「はい吸って〜吐いて〜」
院長のフブキは診察室にて患者の背中に聴診器を当てて診察する
この患者さんは特に異常は見当たらない。まぁ定期検診ってやつだ
心拍数も正常。外見や問診でも異常は無さそう
その旨を患者に伝え、笑顔で見送る
…気づけば時間は正午を回っていた
お腹がすいているような気もしなくは無いのだが―まぁ、昼飯程度抜いてもなんとかなる。そう思っていると、看護師用出入口の扉がシャッと空いた
「BAUBAU〜」
ハモって聞こえてくる声の主のは、双子の看護師『フワワ・アビスガード』とその妹の『モココ・アビスガード』だ
お淑やかそうな姉のフワワとおてんばなモココ。どちらも個性的な看護師で患者に好かれている
そんな二人がそろってこの診察室になんの用だのだろうか
フブキは不思議そうな顔を浮かべながら二人を見ると、ニコニコしながらフワモコはフブキに声をかけた
「フブキ院長ぉ〜一緒にご飯食べませんか〜?」
「いいですよ〜」
フブキがそう答えると、フワモコはやったぁー!!と笑顔になる
その表情はとても可愛らしい…もう天使だと言わんばかりに可愛らしくて、口角が緩むことしか出来なかった
―一緒に食べるのはいいが、弁当などは持ってきていない。フブキはそう思いながらフワモコに話しかけようとすると、すぐにモココは言葉を繋いだ
「あのね!近くのパン屋さんが美味しいって記事見たんです!」
「だからフブキ院長と行ってみたいなって!」
前のめりになって2人は目を輝かせる
そんな2人を抱きしめたいほどに愛おしく感じるフブキ。まぁそれは気持ちだけにしておこう
よしと椅子から立ち上がり、診察室入口のフブキの札を外出中に切り替え、フワモコと一緒に駐車場まで歩いていく
フワモコは運転しますよ!と言うものの、フブキはいやいや!と自ら運転する気持ちを見せる
…なぜならフワモコの運転は「
シートベルトしてるはずなのに吹き飛んだ過去があるからね
フブキは自分の車にフワモコを乗せ、ナビゲーターになってもらう
そこを右!左!と賑やかに指示するモココの案内で難なく件のパン屋にたどり着いた
お店は人が多い
それほど有名で美味しいパン屋なのだろう
入店と同時に香るパンの香ばしい香りや、菓子パンの甘い匂いは3人のお腹を唸らせる。入り口付近にあるトレイとトングを持ち、パンを見ながら歩き始めた
目を輝かせながらモココはパンをこぼれそうなくらいトレイに乗せる中、フワワはフブキにパンの説明をした
「この顔パンパンパンが美味しいんですよ〜」
「へぇ〜…これ大丈夫かな…訴えられない?」
「店主さんが言うには、真ん中がないから大丈夫らしいです」
「うーん…ギリセーフなのかな!」
そう思いパンをトレイに乗せ、これぐらいでいいかなと思うくらいで会計に進む
「会計お願いします」
「いらっしゃいませ。当店のポイントカードはお持ちですか?」
「いや持ってないで―――」
顔を上げた瞬間。フブキの目に会計の店員が映る
綺麗な黄色い瞳。艶のある黒髪。透き通るほどの肌の白さに痺れるような感情がフブキの心を支配した
今まで感じたことの無いこの感情。なにかの病気ではないかと疑うほどのこの衝撃は、フブキを困惑させた
「お会計5万2600円になります」
「―――」
「お客さん?」
「―あぁ!すみません。えっと…」
高鳴る心を抑えながら会計を済まし、袋に入れてもらったパンを持って外に出る
―この高鳴りはなんなのだろうか。自分では消化しきれないこの感情。もしかしたら――と顔を振り向かせ店内を再び見る
見えるのは先程の店員と会計をするフワワの姿。いや、店員にフォーカスが当たってフワワがボヤけて見える
店員を見つめて動かないフブキに対してモココは話しかける
「院長〜…院長〜?」
声をかけても動かないフブキ
モココはちょいちょいっと袖を引っ張ると、やっと気づいてくれた
なんだい?といつもと変わらないように言葉を交わすフブキだったが、モココにはどうも不自然に見える
どこか落ち着きがないというか。なんというか…
その時あっと気づいた
フブキ院長はなにか病気なのだ!と
「フブキ院長!手術しましょ!手術!」
「へ?なんで手術?」
「病気だから手術!」
グイグイと手を引っ張るモココ。フブキはわけも分からないままその引っ張られる力と逆に同じくらいの力を入れて耐えていた
まだフワワが来てないからねーと諭そうにも、手術ぅ〜と言って話を聞かない
そんな時、フワワが店から出てきて何をやってるんですかと一言呟く
フブキはフワワに助けを求めた
「フワワ!助けて!モココが勘違いして――」
「勘違いじゃないよ!フブキ院長は病気なんだよ!」
「病気じゃないって!ね、フワワ――」
「――フブキ院長、病気なんですかぁ?」
心配そうな顔を浮かべるフワワに恐怖を覚えるフブキ。これはまずい
2人はバカみたいに真面目だから、このパターンはまずい
そう思うフブキだったが時すでに遅く、2人の力に1人では立ち向かえず、あっという間にフブキの車に詰め込まれ、病人として病院まで運ばれてしまったのであった
「全く…酷い目にあった…」
休憩室に戻ってきたフブキは疲れたような顔つきで椅子に座る
フワモコに何故か病気だと思われて色んなところを触られたり、検査されたりした。まぁフワワが途中でモココの勘違いであると気づけたからいいものの…それがなかったら一日中検査されていただろう…
「真面目なことはいいことなんだけどねぇ…真面目の場所が違うんだよねえ」
ため息をつきながらフブキは目の前に置かれているパンの袋を開けた
顔パンパンパン。名前とデザインがアウト気味だけども、いいバターの香りとパンの焼ける匂いがとてもお腹を唸らせる
そしてやはり思い出すのは、先ほどの店員
美人で優しそうな女性の顔だった
「どうしてしまったんだろうかねぇ…モココが言う通り、病なのかもしれないな―」
そう呟き、フブキは顔パンパンパンを口に運ぶ
それはバターの甘さが口いっぱいに広がるとても美味しいパンだった