大皿でピーマンを   作:灯火011

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四月一日トレーナー登場

 四月一日トレーナーは新人のトレーナーで、今年からトレセン学園で勤めている。今のところの担当ウマ娘は無し。スカウトを試してはいるが、やはりというか、新人というだけだって最初の担当ウマ娘は、未だ決まっていない。

 

「うーん……難しいなぁ」

 

 しかしながら最近、ようやくそのスカウト活動が実を結ぼうとしている。件のウマ娘、トチノステラだ。

 学園のトレーナー達がスカウトを断られていく中で、四月一日トレーナーはなんと、今のところ断られてはいない。

 しかし、彼女から出された課題を解かなければきっと、担当ウマ娘になってくれることはないのだろうと感じている。だからこそ、今、学園の図書室で様々なレース資料を読み漁って居るのだ。

 

「よ、首尾はどうだい?四月一日トレーナー」

 

 資料を読み漁って居た四月一日の背中に声が掛かる。資料から目を離し、首を声の方に向ける。どうやら学園に勤め始めてから馴染みになったトレーナーがそこに居たようで、四月一日は軽く笑顔を向けて口を開いていた。

 

「これはこれは御手洗トレーナー」

 

 視線の先に居たのは御手洗トレーナー。御手洗は約5年ほどトレセンに勤めているトレーナーだ。重賞ウマ娘などの担当を抱えており、今年も数人、有力なウマ娘を担当することになっている。

 

「見ての通りです。お手上げですよ」

「は、なーに言ってんだ。トチノステラ。彼女をスカウトしようとして、直ぐに断られなかったのはお前が初めてなんだぞ?気張れ気張れ」

 

 御手洗は四月一日の対面に座ると、苦笑を浮かべながらそう言葉を投げた。御手洗もトチノステラから厳しい言葉を頂いた側だ。

 

「その点は確かに嬉しいんですけどね。彼女からの課題がどうにも難しいんですよ。彼女が持ってきたトレーニングメニューから、最終目標レースを当てろって、なかなか」

 

 彼女、トチノステラからの課題。それは、トレーニングメニューを見て、何のレースが最終目標なのかを当てるという、非常に難しい問いだ。何せ、いままでトチノステラはそういった話題を口にしたことは無い。

 

「そうだよなぁ」

 

 御手洗もその考えには行きついたようで、四月一日と一緒に首をひねる。内容としては、少し古い年代のトレーニングメニューと言える。長時間、高強度のトレーニングをしながら、各種レースにも参加し実力を上げていく。一見すれば怪我を呼び込むような、脚の寿命を削る練習だ。

 四月一日は様々な資料を見ながらも、これ、と言った答えを今だ見出せていない。

 

「なあ四月一日、それならばもうちっと他のトレーナーの話を聞いてみるってのはどうよ?」

「他の?」

「そ。お前さんはまだ担当も居ない新人だ。使える手はすべて使ってなんぼだと俺は思うぜ」

 

 資料から視線を上げた四月一日の顔を見ながら頷き、手ぶりを加えながら御手洗は言葉を続ける。

 

「俺なんかはそんなにトレーナー歴は長くはないから役に立てないが、例えば沖野さんとか、おハナさんとか、あとはたづな秘書なんかにも話を聞いてみてもいいかもしれないぞ。それに加えて、シンボリルドルフやオグリキャップ、トウカイテイオー。ここらへんの長く学園に居て、ドリームを走るウマ娘達にも話を聞いてみると良い。案外、答えは思いもしない所から出てくるからな」

「新人トレーナーの相談なんて聞いてくれますかね?」

 

 少しばかりめんどくさそうな四月一日であったが、考えを改める。御手洗が確信を持っているように、力強く頷いたからだ。

 

「歴史ってのは、特に当事者からしてみれば誰かに話したくなるもんだからな」

「そういうもんですか」

 

 四月一日はそう言ってから、資料を閉じ席を立った。その目には少しばかりの覚悟が宿っている。

 

 

「トチノステラ?この前選抜に出てた子か」

 

