【悲報】人類最強のダンジョン配信者、最強過ぎて仲間が出来ない【ボッチ】   作:土ノ子

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第十八話 大丈夫

 ダンジョンの5階層ごとに設置される帰還用ポータルは冒険者にとって重要なリターンポイントである。そしてポータルに続く重要なゾーンを問われれば各階層を跨ぐ階段付近と答えるだろう。

 階段付近の一定範囲内はモンスターが近づいて来ない安全地帯。冒険者にとって絶好の休憩地なのだ。

 撮影用ドローンの電源を落とし、ライバーズからの視線やコメントがない空間は気のせいかずっと静かに思えた。

 

「いやーいい配信でしたね! 最近ダレ気味だったんで刺激になって助かります」

「あ、ありがとうございます。……あれで良かったのでしょうか?」

「ライバーズからも好評だったでしょう? 恋華さんのキャラが受け入れられてる証拠です。まあこういう人気は水物ですから難しいんですけどね」

 

 そう言葉を交わしながらキャンプスペースの整地を始めている大和を見、恋華が慌てて動こうとする。

 

「あ、お手伝いしま――っと」

 

 腰を下ろして休んでいた状態から急に立ち上がったところで、ストンと膝の力が抜ける。腰から地面に落ちようとしたその時にふわり、と風が吹き抜ける。優しい風のクッションが衝撃を和らげ、恋華のお尻をゆっくりと地面に降ろした。

 

「あ、テントは僕の方で設営しておくので大丈夫ですよ?」

「も、申し訳ございません。ご迷惑を……」

「あはは、だから迷惑なんかじゃないですって。配信に付き合ってもらってるのは僕の方なんですし」

 

 そう笑う大和がフワリとマントを翻すと何もないはずの空間から様々なサバイバルツールがドサドサと地面に落ちてくる。テント、寝袋、火起こし用の器具、食料等々。四次元ポケットをひっくり返したような光景に恋華が目を丸くした。

 

 †《魔装:黒翼》†

 

「ああ、蛇狐君が付けてくれたアイテムの収納機能です。そこまで収納量は大きくはないんですけどね」

「す、凄いですね。私、このような魔道具(マジックアイテム)は初めて見ました」

「今のところ素材の関係で僕しかもってない一品物ですからね」

 

 特に強力なモンスターであるドラゴンから採取した羽の被膜部分に一流のアイテムクラフターである蛇狐が特殊効果を付与(エンチャント)した代物である。

 大和曰く、「被膜の畳まれてる部分にギュッと押し込むとグイッと入る」とかなんとか。

 

「ふぅ……私も少し休んだら料理の準備をしますね。あまり大した腕ではありませんが」

「お願いできますか? 僕は念のため周囲のモンスターを少し間引きしておくので」

 

 恋華も疲れてはいるが、動けない程ではない。

 むしろ適度にリラックスして身体を動かした方が回復も早いだろうと判断し、遠慮なく夕食の準備を任せた。

 

 ◆

 

 その日の夕食は野菜たっぷりの温かいスープ、分厚く切り落として脂が滴るくらい焼き上げたベーコン、ふわふわの鮮度を保つ保存パン。一部ダンジョン産の食材を使われており、微量だが回復効果を持つオモイカネ系列企業謹製の迷宮糧食だった。

 

「……夢のような時間でした」

 

 ダンジョンでも美味しい食事を、というコンセプトで作られた迷宮糧食は恋華のお腹を優しく満たした。食後の楽しみと差し出された温かいココアにフェイスベールが漬からないよう気を付けて飲みながら恋華がほうと息を吐く。思わず零れた呟きだった。

 

「一昔前と比べればご飯も美味しくなりましたよね!」

 

 一方今もパクパクと用意されたご飯を平らげている大和が幸せそうに笑って言う。小柄な体のどこに入っているのかと首を傾げそうな量だ。本人に言えば成長期と言って憚らないだろう。大和は作る方に興味は薄いが食べる方は大いに好む腹ペコ大食いキャラだった。

