透き通るような世界観に混じる逸般不純物! ネイビーアーカイブ 私のミスですか? 作:ゴジマツリ=ユーリエフ
キング・クリムゾン!!
──────────────────────────
昨日徹夜をした者は幸いである。今日も休みであるからだ。
嗅ぎなれぬ匂いを薄く纏う俺達は元休憩室、現執務室兼休憩室兼リビングの扉のノブを捻り部屋の内に。
まだ街灯バチバチの早朝であるにも関わらず部屋には明かりが付いておりカレーの匂いが漂っていた。
おそらく明け方に腹が減ったヒヨリが一足先に食いに来たのだろう。
2.3歩足を踏み入れると同時にギーっと慌ただしく椅子を引く音が響く。
誰に文句を言われず2杯目のカレーを食うためのちょっとした早起きのつもりが予想外の入室がありこっそりと隠蔽工作に入っているといったところかと考えていると
ドドドドドドッ!
ホラーゲームの怪異並に激しく地面を叩く足音が二つ。おそらく口止めだろ…………二つ?
「「うおぉぉぉ!!!」」
急カーブからの急停止。
「おかえりなさい!先生!ワカモさん!」
「ヤッたんか!ヤッたんかぁブラァイ!」
満面の笑みのヒヨリとニヤケ面で人差し指と中指に親指を突っ込んだ拳を突き出すバルバラ。
たった一日で何でこんな仲良くなってんだ。
そしてそのジェスチャーはウゼェ親戚のおっさんくらいしかしない。てかそれ三桁単位前に存在すんのか?
「"ヤッてねぇ!"」
「嘘つけぇ、仲良く朝帰りっちゅ〜ことはそういうことじゃろ?なぁ?あんなこと言うちょって……なぁ?」
死ぬ程ムカつく顔してやがる………
だがまあ、実際にワカモと共に朝帰りだ。
ワカモとはある種決着は付いたが……
「バルバラさん、あまりその様に野暮な詮索をされますと………」
ワカモの銃先についた脇差がカチャリと音を立てる。
「ヒッ!」
「"何故お前が驚く、安心しろヒヨリ。死ぬのはバルバラだけだ。"」
「失礼、不躾が過ぎました。ヒヨリ姉さんは昨日のカウンタースナイプの件で───」
「す、すみませんでしたぁぁ!」
下げ馴れし 頭を下げる ヒヨリかな
「アレはヒヨリだったのですね。付け狙う気配を感じ特に確認せず撃ったもので気が付きませんでした。」
振り向いたワカモが急にぶっ放したから何事かと思えば。
「そ、それでぇ……そのぉ………」
「反省しているのならば構いません。」
許されたはずのヒヨリは腰を曲げたままゆっくりと顔を上げる。その顔は未だに不安そうだ………さては他に何かやらかしたな?
「こ、これからも今まで通り……ということで、いいん、ですかね?」
「ええ、何も変わることはありません。これからも気さくにワカモ姉さんと呼んで下さいヒヨリ。」
「よ、よかったですうう"ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙!!」
「あらあら。」
唐突な良質タックルがワカモを襲う。
「よ、呼んだことはないですが分かりました。これからもよろしくお願いしますワカモ姉さん!」
当然のことながら胃袋がガッチリである。
「"…………で、何か言うことはあるかアホ女?"」
「得た情報の裏取りのために外へ行きたい。お前も都合が悪かろうし連邦生徒会に私のことを報告する明日以降で構わん。」
「"他人のセンシティブな内容の話をエサに取り入ろうとは随分と良い性格してんな。"」
