「まったく。
異変も起こさないような得体の知れないやつを探し出して、無理やり対峙するなんて。
そんな面倒くさいことに付き合ってられないわ」
霊夢はぶつくさと独り言を言いながら、神社に到着した。
しかし、博麗神社は参道や灯篭、あわよくば本殿までもが、木の葉で埋め尽くされていた。
周りはすべて森で囲まれているので、こんな光景はは日常茶飯事だ。
だが、面倒くさがりの性格の霊夢はこの光景を、どうにも容認することが出来ずにいた。
「あーあ、またずいぶんと散らかってるわね。掃除するこっちの身にもなってよ」
霊夢は、傍に生える木々に悪態を付いた。
しかし、木々はそんなことを知る由もなく、風に吹かれて、まるで無邪気な子供の用に葉を散らすことをやめることはなかった。
霊夢は神社の奥から、藁の放棄を持ち出してきて、しぶしぶと庭掃除を始めた。
里のほうでは、割と一大事な状況のはずだが、そんな中でも、霊夢は自分の習慣を乱さずに過ごしていた。
一刻ほど、経った後だろうか。
木の葉の嵐の中、茂みの中。そこに一匹の三毛猫が現れた。
どことなく鋭い目つきをしたその獣は、何かを追いかけて、ここに現れたようであった。
三毛猫は首を傾けそっと、枝先を見上げた。
霊夢は、無意識に猫の視線を追いかけた。
そこには、一羽の鳥がいた。凛々しい顔つきだが、まだ若鳥のようだ。
すると猫は全身の毛を逆なで、無我夢中で木の幹をよじ登り、若鳥めがけて飛び掛かった。
飛び掛かった際に、無数の木の葉を散らし、荒々しい嵐を巻き起こした。
しかし、若鳥はまるで最初に分かっていたかのように表情一つ変えずに飛び立ち、どこかへ飛び去って行った。
猫も見事着地し、無事であったものの、すぐにまたその鳥を追いかけて何処かへと消えてしまった。
霊夢は、猫に向かって腹が立った。
また、面倒なことを増やされたのであるから、当然であろう。
だが、そんなことも束の間の時間だった。
木々の間から突如、声を掛けられた。
「おお、お前。どうやら妖怪ではないらしいな」
楽観的に話しかけてきた人物は女だった。
その人影は西洋風の革帽子を被った女だった。
女は、威風堂々としているが、全身が草木の葉で覆われている。どうやら、この鬱蒼とした林を通って、この神社までたどり着いたらしい。
霊夢は当然、茂みから人が現れるなど想像だにしていなかった。
それ故、少々唖然としていた。
そしてその女は、幻想郷どころか外の世界でもあまり見かけることがない、絵物語や遠い西の国の話などでよく聞く、金属鎧を身にまとっていた。
所謂、”西洋鎧”というやつなのだろう。
それに加え、羽根帽子を被っていることや艶やか金色の髪。
そして、大きな眼の中に光る赤い瞳が何とも印象的な人物であった。
だが、霊夢は当然そんなことに興味はなく、その者に敵意がないことを瞬時に察すると、
いつもの不愛想な調子で飄々とその外来人に話しかけた。
「何よ、あんた。もしかして外の世界の人間?」
「見慣れない土地だからな。どうやらそういうことらしい。
恥ずかしい話だが、どうやら迷ってしまったようでな。
建物が見えてきたので、もしやと思ったが、どうやら私の感は当たったらしい」
「ふーん。で、あんたは?」
「ん、何だ?」
女は少し困った顔で首を傾げた。
「いや、あんた。自分の名くらい名乗れるでしょ」
「ん、ああ!すまん。
見知らぬ御方に、失礼な態度を取ってしまったな。
私のことは、『クレイ』クレイと呼んでくれ」
クレイと名乗るその女は、腕を差し出してきた。
一礼をする文化やそもそもあいさつなど、霊夢は端からどうでもいいと思っていたが、握手を求められたのは、少し意外に思っていた。
そのような挨拶を交わしたことがあるのは、紅魔館の吸血鬼以来だろう。
「…まぁ、いいわ。
よろしく。私は、霊夢。『博麗 霊夢』よ。
一応、この神社で巫女をやっているわ」
一瞬困惑したが、相手の礼儀に応えるために同じように腕を差し出し、握手を交わす。
「よろしくな。霊夢。
とは言っても、実のところ