 

「あ、いえ……そちらではなく」

 

 その無邪気な姿に苦笑しながら少しだけ暗さを覗かせながら

 

「……私、昔からどこに行っても周りから嫌われてばかりで……そんな自分が嫌で、変わりたくて……ライバーズのみなさまから応援して頂き、受け入れられたようで……まるで夢を見ているみたい」

「なるほど……」

 

 楽しかった時間を思い起こしているのか、ふわふわとした声音で恋華が悲しい台詞を呟く。楽しそうなのに重苦しい台詞は大和に相槌以上の台詞を喋らせなかった。

 恐らくはフェイスベールの下の素顔に関わることなのだろうが、一方で違和感も抱く。

 

()()()()()?)

 

 笑顔の裏で密かに思考を回す。

 客観的に見て恋華は強く、性格も素直で愛嬌もある。ここまで一緒に過ごした時間で明確な欠点と言えるものは見つからなかった。……高レベル冒険者が引く手数多な今の日本で恋華がソロという現状は相当に不自然だ。

 だが一方で恋華が何か後ろ暗いことを隠していたり、騙していたりという気配もない。本当に、いい子なのだ。

 

(……まあ、いいか)

 

 その気になれば禊の霊眼に頼むなり、金で探偵を雇うことも出来る。その上でそうしないと大和は選んだ。隠していることを敢えて探るまいと。

 しばらくの間、二人の間には大和が食事を平らげる音だけが響いていた。

 

「いやー満腹満腹」

「それは、そうでしょうね……」

 

 明らかに常人の5倍はアグアグと平らげていた大和がお腹をポンポンとさすりながら満足げに大和が漏らした。恋華はその食いっぷりをややヒイた目で見ていた。

 

「ダンジョンだと食事くらいしか娯楽がないのが困りものですよねー。後は眠るくらいかな?」

『それは言い過ぎ。大和が無趣味なだけ』

「部屋でポテチ食ってゲームしてる禊に言われてもなー。説得力ってご存じ?」

『失敬な。配信の時はしていない』

「一回デリカシーって言葉を辞書で引いてこい!」

 

 姉弟二人がギャアギャアとやかましく騒ぐ。だが恋華の耳には全く入っていないようだった。

 ()()()()()

 

「そ……そうです、ね。後は、眠るだけ……」

 

 異性との同衾にドキドキ、なんて可愛らしい様子ではなかった。フェイスベール越しの視線は親からはぐれた幼子のように、不安に揺れていた。

 やや過剰反応に思える恋華の様子を訝しく思いつつ、大和はそれをモンスターへの恐怖と取った。

 

「大丈夫ですよ。安全地帯にはモンスターが近寄って来ませんから。それに僕や禊もいますし」

『ん。モンスターはそこのチビ含めて追い返すから恋華は安心していい』

「ちょっと? 僕を含めるの止めてくれない? あとチビって言ったこと絶対忘れないからな?」

 

 遠慮のないやり取りを交わす姉弟二人に恋華がふっと笑みを零した。。

 

「アハハ……はい、ありがとうございます」

「いえいえ。僕が誘った企画ですからね、僕にやれることなら何でも言ってください」

 

 さっきよりは力を取り戻した様子で笑う恋華に合わせて笑いかけながら、大和は軽い調子で続けた。

 

「なんだったら眠るまで手を握っていましょうか? なーんて――」

 

 ギュッと。

 冗談めかして笑う大和の手が恋華のそれに捕まった。縋るような視線とともに。握られた手にかかる力に大和は驚く。まるで、溺れる者が藁を掴むような必死さだ。

 頑強な大和の拳がギリギリと軋む。Lv.差故に痛みはないが、常人なら骨折しかねない程の力だ。

 

「……恋華さん?」

「あ、あの! ……………………私、夢見が悪くて。最近は、特に」

 

