【悲報】人類最強のダンジョン配信者、最強過ぎて仲間が出来ない【ボッチ】   作:土ノ子

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第三十四話 白の夜明け

 

「私、は――」

 

 バロンとの戦いに心が折れた恋華は、もう勝つ意味がないと諦めた恋華は――()()()()()()()()()()

 

「ベルーガさん……お願、い。あなただけでも、生きて」

 

 自分を諦めても、ベルーガを助けることだけは諦めなかった。

 頭の中でこれ以上なく魔女(ランダ)がバロンの憎悪をがなり立てる中、痛む体を引きずって倒れ伏したベルーガのもとへ歩み寄る。アイテムポーチにもう回復ポーションはない。それでも空になったポーション瓶の底を浚い、数滴の薬液を振りかける。

 

「……少しは、良くなりましたか? 良かった」

 

 僅か数滴。所詮焼け石に水。ベルーガの苦痛を僅かに和らげる以上の意味はない。

 だが半ば錯乱したいまの恋華にそんなことは分からなかった。壊れた機械のように同じことを続けた。

 だからこそ、これが恋華の本心だった。

 

「……シャシャ」

 

 その恋華の足掻きをバロンはただ笑って見ていた。邪魔はしなかった。

 それは慈悲の心などでは決してなく……ベルーガが死ねば恋華が堕ちるという未来を待っていたに過ぎなかった。

 

 ()()()、と硬い岩盤を粉々に踏み砕く凄まじい轟音が鳴り響く。

 

 それは大和が一歩を踏み出しかけ、踏み止まった証。

 ベルーガを助けることは出来る。出来るが……その時、全てが茶番に落ちる。何より恋華に残された可能性を切り捨てるに等しい行為だ。

 それでもやむを得ないか、と迷ったが故の一歩。

 

:なんでだよ、なんで助けない!?

:お前なら何とかできるだろ、早くやれっ!!

:見捨てるつもりかこの人でなし!!

:何とか出来ねえから何とかしようとしてるんだ、黙ってろ!

 

 滝のように流れるコメントはさながら悲鳴のようだった。

 誰も彼もが滅茶苦茶に荒れ狂っている。最悪のバッドエンドを予期し、攻撃的になっていた。

 そこへさらなる火種が一つ。

 

:あ。

:恋華ちゃんの、フェイスベールが。

 

 全力以上を扱った黒い炎に耐え切れなかったのか、顔隠しのフェイスベールがゆっくりと端から焼け崩れていく。恋華の顔を覆っていたフェイスベールが灰となって消え去れば、当然そこに覗くのは怪物化が進んだ恋華の素顔。

 コメント欄が、しばし止まる。それはまさに絶句と言うべき時間だった。

 

:――なんだ、あの顔。

:まるで……まるで。

:バケモノじゃねえか。

 

 それは率直で、飾りのない、あまりに無慈悲な声だった。

 ああ、その評価は正しい。いまの恋華を見て百人中百人が醜い怪物と断じるだろう。だがそれを言葉(コメント)にするのはあまりに人の心がない。

 

「ッ、――――」

 

 ガキン、となにか硬いモノの割れ砕ける音が大和の耳に届く。その音はどこか遠く、砕けたモノが自分の奥歯と大和が知ったのは後のこと。

 大和の心の片隅になにかうすら寒い感情(モノ)が滑り込む。それは失望、それは諦観。

 木を見て森を見ない行為だと分かっている。それでも人間とその醜さに大和が見切りをつけかけた、その時。

 

:ふざッッッけんなボケェ!!

:上っ面見てバケモノ呼ばわりとかライバーズ舐めてんのかニワカがよぉっ!?

:俺たちはな、あの子がどれだけ頑張って来たのか観てるんだよ!

:声がいい。それだけで青空に届く黄金にも勝ると知らぬ愚昧め。

:声フェチニキィ!? 生きてたのかあんた!?

 

 話題に引っ張られてたまたま配信を視聴していた者達の横っ面を張り飛ばすような怒涛のコメントが流れていく。恋華を観、知り、言葉を交わしたライバーズ達が瞋恚の炎が、《正義扇動》で揺り動かされた薄っぺらい嫌悪と敵意を焼き尽くしていく!

 

:シンプルに行こう。あの子とバロン、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてもしかしたら怒れるライバーズ達の中に”あなた”もいた……かもしれない。

 一つ、確かなことがある。”あなた”は恋華に勝って欲しいのではない――ただ幸せになって欲しいだけだ。

 

:……そんなの、恋華ちゃんに決まってるだろ!

