「イレイザーヘッド様、オールマイト様、リカバリーガール様、でございますね」
USJ事件は幕を閉じた。目立った負傷者は13号のみ、六分虚は外傷こそ無いものの、意識を失った為病院へと搬送された
ある程度の後処理を終え翌日。六分虚が運び込まれた病院へ3人のヒーロー兼教師が赴いた
「……その、あなたは?」
「申し遅れました。私、フォン・ライカンと申します。以後、お見知り置きを」
執事服に身を包んだ、片目を眼帯で隠した義足の狼男。ヴィクトリア家政、フォン・ライカン───3人のヒーローを出迎えた男の名だった
「……貴方がいるという事は、六分は目覚めたと解釈していいんですか?」
ライカンは六分虚の個性から出現する存在だ。それが今ここにいるという事の意味を、相澤消太は問うた
「………病室に向かいながら話しましょう。こちらに」
ライカンの誘導に従い、3人のヒーローは歩き出す
「結論から申し上げれば、ご主人様は未だ意識不明のままです」
「そうなのかい?なら何故君は…」
「ご主人様の個性……その主導権は我々が握っています。ご主人様がたとえどんな状態にあろうとも、我々の活動が制限される事はございません」
ある意味で緑谷出久以上に制御されていない個性であり、ある意味で世界一正確な制御下に置かれている個性。それが六分虚の"召喚"だ
「わかってはいたが、凄まじい個性だね」
「平和の象徴たる貴方様にそこまでの評価をいただけるとは、きっとご主人様もお喜びになるでしょう……さて、こちらです」
閉じられた病室のドア。ライカンがノブに手をかけ、開き───
「は?」
相澤消太の素っ頓狂な声が響いた。リカバリーガールとオールマイトも、声こそ上げなかったものの、目の前の訳の分からない光景を見て固まった
ベッドの上で眠る六分虚の周りに供えられた、色とりどりの花───死体に対する手向けだった
「クソっ、責任感じるぜ……」
病室に佇んでいた女の呟きだった
「カリュドーンの子は、盟友をしっかり弔ってやるからな……」
火炎放射器らしきものを装備した女、椅子に深く座り込んだ猫背の男、椅子を複数並べ、その上に寝転がる女───よく見たら眠る六分虚をじーっと見つめている赤いジャケットを羽織ったロボットのような男もいる。とにかく情報量の多い光景だった
「ライト!棺はお前が担げ」
「責任重大だな……」
死んでないので棺は必要無い。全くもって必要無い
「霊柩車は、安全運転で頼むぜ……パイパー!」
「ゆ〜っくり走るぜい」
霊柩車も必要無い。死んでないので
「バーニス!強火で……送ってやってくれ…」
「骨になるまで!燃やしちゃうんだね!?」
火を吹かした火炎放射器を振り回す様子のおかしい女がいるが、やはり火葬も必要無い。死んでないので
「ルーシー!………ルーシー?」
「茶番は───!」
六分虚から飛び出した、トゲつきバットを持った少女───相澤は見覚えのある、体力テストでボールを飛ばした少女だ
「───終わり、ですわっ!」
「うぉっ!?」
六分虚の葬儀を命じていた女──シーザーに、ルーシーが殴りかかった。バットによる殴打は難なく盾に防がれてしまう
「怒んなよ。荼毘に伏すって、やってみたかったんだ」
「この子で遊ぶんじゃありませんわ!バーニス!しまいなさいそんなの───あーもう!アホまみれですわー!」
地団駄を踏みながらも、至極真っ当な嘆きをルーシーは溢す。一連の茶番にはそこの意識不明重症患者の体力が使われている。それも結構な量である
「お、おおおおぉ─────!」
六分虚を見つめていたロボット───ビリーが感極まったような、そんな声を上げる
「アネゴぉ!虚が目ぇ覚ましたぜ!」
「ビリー、うるさい……」
頭を抑えながら、目を開いた六分虚。状況を素早く察知し、微妙に腹は立ったがまぁ賑やかでいいかと許した
「あ、虚───や、やっと目を覚ましましたの?遅いですわよ、全く」
