリードは左手の拳銃を投げ捨てると、一等邪悪な笑みを浮かべた。
「────なぁんつってなヴァアアカ!!!」
「い"っ!?」
フリードが左手の中指を思い切り立てると同時。あいつの中指の関節が赤い輝きを放った。ただそれだけで、僕の方から見ていて何が起きたかは分からない。
だが間違いないのは、フリードの目の前3cmくらいで一誠の拳が止まった。まるで見えない壁に阻まれるかのように、赤龍帝の篭手が止められたんだ。
そして。
「ぐっ………あ"ああああ!?!??」
振り抜いた一誠の拳が、文字通りに
そのせいで左手の赤龍帝の篭手は粉々に砕け散るよう霧散し、中から見るも無惨な左腕が覗く。指や関節があらぬ方向に曲がる程度は当たり前。その腕は折れた骨が皮膚を突き破り、どす黒く腫れ上がった血塗れの肉塊と化していた。
しかもそれが肘近くまでと言うのだから、その苦痛は想像を絶する。現に一誠は立ち上がることも出来ず、破壊された腕を全身で抱き込むように蹲っていた。きっとフリードの哄笑なんざ聞こえちゃいない。
「ヒャッハハハハ大成功ォ!!ほんっとお前さん、気持ちいいくらい俺様の思い通りに動いてくれるなぁ!?おい!!」
「いっ、でえぇ……!!俺の腕が……!!何が起きた………!?」
「脳筋のバカはこれだからやりやすくて大好きなんだ。殴る蹴るしか脳のねえ腐れ蛮族じゃ、五百万年経っても俺様にゃあ勝てねえんだよ!!」
そうフリードが左手の中指を勢いよく立てる。そこにはどういう訳か、アーシアの【
「【
「ゔ………………………ッ!!?」
フリードが一誠の身体を蹴り上げると同時。一誠の身体が尋常でない速度で打ち上げられ、天井に叩きつけられた。明らかに人間離れした身体能力の威力と、天井から再び床に叩きつけられた衝撃は、今度こそ一誠の意識を奪った。
フリード如きなら一誠に任せておいても勝手に倒してくれると思ったが前言撤回。あれ一誠じゃどう足掻いてもフリードには勝てないわ。シンプルに神器の相性が悪すぎる。
「さーて、と。この脳筋くんの頭の中身の比率を確かめますかね。何割くらいが筋肉かなっ。」
おまけに当然フリードは一誠の意識を奪った程度では満足しない。トドメを刺すべく、光の刃をクルクルと手で弄びながら歩み寄っている。
このままだと一誠が殺される。知らん人間の犠牲ならギリ許容したが、流石に友人や知り合いの類が死ぬのは僕的にも勘弁願いたい。喧嘩することの方が圧倒的に多いが、一誠は気兼ねなく接することが出来る数少ない友人なんでな。
そういう訳なので狸寝入りはここまでだ。僕はフリードに渡された光の刃の柄を、フリード目掛けて無言で軽く投げつける。
だが不意に投げつけたそれは、またしてもフリードに命中する前に静止。どころか僕の方に向けて、真っ直ぐ跳ね返ってきた。
………やはりな。作用するのは体表から3cmってとこか。そして死角からの投擲が跳ね返った辺り、普段は自動反射に設定されていると見た。
「………………んん?おやおやカスうさぎ様、やっっっとお目覚めざんすか?醜態晒して良く寝てましたねえマジで。つか今俺ちゃんになんか攻撃した?」
「フリード。いい加減退くぞ。今回の僕らの任務は契約者の抹殺だ。グレモリー眷属の抹殺は含まれていない。」
「またまたご冗談を!こんな死にかけの虫の息の悪魔くん、トドメ刺さない理由は無いでしょうに!!」
で、一応仕事上の建前で一誠の殺害を制止はした。結果はまあ予想通り。僕の一声如きでフリードが一誠殺害の手を止める訳がない。
じゃあどうするか?そんなものは決まっている。
「眷属を手に掛けたとあれば情の深いグレモリーの連中だ。報復が教会にまで飛び火すれば、僕らが面倒を被る。それでもお前の趣味を優先するなら、流石に力尽くで連れ帰るぞ。」