「気が狂うほどの文字に疲弊していた所にヒヨリ姉さんが図書館にあるマンガを紹介してもろうてな、そっから仲良うなったんじゃ。話はそん後。」
「"あっそ。後でフレネミーでググっとけ。"」
「マンガはええ………ロマンス小説では百十数文字ほどで書かれる内容が2.3枚の絵で表現されとるから疲れた脳にもすっと入ってくる。惜しむらくはナヨナヨとした男が多いことじゃ。」
そう聞くとマンガが小説のドパガキ版に思えてくる。
ネットスラングとは罪深いものだ。
「"とか言ってオレ様系も絶対嫌いだろお前。逆にどんなキャラが好きなんだよ。"」
「男と言ったら3Kじゃろ。」
「"お前本っ当どこまで古いな!……てかなんだっけそれ?"」
「そりゃあ高身長、高火力、高耐久に決まっとるじゃろ。」
お前よりデカいのはシンプルに何かしらの怪異だ。
「"認識の齟齬があったのは理解した。前時代的なお前にオススメなマンガは俺物語、そしてオススメの結婚相手は戦車だ。"」
「はっ!戦車如きが高耐久高火力となw」
「"結婚は諦め……ふぁぁ─"」
下らない雑談は止めてすぐに寝ろと脳からの指令で漏れだ欠伸を噛み殺す。
今から寝て昼間に起きてスミレズブートキャンプでも受ければ昼夜逆転は免れる。
ならば今すぐベッドへ向いソシャゲのスタミナを消費すべし。
「"ヒヨリ、その辺にしといてやれ。ワカモもしっかり休めよ。"」
「はい、おやすみなさいませ。」
「"おう、おやすみ。"」
デカキモを変わらずなニヤケ面をスルーしヒヨリに纏わり付かれたワカモに軽く手を振り部屋へと足を早めた。
──────────────────────────
大体18時間振りの自室。住み慣れたそこは暗からろうと迷いようはない。
照明をスイッチをスルーし靴下を脱ぎ遮光カーテンを閉める流れでベッドに倒れ込むと見せかけ、弾む勢いを利用し中心で胡座をかく。完全に体力の無駄使いだが寝る前なのでそれもよし。
そして行うのはデイリー消化だ。脳をバグらせるブルーライトを発するスマホに指を這わす。
代わり映えしないコンテンツと加速する環境、クソ眠い時に行うデイリー消化ほどゲームのモチベーションを削ぐものはない。
表示されるでけぇ数字と推しへの興奮も鎮静し倦怠感故の冷静さで色々とさめてしまうよろしくねぇ時間だ。
そして画面を見ながら意識は他へ。
薄っすらと見える何の変哲もないクローゼット、あの中にしまわれた服の全てを今着ている服と同じく背の部分を切り翼のスペースを作らなければならないと考えるとこれまた面倒臭い。
これから冬が来ると考えれば憂鬱だ。
羽は武器にはなるが神秘or恐怖は抜けて弱体化してしまった訳でどう考えてマイナス、とにかくマトモな攻撃手段として使うにはまず羽トレが必須か………
……てかその前にこんなデカい羽生やしといて普通の寝具で寝られるのか?と、思ったがアズサもコハルも普通のベッドで寝ていたはず。次に問題になるのが寝やすい羽の位置……それは昨日探ったが結局寝られなかった訳で……。
考えていても寝られでもなし、機械的にデイリー消化を終えたスマホの電源を落とし目を閉じベッドに寝転がる。やはり馴れない羽のせいだろうか、寝つきは悪くないはずなのに思考が巡る。
好意的なものを一切感じず機械的に最小限デイリーだけを終えるゲームのことを俺は本当に好きなのだろうか?そうでないとしたら俺は何故このゲームをアンインストールしないのだろうか?