 四月一日トレーナーは早速、学園でも有力なトレーナーの一人である沖野トレーナーに話を聞きに来ていた。彼のチームは有力なウマ娘が多く、G1ウマ娘も多数在籍している。

 

「ええ。彼女について、沖野さんは何かご存じないかと」

 

 そういった四月一日の視線は真っすぐで、瞳は輝きに満ちている。仕方ないなと軽く息を吐いた沖野は、小さく頷いて見せた。

 

「そうだな。彼女については俺は特に情報を持っていない。ただ『トチノ』という名については、俺もある程度知ってはいる」

「そうなんですか!ああ、では、知っていることをお聞かせ願えないでしょうか?」

「どうした、そんなに慌てて。四月一日、何かあったのか?」

 

 不思議そうに首を傾げた沖野に、四月一日はトチノステラからの課題についての説明を行った。スカウトするためには、彼女の最終目標レースを当てなければいけない、と。

 

「ははぁん。そう言う事か。なんともま、癖のあるウマ娘に入れ込んだな、四月一日トレーナーさんよ」

 

 面白そうに口角を上げながら頷くと、沖野は何かを思い立ったように、言葉を続ける。

 

「うん。……そうだな。どうせなら、関係者から話を聞くか?四月一日」

「関係者がおられるんですか?」

「ああ、『トチノ』に丁度ウチのチームに関りの深いウマ娘がいる。トウカイテイオーっていうんだが、名前ぐらいは聞いたころあるだろ?」

 

 トウカイテイオー。奇跡の名ウマ娘と呼ばれる存在であり、暮れの中山で行われるウインタードリームトロフィーレースでは、出場ウマ娘として常にその名を連ねている。

 

「あります。奇跡の、名ウマ娘ですよね。私は彼女の走りを見てトレーナーになった口ですから」

「おお、そりゃあ余計に良いな。じゃあ、早速俺についてきてくれ。この時間ならテイオーは丁度、コース脇の部室に居る頃だ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 四月一日はそう言って頭を下げた。ようやく見えた光明に、四月一日トレーナーの顔は明るい。

 

 

 ウマ娘のトレーニングは、ドリームトロフィーに移籍したとしても内容はさほど変わらない。ただ、ピークアウトした肉体と付き合うために休養やストレッチなどが多くなっている。かくいうトウカイテイオーも、今は練習というよりも、ストレッチの時間であったらしい。部室の中でヨガマットを広げて、ゆっくりと筋肉を伸ばしている。

 

「トチノステラについてはあんまり知らないけど……」

 

 ぐーっと伸ばした上半身が見事に足にくっついて、体が折りたたまれるように柔軟を続けるトウカイテイオー。その柔らかさに、四月一日はほう、と熱い溜息を吐いた。トゥインクルシリーズを退いたとはいえ、やはり、このウマ娘は見るものを虜にする魅力があると、四月一日は再認識させられていた。

 

 ごくり、と思わず四月一日の喉が鳴る。

 

 まぁ、つまりは、憧れのウマ娘を前にして、()()()()()()()()()ということだ。

 

「トチノっていう名前については良く知ってるよ。彼女たちはボクの後輩だからね」

「そうなんだ…そうなんですね?」

 

 四月一日は一瞬、敬語を使うか迷ったが、よくよく考えずともトウカイテイオーのほうが業界が長く、トレセン学園の歴も長い。だからこそ、敬語で言い直したのだが、トウカイテイオーは首を横に振っていた。

 

「敬語じゃなくていいよ。君はトレーナーで指導をする側。ボクはウマ娘で指導を受ける側だからね。変にかしこまらないでよ?」

 

 トウカイテイオーはケラケラと笑いながら、気安くそう告げた。名ウマ娘だからこそだろうか、その態度には余裕が見てとれる。そんなテイオーの姿にあてられたからか、四月一日の緊張も少しは取れたようで、自然な笑みをテイオーに向けることが出来始めている。

 

「判ったよ。トウカイテイオー。じゃあ、話を聞かせてもらいたいんだけど、そもそも、トチノっていうのは何なんだい?」

「む、君、本当にトレーナー?」

「まぁ、うん」

 

