個性:デビルブリンガー   作:大海

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流行れ…

DMCもっと流行れ…



MISSION 01  Silver Devil -銀髪の悪魔-

 歴史と威厳を感じさせる、荘厳な空間。

 そんな空間に流れるにふさわしい、厳粛な雰囲気と、壮大な音楽。

 そんな空間の、中心と呼ぶべきステージを、まばゆく思えるスポットライトが照らす。

 

 そんなスポットライトに照らし出された少女。

 与えられた衣装を着こなし、閉じていた目を開き空間を見渡すその姿には、練習をしてきたであろう自信と、だが消しきれない緊張の気が見て取れる。

 そんな少女らしい矛盾を抱えながら……

 

「――」

 

 

 

 愛する人を見守り、そして戦ってくれる、そんな尊く愛しい存在に捧ぐ讃美歌を少女が歌い上げているのと同じ時。

 深夜の公道を、暴走する車があった。カーブを曲がる度に車体は傾き、ただ直進することさえおぼつかないのは、走る車のフロントガラスを、人影が遮っているせいだ。

 暴走するワゴン車にしがみついているその人物は、タイミングを見計らって飛び降りて――

 

 視界を得た直後、ワゴン車は前にあった電柱にぶつかり、車体を凹ませた。

 それ以上の走行は不可能となったワゴン車から、いかにもな風体の男たちが出てくる。

 姿は様々……銃火器等物騒な武器を両手に持つ男もいれば、丸腰ながら、見るからに頑強そうな異形型の身を誇示する男。

 

 そんな連中に……

 ワゴン車にしがみついていた、全身黒づくめ、フードで顔を隠し、右腕をギブスで吊っている、その人物は相対する――

 

 

 

 少女の歌声は続く。

 歌詞が進む度、少女の身を包んでいた緊張の硬さはほぐれ、周囲を見渡す余裕が出てくる。

 観客席を見渡した。ただジッとこちらを見つめる人もいれば、その歌に合わせて、両手を組んで祈りを捧げる人もいる。

 そんな人たちに、自分の歌声が、確かな癒しを与えていると自覚しながら……

 

 

 

 銃を持った男が発砲する。だが、黒づくめの人物は逃げることなく走り出し、物騒な集団へ向かっていく。

 異形型の男たちが襲い掛かった。

 それを、軽やかなステップと身のこなしで躱していきつつ、同時に蹴りを喰らわせぶっ飛ばす。

 途中、倒した男の一人が持っていた打突武器をつかみ、振るう。

 蹴りより遥かに強力な一撃を受けた男たちは、漏れなくふっ飛ぶか、倒れるか――

 

 

 

 讃美歌が佳境に差し掛かる。

 あれだけ時間をかけて練習と準備に比べて、いつだって本番の時間は短く終わる。

 やり遂げることができた達成感。同時に、これで終わるという開放感。終わってしまうという、寂しさ……

 

 

 

 ワゴン車に乗っていた、計六人の男。

 倒され、拘束されたうちの一人が見上げる。

 被っていたフードが外れたその下には……

 

 顔が隠れるほどの、長い銀髪が輝いていた。

 

 

 

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 無事、歌い上げることができたことへの安堵と喜びを感じながら……

 同時に、顔には出さないまでも、落胆を禁じ得ない。

 どれだけ客席や、この教会全体を見渡しても、一番見てほしかった人の姿が無いから。

 

 だが、それも当然だ。彼がいないことくらい、少女には分かっていた。

 だって、彼はとうの昔に、生まれ故郷に帰っているのだから。

 

 少女――八百万(やおよろず) (もも)がいるここ、アメリカじゃない。

 彼女と、同じ生まれ故郷……

 

 日本に。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 わーたーしーがー!!