ワカモの心は脆く強かった。
昨日、言うべきことは言った。泣き喚き過呼吸になりながらワカモの口から出てきたのは至らぬ点だの浅ましい考えとか到底的外れなことばかり。
分かったことと言えばワカモは俺と同じくらいに自分勝手で俺よりも遥かに諦めが悪いということ。
ただそれだけだ。
ガチャ
小さく扉が開く音がする。
人が寝ようとしている時にどうにも空気が読めない奴がいるようだ。
「おーい…………お〜い。」
ノックも何もなかったから察しはついていたがやはり人のルールを知らないゴリラだった。
ゴリラの言葉を知らない俺は無視を決め込む。
「ええ加減にせぇ、起きとうやろが。」
「"いい加減にするのはお前だ。人が寝ようとしてんのに………"」
「お前に言うちょきたいことと聞いちょきたいことがある。」
「"チョキチョキうるせぇよ。グーで殴れば満足か?しょうもないことならレッドウィンターの海に沈めるぞ。"」
「………調印式の件、内輪揉めの件も、トリニティのために尽力してくれたこと、ユスティナ聖徒会の一員として感謝する。」
道着を着て正拳突きでもしてそうな布の擦れる音と微量の風が吹く。何をやっていようと寝ようと目を瞑っている人間を前であればそれらは害悪以外の何者でもない。
「"趣味と実益を兼ねての雑魚狩りだ。てか裏取りはどうしたんだよ……まあ、どうでもいいけど用が無いならさっさと出ていけ。"」
「裏取りももちろん行う。……………それで、お前等は結局ヤッたんか?」
「"バカとノンデリはカニ漁へ行け。ヤッてないと何度言えば分かる。"」
誰なんだこのアホを聖人認定したアホは(n度目)
「日帰りが一泊に変わり、二人揃って寝不足っちゅうことは……そういうことじゃろ?のぉ?アツコさんも訝しんじょった、しっかり説明せんとヒヨリ姉さんがターキーを焼きかねんぞ?」
「"そうか、期待しないで待っておく。"」
ギャン泣きの果てにやや泣きのワカモを歩かせる訳にも行かず近場の宿にinしただけのこと、ワカモの初めてのワガママに応じて同室に泊まったがR指定なことは何もなかった。それは断言できる。
「ふむ……今日は安息日じゃ、今は礼拝堂にも行けぬ故ここで礼拝と洒落込むとするかのぉ……」
流石は聖女とまで呼ばれた女だ。人の嫌がることを率先してやる。
「"………はぁ……添い寝だ添い寝。それ以上のことは何もない。"」
「いやどっちも寝とらんやん………」
至極真っ当なツッコミだ。
「"ワカモは緊張して寝られなかったとよ。"」
集めたら500mlペットボトル分は確実に行くレベルに泣いたというのにその疲労を上回る緊張とはなんぞや?
「お前は?」
その問いにブライは目を瞑ったまま声とは反対方向に顔を背け答えた。
「"俺は………羽のベスポジを探ってた。"」
「………ヘタレが……いいか、ブライ?世には据え膳食わぬは男の恥という言葉がある。奥手が過ぎて女の方から求められてなお応じない奴は玉無し言うことや。けどな、それで傷が付くのは男だけやない。積極性を見せた女にも大いに恥を───」
「"マジではよどっか行けよ。"」
バルバラの時代錯誤な説教が始まった。
説教やら小難しい話やらは眠くなってしまうものだが、巧妙なことに昨日読んだマンガの気に入らない男性キャラへの愚痴という若干関心があり共感できるもの交えて来たせいで中々寝付くことはできず、いつしか適当に閉めたカーテンの僅かな隙間からは淡い光が差し込んでいた。
──────────────────────────
長いようで短い睡眠を明けると暗闇であった。
今のキヴォトスで夜の底が暗いのはレッドウィンターだけである。頭が痛ぇ。
「"アローナ、電気をつけて。"」
『はい!』
「"おぉう………"」
速やかな灯火に眩んだ目を手で覆う。
そのまま上体を起こし手を外しアロナパイセンにご挨拶。
「"…………おぉうやべぇなアロちゃん。"」
とはいかなかった。
