①ピーマンを輪切りにします。
②ごま油でさっと炒めます。
③醤油と味の素で味を付けてどうぞ。
シンプルですがナイスなピーマンです。ゴマとかをかけても美味しいです。
後から考えてみれば簡単な事なのだけれど、そういう物が一番難しい。四月一日トレーナーは、そう思いながらトチノステラの走りを見ている。
『どう?四月一日トレーナー』
「そうだね。体幹がどうもブレるかな。腕の振りが少し
『
四月一日は専属トレーナーになったわけではなく、トチノステラらを含む、自主練に励むウマ娘達を見ている数多のトレーナーの一人として接している。ただ、その中でもトチノステラから助言を求められることも多く、実質は専属トレーナーに近い。
『で、それはそうとして、答えは判った?』
「……いや、まだ」
『そっかー。ま、頑張ってね。私は待ってるからさ』
四月一日を一瞥すると、トチノステラは勢いよくコースへと駆け出していく。その姿は、確かに腕をコンパクトに振り、上体を起こした走り。四月一日の教えの通りだ。
「お、四月一日。ついに専属になったのか?」
同じように自主練を見ていた中堅のトレーナーから、揶揄われるように声をかけられると、苦い顔を浮かべてから口を開く。
「いや、まだ。ただ、少しは気に入られてるみたいですが」
「そうか、進展ありだな。頑張れよ」
中堅トレーナーはそう言って、別のウマ娘の元へと向かっていった。その背中を見ながら、四月一日は天を仰ぐ。
■
自主練の後はシャワーを浴びて、夕食を食堂で摂るのがウマ娘達の日常だ。それはトチノステラも例外ではなく、今日はチンジャオロースの定食を喰らっていた。
「四月一日トレーナー、毎日ステラの事みてるよねー。もう専属契約していいんじゃない?」
隣に座り、シャウエッセンを食べながら、ロマンリバーが茶化すようにそうトチノステラにそう告げた。苦笑を浮かべたステラは、チンジャオロースの中のピーマンを器用に集めて、口に運ぶ。一噛み、二噛み。彼女の顔には満足そうな笑顔が浮かぶ。
「聞いてる?」
『聞いてる聞いてる。四月一日トレーナーは良い人だけどね。でも駄目』
「わがままー」
うへー、とロマンリバーは肩を竦める。それを見たトチノステラも、苦笑を浮かべていた。そして食事を食べ進めた彼女たちであったが、ふと、ロマンリバーがある事に気づき、言葉を発した。
「そういえば聞いてなかったけど」
『ん?』
「ステラの目標レースって何?」
『ん?あれ、言ってなかったっけ』
トチノステラの目が点になっていた。そういえば、誰にも告げていなかったかと。それならば、同室のリバーにならば話してもいいだろうと思い、トチノステラは考えを口にした。
『トチノオーとのマッチレース』
言葉を聞いたロマンリバーの目が点になった。そして、自然と聞き返すように言葉が口から零れる。
「マッチレース?」
『そ、1VS1。トチノの文字を持つウマ娘達は彼女の後追い、なんて呼ばれているの知ってるでしょ?だから、それを覆したくてさ』
つまりは、トチノステラが、トチノオー越えを目指しているという事に他ならない。
『で、目標のために、凱旋門は絶対なんだよね』
「凱旋門?」
『そ。そこを獲らないと、超えるための下地すら認められないから。そして最後、トチノオーとのマッチレースに勝って、実績を示そうかなぁ、って』
なるほどなぁ、とロマンリバーは頷いた。確かに、凱旋門を走った後、一時代築いた英雄とも言えるウマ娘に、マッチレースで勝ったとなれば実績は十二分だろう。
「トレーナーさん、たどり着けるかな?」
『どうかなー?でも、ワガハイは信じてるよ』
楽し気に笑うトチノステラ。だが、ロマンリバーは頭に疑問が浮かぶ。
「でも、トチノオーさんって引退してしばらく経つよね?そんな彼女とレースをするの?」
当然の疑問であろう。これから成長期を迎えるウマ娘と、既に全盛期を超えてしまい衰えたウマ娘。贔屓目にみても、前者の方が有利なのは火を見るよりも明らかだ。そんな勝負をするために、トチノステラは練習を重ねているのだろうか?
『ううん、違うよ。今はさ。便利なものがあるじゃない?』
「便利な物?」
にやりとステラの口角が動く。
『VRウマレーターさ。調べたら、全盛期、凱旋門賞勝利時のトチノオーのデータも入ってたからね。ただま、今はまだ、私の実績じゃウマレーター使えないけどね』
■
四月一日トレーナーは、おそらく、という答えにはたどり着いてはいる。今までの「トチノ」が目指したものも、それに近いものがあるからだ。
「トチノテイオー。トチノオーの記憶が薄れぬうちに現れたトチノ。心のライバルは『トチノオー』と豪語する。彼女を超えるために凱旋門を目指したが、勝利後に骨折。引退を考えた彼女は、一度ではまだ超えてないとの声があり、2度目の凱旋門を制覇した」
様々な当時の雑誌インタビュー、SNS、ニュース映像などを引っ張り出した四月一日の執念は、まさしく、引き寄せている。
「トチオトメ。トチノテイオーの同期。トチノテイオーのライバルと目された。ティアラ路線で活躍し、衰える前に引退を決意するも、そのティアラ路線らしからぬ脚の速さから、トチノテイオーと共に凱旋門にという声が高まり、署名運動まで起こったため、結局推される形で凱旋門を走る。しかし、後のインタビューで『トチノオーは超えられなかった』と心の内を語る」
彼女らの声は、結局『トチノオーを超えたい』という意識に集積していく事に、四月一日は気づき始めた。
「トチノスズカ。トチノテイオー世代の次のトチノ。逃げで活躍し、クラシック級ではマイル~中距離の逃げウマ娘として君臨。だが、シニアに入ると同時に中長距離路線へ。心境の変化を聞かれた彼女は『憧れのトチノオーを超えたい』という言葉だけを告げて、その年の凱旋門へと目標を定めた」
明確な理由は、当時を知らないから不明だ。しかし、結果として『トチノ』は『トチノオーを超えたい』という考えに至るという事。そうなれば、と四月一日は考える。
「……トチノステラもトチノオーを超えたいと思っているのなら。その目標レース、常識的に考えれば凱旋門……。だが、そうではないと言った。それなら、考えられるのは」
四月一日は右手の人差し指を、眼前で一本たてて見せた。答えはただ一つのレース。凱旋門ではない。アメリカでもない。国内でも、おそらくはない。
トチノステラは以前にこう言った。
『凱旋門賞じゃ無いって言ったよ。ちなみに、アメリカでもないよ。まぁ、正直言っちゃうと
走る場所は、関係ない。
そうなれば、考えられることは一つ。
「トチノオーその人と、走り、競い合えればよい。そのように、トチノステラは考えている」
四月一日トレーナーは、指を見つめたまま、そう小さく呟いた。
※次話は10月15日(火曜日)投稿です。