ちなみに白祇重工は誤字じゃないです。勝手に祇になっちゃう
「よろしくね六分君!」
「葉隠さん、だよね?よろしく」
除籍をかけた体力テストから翌日。待ちに待った……というか、ヒーロー科の醍醐味というか。戦闘訓練の時間だ
ヴィラン側とヒーロー側に分かれて、核兵器を巡って争う。ヒーロー役は核の回収か、ヴィラン役の捕縛が勝利条件。ヴィラン役はヒーロー役の捕縛か、時間いっぱい核を守り切れば勝ち
俺の相方は透明少女葉隠さんで、相手は轟君と障子君
「ていうか、コスチュームカッコいいね!」
「こういうのは趣味とカッコよさを詰め込むもんだからな」
参考にしたのはイレイザーヘッドのヒーロースーツ。違いがあるとすれば上半身を覆うちょっとボロボロの黒い布ぐらいだ
「そういう葉隠は……見えないな」
「透明だからね!」
「…………無いとは思うが、全裸はやめとけよ。髪の毛とか皮膚とか送れば透明なスーツ作ってもらえる筈だから」
有名なのだとMt.レディとかだ。巨大化の発動に合わせて、スーツも巨大化するようになってる
「んじゃ、作戦会議って事で俺の個性を説明させて貰う。俺の個性は召喚。見たと思うが、中から色んなやつを呼んで戦える」
「見た見た!何人いるか知らないけど、全員呼んで戦って貰えば人数差で勝てるんじゃない?」
「残念。そう便利な個性でもないんだ」
本当にそれができるなら、俺がヒーロー科に通う必要は無い。俺の中の皆は全員がそこらのプロヒーローよりよっぽど強いから、皆に任せて俺本体はどっかの家で寝てればそれで解決できる
「皆が外で動いた時に使う体力は、俺が肩代わりする仕様になってるんだ。50メートル走あったろ?走ったのは俺じゃないけど、50メートル走った分の疲れが俺にのしかかってくる」
「なるほど……じゃあ、沢山呼んでは戦えないね」
「そういう事」
個性フルで使って俺本体が動けなくなるようじゃ話にならない。足手纏いを抱えるわけにはいかないのだ
「まぁ、複数人呼んで動けない訳じゃない。青衣、ジェーン、頼める?」
「アタイをご指名?」
「構わぬよ、主の荷を負おう」
ネズミの耳と尻尾を持つ背の高い女性と、子供のようにも見える背の低い女性。治安官青衣と、ジェーン・ドゥだ
「わ、出てきた!」
「まず、背の低い方が青衣さん、体が機械だから体力を使わない。んで、背が高い方がジェーンさん、体の使い方が上手くて、比較的体力消費が少ない」
機械人はもう一人いるけど、とりあえず今回出すのは青衣だけ。このメンツなら余裕を持って動ける
「んで、作戦な。轟焦凍個性半冷半燃、
障子目蔵個性複製腕。……どっちも葉隠さんとは相性悪いな」
存在がわかった瞬間範囲攻撃を繰り出せる轟君と、耳を複製して葉隠さんを探し出せる障子君。透明なだけの葉隠さんにはどちらも辛い相手だ
「個性知ってるんだね」
「我の目によるものだ。虚の坊の目と我の目を繋げ、相手の個性や身体能力を暴き出せる。……葉隠よ、主の裸体も我にはしっかりと見えておるからな」
「うわ恥ずかしっ!……あれ、もしかして虚君も見えてる?」
「今は繋げてないから見えないよ。見たこともないし、見るつもりもない。……障子君は俺がやる。葉隠さんは皆と一緒に轟君をお願い」
──────────────────
「轟君、容赦ねえなあ」
開始と同時にビル全部凍らせてくるとは思わなかった。ちゃんと服着てたから無理矢理抜け出せたけど、こっち全裸いるんだぞ
「轟君は素通りさせる、障子君に捕捉されるとまずいから、皆から報告が来るまでは動かない」
多分、轟君は一人で核のところまで来る。障子君は置いてかれるから、勝手に分断される
『虚、接触したわ』
「おっけー、こっちも大体目星はついてる」
一階、それも入り口のところ。障子君の居場所は多分─────
「みっけ」
「っ!?六分───!?」
「召喚型だから、本体は前に出てこないとでも思ったか?」