 

 ()()()()()()

 《正義扇動》がもたらす空っぽな敵意をライバーズの瞋恚が真正面から打ち破った。

 これは決して偶然などではない。

 苦汁を噛み締め、苦境に臨み、それでも頑張り続けた恋華だからこそ掴めた、恋華自身の成果だ。

 

:頑張れ。……頑張れ!!

:思ったのとは違った。違ったけどさ、中身は違わなかったよ。

:頑張ってる人を見れば応援したくなるのは当たり前だよな。

:確かにあのクソダサ珍獣ビーストにニタニタ笑われるの死ぬほど気に食わねえっ!!

 

 それは、恋華へ向けて次から次へと贈られる万雷のエールが証明していた。

 

「――禊ッ!!」

『ん、3秒で終わるから待ってて』

 

 来た……来た、来た、来た!!

 千載一遇の好機。大和が我を忘れる程望み続けたシチュエーションがやって来た。

 

『全員傾聴。手短に言う。いま配信音声を双方向に設定変更。最大音量へボリュームアップした』

 

:?

:すまん、どういうこと?

:待て。それはつまり――、

 

 言葉の意図を咄嗟に掴めず問い返すライバーズへ、禊は今度こそ誤解の余地がない一言を告げる。

 

『言いたいことはシンプル――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 天秤を決定的に傾ける、最後の一撃とするために。

 

:そういうことか!

:マジか、マジかよ、マジなんだなっ!

:最高かよ。いまはとにかく声を張り上げたくて仕方がないんだ!

 

 さあ――叫べ、その思いの丈を!

 

 

 

『  ――――――――――――――――――――――――――――――――  』

 

 

 

 紡いだ言葉は違えども、心を一つにして”あなた”を含む全てのライバーズがありったけの思いを叫び――それは確かに恋華に届いていた。

 そしていま、集い束ねた想いは結実する!

 

「あ……」

 

 (ボウ)、と半ば意識を失っていた恋華がある異変に気付く。

 鼓膜を叩く音の連なり、温かく降り注ぐ万雷のエール。

 燃えるように熱い己の身体。

 腰のホルスターもまたやけに熱かった。無意識の内に触り、取り出し、目を見開く。

 一対の双銃、恋華の”右手”に収まった魔銃で異変が起きていた。黒雛に合わせて薄くコーティングしていた黒のペイントが卵の皮を剥くように消えていき……残ったのは眩いほどのピュアホワイトで構成された銃身。

 ベルーガに触れた白の銃身が輝く。恋華の内でたったいま目覚めた新たな力に呼応するように!

 

 †《黒の寡婦》†《()()()()》†《白魔術 (初級)》†《魔銃:白明(ハクメイ)改》†《癒しの手》†

 

 白き魔銃の名は白明(ハクメイ)。白の夜明け。朝と夜に跨る境界の時間こそこの魔銃の名に相応しい。

 バリ島で言う右の魔術。癒しと解毒を司る白魔術の光が躍る。光はベルーガを優しく包み込み、溶け込むようにその肉体に沁み込んでいく。

 全身の骨が悉くへし折れ、内臓は潰れ、魔力は尽き欠け……まさに虫の息だったベルーガが恋華の回復魔法によって少しずつだが確実に癒されていく!

 

「ベルーガ、さん……ベルーガさん! 嗚呼(ああ)、良かった!」

 

 これは都合のいい奇跡だろうか――もちろん、否だ。

 バリ島のランダは確かに”悪”を司る魔女だ。だがバリ・ヒンドゥーにおいて”善”と”悪”は時に切り替わり、流動する概念でもある。

 聖獣バロンは時代を遡れば人を食らう魔獣であり、魔女ランダは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ”あなた”が、ライバーズがかけたエールが恋華(ランダ)を変えたのだ。それは内面だけではなく、目に見える部分もまた。

 

:おい……見間違いか。恋華ちゃんの顔。

:…………なんだ、あの国民級美少女。ありえねえだろ。

:え。なにあの子。見てて胸が痛い。会いたい。話したい……。

一般人(Lv.0)はすぐ配信を切れ! 多分女神系が持つ魅了(チャーム)だ。

 

 万雷のエールを受け、完全に覚醒を遂げたいまの恋華は……美しかった。

 元の怪物的な容貌などどこにもない、完全無欠の美しさ。個々のパーツではなく”美しい”という印象そのものが強烈に刻み付けられるある種の呪いに近い美。

 涙を流しベルーガを必死に癒す姿も相まって多くのライバーズを魅了した。

 元々ランダは二面性を持つ神格だ。幼子を食らう姿と庇護する姿の両極端な意匠の石像がバリ島に残されているという。魔女ではなく慈悲の女神の相に覚醒した今の恋華はもう怪物ではない。人々から愛され慕われる存在へ昇華した。この一幕はその副作用のようなもの。

 

「……綱渡りの連続だったけど、成ったか」

 

 一連の全てを見ながら大和が安堵の息とともに呟く。

 ランダの伝承を基礎に、配信という媒体を通じて多くの人々から恋華への想い(エール)を集める。それが《サバイバーズ・ギルド》が立てた策の骨子で、全て。

 あまりにも恋華任せで、そのくせ彼女には何一つ教えられない、綱渡りにも程がある策だが……とにもかくにも成った。

 

 問おう――今の恋華は果たして”悪”だろうか?