「とと、何?もしかして俺ちゃんと
そう臨戦態勢で僕が歩を進めたところで、フリードは僕に対する舐め腐った態度を崩さない。当然だ。一誠にワンパンで吹っ飛ばされていた僕が、全物理攻撃自動反射とかいうチート神器に勝てるわけが無い。そのくらい誰にでも分かる。
だからマジで僕が仕掛けるなんて思わなかったんだろうな。一瞬で距離を詰めると、フリードが驚きに目を見開いた。
そして一閃。加速から静止して上段の回し蹴りを振り抜けば────
「……バカが!!おねんねしてたから見てねえか!?俺様になあ、殴る蹴るの暴行は効かねえんだよ!!このボケナスマンゴスチン!!ヒャッハハハ!!!」
僕の爪先が、フリードの首を捉える三センチ前で止まる。それを見てフリードが下品極まる哄笑を上げ、勝利を確信する。
その上段回し蹴りがフリードの首を捉え、身体ごと吹っ飛ばすとも知らずに。
「………………ハァっ!??」
僕の爪先が首にめり込むと共に身体を捻ったことで、モロに
………やっぱりな。単純に物理エネルギーの衝突を反転させる神器なら、
挙句に非ィ戦闘員と思って僕を舐めてたらしいが。生憎こちとら毎日ヒグマよりもデカくて強い女の子に抱き潰されて鍛えられてんだよ。神器持っただけの木っ端に負けるふにゃオスなワケねえだろうが。
とはいえフリードが死なない程度には僕も加減した。せいぜい脳震盪くらいだから、しばらくすれば目を覚ますだろう。ついでにこのまま頭の打ちどころ悪くて記憶も消えてくれればいいんだが。一応もう何発か頭に蹴り入れとくか。
あとは………
「結界解除、と。」
僕はその場で指を鳴らし、人払いの結界を解除する。グレモリーに一誠の惨状を伝えるためだ。
何しろ一誠の左腕は人間なら治療不能な潰れ方をしているし、多分肋や内臓の幾つかもイってる。やらかした内容的にグレモリーとは会いたくないが、このまま放置すると幾ら悪魔でも死んだり後遺症が残りかねん。
だからさっさと連れ帰らせて治療できるよう、暗に異変を知らせたのだが。重ね重ねグレモリーと顔を合わせたくない僕は、今度こそこの場を後にしようとした。一応フリードも引きずっていく形で。
だがその時である。
「────遊太郎様!?大丈夫ですか!!結界が……」
「っと、アーシアか。そこで止まれ。」
「………………………………ッ!??」
「遅かったか。」
どうも結界が解けたのを「僕に何かあった」と思ったらしい。かなり慌てた様子でアーシアが事件現場に飛び込んできた。
そうなれば当然アーシアはこの惨状を目にするわけで。僕の制止も間に合わず、アーシアは口を抑えてその場に膝から崩れ落ちた。
「ひ………ひどい……なんで、こんな………」
「説明は後だ。ここは退くぞ。」
「………って、一誠さん!?どうしたんですか!??」
「なに?」
だが撤収を促す僕に反して不測の事態。どうにもアーシアと一誠は知り合いだったらしい。ボロボロの一誠を目にするなり、アーシアが飛び出すように駆け寄ってしまった。
そしてアーシアはと言うと、指に装着した神器────聖母の微笑をその場で解禁する。
「一誠さん、しっかりしてください!!今、治しますから!!」
「………まあ、そりゃそうなるか。」
目の前に怪我した知り合い。そして自分は回復能力持ち。当然治癒する以外の選択肢は無い。ましてや慈悲深いアーシアであれば尚のことだ。男に薄情な僕とは違うものな。
それに一誠が虫の息な以上、僕もアーシアの応急処置を止める理由は無い。ただグレモリーと顔を合わせたくない僕としては、さっさとずらかりたいわけで。
「……手早く済ませろアーシア。彼は悪魔だ。悪魔に治癒を施したと知れれば、レイナーレが君に何をするやら。」
「!!………一誠さんが、悪魔……??じゃあ………」