時は既に20時過ぎ。あのバカ女のせいで寝るまでかなり掛かったがどう見積もっても二桁は確実に眠っている。通りで頭が痛い訳だ。ついでにこの時間なら既に晩飯は終わっている。あのバカ許すまじだ。
『昼夜逆転ですね☆』
「"昼夜逆転ですよ。筋トレして無理矢理寝るしかねぇ……あ、羽を慣らしたいから羽を用いたトレーニングとか曲芸的なやつとか調べといてくれ。"」
『了解しました!』
「"ありがとう。"」
適当な指示を飛ばし改めてアロさんに礼を述べて立ち上がり体を伸ばす。
腹が減った。というより空だ。早朝に帰ったから朝食はとっていないしそっからの睡眠だ、消化活動が弱っていようと空になる。今なら何時ぞやに出された超特盛りな柴関ラーメンも簡単に胃に収まってしまうことだろう。
空の胃を満たすためにリビングへの扉を開ける。
「おはようございます、あなた様。」
ヒヨリへの何も変わらないという宣言通り、何も変わらない様子のワカモがダイニングテーブルで茶を飲んでいた。
「"おはようというには遅すぎるぜ。"」
「今晩は餃子ですが今から焼いてもよろしいですか?」
「"いいよわざわざ、俺が食う分なんだし……確かちょい焼いてちょいお湯入れるんだっけか?"」
「気にせずとも私もこれからですので。」
「"そうか、それじゃあ頼む。"」
そういうワカモこそ気にせず食っていればよかったのに。やはり過剰だ。
席を立つワカモと入れ替わる様に対面の椅子に腰掛ける。
「誰かのために作り、その方と食べる料理ほど美味しい物はありません。ですからこれは私のためです。」
2枚のフライパンと蓋を棚から取り出し油をひきながらこちらの心を読む。
「"罪悪感を感じるならいつでも何処へ也行っていいからな。"」
「妹等のことですね。」
何故そうなったのかは分からないが、言わんとすることは分かってくれたらしいワカモは換気扇のヒモを引き、冷蔵庫から大量の餃子が乗った大皿を2枚取り出しフライパンに並べ始めた。
「あなた様が「人を救う嘘なら」「互いに利のある嘘なら」とサオリ達をあなた様に取り入る道具として利用したことを肯定し許して下さいましたが、それでもこのワカモは理想の私に近づくため、真に彼女達の姉であろうと考えました。」
「"んん〜〜???"」
そこは友人じゃだめなのか?
今温まっているのは餃子ではなくワカモの頭の方なのかもしれない。
「"………それと、またワカモを泣かせたい訳じゃないが再度言う。俺はどうあっても誰かの気持ちに応えることはない。"」
「それでも私は諦めるつもりはありません。」
「"婚期逃すぞ。"」
「少し遅れるだけです。」
あらかじめ用意されていたケトルのお湯がフライパンに注がれ、落ちたそばから蒸発する音を立てる。
「"なんでお前は俺みたいな奴を………"」
蒸発の音と共につい口に出してしまった拒絶には余計な疑問。音に掻き消えるはずのその声をワカモのケモミミは容易に捉える。
「ワカモの愛がしっかりと伝わっていなかったのですね…………恥ずかしながらきっかけは一目惚れでした。」
「"why?突然何を言いなさる??"」
「あの日、あなた様を一目見た時に巻き起こった衝動は、連邦生徒会の面子を潰す目的や破壊への欲すらもどうでも良いと感じるほどに胸を焦がすものでした。」
ワカモは思い返して火照る顔を隠すため、何処からか取り出した狐面を被り振り返る。
「連邦生徒会長に選ばれた先生と災厄の狐……月並みな表現ではありますが、正しくロミオとジュリエットのようなもの。しかし悲恋は望みません。心中ではなく人生を全うし共に同じ墓に入りましょう。」
「"恥ずかしいからその表現は止めよう。マジで。後クソ重い。"」
それに好んで破壊に勤しんでるならジュリエットと言うより家の人等だ。ロミジュリは良く知らんからジュリエットがとんでもない女傑の可能性あるけど。
「"そしてあまり美化するな。初手ジュリエットを投獄するロミオが何処にいる。"」
「あなた様が私を訪ねて来て下さったので、あの牢獄も桃源郷に等しき場所でした。流石に今の生活とは比べ物になりませんが。」
