大皿でピーマンを   作:灯火011

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ピーマンはそのままでも美味しい野菜です。

ですが、熱を加えてもやはり美味しい野菜です。

小麦粉をシャバシャバに水に溶いて、
その中にピーマンを潜らせ、
天婦羅にするのも美味しく頂けます。

ただ、この時にワタとヘタはそのまま取らずに。熱が入ったワタ、これが、旨いです。


ピーマンは甘くもあり

 ピーマンというものは、季節によって味が変化する。例えば初夏のピーマンは柔らかく、全てを美味しく頂ける。対して秋口のピーマンは皮が固めで種も固く、これはこれで美味しく頂けるものである。

 

『辛ぁいね』

 

 これはつまり、ピーマン野郎にも通じる事で、彼女の日々の機嫌もピーマンのように変化するわけなのだ。

 

『……』

 

 今の彼女は、いうなれば無である。時折口から出る言葉と言えば、ちょっとネガティブを含んだ呟きしか出てこない。その原因はあからさまであり、朝食を頂いている彼女の目の前に置かれている食事を見れば、一目瞭然だ。

 

「……あら?今日、彼女のピーマン、少々、量がありませんわね?」

「あ、本当だ。何かあったのかな?」

 

 白米、味噌汁、サバの味噌煮、生卵、納豆、サラダ。これはいい。だが、ピーマンの数が劇的に減っていた。その数、わずが5つ。

 

『……ゥンフ』

 

 謎のうめき声をあげながら、カチャンと音をたてつつ彼女は机に額を軽く当てていた。降参の儀である。誰に対しての降参かといえば、以前お会いしてたシンボリルドルフに対してだ。

 

『若気の至りは怖い……我ながらぁ』

 

 舐め腐った言葉。学園への不満をちょっと軽く叩きつけてみたところ、ピーマン野郎には次のような言葉が与えられてしまっている。

 

「ふむ、しかし君には力がない。実績もない。視座こそ私と同じだが、努力も足りていない。ならば、君にはこれから命題と、制約を取り付けよう」

 

 命題。それは、【トレセン学園で君の言うトレーナーを見つけるか、育て上げる事】である。

 

 有言実行してみろ、というシンボリルドルフからのお叱りの言葉だ。だが、真面目ではないピーマンがそれを良しと飲み込むはずはない。故に、シンボリルドルフは制約を一つ彼女に向かわせた。

 

「私も鬼ではないからね。禁止、とまでは言わないが」

 

 制約、それは、【結果を残せるまではピーマンは一食5個まで】である。小皿サイズの制約に、ピーマン野郎の顔が青ざめた事は想像が易い。現に今、ピーマン野郎はおおいに、その精神にダメージを受けている。

 

『食堂の職員さんにまで根回しが済んでいるなんて、恐ろしや、シンボリルドルフ生徒会長』

 

 ごめんなさいねぇ。とは職員の言葉である。幸せそうにピーマンを食べていたピーマン野郎の顔は、今は昔の物語。1食5個のピーマンを、ひとつひとつ大切そうに噛みしめながら、ちょっと泣きそうな顔でピーマンを喰らう彼女が、ここ数日のデフォルト顔である。

 

 

 さて、シンボリルドルフの前である意味の大見得を切ったピーマン野郎ではあるが、別に、そこまで考えがあって告げた言葉ではない。単純に、中央トレセンの管理側の不備を告げただけなのである。各所で叫ばれている人員不足が、単純にトレセン学園にも襲ってきているわけだ。事実、その煽りを受けたウマ娘達からしてみれば、可能性の掬い手が減っているということに他ならない。

 

「彼女の言うことも一理はあるとは思うのです、理事長」

「君の言うことは最もだ。しかし……」

 

 しかし、トレーナーの質を下げるわけにはいかない。故に、この人員不足は慢性的なのだというのは、運営側の長である理事長は良く知っている。悩みの種だ。

 