 流石に訝しんで問いかけると、恋華は迷いを示す長い長い”間”を開けて口を開く。

 夢見が悪い。嘘ではないだろう。だがそれだけとも思えない、追い詰められた声音だった。俯いた顔はフェイスベールに遮られ、見えなかった。

 

「……どんな夢か聞いても?」

「……申し訳ありません。あまり覚えていないんです。ただ……炎に焼かれていたような気がします。熱いと叫んでも、誰も許してくれない。そんな夢でした」

 

 恋華が震えながら語るそれは確かに悪夢だろう。あまりにも突拍子もない、だが紛れもなく悪いユメ。そう、()()()()()()()()()

 

(……魔女の火炙り? いや、何か違和感が)

 

 蓮華の種族、魔女(?)。少なくとも欧州の魔女(ウィッチ)ではない、もっと別の何か。その影響だろうか。

 存在昇華(ランクアップ)によって種族が変異した冒険者は大なり小なりその影響を受ける。肉体面はもちろん時に精神面すらも。種族:魔女であるアニマもランクアップ以来なんとなく火が苦手となったらしい。

 だがここまで極端にマイナスの影響を受けるのは珍しい。基本的にランクアップ先の種族より冒険者自身の精神の方が優位にあるはずなのだ。

 

「……ごめんなさい、迷惑ですよね。大丈夫です、お忘れくださ――」

()()()()()

 

 引っ込められかけた手を今度は大和が追いかけ、逃がさない。繋いだその手の温かさに恋華の肩がビクンと震え、やがてゆっくりと震えが収まり、窺うように大和を見る。虐待された子犬のような反応だった。

 大体の場合、こういう時に本人が語る大丈夫は全然”大丈夫”ではないのだ。

 

「大丈夫、恋華さんが眠るまでそばにいます。だからゆっくり休んでくださいね」

 

 安心させるように笑いかけ、手を握る。

 たとえ気休めだとしても言えない弱音を代わりに請け負える男になりたいと思う。だから安心させるように恋華に向けて笑った。せめて、それくらいはと。

 英雄などと持て囃されていても、できるのは恋華の傍にいて手を握るだけ。彼女の悪夢を切り払うことはできない。英雄などと持て囃されてと、これが黒鉄大和の限界だった。

 

「……お願いしても、いいでしょうか?」

「もちろん」

 

 震える声での問いかけに即答し、頷く。今夜彼女が見る夢が悪夢でないことを願って。

 

 ◆

 

 やがて恋華が眠りにつくのを確認し、大和はそっと気配を殺してテントから出た。

 薄暗い闇が延々と続く洞窟の景色は変わらずそこにあった。

 ずっと同じ姿勢を取り続けていたせいで強張っていた身体をほぐすように身体を伸ばし――()()()()()()()

 視界の端に”白”がチラついた、気がした。

 

(誰かに見られてる気がしたんだけどな……もうちょっと探ってみるか)

 

 確かに視線を感じた。そのくせその”何か”を捉えようとするとスルリと逃げ去ってしまうような。そんなモヤモヤとした違和感が続いていた。

 

 †《建速嵐(タケハヤノアラシ)》†

 

 轟、と一瞬だけ大気が唸る。瞬時に階層の大気を掌握した大和は異物の存在を丹念に探る。

 が、空振り。手ごたえはなかった。

 

(どうしたの?)

(禊、何も感じない?)

(……。うん、何も視えない)

 

 突然巻き起こった風に訝しんで声をかけてきた禊へ問う。周辺一帯を視るための一呼吸分の時間を挟み、返ってきた答えは否。

 魔眼でも最高位にある禊の視覚から逃れられるモノはそう多くない。隠蔽・秘匿の伝承に由来する上位スキルを持つアイテムやモンスター、あるいは……。

 それらと出会う確率を考えれば気のせいという可能性の方がはるかに高い。

 

(勘違い、か)

 

 今はそう結論付け、いくらか警戒レベルを落とす。

 平時の警戒体勢を保ったまま大和は一晩を明かした。

 

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