ピーマンを半分に切りまして。
160℃の油で2分程度素揚げにしまして。
熱いピーマンへ、めんつゆを上から適量ぶっかけて。
かつぶしと生姜おろしを付け合わせ。
美味しい揚げ浸しピーマンです。
『トレセンでは真面目ではない』ピーマン野郎ではあるけれど、中央に来たウマ娘というだけあって、その実の練習はなかなか激しいものがある。それが証拠に、今日は珍しいタイヤ曳きのパワー向上トレーニングを行っている様をご覧いただきたい。
『そぉーれぇえい!』
大きい、それこそ超大型の露天掘り機械のタイヤを、彼女は一人で引っ張っている。それも、かれこれ1時間は経っている頃である。普通はインターバルや休憩を挟むのだが、そこは流石の体力お化け。止まるという事を知らない。
「えぇ……?あの娘、ずーっとタイヤを曳いていて、疲れないかしら?」
「え?ああ!ピーマンさんの事ですね!彼女、体力だけは凄いですから!」
「そ、そうなの?」
ちょっと引いているウマ娘のことは眼中にもなく、ピーマン野郎は更に一歩、一歩と練習コースでタイヤを曳く。なぜならば。
『このぐらいしないと、お腹減らないからねぇー!』
ピーマンを大皿で喰らうためだ。坂路やプールばかりでは体力の減りに慣れちゃうから、時々は違うメニューを取り入れるのだ、とは彼女の談。ピーマン至上主義とはこのことであろう。
「普段からあんなふうに真面目にパワー練習してくれてりゃあなぁ」
「ですよね。気まぐれが過ぎるというか」
「今はまだいいけれど、そのうち、ピーマン禁止令なんか出たりしてな?」
「あり得るなぁ。結果を出せば別なんだろうが、今のままじゃな」
ピクリとピーマン野郎の耳が動いた。トレーナー達の会話は、まるっと彼女の耳は捉えている。彼女は平々凡々、真面目ではないが、鈍感でもない。
『私はまだ本格化してないし、スタミナを高めておいて損はないね。それに、好きな物食べ放題の食堂で、そんな簡単に制限されるはずもないしー』
高を括る、とはこのことだ。彼女がトレセンに入学して既に2年は経とうとしている。デビューは選抜レースで活躍したのち、スカウトされてからと決まってはいるが、彼女とて、そろそろ動かなければまずい時期に差し掛かろうとしているのも、事実だ。
■
噂をすればとはこのことで、ピーマン野郎はある日、生徒会室に呼び出されていた。
「君と会話をするのは、食堂以来だな」
『何か御用で?』
悪びれもなくシンボリルドルフの前に座り、差し出されたコーヒーを啜るピーマン野郎の態度たるや、それはもう、もろもろを通り越していっそ堂々たるものである。
「いや、何。君はすべてのトレーナーの助言やスカウトを断っていると聞いてね?老婆心ながら、話を聞きたいと思ったんだ」
『ああー』
メンドクサイ事を、と心の中で彼女は思う。別にウマ娘一人の事なんかは放っておいてくれてもいいんだけれどね、とまで思う。視線をルドルフの顔からコーヒーへと向ける。
『心の問題ですね。気に入らないだけです』
「心の?」
ただ、この生徒会長の夢は全ウマ娘の幸福らしいから、少しぐらいは付き合ってやってもいいだろう。と心の中で考えること数秒。コーヒーをしっかりと啜ってから、ルドルフに視線を向け直し、言葉を続けた。
『私の夢はピーマンを美味しく食べ続ける事。そのために最適なトレーニングっていうものがあるわけです。お腹を効率的に空かして、美味しい口福を得る。それが私の目標です』
「……」
『だから、レースで速く走るためのモノっていうのは、邪魔なんですよね』
「では、なぜ中央トレセンに入ったんだ?」
心なしかルドルフの顔が厳しくなった。そりゃあそうかとピーマン野郎の心の中でだけ、苦笑を浮かべる。ここ、トレセンはレース中心の世界だ。なのにも関わらず。ピーマンを食うために来ているとは何事かと思うのは、無理もないとピーマン野郎も考えている。
『私がウマ娘だからですよ』
ルドルフの目を見て、その本心を告げる。
『ウマ娘で、走るのが速い。それならば中央を目指さなければ嘘ってもんでしょう』
それ以外に道はない。本能なのだから。走って、誰よりも一番になりたいのは誰もかれもが持つ根柢の欲求である。
『何せ、ここにはウマ娘達の中でも一等美しく走るウマ娘達がいる。その中で学び、共に過ごせれば、それだけで日々喰らうピーマンが美味しい』
再び、ピーマン野郎は視線を落として、コーヒーを啜る。ルドルフの目は、相変わらずまっすぐにピーマン野郎の顔面を捉えている。
『……しかし、悲しいかな、トレーナー不足か、それともトレーナーの見る目がないのか。数多の可能性が救われずに中央トレセンを去っていく。それでは、
ピーマン野郎と、ルドルフの視線が交錯する。先ほどまでの厳しい表情は、ルドルフからは消えている。対して、ピーマン野郎の表情は無表情だ。
「……それは、君。つまり」
探るようにルドルフが言葉を紡ぐ。視線が更に、お互いに深く絡み合う。
つまりピーマン野郎はこう言っている。トレセン学園とは、全てのウマ娘達が、可能性をつかみ取れるべき場であるべきだ、と。
「それが、可能だと信じている、のだね?君は」
――ルドルフの考察が正しいと言うように、一人のウマ娘の口から、ゆっくりと言葉が吐き出された。
『だから最初に申し上げた。
根柢の座視は同じである。圧倒的に足りないのは、実績と実力。そして、ピーマンを不味く喰らう覚悟。そんなものは、ピーマン野郎自身がよぉく知っている。
『ピーマンのように苦い道程にはなるでしょうけれど、何、一度きりの人生ですから。最悪、このまま
カラカラと笑うように告げられた言葉に、ルドルフは、ため息を吐いて答えていた。
――これは、ピーマンを大量に食うだとか、いう事を聞かないだとか、そんな甘いウマ娘じゃあない。根柢にあるのは、私と同じ『すべてのウマ娘の幸福』。なるほど、中央に合格するわけだ。私と同じか、それとも、それ以上の