 訝し気なトウカイテイオーに、バッジを見せる事で答える四月一日。ただ、それを見たテイオーは、大きなため息を吐いた。

 

「トチノオーは知ってる?」

「あ、それはもちろん。国内も、国外も、無敗で駆け抜けたとかいう嘘みたいなウマ娘で合ってるよね」

「そ。彼女が、ボクにとっての最初の『トチノ』だったんだ」

「最初のトチノ?」

 

 上体を起こしたトウカイテイオーは、今度度は背中を伸ばすようにぐーっと両腕を頭上に掲げ始める。それと同時に、目を瞑り、過去を思い出すように、ゆっくりと口を開く。

 

「うん。なんていうか、トチノ、っていう名前が付いたウマ娘達が、トチノオー以降、ボクの周りによく現れた時期があったんだよね。その始まりがトチノオー」

「トチノオー……。ねぇ、素朴な疑問なんだけど」

「何?」

「トチノ、というのは家柄なのかな?あの、往年のメジロ家、のような」

 

 四月一日の言葉に、トウカイテイオーは強く首を横に振った。

 

「あー、全然違う」

 

 今度は長座の体勢になったテイオーは、これまた見事に体を折りたたむ。そして、その体勢のまま、声だけが四月一日の耳に届いていた。

 

「家柄じゃないんだよね。ただ、結果的に見れば……トチノの……血脈、って言っても良いのかもしれないねー」

「それは、どういうこと?」

 

 四月一日の疑問に答えるように、トウカイテイオーは上半身を起こして四月一日に顔を向けた。

 

「『トチノ』。この三文字を持つウマ娘達は、栄光を掴んだり、挫折したりしながらも、最後には凱旋門を目指すことになっているんだ」

「凱旋門……ロンシャンの?」

 

 テイオーの首が強く縦に振られる。まるで、それが答えだと言うように。

 

「そ、パリの都の凱旋門。とびきりの花束を貰いに、何人もフランスに飛んで行ったんだ。勿論、例外的にそうじゃない娘達も何人かいたけど、それでも、必ず重賞は獲ってた。すごい娘ばっかりだったんだよね」

「知らなかった」

「エ?本当に?」

「……トウカイテイオーさんの、その、走っている映像を見るまで。ウマ娘に全く興味が無かったもので……」

 

 実は、四月一日トレーナーはトウカイテイオーのレース映像をその目で見るまではウマ娘に興味が無かった口である。

 凱旋門やクラシック戦線などウマ娘が盛り上がっていた時期ですら、そういうものがあるんだね、へー。ぐらいな熱量だったのだ。

 

「あー……。それなら……無理もない……かな?……『トチノ』が現れたのは本当に数年間だけだったし、家ってわけでもないからねぇ。あの当時にウマ娘のレースに興味が無かったら、知らない事もあると思う。メジロ家みたいに大きな家だったらまたすごい話題になっていたんだろうけど……」

 

 察したトウカイテイオーが言葉を選び、フォローに回った。

 

「今じゃ、時々振り返る時にその名前が呼ばれるぐらいだし、キミが知らなくても、うん、シカタナイネ」

 

 そして四月一日がトレーナーを目指して勉強に励んでいる間に、トチノはウマ娘のレース業界からその名を消していたという事も不運の一つであろう。

 四月一日は悔やむ。

 もう少し前から、ウマ娘のトゥインクルシリーズに興味を持っていればよかったと。そうすれば、トチノステラからトレーニングメニューを受け取った段階で、彼女の最終目標については淀みなく答えられていただろうと。

 

「ま、ボクから言えるのはこれだけだネ」

 

 少しだけ後悔を続けている四月一日の額に、トウカイテイオーの人差し指が触れた。

 

「あとはキミがその頭でしっかりと考えて」

 

 にやりと、楽しそうな笑みを浮かべてトウカイテイオーは静かに四月一日に語り掛けた。

 

「トチノステラの求める答えにたどり着き給えよ?迷えるトレーナー君」

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