大皿でピーマンを   作:灯火011

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ワガハイ、ピーマンが大好きなんだよねぇ。

 ――もしゃあ、もしゃあ、もしゃあ。

 

 目の前に置かれた大量のピーマン。

 

 を、片っ端から食っていく一人のウマ娘。

 

『やっぱり九州産は旨味が強くていいよねぇ』

 

 ――もしゃあ、もしゃあ、もしゃあ。

 

 繰り返す事3度の咀嚼。かのウマ娘の腹を満たす。かといって何か変わるわけではなく、このウマ娘がただただ満足するだけである。

 

「うわぁ、やっぱり……傍から見るとえげつない」

「……本当だねー。近寄らないでおこう」

 

 距離を取られることは彼女にとっては日常茶飯事である。

 

 ニンジンならまだしも、彼女らが比較的苦手なピーマンを山のように食うウマ娘は、この学園の中でも異様に見えるのは仕方のない事。

 一日に10キロ。本格化を迎えていないウマ娘が食うピーマンの量ではない。いや、そもそも一日に消費されていいピーマンの量ではない。

 

「おい、ゴールドシップ。お前、あれにちょっかいは出さないのか?」

「……いやー、流石によぉ。このゴルシちゃんも()()に手は出せねぇって」

 

 その異様さは、かの破天荒を以ってしても、距離を置いてしまうほどである。

 

「らしくねぇな?雰囲気はお前んところのトウカイテイオーに似てるじゃねぇか」

()()()()()()()()に似てるんだけどよぉ……。なんつーか、テイオーが不死鳥だとすりゃあ」

 

 破天荒はじぃ、っとピーマン越しのウマ娘の顔を見る。顔はあの不屈のウマ娘によく似ている。一見すれば、あのウマ娘のように不屈のウマ娘なのだろうかと思う。

 だが、破天荒の直感は全く違うモノを感じ取っている。それは、不屈とは違う、ひとときの強いキラメキを湛えた、例えるならば――。

 

「ピーマンの中身はカリッカリの流星だぜ?触ったら、こっちが焼かれちまう」

「なんだそりゃ」

 

 

 ()()()()()()は特段早いとか、強いとか、真面目とか、そんな事はない。良く言って平々凡々であり、このまま行けば未勝利ウマ娘で終わるであろう――というのが、大概のトレーナーの意見である。

 

「練習もそんなに本気じゃないよね」

「大体食堂でピーマン食ってるだけだしな……」

 

 ただ、スタミナだけは異様にある事は特筆すべき点であろう。坂路とプールの練習の時だけ、ピーマンは輝いている。

 

「なんであんなに坂路とプールにこだわるんだ、と、この前話を聞いてみたら、『ピーマンをタダで沢山食えるのでお腹を減らしたい』とか言ってたしなぁ」

「変わってるなぁ、やっぱり、あの娘」

 

 一日に10キロ。365日。年間3650キログラム。……ただ、これは概算であり、ピーマン野郎の気分によっては20キロにもなる事もあるため、実際は年間4トン近いピーマンを消費する。彼女一人の食欲で、トレセン学園のピーマン消費量はとびぬけてしまっている。

 

「……ま、学食の負担にはなってないらしいですけどね」

「そうなんです?」

「ええ。なんでも『生で齧るのが一番旨い』とかで……洗ったピーマンをそのまま大皿に乗せて出すだけらしく」

「はぁ……?彼女、変わってますねぇ」

 

 ちなみにピーマン野郎曰く。

 

『一番おいしいのは種とワタだよねぇー』

 

 ということらしく、基本的にヘタごと丸っと食べるのが流儀。彼女が食べ終わったピーマン皿については、殆ど何も乗っかっていない。食い方だけは綺麗だよね、とはトレーナー達の談である。

 

 

 平々凡々なピーマン野郎とはいえ、中央トレセンに入るだけの実力は持っている。体格だけでいえばゴールドシップ、脚質でいえばトウカイテイオー、適正距離と適正バ場は今のところ探り探りといった具合だ。

