真新しいセーラー服の制服を着た葵は、地図を片手に白い肩掛け鞄を肩にかけて土手道を全力疾走していた。
「マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい‼︎」
葵は、走っていると自分と同じ制服を身につけた女子児童を見つける。
「ねえ、ごめん―― もしかして、聖(セント)・サクラ学園の人?」
小さな声で聞く。
「うん、そうだけど貴方見たことないわね?」
「――ボクは、今日から転校することになってて今校門探してる。で、校門までどう行けば良い?」
そう言って、女子児童に地図を見せる。
「校門なら、ここをこう行けばあるわよ。でも、そんなに急がなくてもまだ時間あるわよ?」
「――ありがとう」
すると、葵はまた走り出す。
「あれ、女子なのにボク?」
女子児童は、葵の後ろ姿を見てそう疑問を抱く。
「ええ、良いですか? 今から一緒に勉強する5Bの22番目の仲間を紹介します」
5年B組の教室では、ホームルーム中で教卓にはクリーム色のズボンと灰色のジャケット、そして赤いネクタイをした某昭和の中学校教師に似た秋本甚八が立っていた。
「それじゃ、入ってきてください」
クラス中が騒めく中、葵は少し俯きながら入ってきた。
「やーいチビ!」
「教室間違えてるんじゃねえの?」
数人の男子が、入ってくる葵を見て聞こえる声で言う。
「おい、静かにしろまったく―― それじゃ、自己紹介お願いします」
葵は、そう言ってお辞儀をする。
「ええ、一応言っときますが愛坂葵はこの格好でも男です」
秋本がそう言うと、数人の男子がまた揶揄い始める。
「オカマー!」
「気持ち悪ぃー!」
「てか、お前白い髪とかヤバいだろ」
「はい、静かに」
葵の事を、揶揄う男子達を秋本は止める。
「それじゃ、君の席はあそこだからね」
「――はい」
葵は、俯きながら指定された席に向かう。
すると、1人の男子が面白がって足を作りに外に出す。案の定、葵はそれに躓いて転んでしまう。
仕掛けた男子は、その様子を見て鼻で笑っていた。葵は、ムッとした顔で立ち上がる。
すると、葵の視界に天然パーマの男子が目に入った。
「なんだよ――」
天然パーマの男子は、葵を睨む。
「いや―― その――」
葵は、あやふやした様子で言い訳しようとする。すると、天然パーマの男子は葵の腹を蹴る。
「わ!?」
葵は、後ろの席に座っていた女子と一緒に後ろに倒れ込む。
「テメエ、何見てんだよ!」
天然パーマの男子が、葵に殴りかかろうとする。すると、近くの席に座っていた男子達が一斉に天然パーマの男子に向かう。
「やめろ佐藤!」
「落ち着けって」
男子達は、佐藤という天然パーマの男子を止めようとする。そんな中、数人の女子が葵に駆け寄る。その中には、やけに目立つ金髪の女子がいた。
「葵さん、大丈夫ですの? 立ち上がれますの?」
金髪の女子が率先して、葵を救護する。
「腰に―― 椅子が――」
葵は、痛みに堪えながら立ちあがろうとする。
「手貸しますわ」
そう言って、金髪の女子が手を葵に左手を差し出す。葵が、その手を右手で掴むと金髪の女子が葵の手を引っ張り立ち上がらせる。
「佐藤やめろ! あ、姫川は保健室に連れてってくれ」
秋本は、金髪の女子にそう言う。すると、金髪の女子は快く返事をする。
「分かりました」
「ああ、頼んだ。落ち着け、佐藤!」
「行きますわよ――」
金髪の女子は、葵を保健室まで連れて行った。
1時間後、この騒ぎはなんとか収まった。しかし、職員室ではちょっとした騒ぎになっていた。
「秋本先生、佐藤さんは今日転入してきた子のお腹に蹴り入れたと言うのは本当ですか?」
シスターの格好をした、若い女性教師が言う。
「ああ、大橋先生。まあ、あんな騒ぎなんて昔はよくありましたから」
「秋本先生、ここは保護者の方にも連絡を――」
「ああ、それはこっちから入れますから」
「すみません、私は担任なのに――」
「なに、気にすることないですよ。自分も、新人だった頃はそうでしたから」
そう言うと、大橋は頭を深々と下げた。すると、1人の年配のシスターの格好をした女性教師が言う。
「私は、あの佐藤という児童に関しては受け入れ反対だったんですよ!あんな、腐ったミカンなんてさっさと放置だしてしまえばよかったのに」
「まあまあ、今そういう時代じゃないですから」
秋本は、その教師を宥める。すると、大橋が首を傾げて言う。
「秋本先生、腐ったミカンというのはなんでしょうか?」
「昔は不良生徒の事を俗に腐ったミカンって呼んでたんですよ」
「なるほどです――」
その頃、葵はというと教室の自分の席で頭を抱えていた。
「――――この学校も無理かも」