「ウマ娘と人間の違いだけでも、専門的な知識が必要だし、その上でスポーツトレーナーとして一流でなくてはならない。人格、知識が揃っていなくては」

「トレーナーにはさせられません、よね」

「そういうことだ!シンボリルドルフ。ただ、私たちとてただ手をこまねいているわけではない!ようやく形になってきたのだが……」

 

 そして、そのことは、その言葉を発したピーマン野郎も()()()()()()()()()

 

『トレーナーに対してのウマ娘の数が多すぎなんだよね、根本的に』

 

 月下、門限ギリギリの時間まで、今日は珍しく走り込みを行うピーマン野郎。弧を描く月を眺めながらも、その足は体力の限り、動いている。

 

『世知辛い世の中ってやーつだねー。誰かに言いたいね、月が綺麗ですねとでも』

 

 どちらかといえば、体力の才能を持ったピーマン野郎は掬われていく側かもしれない。しかし、一緒に坂路を上った連中や、プールで競い合っていた奴らは、確かにパワーはスピードがピーマン野郎よりは()()()()わけだけど、ただそれだけ。

 こういってはなんだが、夢と希望は大きく、性能が小さく纏まってしまっている連中だ。とはいえ、中央に入った彼女らならばきっと、適正なトレーニングを早期から受けていれば、重賞とまではいかないが、勝利ウマ娘になってレース場で活躍していただろう。

 

『手が届かないからこそ綺麗とも申しますけれどもね、どうせならずっと一緒に歩みたいもんだよ』

 

 だが、それは無理なのだろう。既に数人はトレーニング場で顔を合わせなくなっている。トレセン学園から既に別の場所に移った。まぁ、そういうことだ。

 

 「体力お化け、あとは、任せた」

 

 だの

 

 「ピーマン野郎。応援してっからな」

 

 だの、何かを託されたピーマン野郎の両肩は、どうにも、すこぶる重い。

 

『それならば、私が本気でやってみて、どこまで行くか試してみなきゃならないだろうね』

 

 きっと、これからも顔を合わせなくなる者は多いであろう。そのたびに、きっと、託されていく事が多くなるだろう。

 

 楽しくピーマンだけを食べて、煽っていた日々というのは、過去の話になることだろう。

 

『さ、月の神様にお聞きしたい。明日も、奇麗な月が見れるでしょうか』

 

 どこかポエム染みた言葉を紡ぎながら、ピーマン野郎は走り込みを続けている。その足音は、確かに、一歩一歩前に歩みを進めている。

 

 

「おかえりぃー」

 

 ピーマン野郎の部屋は、あるウマ娘との共同部屋である。変わり種の相方は変わり種という法則に崩れは無く、こっちは、あの名ウインナー「シャウ〇ッセン」が大好物なウマ娘だ。

 

『ただいまぁー。あぁー、疲れたぁー!』

 

 どさ、とベッドに倒れ込むピーマン野郎。その姿に、シャウエッセ〇は少し驚きを以って言葉を発していた。

 

「え?珍し。体力お化けのピーマンが音を上げるなんて!」

『失礼しちゃうな!?ワガハイだって疲れるんですぅー!』

 

 がー、とピーマンがまくし立てるが、その横でシャ〇エッセンは笑うばかりだ。

 

「あ、そういえばピーマンに荷物届いてたよ。これ」

 

 そう言いながら、〇ャウエッセンはピーマンに向けて1封の封筒を差し出していた。わざわざ封蝋(ふうろう)印で〆られているもので、中身が何かは見て取れない。ただ、その宛名を見て、ピーマンの顔が曇ったあたり、そんなに良い相手ではないのであろう。

 

「わー、すごく嫌そうな顔だね」

『あー、うん。まぁね』

 

 ピーマン野郎は溜息を吐きながら、封筒の上部を指で千切りとっていく。嫌いな相手からの封筒ではあるが、同時に、見なければいけない物らしい。

 

「何が入ってるの?」

 

 興味津々のシャウエ〇セン。ピーマンはと言えば、千切り取った封筒の上部から、慣れた手つきで三つ折りにたたまれている紙を取り出していた。

 

