東方原罪録   作:はるばーど

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前回から間が空いてしまい、大変申し訳ございません。多忙につき、投稿が遅くなってしまいました。

前置きはこれくらいにして。では、どうぞ。


第五章 淡雪

 

 

「あの子はどう?」

 

 

あれから数日たった。紅魔館、その館主の間にてレミリアと美鈴が話をしていた。

 

内容については無論、湖の死体の中から見つけた生き残り。その安否について話し合っているところだった。

 

 

「ええ、ぐっすりと眠っていますよ。ひどい傷でしたが何とかなってよかったです」

 

「しかし、あのお嬢様が人助けをするとはちょっと意外でしたけどね」

 

「そうね…いくら気まぐれだったとはいえ、私のかつての栄光はどこへやら。すっかり甘くなったものね…」

 

 

そう言うと、レミリアは何とも言えない表情を浮かべてはぁっ、とため息をついた。

その姿は何処か人間味を帯びており、美鈴は意外そうな顔を浮かべていた。

 

何故、人間に対して冷酷非情は感情を抱く彼女がこのような行動をとったのか。

定かではないが、少なくとも幻想郷に来る前には決してみられなかった彼女の良心。それが、きっとレミリアの心を突き動かし、行動に移したのだろう、と。

美鈴はそう考えていた。

 

 

「まぁ、そういった意味では幻想郷に来て良かったのかもしれないですね」

 

「何か言ったかしら」

 

「い、いえなんでもありません!」

 

 

鋭い眼光に思わず、美鈴はたじろいでしまった。良心はあくまで一瞬の時にしか輝かないのだと。

美鈴は思い知らされたのだった。

 

すると、咲夜が突如として姿を現した。その存在を確認したレミリアは、にやりと微笑んだ。

 

 

「お嬢様。例の”客人”がお目覚めになりました。美鈴、ご苦労だったわ。門番に戻りなさい」

 

「分かったわ。咲夜、案内して」

 

 

レミリアはその場にいた美鈴を連れ、咲夜と共にそのお客人の元へと向かった。

 

 

 

~少女移動中~

 

 

 

「…」

 

洋館の客室。そこには妙な姿をした女がベッドに座っていた。

 

するとコンコン、と二回。女の右側からドアを叩く音が聞こえた。そして、レミリアだけが入室してきた。

 

 

「失礼するわ」

 

 

女はドアのほうに顔を向けた。

身体はかすかに震えていた。そして、その方向を見つめる眼。それは人間のものとは異なっていた。

 

ガラスのように光沢しており、無数に光を放っていた。

 

その奥に眠る微かな瞳。その焦点は定まらず、なんだか朧気であった。

 

 

「…どなたですか?誰かそこに、いらっしゃるのですか?」

 

 

女は、レミリアのほうを振り向き、純粋に問うた。

 

瞳は相変わらず、焦点が朧気だった。しかし、完全なる盲目ではなく、わずかに存在を感じていることをレミリアは察した。

女はどうやら視力があまり良くないようだった。

そんな彼女が驚きのあまり、敏感になっていることを察したレミリアはそっと、あまり音を立てずに側に近寄って行った。

 

そして、洋風の褥に腰かけた。女は、また少し震え、再度問うた。

 

 

「ああ、もし、いらっしゃるのなら、どうか私に触れてくださりませんか。

この通り、私は目も見えず貴方様がどこにいるか、それすらもわからないのです。だからどうぞ、私に触れてください」

 

 

女は、そっと腕を伸ばし、その手背に触れるよう願った。

そして、その傷だらけでザラザラの、だが優しい手背もまた。微かに震えていた。

 

 

「ええ、いいわ」

 

 

レミリアもまた、その純粋な問いに応えようと率直に答えた。

そして、伸ばされた女の手背に、そっと手を添えた。

 

