【悲報】人類最強のダンジョン配信者、最強過ぎて仲間が出来ない【ボッチ】   作:土ノ子

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第二十四話 善悪一切滅尽鏖殺

 

 バロンと大和が睨み合うこと、しばし。やがて動きのない時間に飽きたのか、バロンは恋華の下から去っていった。

 バロンが恋華を諦めた訳ではないだろう、むしろ逆だ。より深い絶望へ恋華を突き落とすためにバロンは敢えて退いたのだ。

 これ以上被害を拡大させたくない大和はそれを承知しながらバロンの背中を見送った。

 できることは多くなかった。

 恋華を病院からオモイカネ本社へ移す手配とバロンが暴れた後処理を病院のギルメンに任せ、大和は禊に連絡を取った。

 

 ◆

 

 バロンとの邂逅から半日後。ところ変わってオモイカネ工業本社。

 サバイバーズギルドからのアラートが鳴り、さらに大和からのコールが続いたことで緊急の幹部会議が開かれていた。

 集った面子は大和と通信越しの禊、アニマに小鳥の四人。不在なのは社長、倭文(しずり)剣城(つるぎ)だ。蛇狐だけは訳あって少し会議に遅れていた。

 既に情報はある程度共有され、手の空いた幹部陣が集まる会議室には重苦しい雰囲気が漂っている。

 彼らは誰もが大和のチャンネルの視聴者(ライバーズ)だ。恋華のことも、当然知っていた。

 

「社長は例によって多忙。剣城さんはダンジョンに遠征中。蛇狐君は倭文(しずり)さんと書庫で――と、来ましたか」

 

 円卓を囲む面子を見渡した大和が不在の幹部達を数えていると、遅れていた蛇狐が扉を開けて部屋に入ってきたところだった。

 ようと手を挙げた蛇狐が円卓の一席に着くと、会議が始まった。

 

「お疲れ様です、蛇狐君。倭文(シズリ)さんは?」

「もうちょい頑張るーゆうて資料を調べとるとこ。めんどくなったボクが説明で一旦抜けてこっち来ることにしたんよ」

 

 今回のワールドクエストについて資料編纂局の倭文幽香と手伝いを買って出た蛇狐が過去の情報を洗い、まとめていたのだ。

 

「報告はちょい長くなるから最後でええかな? 議題がある人は先に言ってやー」

「なら私から。例の呪いの動画についてです」

 

 と、蛇狐が促せばすると真っ先にアニマが手を挙げ、発言を求める。皆が頷き、彼女が会議の口火を切った。

 

「結論から言うとアレはバロンと恋華(ランダ)の合わせ技ですね」

「合わせ技?」

「あの動画を炎上させたのは”悪”への敵意を増幅させるバロンのスキル《正義扇動》ですが、呪いそのものは魔女(ランダ)が持つ呪詛返しのスキル《悪因悪果》によるものです。ランダとして覚醒が進んだ紅さんが無意識に使っちゃったんでしょうね」

「……つまり人によって受けた不幸に差があったのは」

「悪意が強い人ほどより強い呪いが返って来たはずですよ。文字通り因果応報って訳ですね。超ウケる、プププー☆」

 

 口元を抑えて本気で笑いをこらえている様子のアニマ。流石は真正の魔女だ、性格が悪い。

 とはいえ幹部陣の空気としてはやはり恋華に同情的で、誹謗中傷者を擁護するものはいなかった。

 

「まあ実際見ず知らずの紅ちゃんをそんだけ強く叩く輩なんぞそいつ自身がカスってだけやろ。同情はできんね」

「炎上あるあるですね。安い正義感を棒にしてサンドバッグ叩いて気持ち良くなる人。これ以上用はないですし、次に行きましょうか」

 

 どちらにも感情移入しないフラットな視点故に突き放した蛇狐の言葉が概ね総意だったろう。実際裏も取れていない見ず知らずの事件に首を突っ込んで一方的に片方を叩く輩などロクな人間ではあるまい。

 皮肉気なアニマの言葉に全員が頷き、次の議題へと移る。全員から蛇狐へと視線が向けられた。

 

「了解、僕やね。分かったことは大体資料に纏めたから渡すわ」

 

 元々今日の会議は主に蛇狐と倭文がまとめた情報の報告が主になる予定だった。

 予定通りと蛇狐は資料を取り出し、幹部陣へ回していく。

  

「それで調査結果は?」

「まずは軽いジャブからいこか。オモイカネが洗った紅ちゃんの経歴からやね」

 

 A4用紙に2枚ほど。恋華の半生が簡潔に記された資料が幹部陣の手に渡る。

 

「……ふむ」

「これが軽いジャブですか……」

「良い趣味してますねぇ……なんて、魔女(わたし)に言われる時点でお察しですが」

 

 一部の倫理観を投げ捨てた者達を除いて漏れる声からは同情や義憤の念が強い。

 そこに書かれた恋華の半生は控えめに言って不幸のバーゲンセールだ。

 