本当の名かどうかも、定かではないのだがな」
「はあ?どういうことよ、それ」
霊夢は率直に、クレイに疑問をぶつけた。
「ああ、すまん、伝えてなかったな。
私は、記憶が曖昧なんだ。始めは、昔のことがふと思い出せなくなる程度だったんだが、
気が付くと、ぼんやりしていることが増えてきていてな。そして、少しずつ昔のことが薄れていく…そんな感じさ」
「要は記憶喪失になりかけてるってことね」
「だから私は、あるものを探している。
古い時代に作られたという、灰霧の秘宝。
時を辿れるという伝説の代物をな」
当たり前だが、霊夢はそんな名をしたものが、この幻想郷にあるという話は聞いたことがなかった。
霊夢はそのまま、聞き手に回ることにした。
「まあ、なんだ。石ころに頭を打ち付けたくらいじゃあ、もう何も思い出せないからな。ハッハッハ」
クレイは、自分を皮肉りつつも、満面の笑みで笑いを上げた。
そんな反応を見て霊夢は即座に苦い表情を浮かべた。
自分が危機的状況に陥っているというのに、何を呑気なことを言っているのか、という率直な疑問が、彼女にそんな顔をさせたのだろう。
そんな霊夢の表情を読み取ったのか、クレイは笑いをやめ、じっと霊夢を見つめた後、言葉を発した。
「…変人だと思ったか?
いや何、気にするな。皆同じ顔をする」
「なんだ、自覚あるんじゃない」
「ハッハッハ。お前は面白い女だな。
だがもし、お前のことを忘れてしまったとしても、恨まないでくれよ
分かるだろ?記憶喪失なら仕方のないことだからな」
「はぁ、分かった分かった。
けれど、それならあんた。
こんなとこで無駄話してていいの?そうしてる間にも、記憶はどんどん失われていくのよね?」
「おお、確かにその通りだ。なら、そろそろ私は行くとするよ。
だが…」
クレイは少しの間、口を動かすのをやめた。しかし、再び高らかな声色で呼びかけた。
「私には分かる。
霊夢は優秀な戦士だし、使命もあるのだろう。ならばお互い、協力できることもあるはずだ。
私の故郷は、剣士の国。剣の腕には、それなりの覚えはある。
また会ったら、その時はよろしく頼むぞ」
「それまでに、あんたがあたしのことを忘れてなきゃいいけどね」
「ハハッ、そうだな。
では、またな霊夢。近々、また会う日まで」
クレイは、後ろ向きで大腕を振りながら、再び森の奥へと消えていった。
彼女が去った後の博麗神社は、まるで嵐でも通り過ぎた後のような沈黙が訪れた。
そして、散らかっている木の葉の数は、話し込んでいるうちに倍以上に加算されていた。
先程より庭の事態が悪化していることに、うんざりし、霊夢は大きなため息をついた。
「はぁ…
まったく、とんでもないやつが幻想入りしてきたものね
性格もなんか、魔理沙と似た感じで面倒だし
まだあの巨人のこともあるし…あーあ、一瞬で全部のことに片が付いたりしないかなぁ」
そう薀蓄たれ、有りもしない解決法に浸りそうになりつつも、霊夢は竹箒で散らかった落ち葉の掃除を始めた。
そして、四半時が経過しようとした頃だった。
ふと霊夢は、脳裏にまた一つ疑問が浮かんだ。
「そういえばあの女…
なんで、階段のほうからやってこなかったのかしら。
しかも、帰る方角も同じだったし」
霊夢はよぎった疑問に答えるため、思考をしばらく続けていた。
が、庭掃除を再開した。
どうやら、面倒くさいと感じ、思考を放棄したらしい。
夕暮れを迎えた博麗神社は、一寸の暗闇に覆われていた。やっとのこと庭掃除が完了した霊夢は、神社に戻り、落ち着いた様子で優雅に茶を啜っていた。
クレイモア
一回り大きな大剣
重量があり、両手使用が基本となる
振り回す攻撃に加え、刺突攻撃もできるため
状況対応能力の高い武器となっている
重い刃の前には
鎧を着た兵士でも地に叩き伏せられ
その破壊力は大いに恐れられた
眼の盾
禍々しい裂け目の描かれた
金属製の小円盾
それは、古い「睨み返し」のまじないである
しかし、裂け目は戦により抉られており
真に見るべき相手を見失っている