優しく温かいぬくもりが手を伝って、身体に送り込まれるようだった。

そして、かすかに震えていた女の身体は、落ち着きを取り戻し、小刻みに震える手が徐々に治まっていった。

 

 

「ほら、安心して。

私は、貴方を襲ったりなどしないわ」

 

 

女は安堵したのか落ち着いた表情を浮かべ、添えられた手の上からもう一つの手を添え、優しくそれを撫でた。

普段ならば、このような接し方は嫌がるであろうレミリアは、だがそれをそっと受け入れ、暫く沈黙の時間が部屋を包み込んだ。

 

そして、その静寂を破るように。女は活気を取り戻した声で話し始めた。

 

 

「ああ、貴方様はそこに、いらっしゃるのですね。

まだ、まだ私は一人ではなかったのですね。良かった…」

 

 

レミリアは、その安堵している様子を見るや否や、不敵な笑みを浮かべた。

その笑みは一瞬のうちに消え、再び優しい表情を浮かべながら女に語り掛けた。

 

 

「私は”レミリア・スカーレット”。誇り高き吸血鬼にして、

この紅魔館の主よ。人間、貴方の名前を教えなさい」

 

「吸血鬼…ああ、失礼いたしました。

決して名乗る程の者ではありませんが…

私の名は、ハルムと申します。あの、レミリアさん。

この度は助けていただきありがとうございます」

 

 

と、ハルムと名乗るその女は感謝の意を込め、丁寧な一礼をレミリアに向けた。

 

 

「そんな堅苦しくしなくてもいいわ。楽にして頂戴。

さてと、早速なんだけどハルム、何があったか聞いてもいいかしら?」

 

「感謝いたします。レミリア様。

私は、戦争に参加していました。

領土と民、そして栄誉をかけた、戦に」

 

「本当?貴方、目が見えないようだけど、腕は立つのかしら?」

 

「確かにこの通り、目も見えず盲目の身でありますが

故郷では侍女の任を仰せつかっておりました。

実戦では役には立たないでしょうが、知恵ならばお貸しできるかと」

 

 

侍女、という単語にレミリアは少し意外そうな顔を浮かべた。

そして、興味深そうにハルムの顔周りをジロジロと見ながら会話を続けた。

 

 

「…へぇ、ずいぶんと器用なのね

とても、使用人だったとは思えないほど」

 

「…ええ。

そして、戦には負け、今や主を失い、流浪の身となりました。

ですが、私に触れ、暗闇から救って下さったレミリアさんはきっと偉大な方なのでしょう?

そんな方にお会いできるなんて、私も光栄です」

 

「当然よ。貴方、見る目があるわね」

 

「ええ。私、盲目ですが」

 

「「フフフッ、フフフッ」」

 

 

二人はなんだか楽しそうに意気投合し、笑い合っていた。

その様子を扉の隙間からこっそりと、美鈴がのぞいていた。

 

 

「なんだかあの二人、妙に気が合ってません?」

 

「美鈴、静かになさい」

 

 

咲夜は美鈴の疑問に答えることなく、黙秘することを理不尽に投げかけた。

 

美鈴はなぜ自分が怒られなければならないのか、ますます疑問に頭を支配された。

咲夜は従者らしく私情を挟むことなく、ただその場に立ち尽くすふるまいを貫いているだけであった。

 

ただ、そんな咲夜も疑問に思うことがあるのだろう。

仕事人としての表情、その裏側では主がどのような考えなのか。

皆目、見当が付かず、ただ指をくわえてみていることしか出来なかった。

 

二人の間で笑いが途絶えた後、少し時間が経った際にレミリアは再びハルムに声をかけた。

 

 

「ねぇ、ハルム」

 

「はぁ、なんでございましょう」

 

 

ハルムは、その呼びかけに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

そして_____________________________________________

 

 

 

 

 

 

「貴方、この私、レミリア・スカーレットに仕えてみない?」

 

 

「「え!?」」

 

 

