「………虚君、これ、死んでないですよね」
「多分生きてんだろ、頑丈だし」
タンピングランマーとベンが消えて尚、地面に伝わる蜘蛛の巣状のヒビがその威力を物語っている。何の拘束も無いのにピクリとも動かないあたり、ヒーロー殺しは完全に意識を飛ばしたらしい
「武器奪って縛れ縛れ。なんか無いかなんか」
「ロープあったぞ」
「あの、私手錠が……いえ、何でも…………」
「二人とも手際いいね…」
隠し持ってた分含めて丸ごと武器を奪い、ゴミ捨て場にあったロープで手と腕をぐるぐる巻きにして完成だ
「───皆、すまなかった!」
突然の謝罪だった。声の発生元は飯田君
「皆を危険に巻き込んだ。何も……見えなくなってしまっていた」
「僕も、ごめんね。君があそこまで思い詰めてたのに全然見えてなかった。友達なのに……」
「しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「本当だ本当。マジぶん殴ろうかと思った。……でも、無事でよかったよ、本当」
「───うん…!」
涙を流しながら、飯田君は頷いた
「わ、めっちゃ集まってんじゃん」
大通りに出た俺たちを囲む大勢のプロヒーロー。捕まってるヒーロー殺しに驚いたりしてるけど、事情を聞けばどうも三節棍持った小さい女の子に言われて来たんだそうだ。なるほどなるほど……
「青衣先輩ですね……」
「だな。青衣もビリーもパトロールがてらこっちに向かってるみたいだ」
俺の個性だし、皆の位置は離れていても把握できている。こっち来てるって事は任せた脳無は仕留め切れたのだろう、心配はしてなかったけど、これで一安心───
「虚君!」
「っ───!?」
朱鳶さんに頭を抑えられ、姿勢を低く。何かから、庇われている───?
「緑谷!」
俺が足を切った筈の、翼の生えた脳無。残った腕で緑谷を掴んで、空へ
「待てよ!」
その時には、もう動いていた。足を切った時と同じ動きで緑谷を掴んでる腕を切り落とす。落ちていく緑谷のキャッチも忘れずに
「───偽物が蔓延るこの社会も、徒に力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ」
脳無の脳天に隠し持っていたナイフを突き刺したのは、ヒーロー殺し───マジか、あれだけされてまだ動けるのか!?
「全ては、正しき社会の為」
脇に抱えた緑谷を地面に置きつつ、ヒーロー殺しへと目を向ける。やるならタイミングを合わせろ。あと数秒でここに到着するあの人を待て
「正さねば───!誰かが、血に染まらねば……!
「俺を殺していいのは
「──大人しくお縄につけい」
「もう黙れお前」
建物の上から降ってきた青衣と共に、ヒーロー殺しの背中に三節棍を突き立て、流れる、二本分の電流。元々満身創痍のヒーロー殺しがそれに耐えられる道理は無く
「カッ───」
ふら、と崩れていくヒーロー殺しの背後。つまり俺たちの目の前には、既に朱鳶さんがいる
「確保!」
制圧から手錠拘束までがあまりにも迅速。治安官としての朱鳶さんの高い能力をまじまじと見せつけられる。特務捜査班班長は伊達じゃないって事だ
「ナイス!朱鳶さんも青衣も愛してる最高!」
「へ?あ、あいっ──!?」
「む、二股であるか?感心せぬが……まぁ、それもまた一興…」
「青衣先輩!」
倒れたヒーロー殺しを無理矢理立たせ、引きずるようにプロヒーロー達の元へと連れていく。ただ気になるのは、皆ヒーロー殺し見て放心したみたいに動かない事
「ご老人、起きてはくれぬか。虚の坊がヒーロー殺しを捕えたのでな」
「皆で、だよ」
「ぁ──あぁ、すまねえな」
黄色いヒーロースーツの背の低い老人だ。保須のヒーロー……ではなさそうだけど、見る限りはかなり強い
「気圧される事はない。どれほど高尚な理想を掲げていようと、主張の手段に殺人を選んだ時点で、ヴィラン以外の何者でもないとも」
その言葉を皮切りに、固まっていたプロヒーロー達が少しづつ起きて動き出す。何で固まってたかは知らないけど……
