【悲報】人類最強のダンジョン配信者、最強過ぎて仲間が出来ない【ボッチ】 作:土ノ子
《サバイバーズ・ギルド》が立てた作戦を成立させるにあたり、一つ難題があった。
それを話し合う会議の場で、最も戦闘から縁遠い小鳥が代表して根本的な問題について問う。
「……そもそもバロンをどうやって誘き出すんですか? あれから発見の報告はないですしバロンが出てこなければ作戦の前提が破綻すると思うんですが」
バロンにすれば恋華達が戦いを望もうとそれに応じる道理はない。危ない橋を渡らずランダの覚醒を待てばいいと無視を決め込まれれば、バロンを捕捉できていない《サバイバーズ・ギルド》に妙手はない。
「あ、大丈夫ですよ小鳥さん。そこは大和君が対策済みです♡」
「大和君が? そんな暇なかったはずですけど」
「いやー、流石ですよ。敵の弱みを見逃さない観察眼。そこに私がそっとスパイスを一振り。多分バロンも気に入ってくれるはずです♡」
「悪夢のコラボやな。バロンに同情するわ」
が、その大きすぎる穴は大和発案・アニマ監修の一手で塞がれているらしい。
「何か考えが?」
アニマはもちろん大和も敵に対しては容赦がない。きっとロクでもないアイデアなんだろうなぁ。そう思いつつ小鳥は問いかけを続けた。
「簡単ですよ。呼びかければいいんです」
「呼びかける?」
「はい♡」
「誰に?」
「バロンに♡」
「何故?」
「だからバロンを引きずり出すためですよ♡」
「……降参です。アニマさん、もう少し分かりやすくお願いします」
テンション高めなアニマの輝くような笑顔に若干辟易しながら真面目に考えて分からなかった小鳥が白旗を挙げる。アニマのこの顔は嫌いな相手に嫌がらせできる時の顔だ。最高に輝いていたが、最高に嫌な輝きだった。
「
全員が意表を突かれた顔をした。
笑顔のまま人の心臓にナイフを突き立てるシリアルキラーのように、アニマは輝く笑みを浮かべてバロンの弱みを容赦なく抉り出していく。
「善はバロンの根幹に関わるアイデンティティです。悪を虐げられても逃げることはできない。いじめっ子と同じですね♡ 舐められたら終わり。ほんと正義って不自由で無様っていうか♡」
クスクスと楽しそうにアニマが
流石は魔女。妖しき魔術を手繰り、毒を盛り、背中を刺すことを本領とするだけはあった。
「つまり大和君のチャンネルで事前告知に思い切りバロンの名前を出します。世間様の口の端に昇るくらい、徹底的に――お願いできる、禊ちゃん?」
『元から事前告知はするつもりだった。問題ない。恋華の名前と一緒に派手に宣伝しておく』
バロンへの嫌がらせに悦に入っているアニマが具体的な指示を出す。
そう、この作戦はクローズドではなく配信を通じてオープンに行われる。その意図はもちろん視聴数稼ぎではない。
恋華を救う鍵は《文明崩壊ダンジョンライバーズ》。ダンジョン配信こそこの作戦を成立させる重要なピースだった。
◆
そして時は戻り、ダンジョン最深奥の地底湖。
ボスのグレンデルは大和が瞬殺。今は薄い暗がりと静けさだけが地下空間に満ちていた。
「恋華さん、準備はいいですか?」
「……スゥ……ハァ…………はい、お願いします」
『了解。配信を開始する』
いつもの小型ドローンを浮遊させ、配信が始まった。
「ライバーズのみんな、こんダンジョン〜。久しぶりの《文明崩壊ダンジョンライバーズ》、始めまーす!」
映像を映すドローン越しに、ライバーズへ向けていつもと変わらない笑顔とテンションを
そう。いつもと変わらない。それが大事なのだ。
:配信来た!
:待ってた。
:あれから情報が錯綜しすぎて訳分からん。いま何が起こってるの?
:今日は配信前によく分からん許可求められたんだがあれなに?
:まず読め。双方向配信やるって書いてあったろ。
:双方向配信?
:音声が双方向。つまり大和君とお喋りできるってこと。まあ流石に全員じゃないだろうが……。
:マジかよ!
賑やかに、配信画面がコメントで埋まっていく。
いつも通り人の入りは上々。いや、むしろいつも以上に熱が高まっている。良くも悪くも。
:お、れんれんちゃんおるやん! 事前告知通りとは言え元気そうで安心したで!