これには、誰もが困惑した。

 

思わぬ発言に時が一瞬、止まったかのような凍り付く雰囲気が辺りを包み込んだ。

それは、客人であるハルムを含め、

特に外で待機する二人、これには冷静な咲夜も含めて、驚きを隠せなかった。

 

 

「そ、それは…」

 

「どうしたのかしら?悪い話ではないと思うのだけれど」

 

「私は…」

 

 

ハルムは、沈黙の末。レミリアに提案の回答を持ちかけた。

 

その答えは意外性に満ちていた。

 

 

「私は弱く、だからこそ戦士に成り損ない、主を失いました。

…レミリアさん、いくら貴方の頼みとはいえ、これでは足手まといでしょう」

 

ハルムは遠慮しがちな言葉をつぶやいた。

 

彼女に何があったかなど、レミリアは知る由もない。

 

だが眉間にしわを寄せ、レミリアはその場をすっと立ち上がった。

 

 

「誰が、いつ…」

 

 

ワナワナと震えを見せた後、立ち上がり、レミリアは言い放った。

 

 

「いつ、そんなことを決めたのかしら?

…少し、時間を上げるわ。

ここで喰われて死ぬか、私に仕えるか。選ぶことね。

いい?あなたは断れる立場にないの。

だから、賢明な判断をしたほうが今後のためにもなるわよ」

 

 

そういうと彼女は不機嫌な態度を露わにしながら、その場を後にした。

 

その言葉には少し震えが含まれていた。

それは怒り、あるいは恐れであったろうか。

 

それは分からないが、少なくともレミリアはハルムに対して残念に思ったことだけが事実だったのだろう。

ハルムは下をうつむき、黙ったまま考え込み始めた。そして、暫く動くことはなかった。

 

部屋を後にしようとしたレミリアは、扉を開けた直後。扉越しに盗み聞きをしていた咲夜と美鈴に出くわした。

だが、レミリアはその事を咎めるほどの余裕などあるはずもなく、その場を無言で通り過ぎた。

 

しかし、レミリアは振り返り、不機嫌そうな表情をしながら二人に話しかけた。

 

 

「ああ、そうだ。咲夜、頼みがあるの」

 

「は、はい、お嬢様。何なりとお申し付けください」

 

「あの客人に、食事を」

 

「へ?」

 

「聞こえなかったの?二度は言わないわよ。

後、美鈴。貴方、いつまでここにいるつもり?

門番の仕事はどうしたの、さっさと戻りなさい」

 

「「は、はい!お嬢様!」」

 

 

 

咲夜たちはその気迫じみた表情を浮かべた主に言葉を、掛けられるはずもなかった。

 

 

 

 

咲夜は急遽、軽食を作り、例の寝室前まで戻ってきた。

あの怒りに満ちた主の顔を彼女は、久しく見ていなかった。この幻想郷に来てから、初めてであったろうか。

 

故に、今も徒競走を走り抜けた後のように、咲夜の心臓は鼓動が鳴り続けていた。

しかし、それをも押し殺し、冷静な対応を求められるのが従者の仕事。咲夜はそれを十分に理解していた。

 

彼女は一度、息を吸い、そして大きく吐いた。

まるで、怯える幼子のように。

 

 

 

そして、寝室をコンコン、と二回。ノックをした。すると

優しげな声で返事が返ってきた。

 

 

「はい、何でしょう」

 

 

その声を聴き、咲夜は少し落ち着きを取り戻したようだった。

そして、配膳用の台車を押し、寝室に入っていった。

 

 

「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました

あの、その…」

 

 

「ハルムです。

この度は、貴方様方には大変お世話になったようで…本当にありがとうございます

…ああ、そんなに肩に力を入れなくてもよろしいのですよ

私は下人です。もっと気を楽にしてくださいな」

 

 

「…下人であろうと、客人は客人。私は、使用人としての務めを果たすまでです。

 さぁ、ハルム様。お食事をどうぞ」

 

