結局、その夜は人数分の布団がなかったため葵は4階の居住スペースにあるクリスティーナの部屋の床で毛布一枚で寝ていた。クリスティーナが、「ベッドに入ってきもいい」と言うも葵は頑なに断った。
そして翌日、葵とクリスティーナは何者かが4階の玄関のインターホンを連打する音で起きた。
「メグちゃ―― あれ、いない?」
クリスティーナは、恵を探すも居なかったため自ら出ることにした。寝起きの状態のまま、目を擦りながら玄関のドアを開ける。
「はい、どちら様で――」
クリスティーナが、ドアを少し開けた瞬間勢いよくドアが開く。
「うわ!?」
すると、そこにはクリスティーナより背が小さい夫婦らしき人物が立っていた。クリスティーナは、2人を見下ろす形で見た。
「あの、どちら様で――」
「ここに居るんでしょ!」
クリスティーナが、要件を聞こうとすると妻がそう怒鳴る。
「あんたでしょ、人の子供誘拐したの! 証拠はあるのよ!」
そう言って、スマホで恵がコンビニの前で葵を怒鳴っていた時の様子が撮られた動画を見せる。どうやら、通りすがりの人が動画を撮ってSNSに上げたようだった。
「――――アア、ソーリー。ワタシ、ニッポンゴワカラナーイ―― アイムフォーリナー」
恵から事情を聞いていたクリスティーナは、日本語が理解できないふりをして乗り切ろうとする。
「いや、お前さっき普通に日本語話してたよな!」
夫が、クリスティーナを怒鳴る。だが、クリスティーナも負けずとすっとぼける。
「Вы должны сказать что-то иностранное…」
(訳:外国人のフリするか……)
クリスティーナは、独り言を言うと妻がまた怒鳴る。
「ああ、なんですって!」
すると、クリスティーナは思いついた表情をして言い出す。
「――デモクラシー!! キャピタリズム!! フリーダムオブキャリーアガン!! ユーエスエー! ユーエスエー! オーセイキャンユーシー!!」
(Давайте пройдем через это…)
(訳:これで乗り切ろう……)
クリスティーナは、とりあえず本当に日本語を理解できないような仕草をする。
だが、その時彼女の後ろから声がした。
「――――どうしたの」
葵が、目を擦りながらやってきたのである。
「Что делает этот идиот?!」
(訳:このバカ何してんの!?)
案の定、葵は2人の目に入ってしまう。
「葵! お前何してんだ!」
夫が、そう怒鳴って足を踏み入れようとする。だが、クリスティーナは進路を妨害して阻止しようとする。
「中入ったら警察呼ぶ!」
クリスティーナが、そう言うと妻が鬼のような顔になって怒鳴る。
「なんなのよアンタ! 大体、日本に来て子供の誘拐に加担してるなんて、この不法入国者がさっさとアメリカに帰りなさい!」
「私はrrrロシア人、そrrrれに永住権持ってるわ! パスポートと在留カード見せてあげるか!ア゙ァ゙‼︎」
すると、夫も参戦する。
「そんな事はどうだって良いんだよ!! おい、子供を返せ。それか警察に突き出されるかぶん殴られるかどっちか選べ!」
そう言って、夫は「110」と打ち込まれたスマホの発信画面をクリスティーナに見せびらかす。
「大体、かわいい子にいっぱい傷つけるのが親なのか!」
その時、誰かが階段を駆け上がっていく音がする。
「おいおい、やめろやめろ。みんな落ち着くべ」
上がってきたのは、東北訛りの喋り方をする警官だった。
「とりあえず、オメエら帰るだ。ほれ、さっさと帰れ。じゃねえとワッパかけるべ」
そう言って、夫婦を無理矢理帰らせる。
「Пошел вон отсюда, негодяй!!」
(訳:2度と来るな、このアホどもが‼︎)
クリスティーナは、階段を降りていく2人に向かってそう言い放つ。
「アホ、なんて言ったか分からんけど刺激するんじゃねえべ」
警官は、そう言ってクリスティーナの頭を平手で叩く。
すると、恵も上がってきた。
「葵ちゃんの両親はアイツらね、さっき階段登ろうとした時にそいつらに唾かけられたわ」
とりあえず、3人は事務所の中に入った。
「オラは、あそこの公園前交番の森口言うだ。とりえずな、お前さんの名前とか住所とか本籍とか生年月日とか家での扱いとか聞かせてくれ」
そう言って、森口巡査はバインダーを出す。
「あの、この子どうなるですか?」
クリスティーナが、森口巡査に聞く。すると、森口巡査は顔を渋くして言う。
「まあ、大体は警察が保護して児相に送られるべ。細かい事は、そこの弁護士に聞くべ」
そう言って、恵を指差す。
そして、葵の事情聴取が始まった。
「名前は?」
「――織田――葵」
「性別は?」
「――男」
「そう――なに!?」
皆その言葉に驚いた。なんと、葵は女ではなく男だったのである。
「ずっと女の子だと思ってた――」
「……Серьезно?」
(訳:ガチ?)
恵とクリスティーナは、完全に葵を女の子だと思っており絶句していた。
「ああ、まあ―― で、なんで虐待された?」
森口巡査み、驚きながらも次の項目に進んだ。
「多分――――」
つづく