:は? あんだけやらかした奴がなんでいるの?
:消えろよ。というか大和君も大和君だろ。なんでまだそいつ使ってるんだ。
:そいつが入院してた病院で爆発事故あったって聞いたんだが? そいつの仕業じゃないの?
:疑惑と憶測で誹謗中傷するカスってなんなん? 理解できんのだが。
:倫理とマナーを母親の腹に置いて来たか? 救えねぇ。
(禊、キックよろしく)
(任された)
コメントに早速恋華のアンチが湧く。それも少なくない数が。それに反応したコメントもあいまりさらに混沌としていく。
ある意味彼らもバロンのスキルに踊らされた被害者だが、今は邪魔だ。
禊率いる電脳部隊が喧嘩腰のコメントの主を片っ端からキックして追い出していく。
「えー、まず配信前に重大発表があります」
:事前告知でも言ってたね。
:れんれんちゃんVSバロンとかあったけど結局詳細がよく分からんのだよな。
:バロン。インドネシアのバリ島、バリ・ヒンドゥーの聖獣。右の魔術 (白魔術)を使う。モンスターとしての目撃情報はなし。それくらいは予習してきたよ。
:というか色んなところで情報垂れ流されてたしな。
「はい、そのバロンをですね。先日ダンジョン外で確認しました! ある特殊なスキルで無限に成長する上に普通の手段では討伐不可という極めて厄介なモンスターです!」
:……はい?
:聞き違いか? ダンジョン外って言った?
:無限に成長する?
:しかも討伐不可? え、大和君でも?
:待て待て待て待て情報量が多い。多すぎる!
:ニコニコ笑顔で言う内容じゃねえぞ!
「僕でも討伐不可です! いわゆるギミックボスですね、クソですっっっ!!」
:力いっぱいクソって断言した。
:なんか笑顔なのに恨みの念が籠っている気がする。
:多分お休み期間はこの対策で走り回ってたんだろうなって。
「で、さっきも言いましたが現在そのバロンが野放しのまま自由に地上を出歩いています」
:は?
:……なんて?
「バロンの外見やスキルはこの通り。言うまでもなく極めて危険なので見つけても近寄らないようお願いします」
大和の言葉に合わせて禊が配信画面に追加でバロンの姿やスキルをまとめたデータを表示する。
:Lv.45? しかも最低でもって注釈付きなの何?
:??? ごめん意味が分からない。
:頼まれても近付かんが?
:というか何故モンスターがダンジョンの外に?
:《
:デタラメ言うな、悪ふざけならタチ悪いぞ!?
:いや、待て。もしかして……。
:考えたくもない可能性だが。
:まさか九州のペイルライダーの同類か!?
「――はい」
最後の問いかけに大和がドローンカメラに目を合わせ、しっかりと頷く。
ペイルライダー。それは日本国民のトラウマを直撃する迷宮災害。かつて大和を含めた日本の総力を挙げて討ち果たしたワールドエネミーの名だった。
:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ! やだやだやだやだなんでなんでなんでなんで!?!!???!
:特異個体!? 滅多に出ないはずだろ、なんで今!?
:なんでか無節操に暴れ回らないお陰でギリ人類が致命傷になってないだけの奴らじゃねえか!?
:その分暴れ出したら被害がヤバい。いやマジでヤバイぞ! いまこの瞬間どっかの都市が灰になってもおかしくねぇ!?
:日本の株価がフリーフォールの準備を開始しました。
「ご安心下さい、手はあります」
大和の視界に映し出されたホロビジョンが悲鳴じみたコメントに染まる。
いま視聴者は混乱の坩堝のただなかにある。そこへそっと一筋の蜘蛛の糸を垂らすように希望を告げる。自然、視聴者たちは飛びついた。
:手?
:解決策があるんだな!? 信じてるぞ!
:大和君助けて!!
「さっきも言った通りバロンは特別なスキルを持っており、倒せるのは有資格者のみ。この場合は――彼女、れんれんこと紅恋華さんがその有資格者に当たります」
炎上案件の鎮火は誠実に対処するか、逆に徹底的に無視するのがセオリーだ。だが今回はどちらの手段も取る余裕がない。
なので大和達《サバイバーズギルド》は第三の選択肢……炎上以上の衝撃を叩き込んで炎上そのものを霞ませる爆風消火戦法を取ることにした。もう視聴者の中に恋華の炎上を覚えている者は誰もいないだろう。
(まあ、嘘も方便嘘も方便)
大和でもバロンを倒せないのは事実だが、有資格者なら倒せるなどデタラメもいいところ。
嘘八百を交えながら恋華とバロンが戦う舞台を作り上げていく。
:は?