 

 ランダは魔女だ。だが”善”の魔術に目覚めた女神(ランダ)は本当に”悪”なのだろうか。

 実のところこの問いかけに白黒つける必要はない。そうと疑えるだけの下地が生じた時点で既に《善悪均衡》の概念は破綻している。

 つまり、

 

「――ランダが優しい心に目覚め、善悪の均衡は崩れた。バロン、お前の不死性はもうない」

 

 ここから先、黒鉄大和(人類最強)の暴力を一切容赦なく振るえるということだ。

 

「シャ……シャ、ァ……」

 

 愕然。バロンの形相を表すならまさにその一言。

 十数年をかけた策謀が最後の最後、愛と勇気と数の力でひっくり返された。バロンからすれば理不尽にも程があるだろう。

 恐らくその内心を敢えて言葉にするなら、

 

「――ふざけるな。そう思ってるんだろ、バロン。分かるよ」

 

 敢えて笑顔で、柔らかくバロンへ語り掛ける大和。

 事実大和は理不尽を前にしたバロンの気持ちがよく分かった。一瞬前まで両者の立場は全く逆だったのだから、当たり前だ。

 

()()()()()()()()()()()

 

 †《建速嵐(タケハヤノアラシ)》†

 

 (ゴウ)、と。地下空間に嵐が吹き荒れ、一瞬にして収まる。

 台風の持つ運動エネルギーはジュール単位にして10の18乗。広島型原子爆弾18,000個分。日本の総発電量の約50年分に相当する莫大なエネルギーだ。

 そして黒鉄大和は嵐を司るスキル《建速嵐(タケハヤノアラシ)》の持ち主であり、小なりといえど個人で台風を起こしうる規格外のバケモノである。

 

「ァ……ァ、ァ……」

 

 起こした嵐は収まったのではなく、大和の手元に収束しただけだ。

 いつの間にか抜き放っていた十束剣を媒介にありえざる超圧縮を起こし、その刀身に沿って光を歪める漆黒の力場と化した。

 

「――――」

 

 絶句し、立ち竦むバロンは恐らくこう思っていることだろう――どちらがバケモノだと。

 あまりに隔絶した超抜級の暴力。バケモノを超えたバケモノ。人の形をした災害。それが黒鉄大和という人類最強である。

 その最強が、お前を生かす理由などないと冷ややかな視線でバロンを射抜く。

 

「せめて恋華さんが受けた苦しみの万分の一でも受け取って、死ね」

 

 †《コンボ:禍津神風・獄》†

 

 一閃。極限まで収束された黒風の刀身がバロンの肉体を捉えた。

 その黒き刃は肉体を斬るのではなく吸い込み、飲み込み、捻じ曲げる。斬線に沿って半ば重力場にも似た風の圧力が残され……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ、――――ッ――――ッッッ――――――――…………………………

 

 最早悲鳴を上げることすら出来ず、圧縮される大気の流れに巻き込まれてバロンの肉体が押し潰されていく。細胞の一片すら残さず葬るという大和の殺意の結晶だ。

 バロンを余さず飲み込んだ黒の斬線は次第に縮んで小さな黒の球となり……爆裂。圧縮された大気が軛から解放され、一瞬にしてダンジョン全域を暴風が駆け巡る。ダンジョンそのものを破壊し尽くす暴風に飲み込まれたモンスターは一瞬たりとも抗えずただ消滅していく。

 

 爆砕。振動。轟音。

 

 大和が保護していた恋華とベルーガには微風すら届かず、しかし配信ドローンは盛大に巻き込まれて強制的にブラックアウト。配信は強制中断となった。

 元々魔力が薄れかけていたダンジョンも基底構造から揺さぶられる大破壊に耐え切れず、魔力切れにより消滅。

 黒鉄大和の本気はダンジョンすら破壊する。半ば誇張、半ば事実に立脚して語られる伝説(黒歴史)の誕生である。

 それほどの超暴力を受けたバロンはあとに構成魔力の欠片すら残らず消滅。

 聖獣を名乗りながら偏狭な正義を掲げ、数多の外道を働いた畜生に相応しい末期だった。

 

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