ワカモの尻尾が激しめに揺れているのがキッチン越しに分かる。それ以外は何が何だか分からない。
本来苦痛であるべき場所に俺がブチ込んだという話をしていたはずなのに………卵料理と言われてプリンやケーキを出させる並に意味が分からない。
「話がそれてしまいましたね。」
と、思えばすぐ止まる。
「私が惹かれたのは当然顔だけではございません。幾度の逢瀬を歴て気付いたのです………あなた様は私と同じ傷を持っていると。」
「"………と、言うと?"」
「あなた様は過去に手酷い裏切りを受けた………」
「"なるほど……ワカモちゃんに悲しき過去って訳ね!"」
自分は違うと言いたげに茶化すがワカモにそれは通じない。
「同じ様な道を辿ったはずだというのに、略奪と破壊の限りを尽くす私とは違い他者を思い行動出来るあなた様………奪われたから奪い、壊されたから壊す。あの日からずっと、それでいいと過ごしてきたはずなのに……私にはその在り方が眩しく思えました。」
やはり俺は顔だけの男であったようだ。
「"別にお前と変わらねぇよ。ムカつく奴はボコす、殴っていい犯罪者共もボコす。偶々人の為になってることがあるだけだ。"」
「初めてアビドスへ向かう際、要件は弾薬の支援と聞きました。借金問題及び生徒拉致については何故引き受けたのですか?」
「"俺でも簡単にやれる雑魚だから、カイザー社がムカついたから、近場に美味いラーメン屋があったから。"」
「何によって、あるいは誰によって起きたどの様な状況への怒りでしょうか?」
「"そりゃあ色々よ。ま、言わんすることは分かったよ。色々と誤解があるみたいたいだが。"」
精神衛生上と思える時点で、という恐ろしく低いハードルらしい。確かに手痛い裏切りを受けた過去はある。
今だから思えるのだが、俺があのジジイの提案に乗り被差別対象である事を隠していたという時点で、俺は最初からあの村を騙していた。ならば裏切られたというのも若干適切ではない。
殺せるなら多分殺すがそれは逆恨みにしかならない訳だ。殺せるなら多分殺すが。
「やはり目下の問題が片付かねば難しいようですね………長くとも14年ほどでしょうか………」
「"何がだ?"」
靡かぬと言うのに何の問題か。
「あなた様が老いるか否か、あなた様の憂いが晴れる否か明暗を分ける時です。」
「"………鋭いのか鋭くないのか………話してないのに良く知ってんな。"」
「あなた様は死別を、見送り続ける事を恐れ誰からの想いに応えない……という認識でよろしいでしょうか?」
「"まあ、それもあるな。"」
「ならば問題ありません。」
ワカモは数回深呼吸を終えた後、何処から取り出しか分からない仮面を外し胸で抱く。果たして深呼吸に意味はあったのか微笑を浮かべる頬は軽く赤らんでいた。
「…………あなた様の憂いが晴れた時、この狐坂ワカモと契りを結んで頂けませんか?」
ワカモならいつか言うだろうと思っていながらも備えが足りず、真正面からハッキリと淀みなく放たれた求婚の言葉にブライは顔に血が集まる感覚を感じた。
それは言い切ったワカモも同様であった。
「私が私を忘れたように、あなた様の抱えるその他の不安も忘れるほど幸せにします。」
「"何で求婚!?何で餃子焼きながらの求婚すんの!!断るけど!!"」
「あら………それは残念です。気が変わりましたら今度はあなた様から聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「"あ…あっさりしてんなぁ……。"」
と口に出したものの、当然そんなことはない。
笑顔を作りダメージが無いように装っているが元気だった尻尾はキッチン越しにチラついていない。
相変わらずのクズさを自覚し顔に昇った血が行くべき場所に戻って行く。
「これからどんどん大きくなり続ける不安を無視し、先走ってしまった自覚はあります。」
「"まあ、14年先はな……"」
ピピピ!ピピピ!ピピピ!