:ごめん待って急展開過ぎて頭が追い付かない。
:何故れんれんちゃん……いや、恋華ちゃんか? が、その有資格者なんだよ。
恋華へ向けられる視線はまだまだ戸惑いが強い。だが悪感情は大和の爆風消火戦法によって消し飛ばされていた。これをどうやって恋華への応援へ繋げるか、それが肝だ。
(ここからが勝負)
笑顔で堂々と嘘を吐きながら大和に油断はない。繊細に繊細を重ねてライバーズが作り出す空気をコントロールする。
「聖獣バロンには対立する神格があります。その名はランダ。悪の魔女であり無辜の被害者。そして恋華さんの前世です」
:前世……つまり転生体か!?
:前世からの因縁とかいう厄ネタ。これだから転生体は……。
:一億円の宝くじより当たる確率が低いらしいが、いるところにはいるんだな。
:道理で……。
「――そしてバロンの狙いはランダ。つまり恋華さんがいるここに現れる」
:来るのか、バロンがそこに。
:そんな都合のいいことあるのか?
:いや、でも大和君が言うことなら……。
正確には現れざるを得ないようにバロンを追い込んだ。
バロンを忌避すべき厄介者(ただの事実だが)とレッテルを貼り、倒すべき敵対者と認識をすり込んだ。善を標榜するバロンにとって我慢がならない展開だろう。
恋華を囲う空気が少しずつ忌諱から期待へと変わっていく。現金で即物的だが、人のサガとはそんなものだ。ここまでは想定通り、と大和が胸の内だけで手応えを感じる。
「皆さんに心からのお願いです。どうか、恋華さんに
:……大和君?
:そりゃ応援はするけど。
ライバーズへ深々と頭を下げ、願う。それは半ば懇願だった。この戦いに大和は手を貸せない。その無念を滲ませた言葉にライバーズから戸惑いのコメントが上がる。
「恋華さん……僕にできるのはここまでです」
「はい。どうか、そこで私を見守っていてくださいませ」
お膳立ては終わった。ここから先は彼女だけの舞台だ。
呼びかけに答え、淑やかに一礼。愛しい少年へ願いを告げた恋華が一歩前に踏み出す。
「――来なさい、バロン! 決着を付けましょう。私と、あなたで!」
恋華が凛と叫ぶ。
堂々たるバロンへの宣戦布告。恋華はバロンを碌に知らない。だが自身の不幸の源。過去からの因縁が絡まり合った怨敵に向ける声は陰々とした力が籠っていた。
『…………』
地下空間に沈黙が揺蕩う。固唾を飲んで見守るライバーズにどこか拍子抜けした空気が漂った。
洞窟中の停滞した風を掌握した大和のセンサーにもまだ引っかからない。
だが、来る。
それは直感であり、確信だった。
薄い硝子の板が砕け散るような甲高い音が鳴り響く。
空間が歪み、砕ける。
砕けた鏡のようにひび割れた空間の先に覗く漆黒の闇――これこそ空間跳躍。条件付きとはいえ《世界の敵》が持つ特権の一つだ。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ――――!!」
ひび割れた空間の先から身を躍らせ、”白”が現れる。
聖獣バロン。恋華の宿敵であり、世界の敵。そして今も成長を続ける、怪物だ。
『いきなりブッパして来るよ、気を付けて――!!』
計器に示される明らかなエネルギーの高まり。
その異常を感知した者による電子音声の警告が恋華の耳に届き、魔力を滾らせて応戦の姿勢を取る。
†《白き聖獣》†《正義執行》†《太陽の加護》†《属性権能:光》――
バロンの口腔に巨大な光球が膨れ上がる。
空間を割り砕いて現れる前から口腔に溜め込んでいた膨大な光のエネルギーが一切の情け容赦なく解き放たれる。
†《コンボ:聖義咆哮》†
配信画面をホワイトアウトさせる程に眩い光が地下空間に満ちる。バロンの誇る必殺が恋華を襲う。
戦いが始まった。