 

「来た!!」

 

 深夜の空間に、男の叫び声がコダマする。

 人けの無くなった街中の外灯が無くとも、鮮明に浮かび上がるだろうと思えるほど、その男の姿は光とカリスマに溢れている。

 

 だがそれも当然だ。

 人々が『個性』と呼ばれる超常的な力を有し、それを悪用する者に抗うために生まれた職業、それがプロヒーロー。

 そんなプロヒーロー達の頂点に君臨し、存在そのものが平和の象徴となった、自他共に認めるNo.1ヒーロー。

 

 それが、平和の象徴――オールマイト。

 

「はじめまして。君が銀髪の悪魔(シルバーデビル)――黒服(ネロ)少年で間違いないね?」

 

 オールマイトは、気さくでアメリカンな口調とノリで、黒づくめの服とフードに身を隠し、右腕をギブスに吊った人物に話しかけた。

 

「……」

「ダンマリか……けどね、悪いけどおじさん、君の行動の一部始終を見ちゃった。君が先ほど制圧した(ヴィラン)の集団、たまたま私も追っていたんだ。タイミングを見計らって捕獲するつもりだったが、そこへちょうど、最近噂になっているヴィジランテが飛び込んできたというわけさ」

「……」

「私も止めに入るべきだったが、あまりの雄姿におじさん、思わず見惚れてしまったよ……今ごろ、連中は彼らを雇っていた組織ごと、お巡りさんに逮捕されているだろう。そして、君だ」

「……」

「君の勇気ある行動のおかげで、救けられた人たちもいるだろう。だが、ヒーロー資格の無いものが自警活動を行うことは法律で禁じられている。悪いが、No.1ヒーローとして、君を捕まえざるを得ない。ケガもしているようだし、このまま大人しく捕まってくれると助かる――」

 

 カチリ――

 

 ダンッ

 近づきながら語り掛ける、オールマイトの言葉が銃声に遮られる。

 黒づくめの人物――ネロの左手には、銀色に光る巨大なリボルバー拳銃が握られていた。

 

「Shit! 拳銃!?」

 

 とっさに身をかわし、後ずさった。

 

「……いや、対(ヴィラン)制圧用の特殊ゴム弾か」

 

 二連装銃口から飛んでいった銃弾の着弾の様子から、プロヒーローとしてよく知る武器の存在を思い出す。

 

 ダンッ

 ダンッ

 ダンッ

 それを理解している間に、走ってくるネロの左手の銃からは火花が散り続ける。

 飛んでくる銃弾に、反応し、避けているところへ――

 ネロがオールマイトの身に飛びこんで、肩を踏みつけ、顔を蹴り上げる。

 蹴り上げ、飛び上がった先で。

 

 ダンッ

 ダンッ

「I guess this doesn’t quite cut it.(銃だけじゃ無理か)」

 

「英語……?」

 

 弾切れになった銃を仕舞ったネロは、ちょうど着地した場所に落ちていた、工事用の鉄パイプを蹴り上げた。

 降ってきたそれを握りしめ、地面に突き立て、持ち手をねじる。

 

「I can’t just go along with being arrested.(大人しく捕まるわけにはいかねーからな)」

 

「あくまで抵抗するか……致し方ない」

 

 優しく連行するつもりだった予定を変更せざるを得ないことに嘆きつつ、ファイティングポーズを構え。

 

「消え――」

 

 ネロは咄嗟に、左手の鉄パイプを前に構えた。

 直後、鉄パイプはグニャリと曲がり、ネロの身は後ろへ吹き飛んだ。

 

「日本語も分かるみたいだな……諦めなさい。私にそんなものが通用しないことくらいは分かっているはずだ」

 

 今の一撃で十二分に分かったろう……

 そう語り掛けるオールマイトへ、ネロは再び走り出す。

 曲がり、だがつながっている鉄パイプを、平和の象徴へ振るい続ける。

 

(敵たちを制圧した時も思ったが、実に戦闘慣れしている。鉄パイプも、ただやみ雲に振り回しているのではなく、紛れも無い剣技の身のこなし。先ほどの銃も百発百中だった。この少年、この歳でそうとうの戦闘訓練をこなしてきたな……)

 

 ここまでの戦いから、No.1ヒーローは対峙する相手の人物像を断定していた。

 豊富な訓練と経験から成る戦闘力。

 声や露出した肌の質感から分かる大よその年齢。

 サポートアイテムとは言え銃を含む様々な武器を使いこなす、十代半ばかそれ以下の、子供だと。

 

「その幼さで、しかも左手一本でこれほどの強さとは、まったく若さが眩しいぜ! だが――ここまでだ!」

 

 たとえ、相手が年端もいかない子どもとは言え、No.1ヒーローとして、彼を捕まえるしかない。

 その使命感のもと、オールマイトは振るわれた鉄パイプを弾き、飛ばして、ネロを制圧するための、拳を振るった。

 

(手加減はするが、気絶くらいはしてもらうぞ――!)

