「――――生まれた病院での取り違え」
葵は、俯いて話す。
「新生児取り違えねえ―― まだ、そう言うことがあるのね」
恵はそう言うと、葵を見て言う。
「それは分かってから両親が虐待を始めたの?」
その言葉に、葵は静かに頷く。
「殴られたり―― 蹴られたり―― ご飯もらえなかったり――」
葵は、目に涙を浮かべて言う。なにより、葵の体の所々にある無数のアザが悲惨さを物語っていた。
「まあ、とりあえず必要な情報は記録できただ。ほれ、小僧行くべ」
そう言って、森口巡査が立ち上がる。
「行くってどこに?」
恵が聞くと、森口巡査は恵を見て答えた。
「児相だべ、児相」
そう言って、葵を連れて出て行こうとする。だが、恵は出ていく2人を引き留めた。
「あの、森口さんちょっと待ってください」
「なんだべ?」
「その子、私が育てることって出来ないですか?」
「そう言うのは、弁護士のお前さんが一番分かってるでねえべか? オラは、その辺知らねえからなんとも言えねえがな、子供育てるってのは大変だべ。よく、考えるだな」
そう言って、葵を連れて出ていく。
「メグちゃん、弁護士なのに法律覚えてないの?」
クリスティーナが、さっきの恵の発言から気になり聞く。すると、恵はデスクの椅子に腰掛けて言う。
「この国に現在施行されてる法律は約2000個以上、しかも毎年コロコロ変わるのに全部覚えられるわけないでしょ」
「へぇ―― でも、どうするの? 育てなたいとか言って」
「どうするのって―― 私は本気よ?」
「え!?」
クリスティーナはその言葉に驚きを隠せなかった。
「でも、あの子すっごく小さいけど――」
「それなら大丈夫よ。あの子、見た目は小学1か2年生くらいだけど年齢は12歳よ」
「12!?」
「あ、そうか。貴方、和暦あんまり知らないのね。あの子、平成24年生まれ。西暦に直すと2012年ね」
「だとしても、“子供育てるのは大変”ってさっき――」
「なんとかなるわよ」
「Эта женщина совершенно не умеет воспитывать детей……」
(訳:ダメだ、この人完全に子育て舐めてる――)
すると、恵はクリスティーナに言う。
「17歳のガキに言われる筋合いはないわよ」
「なんで分かったの!?」
「なんとなく、多分言うだろうなって。それに貴方がどうにかなってるんだったら、あの子もどうにかなるわよ。それに、私も小さい時に色々あった身だし――」
恵は、何か遠くのものを見るような目で言う。
「さて、問題はあの親をどうするかね――」
そう言いながら、パソコンの画面を開く。
「――Время для подработки…… Какая заноза в заднице……」
(訳:バイト行くか…… ああ、マジでダルい)
クリスティーナは独り言をブツブツ言いながら部屋を出て行った。
そんな中、恵はぼうっとパソコンの画面を見る。彼女の、脳裏にはあの日の光景が浮かび出てくる。
「――鳥取県警だ‼︎ 全員両手を広げて床に伏せろ‼︎」
あの日、突如家に機関銃を持った警察が突入し――
「――18時36分、殺人及び銃刀法違反の容疑で逮捕する」
目の前で、自分の父親が手錠をかけられ――
「――お父さん‼︎ お父さん‼︎ お父さん‼︎」
父親を乗せ去り行く警察車両を、追いつくはずもないのにひたすら追いかける。その日の映像が、断片的に蘇る
「メグちゃん―― メグちゃん? 起きてる!」
クリスティーナは、何度呼びかけても反応しない恵を見てデスクを強く叩く。
「メグちゃん!!」
「うわっ! あ、クリスちゃん今日バイトだっけ?」
恵は、我に返りクリスティーナを見る。
「そだよ。どうしたの、白目剥いてたよ?」
「いや、ちょっと―― あ、ははは――」
クリスティーナは、そんな恵を見るも特に気にせず事務所を出て行った。
「ああ、嫌なこと思い出しちゃったわね――」
そう呟くと、作業に取り掛かった。