「ああ。結界を解いた以上、直に仲間が来る。そいつらから見れば、僕らは悪魔殺しの一団だ。敵に変わりない。」
だからさっさと退く必要がある。そう伝えはしたが、アーシアは治療を急ぐような様子は無い。そんな高速治癒を行う能力は無いか。
或いはうちの教会の闇を知って、この組織への疑念が生じたか。僕の言葉に対してアーシアは返事もなく黙り込んでしまっている。治癒に集中しているせいかもしれないが。
「………遊太郎さんは、知ってたんですか?今回やる仕事が、人を殺す仕事だって……」
「僕らは仕事場を整える役割だ。……人殺しは
「でも、人を殺すための結界です!!……こんな惨くて酷いこと、神様がお許しになる筈がありません………!!」
だがアーシアにとっての一番の絶望は、自らが人殺しの現場を整える片棒を担いだ事らしい。神の教えとやらがそんなに大事なのか。アーシアは今もなお一誠に治癒を施す傍ら、既に死んだ神に弱い声で懺悔を口にしている。
だからこそその祈りは、届いちゃいけない場所へと届いたらしい。
「────アーシア、伏せろ。」
「きゃっ!?」
促す傍らふと走る赤い閃光に、僕が目の前のテーブルを蹴り上げる。そうすればアーシアに向けて放たれたその赤黒い魔弾は、すんでのところで爆発する形で防がれた。
だが燃え尽きるように崩れゆく残骸と、土煙の向こう側。深紅の輝きと共に、背筋が凍てつくような声が響く。
「……私の可愛い
「あーあ、来ちまったか。」
「ゆ、遊太郎様……!?」
目の前には殺された契約者に、死に掛けの眷属。そして無傷な
そしてその場に他ならぬ僕が存在するという事実が、更に怒りの火に油を注いだのだろう。土煙の向こうから現れたそれは、最早魔王か何かを幻視する形相で僕を睨みつけていた。
「遊太郎……どうやら、本気で私に敵対したみたいね。死ぬ覚悟は出来たって事でいいのかしら?」
「まあ待てグレモリー。少し話を────」
「貴方は堕天使に媚びるために私の
元々好き勝手やってた僕が面と向かって喧嘩売った挙句、多分今いちばん可愛い眷属を虫の息にした結果か。完全に頭に血が昇ったグレモリーは、もはや僕の言葉に耳を貸す気配は無い。昔からキレると周り見えなくなる所は変わらない、か。
せめてもうちょい周り見て、部屋の隅に伸びてる
となればだ。さっさと一誠を回復して蘇らせ、一誠の口から説得してもらうのが一番早いだろう。そしてその間、アーシアにグレモリー眷属が危害を加えないよう時間を稼ぐ必要がある。あっち視点だとアーシアは、満身創痍の一誠になにかやらかしてる敵でしかないからな。
……問題は、僕にこの悪魔軍団を相手に出来るかって話だが。
「覚悟なさい遊太郎……!!私を差し置いて堕天使に下った愚行、そして私の眷属を傷つけた罪………死を以て贖うと良いわ!!」
「こうなるの目に見えてたから嫌だったのに。」
ご丁寧に眷属全員が臨戦態勢に入る中、僕への災難は続いていく。やはり悪事と分かって加担すると、どんなに小賢しく立ち回っても必ず報いは受ける。そんなこの世の真理を、僕は身を以て知るのであった。
聖母の微笑と同じ指輪型の神器。赤い菱形の宝石をあしらったもので、両手の中指に装着される。
所有者の体表から3cmほどの距離に不可視の膜を張り、膜に干渉した力の
その性質から魔力を伴わない攻撃の大半は反射が可能で、衝撃を一点に集中させることで威力の強化も行える。攻防共に神滅具に迫りかねないほどに凶悪な神器。但し攻撃原理の不明瞭な魔力による攻撃は反射出来ず、同様の理由で不可視の攻撃も防御不能。
所有者のフリードはその性能にかまけ、基本的には攻撃の反射による相手の自滅を誘う舐めプに専念している。そうした自動反射を悪用され、卯月に渾身の蹴りを叩き込まれた。