 

 未だ、本格化の兆しは見えていない。

 

 しかしながら、タフさは秀でた物を持っており、トレセン学園においての練習量だけにおいてはトップクラスである。真面目ではないのが玉に瑕。

 

『へいへいへーい。ワガハイに追い付けないなんてマダマダだねぇー!』

 

 息も絶え絶えのウマ娘達の目の前で、ニヤニヤと笑みを浮かべながら全く息を上げていないウマ娘が一人。

 

「くそぉ……」

「スタミナお化け……!」

「次こそは付いていくからなぁ……!」

『ええー?前もそんな事言ってたよねぇー!?ほらほら立って立って、もう何本か行くよぉ!?』

「テメー……判ってて言ってんなぁ!?」

『うん。体力ないよねキミタチィ。スピードとかパワーで勝ってるウマ娘にスタミナで負けるって今どんな気持ちぃー?』

 

 煽り散らすのはもちろんピーマン野郎である。今日のメニューはトレセン学園ご自慢のスタミナ削り場、坂路である。

 

「悔しいに決まってんだろ!?」

『だぁーよねぇー!だったらほら立った立った。ワガハイはまだまだ5本は行けちゃうぞぉ―?』

「体力のバケモンがよぉ!お前本当に本格化前かよ!?」

 

 ピーマン野郎と彼女らは最初全く意識し合っていなかったのだが、他のウマ娘達が2~3往復でばててしまっていたところに、繰り返す事5度。全く涼しい顔で全力疾走を続けるピーマン野郎にどんどんと突っかかっていき、今となっては謎の友情が芽生えている。

 

『本格化はまだまだだよ。それにまだ()()()()が完成してないから、まだまだこの体に本格化されても困るんだよねぇ』

「は?なんだその悩み。ほんとお前って変わってるよな」

『褒めても何も出ないぞよー』

 

 息も絶え絶えのウマ娘達は、ゆらりと立ち上がり、目に闘志を湛えて坂路へと立ち向かう。それを見ると、ピーマン野郎も横一列に並ぶ。

 

『じゃ、行くよー。よーい、ドン!』

「しゃあ!今度は負けねぇ!」

「こいっやぁ!」

 

 ズドン、と脚元の地面が抉れる。体力がほぼ底をついているとはいっても、ウマ娘達のパワーは、やはり、人間のソレではない。

 が、その後ろから一息で駆け抜けてくる流星が一人。

 

『ヘイヘイヘーイ!』

 

 結局、体力をギンギンに残していたピーマン野郎がごぼう抜きに、一番最初に、坂路の頂上に立っていた。

 

 

「ふむ、風変わりなウマ娘というのは君か」

 

――もしゃあ。咀嚼で返す事1回。おそらくは、肯定の意味であろう。

 

「まぁ……食事を続けてくれていて構わないとも。何、最近、坂路で数多のウマ娘達を置き去りにした、と聞いてね?」

 

――もしゃあ、もしゃあ。咀嚼で返す事2回。おそらくは、否定の意味である。

 

「そんなことはない、と、言うのかね?ここ最近、君への挑戦者が絶えないであろう?」

 

――もしゃ。小さな咀嚼で返す事一回。おそらくは、迷惑しております。という意味であろう。

 

「……そんなに美味しいのかい?ピーマンは」

 

――もしゃあ。大きな咀嚼音。肯定である。

 

「……なぁ、私も一つ頂いても」

 

――もしゃあ!もしゃあ!明確な否定である。

 

「はは、冗談だよ」

 

――もしゃ。例えるならば、まぁ、良しと言った具合だ。

 

「ともかく、君のこれからの活躍には期待している。よく食べるウマ娘は、活躍してきた歴史があるからね。いずれ、レース場で会おう」

 

――もしゃあ、もしゃあ。

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