ゼンレスゾーンアカデミア   作:かゆ、うま2世

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邂逅

「付き添いありがと、カリンちゃん」

「い、いえ!任されましたから!」

 

 

くすんだ緑色の髪をプラスネジを模した髪留めでツインテールに纏めたメイドさん───ヴィクトリア家政、カリン・ウィクス

おどおどしてて自己評価低めだけど、家事だろうが戦闘だろうが普通にめちゃくちゃできる凄い子だ。家事の際、何をするにもチェーンソー使ってるけど、そこは愛嬌ということで見逃して欲しい

 

 

「皆さん、頑張ってますね………」

 

 

カリンちゃんが向けた視線の先には、第一種目の障害物競走を駆け抜ける皆の姿があった。入試の0ポイントロボットだったり、綱渡りだったり……もしも出れてたなら、カリュドーンの皆とバイク乗って終わりかな

 

 

「あ……その、申し訳ありません!無神経な────」

「ん…?あぁ、謝んないでよ。別に気にしてないから」

 

 

本当に気にしてないけど、こうやって気遣いができるのはカリンちゃんの良いところだよね

 

 

「───そこの君、雄英生だよね?」

「?はい、そうですが……」

 

 

横から聞こえてきた、爽やかな青年の声。どこか魚を彷彿とさせるヒーロースーツ……つまりはどこかのプロヒーローの筈だけど、生憎俺は彼のことを見た事がない

 

 

「ご主人様……あの方、保須で活動していらっしゃるプロヒーローのマニュアル様です」

 

 

うーんナイスカリンちゃん。全くうちのメイドさんの見聞が素晴らしく広くて助かるぜ

 

 

「やっぱりそうだよね!メイドさん連れてるから珍しくて声かけちゃった……競技に出てないって事は経営課の子かな?」

「いや、ヒーロー科ですよ。……ヴィランの襲撃でちょっと怪我しちゃいまして」

「見学…ってこと?そっか……災難だったね、怪我は大丈夫なの?」

「ちょっとの怪我ですんで、大丈夫です」

 

 

誠実、温和、見た目そのままの人の良さ……まさにマニュアル。ヒーローの模範のような人間だ。爆豪君とは対極に位置するような人間性だな。まぁ爆豪君も真面目にヒーロー目指してはいるんだろうけど、言葉遣いとか諸々直した方がいいと思う

 

 

「……ずっと気になってるんだけど、そのメイドさんは?」

「あ───も、申し遅れました!カリン・ウィクスと申します!」

「ご丁寧にどうも、マニュアルです……」

 

 

互いに挨拶を返したせいで何とも微妙な

空気になってしまった……うーん、互いに真面目であるが故の事故であるな

 

 

「俺の個性で……家族です」

「個性……人を呼び出す個性?凄い個性だね」

「……そうですね。自慢の皆です」

 

 

うん、ほんとに……自慢の家族だ。親いなかったから、皆が親みたいなものだった

いつでも俺を助けてくれる、本当に、本当に自慢の家族

 

 

「……体育祭、出たかったかい?」

 

 

唐突に、マニュアルさんがそんな事を聞いてきた。少し考えてから、俺は口を開く

 

 

「……そりゃ、出たかったですけど───出れなかったからって、置いてかれるつもりもありません」

「そっか」

 

 

安心したような表情を、マニュアルさんは浮かべた

 

 

「それじゃ、そろそろ戻るよ。怪我には気をつけて」

「はい、マニュアルさんも」

 

 

互いに手を振って別れる。いい人だったし、また会えるといいな

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「騎馬戦、ねぇ。一位が千万って、めちゃくちゃだな」

「実質千万の奪い合い……」

 

 

第二種目、騎馬戦───俺たちは席の裏側の通路に立って観戦中だ。皆思い思いのチームを組んで戦っている

ただそれを眺めて───視界の端、誰かが動いた

 

スーツを身に纏った、背の高い、おそらくは初老の男性。深々と被ったシルクハットは、見えないが恐らく顔を隠しているだろう。彼が席を立ち、俺の方へと歩いて────

 

 

「───下がってください!」

 

 

ギリギリと、チェーンソーの駆動音の発生源は───俺を庇うように前に出たいたカリンちゃんだ。今にもあの男性に形相で、その男性を睨みつけている

 

 

「ハハ、バレるか」

 

 

重苦しい声が響く中、俺の目にはカリンちゃんの行動の理由が見えていた

 

 

(何だ、これ──個性が……何個あるんだ…?)

 

 

中の青衣が反応した事による強制同期。それによる、目の前の男性の個性の看破───結果、無数に束ねられた個性にの中に、一際大きい"奪い、与える"個性

 

 

「周りの事は気にしなくてもいいよ?既に対処済みさ」

 

 

俺たちの会話にも、チェーンソーの駆動音にも、反応する人間は誰一人として存在しない

 

個性発現当初。超常黎明期──個性を奪い、与える個性を持ったヴィランがいたという、どこかで見た都市伝説。それが事実で、今こうして俺の目の前に現れている

 

 

「なるほど、召喚……いい個性だ。欲しいけど──それは、個性の持ち主に服従しているのかな?」

「……さぁ、どうだろ。少なくとも俺は皆を自分のものとは思ってないかな」

「そうか……なら奪うのはやめておいた方がいいかな。"個性"の反逆だなんて事になったら笑えないや」

 

 

おそらくはヴィラン連合の奥にいる黒幕。脳無の製作者にして、オールマイト級の伝説的なスーパーヴィラン。そんな存在が、明確に俺を目当てに体育祭に潜り込んでいる

 

 

「そう身構えなくてもいい。僕はただ見にきただけさ。脳無を拘束した生徒がいると聞いてね……いい個性なら貰うつもりだったけど、流石に骨が折れそうだ」

「……ならさっさと帰れ、ヴィラン。ここはお前のいるべき場所じゃない」

「手厳しいなぁ。僕を目の前にしてそこまで啖呵を切れるのか……君は大きな障害になりそうだ」

 

 

目的は偵察。あわよくば個性を奪って自分の強化。目的の半分は達成されてる……そもそも雄英体育祭のセキュリティを通過してきた。束ねられた複数の個性によるもの──奪い、与える。この超人社会において、文句なく最強の個性だ

 

……あぁ、クソ。さっきいい人に会って気分よかったのに、今はこのヴィランを目の前にして吐き気がしそうだ

 

 

「弔が君をどう乗り越えるか楽しみだ」

 

 

とだけ言い残して、男の姿が掻き消えた

一瞬の突風のようでありながら、後に響くような重苦しい余韻を残して

 

 

「ご主人様、お怪我は…」

「……無い、大丈夫。カリンちゃんは?」

「わ、私は何ともありません!」

 

 

少し息を荒げてはいたが、外傷はない。なら大丈夫だ、けど……

 

 

(………やっぱり、なんか見覚えが…)

 

 

脳無の時から薄々感じてはいた。青衣との同期による個性の看破で複数個性を見破った時の、あのぐちゃぐちゃに混ざり合った感じ。あのヴィランと脳無だけじゃない。どこかで一度、あんなのを見た事が─────

 

 

「あ…………」

 

 

騎馬戦を戦う皆の姿が目に入る。同期をオンにしたままで、沢山の人の沢山の個性が、この目に映る

その中にただ一つ。混じり合ったぐちゃぐちゃの個性

 

 

「────緑谷」

 

 

ただ一人、その男だけが異質だった

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