ふわふわと浮かぶメイドさん。ヴィクトリア家政所属のアレクサンドリナ・セバスチャン───俺たちはリナって呼んでる。料理以外は何でも任せられるほぼ完璧なメイドさん。万能メイドさん
「せめて車椅子とかさ、なんか無かったの?」
そんな彼女に抱っこされながら教室に向かってるのは誰だ───?そう、俺だ。メイドさんに抱かれて教室に移動する雄英生徒……字面だけ見たらヤベー奴でしかないな。峰田が面倒なことになりそう
「地に足をつけない方が色々と楽ですので」
「……まぁ、いいけど。でもさ、この状態って……なんか、あの…………なんでもない」
ヴィクトリア家政───普通のメイド、執事業務から、ホロウ内での荒事まで。他と比べても高額ではあるが、その分メンバー全員の能力は他に類を見ない程高水準
現状、皆は俺の事をご主人様だって言ってくれてるけど……俺は、その言葉に見合うような人間になれているだろうか
「六分!……が抱えられて戻ってきたぁぁぁ!?」
切島君のそんな叫びが、俺を思考の渦から現実に引き戻してくれた。……うん、まぁそうなるよね
「六分てめぇ!メイドさんに抱きしめられながら登校たぁいいご身分じゃねえか!オイラに代われ!」
「相変わらず爆豪君とは別ベクトルでヒーロー志望には見えねえな」
「てめ今なんつった召喚野郎!」
「やべ聞こえてた」
一週間ぶりの登場に沸き立つ教室──こうなると、俺もちゃんとクラスの一員になれてるんだな、って嬉しくなる
「わー!メイドさんだー!」
「ご学友の皆様ですわね?私の事はリナ、とお呼びくださいな」
「礼儀正しいー!……でも、何で六分は抱っこされてるの?」
「普通に歩けるくらいには回復したんだけど……俺の個性、主導権皆だから」
リナを交えたクラス皆での会話は、相澤先生が教室に来るまで弾みに弾んだ
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「轟君って毎回蕎麦だよね、好きなの?」
「あぁ」
昼休み、ランチラッシュの食堂にて。俺の隣で無限に蕎麦を啜っている紅白頭───轟君だ。戦闘訓練以来結構仲良くなってて、こうして昼食を共にする仲になった
「体育祭かー、俺も出たかったなー」
「……そうか、お前、出られないんだったな」
歩けるようにはなったけど、それだけ。千切れかけの筋繊維と、折れかけの骨が治るまでは激しい運動は禁止。当然それが体育祭に間に合うわけもなく、俺は見学に回った
「轟君は……結局炎、使わないの?」
「あぁ……あいつの力は使わない」
あいつ、というのが誰を指すのかは知らないが、やっぱり轟君は炎に対して何らかの確執を抱えているらしい
「………お前も、使うべきだと思うか?」
「一般論になるけど、使うべきだと思う。これからヒーローやってく時に、個人的な理由で力の半分制限して、それで助けられない人が出たら大変だ」
「そう……だよな」
「ただ、まぁ───今まで封印してたのを、今日明日でいきなり使えってのは無理があると思うし、何か確執があるなら、それをきちんと清算してからでもいいんじゃないかなー」
「清算……」
確執があるなら、それを自分の中で納得できる形で終わらせてしまえばいい。よくよく考えればそれだけの話なのだ
「俺とは違って、君の個性は君の力だ。そこに誰かの影はないよ」
「……そう、か。ありがとう…………待て、お前は違うのか?」
「え?」
俺の言葉に違和感をおぼえたのか、轟君はそんなことを言ってきた
「俺は……個性とか、力ってより、家族って認識がどうしても強いかな。子供の頃からずっと一緒だったし……」
「家族、か……」
「………個性って、不思議だよな」
個性についての話を広げたからか、常日頃から感じていた個性に対しての疑問の方に意識を持っていかれた
「俺の個性はさ、八百万みたいに新しく作り出してるんじゃなくて、元々あるものを取り出してるんだ。………変だと思わないか?俺の体の中に、何十もの人と武器が入ってる。完全に物理法則を無視してる」
「……確かに、そう考えると変だな」
「ま、考えても無駄……って割り切るのは個人的にはどうかと思うんだけど、それ以外どうしようもないからね。深く考えないようにしてるよ」
個性は不思議だ───でも、その不思議って言葉に隠れて、物理法則を無視するようなものも存在する
「よし、ご馳走様……体育祭、応援してるから。頑張れよ!」
「あぁ」
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『せんせー。俺が一位になる』
「暴言厨め……」
入試一位の俺が出られなかった都合上、選手宣誓は爆豪君の役目になった。大丈夫かなと思ったら案の定である。短気で傲岸不遜、自尊心の塊……プロになったら絶対問題起こすだろうなあいつ。せめて在学中は大人しくしててほしい、切実に
「さってと………」
俺は一日通して見学だ。できることといえば屋台で飯買って食うぐらい。皆一位目指して頑張ってる中、何とも寂しいものである
「…………出たかったなぁ」