俺の個性の能力の一つに、皆の武器を使えるというものがある。ご丁寧に皆が持つ分と俺が持つ分が用意されてるから、俺が青衣の三節棍を使っても青衣が素手になるなんて事は起こらない
「予想外だが……やはり悪手だろう!」
「おっと」
3対6本の腕から体の器官を複製し、生やす個性。耳や目を複製すれば索敵もでき、腕を複製すれば文字通り手数も増えるし、素のパワーもかなり高い。つまりめっちゃ強い
「でも、俺の方が強い」
邪兎屋、特務捜査班、対ホロウ六課、オボルス小隊、白祇重工、ヴィクトリア家政、カリュドーンの子。過酷な闘争を生き抜いてきた皆の知恵と力が、今の俺を形作ってる
片腕3本の右ストレートを、体を捻ってスレスレで回避。参考にするのはジェーンの動き。そのまんまとはいかないから、自分の体と照らし合わせた最適な体の動かし方
「よっ、と!」
「がっ………!」
繋げた三節棍を腹に突き刺す。衝撃と痛みで動きを止めた隙に、地面に刺した三節棍を軸に姿勢を低くして足払い。バランスを崩したところが狙い目だ
「葉隠さんも心配だから、もう終わりね!」
高く飛び上がり、位置エネルギーもプラスした三節棍の殴打を脳天に叩き込む。倒れた障子君に確保テープを巻いて、俺の勝ち
「こっちは終わったから、今向かうね」
──────────────────
「───せいッ!」
繰り出される氷結の波を、青衣さんが三節棍を振って砕く。絶え間なく生み出される氷結に対し、絶え間なく振り抜かれる電撃の三節棍。まさに千日手だ
「───そこ!」
「あら」
時折忍び寄ったジェーンさんが、轟君本体への攻勢を仕掛ける。今のところ全て失敗に終わってはいるけど、轟君にとってはかなりのストレスだろう
………これ、私いるかなあ
青衣さんとジェーンさんが前で戦い、隙を見て轟君の確保に向かう……筈だったんだけど、この閉所はとっくに轟君の氷に埋め尽くされてこっそり近寄る隙なんてない。青衣さんの後ろに隠れていなければ、私は今頃氷漬けだ
相性問題だからしょうがない、と六分君は言うだろうけど、言い訳したって何もできてないのは事実だ
「……中々やりおるな」
「ホントね、寒くて嫌んなっちゃう」
二人とも、さっきからかなり激しく動いてるように見える。青衣さんは機械だからいくらでも動けるらしいけど、ジェーンさんに欠片も疲れが見えないあたり、六分君の言ってたことが現実として実感でき───────
………疲れ?
そうだ、疲れだ。個性は身体機能の一部。六分君でさえ使い続ける事はできないのだから、轟君も例外じゃない筈だ
轟君の体には所々霜が降りてる。人が走り続けられないのと同じで、常に高出力の氷を生み出し続ける事はできない
「ジェーンさん、隙を作ってください!」
「何か思いついた?いいわよ」
聞こえないよう小声で、それでいて意思ははっきりと伝わるように。多分これが最善策だ
「青衣さん、タイミングが来たら私を投げて!」
「任された」
ジェーンさんへの対応直後。氷の生成も遅くなってる今なら、確実に通る
「飛んでいけい!」
文字通り、青衣さんが私を投げる。私という不可視の弾丸を視認する事は叶わず、できたとしても反応はできない。だから─────
「轟君かくほーっ!!!」
──────────────────
「さて、講評の時間だ!今回のMVPは誰かわかるかな?」
「六分だろ」
「葉隠もアツかったけど、流石に六分だな。完封だったし」
無事勝利した俺たちを待っていたのは講評の時間だ。先の戦闘を振り返り、両チームの良かった点と悪かった点を探すのだ
「MVPですって、良かったじゃない」
「ほっほっほ、我も鼻が高いというもの。久しぶりによしよしをしてやろう」
「いつの話してんだよ。お前らも講評参加してんだから真面目にやってくれ」
真面目にやってくれないジェーンと青衣に苦言を呈しながら、講評に耳を傾ける