『手紙だよ』

「へぇー!ね、ね、ね。何が書いてあるの!?」

 

 ピーマン野郎の口が、その文をルームメイトに聞かせるために動き始める。

 

【よぉ、()()()。お前さん、ついにトレーナーを取らざるを得なくなったんだって?どうせ、困ってるだろうから一つ、おじさんからお前に武器をやろう。

 

 お前の目指すべきトレーニング内容だ。2枚目に書いてある。

 

 スカウトを受けるにしろ、トレーナーに頼み込むにしろ、お前さんはこのトレーニング内容を良く見せてやれ。反応をよく見極めて、お前が良しと思うトレーナーについていくと良い。まぁ、納得できないトレーナーばかりだったら、()()()()()()のワシが受け持ってやるさ】

 

『タイミングが良すぎるのが本当に嫌だ』

 

 グシャリ、と手紙を握りつぶしたピーマン野郎。ただ、その2枚目の練習内容については握りつぶさず、続けて目を通している。いわばこれは、ピーマン野郎の【体力】を信用した強烈な練習内容である。パワーとスピードを上げながら、それに最適なフォームを構築していく内容であり、根性練習とでも言うような【長時間、高強度】トレーニングである。

 

「でも、ピーマンの事良く知っている人だよね?手紙をくれるくらいだし」

『まぁね。親戚のおじさんなんだ。名トレーナーらしいけど、良く知らない』

 

 現代のトレーナーならば、一発で拒否する内容であろう。科学で進んだ技術や知識でトレーニングを行っていた方が、怪我のリスクは減り、間違いなく、速く走れるからだ。

 

『ただ、私の事はよく見てくれてた人かな。現代の練習方法よりも、ちょっと昔の根性練習の方が私には合っているらしいし』

「そうなんだ?」

『そうらしいよ?だから余計にさ、この学園のトレーナーさん達の言うことが的を外れているように聞こえるんだよね』

 

 うーん、と唸りながらも、トレーニング方法について熟考を続けているピーマン。その様子を眺めているシ〇ウエッセンの顔には、少々わかりづらいものの、苦笑が浮かんでいた。

 

「ピーマンって、そういうところは頑固だよね。信じた人の意見はすごい聞くけど、知らない人の意見は全然聞かないっていうか。良く言えば芯があるけど、悪く言えば頑固」

『自覚はあるよ。その考えのせいで、ピーマン、一日で15個しか食べられなくなっちゃったんだもん』

「あはは!聞いた時笑っちゃったよ。いくらなんでも生徒会長さんに舐めた口を利き過ぎだと思ったもん」

 

 少し前、ピーマンがどんよりと暗い雰囲気で部屋に帰ってきたときの事を、シャウエッセ〇は思い出していた。開口一番『やりすぎたぁ』と、ベッドに倒れ込んだあの日が、学園に来てから一番笑った日であることは火を見るよりも明らかである。 

 

「ま、私はピーマンのそんなところも大好きなんだけどさ!」

『知ってる』

 

 ふふふ、と2人は笑い合いながら、ピーマンは呼んでいた文をシャウ〇ッセンへと手渡していた。受け取った彼女は、やはり興味津々だったのか、ふむふむと、その内容を読み込んでいる。

 

『……そういえばさ、ワガハイの事はともかくとして、キミはデビューとかはどうする予定なのさ?そろそろーとか言われない?』

「来週の選抜レースに出る予定だよ。トレーナーになってくれそうないい人候補もいるし、今のところはやる気いっぱい!」

『いいねぇー。ってことは、上手くいけばデビューは今年ってわけかぁー』

「そこは本格化の時期によるかなぁ、私もまだまだ兆しもないし。っていうか、ピーマン!」

 

 ビシ!と指を差されたピーマン野郎は、思わず目を見開いて固まってしまっていた。そのまなざしの向こうには、笑顔満点なシャ〇エッセンの姿があった。

 

「トレーナーを探しているなら、今週末の選抜レース!ピーマンも出ちゃおうよ!」

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