「もうまもなく出来上がります。」
「"分かった。"」
ワカモはフライパンに向き直り蓋を外し、餃子に油を回しかけ、ブライは魔術と二人分の木皿と箸を生成しそれぞれの位置へ。
「"もし仮に、俺が老化しなけりゃ諦めてくれるか?"」
「その時は昨日の宣言通り勝手にさせていただきます。あなた様の隣に立っても恥ずかしくないよう自己研鑽に励み、あなた様の側で美しく老い、狐坂ワカモという存在を刻みつけて逝きます。」
送ることが怖いと言い当てておいてのこの結論。乙女心とは複雑怪奇だ。
「"そりゃ辛い。"」
ポン酢と茶を取りに席を立ち冷蔵庫へ。
「それでも私は覚えておいて欲しいのです。」
「"俺なら忘れて欲しい。好きな相手に辛い思いは出来るだけさせたくないだろ。"」
少なからず思うところがない訳ではない相手に言うには気恥ずかしい俺は冷蔵庫の扉で遮りながら意見を述べる。
自分が辛いから、というのもあるが残して来た側として率直の意見だ。
「その辛さも最後に残された思い出になると考えています。」
カッと固い物同士が軽く当たる音が鳴る。
ドリンクポットとポン酢をGOKにしまい冷蔵庫を閉じ目を向けると焼き上がったらしくフライパンの餃子は大皿へひっくり返されていた。
ニラとニンニクの良き匂いである。
「"自分勝手だな。俺もお前も。"」
右手で大皿を一つとり、左手でもう一方に手を伸ばす。
「似た者夫婦というものですね。」
「"違うが?"」
即座に否定し二つの皿を手に踵を返す。
「"………違うけどまあ、これからもよろしく。"」
テンプレ過ぎるツンデレ仕草にワカモは静かに微笑み追い打ちをかけた。
「こちらこそ、不束者ではありますが末永くよろしくお願いいたします。」
──────────────────────────
【オマケ】
トゲアリトゲナシトゲトゲに疑問を抱く何かチョロい奴
「こちらこそ、不束者ではありますが末永くよろしくお願いいたします。」
「"結婚はしねぇって。パワーだけの俺以外の男をちゃんと見て来い、キヴォトスの外にウジャウジャいるから。"」
「私の犯罪歴で入国出来る国が存在するのでしょうか?」
「"…………確かに。"」
アマゾネス共がキヴォトスの外へ出られるのか問題が本当に今更浮上し馴れの恐ろしさ実感しつつ椅子に腰掛ける。
普通に殺人鬼の俺が入れたキヴォトスがガバガバなのか連邦生徒会長の権力がヤバいのか……これが分からない。
「"………何か妙に肉が詰まってるモンが何個かあるな。"」
「お昼過ぎに皆で作れる物を、と思いまして皆で作りました。」
「"じゃあこれ作ったのはヒヨリか。"」
「ヒヨリです。」
ミサキ辺りが「何の意味があるの?」って感じにヒダを作らず八ツ橋状態にしてそうなものだが、他に様子のおかしい餃子は見たところない。ぶっちゃけ俺はあれを作る意味を知らない。
「あっ、そちらのお皿がニンニク入りの方でして……」
「"中身違うのか?"」
「はい。こちらにあるのがニンニクとニラ抜きの餃子です。」
「"そ〜れは………餃子……なのか?"」
ワカモは俺の前にある餃子らしき何かが乗った皿と餃子が乗った皿をスライドし入れ替える。
それを餃子と呼ぶならば半殺しの米類もおはぎと呼んで差し支えないのでは?
「やはり臭いの強いものですので………。」
「"別に俺は気にしないのに。"」
「それでも私は…………一つ、ワガママを言ってもよろしいでしょうか?」
「"昨日に続き珍しい。結婚、交際以外なら別にいいけど。"」
世話になりっぱなしだから心情的に寧ろ有難いまである。
「では、そちらの餃子を一つ頂けませんか?」
「"なんだ?それはワガママの内に………"」
それはワガママの内に入らんだろ、と口に出る前にワカモがテーブルに身を乗り出し小さく口を開ける。
「"……………一回だけだからな。"」
──────────────────────────
ブライ君を15歳にした理由は、まだまだ成長はする年齢であり老化が始まるまでかなりの猶予がある精神的に余裕が持てそうな年齢にしたかったからです。
大抵の人は成長が終わる17.18ならギリギリ、成長が終わり老化が始まる20代なら死ぬ程擦れた感じになってしまうので。
今の状態でワカモが愛想を尽かさなければ20代前半までは老化が始まらなくても平気です。ブライ君は割とチョロいので。
まあ普通に老化しなくて老衰もできないですけど。
そういうことなのでブライ君が仮に誰を選ぶとしても選択肢はあの方くらいしかないです。