 

「ありがとうございます。

ところで、あの、使用人さん。

大変無礼なことではありますが、一つ、問うてもよろしいですか?」

 

 

「…?何でしょう」

 

 

配膳車から軽食を下ろしていた咲夜は、その問いに首をかしげた。

 

 

「貴方方様の主…レミリア様は人ならざる種族「吸血鬼」とお聞きしました。

それならば、貴方方は全員、人ならざる者、ということでしょうか」

 

 

そして、彼女はその問いに率直に答えた。

 

 

「ええ、ここに住む者は確かに人間ではございません。

 それどころか、この楽園に暮らすものどもは大半は物の怪や妖の類いでしょう」

 

 

含みを含ませた後に、咲夜はそっと言い放った。

 

 

「まぁ、この紅魔館においては“私を除く”ですが」

 

 

その一言を聞いたハルムは、ほんのわずかに動じた。

 

この幻想郷にて、その言葉は大した意味を持たない。この地に生きとし生ける者たちは、人外の者が大半を占めており

皆、それを容認しているからだ。

 

反応を見た咲夜は、そんな黙りこくってしまった彼女を気にかけ、声をかけた。

 

 

「どうしました?ハルム様」

 

 

ハルムはハッと我に返ったようなそぶりを見せた後に、再びその平然とした態度が彼女を覆った。

 

 

「いえ。なんでも、ございません。

お手数をおかけしました。下がってください」

 

そのままハルムは下をうつむき、再び黙りこくってしまった。

 

「は、失礼いたします」

 

結局、彼女が何を問いたかったのか。咲夜は知ることはできなかった。

この件を通して、咲夜は疑いの念を更に強めることを決心した。

 

最初に感じた畏怖の感情。あれを、咲夜は直感で感じていたのだろう。

そして、本能で感じるもの。生物である限り、それは紛れもない真実であった。

あの無感な表情から、得体の知れないものを考えた咲夜はその念を悟られぬよう

その部屋から退室していった。

 

 

それから小一時間が経過した後だった。再び、レミリアが彼女の元に訪れた。

落ち着きを取り戻したのか、彼女は再び冷静になっていた。

 

 

「失礼するわ、ハルム。

先程はごめんなさい。つい、カッとしてしまって

それで、どう?答えは出たかしら?」

 

 

 

そして、レミリアはもう一度問うた。

 

一時の沈黙、静寂。

その間はまさしく、凍り付くような凍てついた雰囲気を醸し出していた。

 

ハルムはしばらく考え込んでいた。

そして、何も語らず胸に手を当てながら、レミリアに向かって一礼をした。

どうやら、答えは決まったようだ。

 

 

「賢明な判断ね。歓迎するわ」

 

 

レミリアは安心したようにふぅっと息をついた。

そして、寝床から降り、ハルムは彼女の前で跪いた。

 

 

「ありがとうございます。それでは、誓約を…

 

これより私、ハルムは「紅魔の従者」として改め

騎士の名に懸け、レミリア様。貴方にお仕えいたします」

 

 

こうして、紅魔館に新たな眷属が加わったことを。このとき幻想郷中の住民はだれ一人知らなかった。





翼の刃

血の染みついた細刃の脇差
武器として使用することはできない

ハルムが、苦しむ同胞の介錯に用いたもの
数多の命を奪い、それは妖気を帯びている

ハルムは使命に縋った
だからこそ、その戦いは熾烈であった



サリバン騎士の鎧

何らかの理由、あるいは咎により
心を失くした騎士に与えられる黒い鎧

石に似た特別な鉱物で鍛造されている

サリバン騎士は修験者でもあり
生とは別の有り様を目指して
自らを厳しく律し、苦行を積んでゆく

彼らは苦行の末に螺旋を見る
そして、それを理解したとき、彼らはその境地に至るのだ。


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