「幼少期は順風満帆ですね。迷災にも巻き込まれず、裕福な家庭に生まれ、愛されて育つ」

「問題は7歳頃からか。何の前触れもなく存在昇華(ランクアップ)。激変した容姿によって周囲が忌避し、イジメに発展。家に引き篭もりがちに、か」

「……イジメというか、暴行事件まで起きてますね。存在昇華(ランクアップ)してなきゃ下手すると死んでいたのでは? うわ、これで警察沙汰にならないの? 警察仕事してなさすぎでは?」

「恋華ちゃんも周囲もまだ小学生でしょう?」

 

 信じられない、という顔の小鳥。OLスタイルが示すように彼女は後方勤務で一般人と接する機会が多い。幹部陣の中でもかなり良識を残していた。

 その当たり前の疑問に資料に視線を落としたままのアニマがあっさりと答える。

 

「多分周囲から極端に悪意を向けられやすい体質なんですよ。ほら、魔女ってそう言うものでしょう?」

『…………』

 

 なんだろう、周囲から言っていることは正しいのだがお前が言うのかという空気が流れた。中世の魔女狩りは冤罪の代名詞だが、それをアニマが言うのは少々彼女自身が図太すぎる。

 

「その割に配信では人気が出ていませんでしたか?」

「多分やけど僕のフェイスベールで『役』を被ることで魔女(ランダ)の性質をある程度遮断してたんやない? 知らんけど」

「魔術的にはまあまあ妥当な推測ですね。本当のところは分かりませんけど、これ以上考えても仕方ないので置いておきましょう」

 

 小鳥の疑問に蛇狐が答え、アニマが支持する。さらにこの場で最も魔女に詳しいアニマが解説を続けた。

 

「恐らくバロンに見つかったことが覚醒(ランクアップ)のキッカケになった。低レベルでのランクアップは珍しいと思っていましたがそういう事情でしたか」

 

 アニマの口調は良くも悪くもフラットだ。幹部陣の中では恐らく彼女が最も冷静に状況を把握していた。

 

「……ランクアップした時期から急速に家庭の経済状況が悪化していますね。これも魔女ランダの特性が引き寄せた不運ということでしょうか?」

「いえ、ランクアップしたとはいえロクにレベル上げもしてないひよっこ魔女にそんな力はないはずです。バロンの仕業では?」

「バロンが? でもアレは一応善と幸運を司る神格ですよね?」

「善も悪も表裏一体。親御さんが掴むはずだった幸運を別の誰かに付け替えれば後は不運だけを親御さんに押し付けられます」

「……最低ですね、本当に最低」

 

 聞いた小鳥が痛ましげに首を振る横でアニマが資料を斜め読みしながら解説を続けた。

 

「そういう恣意的な幸運操作って大抵歪みを生むんですけど、その歪みごと紅さんの周辺に押し付けた。うーん、悪辣ですが効率的ですね」

 

 幸運操作を呪詛へ逆用する手口にむしろ感心するような口調だった。控えめに言って人の心がない。

 

「で、傾いた家庭は奮闘しても傾き続け……急速に家族関係が悪化していく」

「何もかも上手くいかない時、人の心は荒みますからね」

「なんとか持ち直した紅さんも学校生活に復帰してますが……うわ」

 

 資料を読み進める内に流石のアニマも()()()顔をした。

 

「資料を見る限り紅さんすごいですね。顔を見せないハンデ背負って勉強も友達作りも頑張って、途中まで上手くいってる……けど」

「肝心なところでいつも御破産になる。そして振り出しに戻るどころか悪化してる」

「これ絶対バロンが一枚噛んでるでしょ……タイミング悪すぎ、陰湿ぅ……。なのになんであんなに良い子でいられるんですか? 悪の魔女(ランダ)も転生先を間違えてますって」

 

 感心を通り越して尊敬の念すら感じられるアニマの素直な感想に、幹部陣が憂鬱なため息を吐いた。この魔女がそれだけ言うということは、それだけのことが恋華に降りかかっていたのとイコールだ。

 

「……冒険者になったのは中学生に上がってから、か。何かあったのかな?」

「さあなぁ。でも流石転生体やね、トントン拍子で成り上がっとるやん」

「そういえば大和君の配信も同時期に始まってますね」

「それか?」

「いや、初期も初期ですし流石に無関係では?」

 

 冒険者資格の下限年齢は13歳。保護者の同意が必須とはいえ世が世なら狂気の政策だが、生憎世界の方が狂っていた。

 

「で、その2年後で今から2年前。15才の頃に決定的な転機が来た。良くも悪くも」

「弟くんの誕生やね。この時ばかりは全員揃って喜んだやろ。この時は」

 

 蛇狐がわざわざ不吉な前振りまで入れているように弟の誕生は必ずしも恋華にとって福音ではなかった。

 

