燃え盛る街、響く断末魔
そして、脳が剥き出しの人型
「脳無……!?」
同期で覗いた感じ、USJの奴ほどのは居ない。とりあえず一番危ないのは体が黒い奴で、翼が生えた奴も厄介───ああクソ、一人掴まれてる!
「対空手段は……!」
「虚君!ここは任せて避難誘導────」
「ごめんなさい勝手な事します!」
ビリーか朱鳶さんなら外さないけど、あの脳無を無力化するには威力が足りない。どうせなら一括だ。ぶっつけ本番だけど、そこは俺を信じるしかない
『虚君!一度も試さずにそれは────』
『案ずる事はない、朱鳶』
柔らかな声───だけど、その声がどれだけ信頼できるものなのか、俺はよく知っている
『虚ならば、必ずや成すとも』
ライカンの義足と、バーニスの火炎放射器を装備。参考にするのは体育祭の轟君、空気の急速冷却+急速加熱による熱膨張を利用した─────
「───ははっ、できたァ!」
───空中機動。新技だ
アンビーと11号のブレードを両手に持って、翼の生えた脳無の足へと飛ぶ。ちょっと難しいけど、体を回転させて───
「切った!」
足を切断。落ちていくヒーローを抱え、そのまま地面に着地。あとは黒い脳無だけ
「ライト+ベン!」
俺の背丈よりも大きなタンピングランマー、右腕に纏ったジェット付きのガントレット。熱膨張も当然使って、タンピングランマーと一緒に黒い脳無に正面衝突───クソ、コイツ重すぎ!
「限定顕現!」
俺の体から生える、ライトとベンの腕。ニコの頭の事故から着想を得た限定顕現。只人を遥かに凌ぐ二つの剛腕が合わされば
「ふっ───飛べ!」
ビルの外壁を叩きつけられた脳無を中心に、蜘蛛の巣状に広がる亀裂。ここまでやっても再生持ちである以上、すぐに立ち上がってくるだろう。やっぱり再生はクソだ
「虚君強っ……!」
「マニュアルさん!二人残して避難誘導行きます!飯田────」
そこまで言いかけて、やっと気づく
「───マニュアルさん!飯田が居ない!多分ヒーロー殺しを見つけたんです!」
「なんだって!?」
脳無が出てきた以上、ヴィラン連合の関与は確定。USJ事件から新たなメンバーを確保していてもおかしくないし、脳無もここにいる奴らが全てとも思えないし──クソ、復讐やめますって言うまで殴っとくんだった!
『なんか思考が危険な方に行ってねーか?』
『兄弟は昔っからそういうとこあるよなぁ』
『笑い事じゃありませんわ……』
どうするどうするどうする───?まず飯田の捜索と救出。これは最優先だ。既にヒーロー殺しと接触してるなら残された時間はかなり少ない。青衣とビリーを残して行く───ヒーロー殺し相手に二人減らして勝てるか?体力消費0の二人無しに、飯田を守りながら────
『───虚君』
朱鳶さんの声。その声には焦りも、悲壮感も見えない
『私達は君の決定に従います。その選択が正しいか間違っているかはわからないけど──君の家族として、私達は何があっても君を守るし、君の望みを叶えてみせる。だから───信じて』
「───青衣!ビリー!脳無制圧!残りでヒーロー殺しを叩く!」
目に映るもの全て、疑っていたけれど
たとえ天地がひっくり返ろうと、信じられるものはずっと側にあったじゃないか
「マニュアルさん!飯田を探してきます!個性の使用許可!」
「っ───わかった!メイドさん!虚君の事守って!」
プロヒーローとして、大人として、思う事全部飲み込んで、マニュアルさんは俺を信じた。それに応えて、必ず無事に勝って助ける。マニュアルさんが、俺ならできると信じてくれたから
『ヒーロー殺しの被害者の六割は、人気のない街の死角で発見されています。つまり───』
「虱潰しってことね!」
習得したての空中機動で、周辺の目立たない路地裏を一つ一つ見ていく。この飛び方かなり速いし、多分すぐ見つかるはずだ
──────────────────
「やっと居た!」
『こればかりは運もありますから……』
随分時間かかったけど、路地裏のヒーロー殺しを補足。地に伏して殺される寸前の飯田君と、同じくまずい出血量のプロヒーローも同時に補足
そんで路地裏に突っ込んできた緑谷────
「はぁ!?」
『おいおい、何だか勢揃いだなぁ?』
見た事ない動きでヒーロー殺しを殴り飛ばした緑谷───アイツ、職場体験は保須じゃ無かったはずなのに何で───や、考えてる暇はない!吹っ飛ばされた今が───
「チャンスッ……!」
急降下からの方向転換。ヒーロー殺しの脇腹に義足パワーの蹴りをたたき込む。流石に一撃とは行かないけど、それでもかなりのダメージのはず
「六分君まで……!」
後ろの会話はとりあえず無視!緑谷は中の皆に監視させて、ヒーロー殺しに全神経を集中。目を離すな、隙を見せるな与えるな!