「やはり、六分さん本体の戦闘能力が高かったのが大きいでしょう。索敵役の障子さんを仕留めつつ、直接戦闘に向かない葉隠さんのカバーを個性の皆さんに任せる。孤立したヒーロー側を見事に各個撃破していました」
とは、八百万さんの談。まあ?実際かなーり活躍できたし?それほどでもあるかな
「轟君も障子君も、葉隠さんとは相性最悪だからね。まともな策はこれぐらいしか思いつかなかった。……でも、それが嵌ったなら良かったよ」
「……召喚系の個性だから、本体はそれほど強くない。そういう先入観で戦って、負けた。完敗だ、六分」
「ジェーンさんと青衣さんにめちゃくちゃ助けてもらったけど、私も一仕事できて良かった!」
「皆、強かった。障子を置き去りにしたのも良くなかったし……色々、課題は多いです」
皆、思い思いに反省を述べる。……けど、まぁ?ほぼ完璧と言っていい勝利だったのではないだろうか。いやぁ誇らしい誇らしい
「うん!では、青衣さんジェーンさんは何かあるかな?」
「我からは……特に無い。虚の坊も、すくすく育って強くなっておる。それだけで我は充分よ」
「アタイからは……そうね、ちゃんと両手を使った方がいいわよ、轟君」
ジェーンは……こう、結構ガッツリ言うなぁ。半冷半燃の個性で全く火を使ってなかったあたり、火に対してなんらかの事情があるものと思っていたから触れなかったんだけど
「それでは次のペアだ!準備はいいかな!?」
──────────────────
「六分!何読んでんのー?」
「芦戸じゃん、これメモ」
戦闘訓練を終え放課後。芦戸が俺に話しかけてきた。別に席が近いわけでもないのに来てくれるあたり、いいやつだな
「メモ?見せてよ」
「ほらこれ」
「なーに……『ホロウ』『エーテリアス』『侵食症状』……?何このメモ」
「俺の個性の都合な。俺ん中の皆、どうもこことは違う世界の記憶を持ってるっぽくてさ」
「別の世界?」
「最初は信じてなかったけど、嘘とも思えなくて」
皆に関してのメモだ。ガキの頃つけて、肌身離さず持ってる。皆の事とか、聞き出したあっちの世界の事とか、書いてある事は色々だ
「ホロウっていう、突如街を呑み込む災害が頻発してたみたい。この丸の中はエーテリアスって化け物で溢れてて、中に長く留まった人はエーテリアスに成り果てる。おまけに空間も滅茶苦茶だから、専用の地図が無ければまともに歩く事もできない」
「なんかやばそー」
「ま、聞いただけだからね。想像しかできないや」
「それで、この『邪兎屋』てのは?」
芦戸が指差したのは、皆の事が書かれたページ
「……原則ホロウへの立ち入りは禁止されてるんだけど、中に入ると何かいい事でもあるのかな……無断でホロウに立ち入る人も出てきたんだ」
「そういう人たちを『ホロウレイダー』って呼ぶみたい。そのホロウレイダーのグループの一つが邪兎屋で……まぁ、なんか色々と悪名高いって聞い────」
「────悪名高いですって!?」
俺の頭から生えてきた、ピンク髪の少女。彼女こそ邪兎屋のボス、ニコ・デマラだ。いやまぁ正直それはいい。今重要なのは、俺の頭の上に、さらに一人分頭が追加されたという事で
「痛ったぁ……」
「ニコ、出てきちゃだめ。虚、ごめんなさい」
同じく邪兎屋所属の少女、アンビーがニコを引っ込めたが、既にニコの頭によってバランスを崩した俺が机に頭を打ち付けた後だった
「……大丈夫?」
「賑やかでいいだろ、毎日人生ハッピーさ、はは」
俺の個性、主導権は俺ではなく皆にある。俺の中に留まるも俺の外に出ていくも皆の自由であるため、たまーにこういった事故が起きてる
「特務捜査班、オボルス小隊……すご、これ何人いるの?」
「何人だっけな……正直数えた事はないんだ」
「虚の個性っておもしろいね!」
芦戸と話し込んでる間に、なんか周りに結構人が集まってきてる。ちょっとした人だかりだし、放置するのも良くないか
「……せっかくだし、皆も話、する?」
雄英高校ヒーロー科、概ねいい人ばかりだし
これから三年間過ごす皆に、一歩歩み寄れた気がした