「……こんなこと言ってっけど、ルーシーは一番虚の事心配してたぞ。中でうるさくてうるさくて……」
「ちょっ…ちょちょ……!?も、もうブチギレましてよシーザー!あなたに決闘を────」
「ん"ん"っ!」
やっと再起動したライカンの咳払いにより、病室に静寂が舞い戻った
「あれ、ライカン…?だけじゃない、イレイザーにオールマイトにリカバリーガール……えっと、とりあえず皆中に戻って」
「えー?あたしらいちゃダメなのかよ」
「中でも話聞けるでしょ。………それに、寝て起きたはずなのに微妙に疲労感があるのは何でなの?」
「うぇ、それ言われちゃあおしまいだな、お前ら!戻るぞ」
ライカンを残し、大人しく虚の中へと戻っていった『カリュドーンの子』達。一連の茶番を呆然と見つめていたヒーロー達だったが、いち早く復帰したリカバリーガールが口を開いた
「………とりあえず、アンタ動かない方がいいよ。上体起こして、頭に手当てて……その程度の動きでも、今のアンタには───」
「いってー!?」
「言わんこっちゃない……」
悲鳴をあげた虚に、リカバリーガールは溜息を吐いた。寝起きで感覚が鈍っていたのか、遅れてやってきたらしい全身の痛み──六分虚を襲ったのはそれだった
「ご主人様!お気を確かに!」
「とりあえず今後一週間は一切体動かしちゃダメだよ。完治までは三週間ってとこかね」
「その……大丈夫かい?六分少年…」
「ギリギリ大丈夫なんで本題移ってもらってもいいすか…」
「……そういうことなら」
イレイザーヘッドの口から語られたUSJ襲撃事件の顛末は、ひどくあっけないものだった
六分虚の自分を餌にしたトラップにより脳無を拘束された敵連合は即座に退却。それから暫くして到着したオールマイトにより残存ヴィランは一掃され、事態は収束。幸いにも死者0で終わったという
「怪我したの俺だけか……」
「そうなるな。………脳無が健在だったら、俺もどうなってたかわからん。お前の行動が正しかったかどうかは置いといて、お前は俺のヒーローだったよ。ありがとう」
「え………」
素直に感謝を述べたイレイザーヘッドの姿、それがあんまりにも珍しかった為か、虚は目をまん丸にして驚いた
「………何か、変なものでも食べました?」
「どういう意味だオイ」
全くもって失礼極まりない。感謝しても憎まれ口を叩く虚に、イレイザーヘッドはビキっと青筋を立てた
「まぁまぁ相澤君!六分少年も悪気があったわけじゃないだろうし!……それで、六分少年。君の体の状態についてだ」
「……体、ですか?」
一週間は動けない。全治三週間。先程リカバリーガールに言われたそれが全てではなかったのか。ならばまだ何かあるのか、虚はイレイザーヘッドからオールマイトに意識を向けた
「君の個性、召喚の事だ。君の個性は体力を対価に使われる、合っているね?」
「えぇ、まぁ……」
「そう、それが問題なんだよ」
問題──そう指摘したのはリカバリーガールだった
「召喚された人物が消費した体力は、アンタが丸ごと肩代わりする。でもね、召喚された人とアンタの身体能力はまるっきり違うだろ?その分、アンタの体にかかる負担も増すんだよ」
例えば最初の50メートル走。エレンに走ってもらった場合と、自分で走った場合では前者の方が体力消費は大きい。まるっきり身体能力が違う───六分虚の肉体からは何をどう足掻いても出てこないようなエネルギーを、無理矢理体に背負わせている
なるほど、それは良くないな───と、どこか他人事のように虚は思った
「矢継ぎ早に発動した個性。体に浴びたとんでもない量の電流。筋肉はあちこち千切れかかってるし、骨も殆ど折れかけ。体力の都合上、私の治癒を施すわけにもいかない」
「それは……でも、三週間で治るんですよね?」
「確かに治るけど、問題はそれじゃない」
「アンタ、体育祭出られないよ」
という、ヒーロー科学生にとって死刑宣告にも等しい言葉を、リカバリーガールは無慈悲にも放った