「子供が二人……ハァ、厄介だな」
「狩りがバレてご機嫌斜めか?生憎気の利いた言葉はかけらんねえから、さっさと行くぞ!」
アンビーと11号の二刀流+空中機動。ヒーロー殺しの武器は刃こぼれしまくってるなまくらだ。それがかえって傷を深めるんだろうけど、正面から打ち合えば武器を壊せる可能性もある
武装のレベルはこっちが圧倒的に上。飯田が動かないあたり、個性は何かしらの手段で動きを封じるもの。青衣がいれば看破できたんだけど、それはないものねだりだろう
「飯田にもそこのヒーローにも、手は出させん……!」
「ハァ、お前も、いい…!」
「評論家気取りか?道間違えた半端者だろお前は!」
速度を乗せた一撃をまともに受ければ、最大の得物は容易く砕ける。それをわかっているからか、正面から受け止めるなんて事はしてくれなかった。一撃一撃上手くずらして受け流される
「チッ」
「おおっと」
脇腹あたりから聞こえる金属音。体から生えた見覚えのある短刀が、ボロボロのナイフを受け止めて火花を散らす
(サンキュー猫又、助かった)
『礼には及ばないぞ』
俺の個性のいい所だ。俺自身が反応できなくても、皆が反応できればそれでいい。んで、今の攻撃で大体わかった
「なるほど──ああいう小細工でかすり傷つけりゃ個性で拘束して終わりか。タネが割れればどうって事ないな」
皆が俺を守ってくれる。時間さえ稼げれば応援も来るだろうし、個性による拘束にも時間制限がある筈。多対一なんて最も苦手な分野だろう
「余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって……!」
緑谷の声が、聞こえた
内通者候補最有力──の筈なのに、何ともヒーローらしい台詞
(それがお前の本質なのか…?)
信じていいかはわからないけど────
「切られるなよ、緑谷」
「………うん!」
二人並んで、目の前の敵を見る。内通者だのヴィランだの関係ない───ただ今は、共に戦う仲間として
「────ハァ」
雰囲気が、変わった
ギアを上げたことは明白だった。一太刀に込められた威力も、その速さも、何もかもがさっきまでとは段違い
「っぶな!?」
呼吸する間に距離を詰められ、両手でやっと拮抗できるレベルの斬撃。隣の緑谷の反応が一瞬遅れ、その隙に迫るトゲのついた靴────
「何………!?」
俺が、ヒーロー殺しに対して持っている唯一のアドバンテージ。俺が見せたのは体から生えてくる刃物だけ───つまり、ヒーロー殺し視点での俺の個性は『体内に物を溜め込む』とか『刃物を生やす』とかその辺だ
人が入っているなんて、万が一にも思わない
迫る蹴りを受け止める、万力のような力の、青い服の治安官の腕
「───ダメじゃない、この子に手出したら」
上に現れたジェーンがヒーロー殺しの頭を掴み、そこを軸に一回転して地面に叩きつける。足を掴み拘束した上での、不可避の一撃
「ライト!」
「──スマッシュ!」
背中から緑谷、正面から俺、跳ねたヒーロー殺しに叩き込まれる二つの拳。確実に骨折れてて痛そうだけど、容赦はしない
そのまま胸ぐらを掴んで壁に投げ───瞬間、壁ごとヒーロー殺しを覆わんと迫る氷結
「これ避けんのか……!」
「轟君!」
寸前で避けられたけど、この氷は轟君のもの。彼の職場体験先は保須じゃないけど、それは緑谷も同じなので一旦無視。重要なのは事実だけ、疑問は後回しだ
「朱鳶さん」
まだ体力は充分残っているから、ここで一人追加。やっぱり限定顕現を覚えたのは俺にとってかなり大きかった
「轟君は朱鳶さんと後方支援、俺と緑谷で前に出る、いいな?」
「あぁ」
「うん!」
路地裏を埋め尽くす大規模氷結を難なく回避したヒーロー殺し。数瞬の間もなく投げられるナイフの雨───しかし、それら全てを撃ち落とす銃撃
「守ってね!」
「当然です!」
だから朱鳶さんを選んだ。この場の全員をヒーロー殺しの凶刃から守れるのは、朱鳶さんをおいて他にない
「当たんねー!」
「避けるのがめちゃくちゃ上手いんだ…!」
緑谷の拳、俺の剣撃、轟君の氷結と炎、朱鳶さんの銃撃───その全てをギリギリだが確かに避けている。磨かれた技術か、緑谷の言う通り攻撃を避けるのが異常なまでに上手い
正面からはまず無理。虚を突く他ない
「──なりてぇもんちゃんと見ろ!」
叫びと共に、規模と勢いが増した氷結。その全てを切り裂きながら轟君へと迫るヒーロー殺し。朱鳶さんがいる以上轟君は大丈夫だけど───乗るなら今しかない
「チィっ……!」
火炎放射器を限界ギリギリまで吹かし、氷の壁を参考に炎の壁を生成。轟君のカバーに見えたんだろうけど───
「六分!?」
「虚君!?」
炎が空中に滞留し、壁となっている間にその中へと飛び込む。空中機動のスピードだからこそ成し得る離れ業
「あっ───つい!」
クソ熱いけど全部無視。まさか炎の中から飛び出して来るなんて思わねえだろ!
「な──────」
「───らぁっ!」
咄嗟にナイフで防がれたが、その程度でこの剣撃を弾く事は不可能で───腹に、決定的な一撃が入った
「ぎ、ぁ──────!!!」
体制を崩したヒーロー殺しに、迫る拳と足
緑谷出久は動き、飯田天哉は再び立ち上がっていた
「クレタ!ベン!」
蹴りと拳が直撃したであろうヒーロー殺しを見ることすらせず、トドメの一撃を準備する
高く高く飛び上がり、タンピングランマーを持った熊の大男と、ハンマーを持った赤髪の少女を完全顕現させ───
「行ってこい!」
同時に、タンピングランマーへハンマーを叩き込む。隕石のように落ちた熊───ベンの持ったそれは、ヒーロー殺しの背中へと吸い込まれていった