 

 飛んできた、オールマイトの拳に対して――

 ネロは咄嗟に、右腕(・・)をかざした。

 

 

 ドカァ――

「……どうなってる?」

 

 目の前の光景に、オールマイトは絶句させられた。

 手加減はした。だが、とても無事ではいられない程度の威力は込めた。

 そんな自身の一撃を受け止めた、ネロの、右腕。明らかに人間のものとは違う感触。

 

 吊っていたギブスが取れ、巻いていた包帯が弾け飛んだ。

 その下から現れた――赤黒く毒々しい外殻。青白く光る輝き。

 

「It seems you can make more than just smiles.(笑うだけじゃねーんだな……)」

 

「But if it’s a trick you looking for then try this!(だが、種明かしはしてやれないな!)」

 

 叫んだ直後、受け止めた拳をつかみ、投げ飛ばす。

 体重250キロを超える自身を、右手一本で投げ飛ばした。

 それに驚いた後で、振り返ると、ネロが振り上げた右腕から、別の巨大な右腕が発生。

 それが、手近に打ち捨てられていた廃車を持ち上げて、オールマイト目掛けて投げ飛ばした。

 

「その右腕が君の『個性』というわけか!!」

 

 叫びつつ、飛んできた車を殴り、落とす。

 

「デリャアアア!!」

 

 そんな車の陰から、フードが取れた銀髪が飛び出して、右腕が、オールマイトの身を捕まえた。

 

「Catch this!!」

 

 捕まえたその身を、地面に叩きつける。

 そのままその身を押さえつけ、右手を振りかぶり、オールマイトの顔目掛け――

 

「そこまでだ、ネロ少年」

 

 殴りかかった右手を、オールマイトにつかまれた。

 

「君の『個性』は理解した……君なりに、戦う理由はあるのだろう。そのためにしてきた努力も認める。だが――」

 

 右手を握りしめ、語りかけながら立ち上がり、少年に向かって、言い放った。

 

「自らの保身と快楽のために力を振るったが最後、その瞬間から、君はヒーローどころかヴィジランテですらなく、ただのヴィランだ!」

「……!」

 

 そんな説教を喰らって、戦意の揺らいだ一瞬を狙って、オールマイトは拳を振るった。

 

「ヤベっ、力が入りすぎた……!」

 

 直前の彼の力の脅威から手加減が足りず、派手に殴り飛ばす形となった。

 

「……? ……!」

 

「え? ウィッグ?」

 

 少年が吹っ飛んだ先。

 倒れた少年の前には、銀色に輝く、カツラが落ちていた。

 それが取れた少年は――

 

 すぐさまフードをかぶり直し、ウィッグを拾うと、右腕を振るう。

 右腕から、先ほどと同じ、別の右手が伸びていき、遠くにあるものをつかむ。

 そんな右腕に引っ張られる形で、少年の身は、高速で移動していった。

 

「待ちなさい!!」

 

 オールマイトも、すぐに追いかけようとしたが……

 口から血が滴り、その身から、湯気が湧きだした。

 

「くっ、活動限界が……」

 

 モサモサの、緑の髪。

 一瞬だが見えた、自身からまんまと逃げおおせた少年の顔を思い出し、オールマイトは、歯噛みせずにはいられなかった。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 窓から自宅の、自室へ戻り、灯りを着ける。

 黒い服を脱ぎ捨て、被っていた銀髪のウィッグも、愛用の銃もベッドへ放る。

 包帯の取れた右腕には再び包帯を厚く巻いて、中身が決して見えないよう隠す。

 それらの一連の行動を終えた後は……

 

「あ~~~~~……憧れのオールマイトを殴っちゃった! しかも、オールマイトにお説教されちゃったよ! いや、それ以上に、僕の素顔を見られたんじゃ……あ~~~も~~~どーしよー!!」

 

 困惑とも、興奮とも取れる声を上げて……

 モサモサした緑の髪に、そばかすの浮いた顔の少年――緑谷(みどりや) 出久(いずく)は、一人、自室にて悶えていた。

 

 

 




DMCネトフリアニメ化が嬉しすぎて書いてしまいました。

アメリカにいたなら、オールマイトよりスタストじゃね? てな疑問は無しで。

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