「……家族の愛情が弟さんに注がれた分、恋華さんがおざなりに……いえ、忌避ですね。明らかに弟さんを恋華さんから遠ざけている」

「元々持ってた家に彼女だけを残して、他はみんな揃って引っ越しか」

「紅ちゃんの進学を機に、とか書かれてるけど明らかに嘘でしょ」

「それからの家族のみんなは幸せそうやね。その分紅ちゃんの不幸が引き立つ訳やが」

 

 救いのない落差を淡々と評する蛇狐。苦々しい顔の者も多いが、家族の気持ちも分かるだけに軽々に否定できなかった。

 

()()()()()()()()。そう思うのに十分な現実でしょうね」

 

 平坦な口調で大和が呟く。

 グシャリ、と何かがへし潰れる音がした。大和の手に粉砕された木材の欠片が握られていた。大和が腰かけた豪華な椅子のひじ掛けが一部無造作にねじ切られているのを皆が見る。

 

「ああ、すみません。後で弁償します」

「いや、えーよ。ボクが直しておくから」

「そうですか? ありがとうございます、蛇狐くん」

 

 平静を装ったやり取りをハラハラとした顔で見守る小鳥。今日一番胃を痛めているのは間違いなく彼女だ。

 

「善の聖獣が聞いて呆れますね……マッチポンプの山じゃないですか」

 

 家族でさえ恋華から離れた。そんな家族は貧しくとも幸せそうに暮らしている。1人の少女が歪むのに十分な現実だった。恋華の性格が捻じ曲がっていないのはほとんど奇跡と言える。

 

「ま、そんなもんやろ。勝った奴が正義、()()()()()。勝者が敗者を”悪”に貶めただけのよくあるお話や」

 

 蛇狐の皮肉気(シニカル)な物言いにほとんど全員が顔をしかめる。正義は必ず勝つと謳う美しい言葉の裏にあるろくでもない現実だった。

 

「バリ島に善悪二元論が根付く前のバロンは人を襲う魔獣だったんやて。時代が下って聖獣扱いされとるようやけど、地金ってのは隠せへんもんやね」

「現実での信仰の変化ですか。ンっとにもうこれだからワールドクエストは嫌なんですよ、クエストクリアに必要な前提知識が多すぎる」

 

 肩をすくめて語る蛇狐の言葉通り、時代が下るとともにその存在が変遷していくのは神話伝承によくあることだ。

 《文明崩壊ダンジョンサバイバー》のワールドクエストはこうした現実における神話伝承に関する知識がクエスト解決のキー情報になることも多々あった。

 史料編纂局の倭文(シズリ)が幹部を務めているのは伊達ではない。前世を含めてギルドのあらゆる情報が集積した編纂局はワールドクエストの解決を左右する重要部署なのだ。

 

「で、そんな哀れな被害者が絶賛巻き込まれ中のワールドクエストやけど……ダメやね、今のところ名案はない」

 

 次に蛇狐が取り出したのは分厚い報告書の束。倭文とともに資料室で集めた限りのランダ・バロンの情報や類似するワールドクエストの情報が書き込まれている。

 取り纏めた資料をバン、と円卓へ雑に放り投げる。八つ当たりじみた乱暴な扱いだった。

 

「おさらいも兼ねて話すけど、今回のクエストタイプは善悪均衡の無限円環型。一度カタに嵌まれば際限なく被害を拡大させるタイプの文明崩壊案件(ワールドクエスト)やね」

 

 このタイプのワールドクエストではほとんど必ず善と悪に属する2体のボスが出現する。善と悪と言っても人類の敵と味方という単純なくくりでは測れず、むしろ互いに争うことで周囲に被害を撒き散らす災厄だ。

 バロンは()()Lv.45。同格のランダと争えば都市の一つや二つ、あっさりと灰燼に帰す。最早存在が災害に等しい怪物だ。

 

「悪を討っても善がある限り復活し、善を打ちのめしても悪がいる限り再び立ち上がる――善悪一切滅尽鏖殺が最適解」

 

 そして無限円環型と呼ばれるタイプには厄介な性質がある。善と悪両方のボスを同時に討たねばクエストが終わらないのだ。

 だが何よりタチが悪いのは――、

 

「倒せば倒す程ボスは際限なく強くなっていく。僕らが倒してもそうやし、放っておいても奴らは殺しあう。何も手を打たんと下手すりゃ大和君すら手が出せんくなるよ」

 

 蛇狐の言葉は決して大げさではない。ゲーム時代、今回と類似したクエストで初動の対応に失敗した善と悪の二大ボスは際限なくレベルアップを続け遂にL()v().()1()5()0()()()()()へ達した。無論、大和や禊でも到底勝ち目はない。

 このまま手を打たなければ同じことが起こっても不思議ではなかった。

 

「…………」

 

 だが、どうするべきか。

 感情的には一択。だがその択を取るための具体案が出ることはなく、沈黙が漂った。

 

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