「………あれ、なんか忘れて…」
「虚───ッ!」
「あ」
特徴的な声を辺りに撒き散らしながら迫ってくる赤いジャケットの機械人……ビリーの帰還を最後に、保須事件は幕を下ろした
──────────────────
「機嫌なおしてよビリー。しょうがないってあれは」
「撃っても撃っても治るんじゃどうしようもねぇよ!青衣は俺の事置いてくし!」
「案ずる事はない。大活躍だったではないか、主に囮として……」
「今の一言でビリー帰ったけど。ちなみに青衣はどうやって倒したの?」
「そこはこう、頭に電撃を、びりっと」
我らが邪兎屋の機械人ビリー。どうやら再生持ちの黒い脳無相手には火力不足だったようで。現状こんな感じで拗ねてます
「まぁよい、我がいれば事足りるであろ。それよりも、我は虚の坊の火傷について話したい」
「それは私もです、虚君」
「うげ、しょうがないじゃんか。ヒーロー殺し斬るにはあれしかなかったんだって」
緑谷と轟君は怪我無し。飯田は軽傷だが怪我あり。俺は炎に突っ込んだ時のあれで顔に軽い火傷を負った。痕が残るとかは無いらしいので、そこはよかったのだけれど
「軽傷で済んだから良し、は通らぬぞ。主が傷つくのを我は好まぬ」
「……そりゃ、最大限やらないように努力はするけど。約束はできない」
体力問題のせいで皆の力をフルに扱えないからだ。特務捜査班の皆なら──いや、本当なら朱鳶さん一人でもヒーロー殺しを捕らえる事はできた筈だ。皆、俺の体力を使い潰さないように抑えてる
俺が皆を縛り付けてるようなものなんだ。俺がもっと皆の全力を引き出せていれば、何時間でも皆を外に出せるようになれば、俺の中なんて狭苦しい場所に皆を押し込んだままにしなくて済むのに
「何を考えこんでいるんですか、虚君」
「……ん、いや、何でもないよ。ただ、申し訳ないなってだけ…」
「何に対しての謝意であるか?主は変に"ねがてぃぶ"であるからな……よし、この青衣お姉さんに何でも言ってみるがよい」
「別にそんな思い詰めてる訳じゃないけど……」
本当、ただ頑張らなきゃってだけの話だ
「……なぁ、仲良いとこ悪いんだが…」
つい昨日も聞いた、紅白頭のイケメンの声。青衣と朱鳶さんとの会話に夢中担ってて無視してたけど、どういう訳か集まってるんだった
「これ、俺らが何で呼ばれたか知ってっか?」
「メンツ的にどう考えてもヒーロー殺し関連だろ」
「やっぱりそうだよね。僕もグラントリノに言われて……」
緑谷、轟、飯田と俺。まず間違いなく昨夜のヒーロー殺しに関連した事だろう。まぁ軽い事情聴取程度のレベルだとは思う……あ、待て
「………警察来るなら、飯田はちょっとお咎めあるかもな」
「お咎め?何でだ」
「飯田は勝手に行っちまったから、当然個性の使用許可なんて取ってないだろ。個性を無断で使用し、人に危害を加えた……こういうと、ちょっとアレな言い方だけどな」
13号先生の演説を思い出す。この世界が今日と同じ明日を歩んでいくのに、個性というものはあまりに危険で、だから資格制にし、厳しく規制する事で秩序をギリギリ保ってる
「いやいやおかしいだろ。飯田が行って、俺らが来てなきゃネイティブさんは死んでた」
「そりゃ状況が状況だし、情状酌量の余地は充分あると思うけど……だからって、責任が丸ごと消え失せてくれるわけじゃ無いんだよ」
「でも────」
「いいんだ、轟君」
尚も食い下がろうとする轟を、飯田は制した。納得いっていないような顔だったが、言い返すのを止めたようだ
「……俺自身、あれは間違った行動だったと思っている。今こうして生きているのも結果論でしかない」
「ま、3人で庇ってやろーぜ。俺らはちゃんと許可取ってるし、頑張りゃ何とか───待て、2人とも、なぜ目を逸らす」
轟と緑谷が全力で俺から目を逸らす。コイツらがこうなったのは具体的に、『俺らはちゃんと許可取ってるし』のあたりからだ。何だ?何があった?一体何が彼らを───
「……………もしかして、個性の使用許可取ってたの俺だけ?」
ヒーロー科、もしかしたら不良の集いなのかもしれない