個性:デビルブリンガー   作:大海

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ブルーローズのモデルガン欲しい……

ぶっちゃけ、エボアボやルーチェオンブラより好きです。
まあ、どれも販売されたら買うでしょうけど!



MISSION 02  Devil Bringer -悪魔の右腕-

 中国の慶軽市で生まれたという発光する赤子。

 それを皮切りに、世界で同時多発的に発生した超常――現代は『個性』と呼ばれている異能の発現。

 そんな力を悪用し、人々を傷つけ苦しめる存在、(ヴィラン)

 そんな敵に対抗するために、力を振るう自警団が発端となって誕生した職業、プロヒーロー。

 

 暴れる敵と戦闘、制圧してみせるプロヒーローの姿は、必然的に、人々の憧れとなった。

 まして、純真な子供たちにとって、その輝きはかなりのものだったに違いない。

 それも、平和の象徴と称された、No.1ヒーロー、オールマイトの存在は……

 

 

 

「今から進路希望のプリントを配るが――大体みんなヒーロー科志望だよねー?」

 

 将来はプロヒーローになりたい。

 この世界の子供たちが、強く懐く大抵の夢がそれだ。

 理由はそれこそ様々だろう。

 単純に憧れて。人救けがしたくて。金や名声欲しさ。

 

 そして――己の自尊心を誇示したいがため。

 

「先生よぉ! みんなとか一緒くたにすんなよ!」

「そう言えば、爆豪は雄英志望だったな?」

 

 そんな先生の発言に、彼を除いた生徒たちは一斉に、目付きの悪い彼へ注目する。

 

「国立の? 今年偏差値79だぞ!?」

「毎年、倍率やべーんだろ!?」

 

「そのざわざわがモブたる所以だ! あのオールマイトをも超え、俺はトップヒーローと成り、必ずや高額納税者ランキングに名を連ねるのだー!!」

 

 イヤにリアルな将来の展望を声高に叫ぶ彼――爆豪(ばくごう) 勝己(かつき)に対して、生徒たちは再び盛り上がりを見せた。

 

「そう言えば、緑谷も雄英志望だったな?」

 

 そんな盛り上がる教室に、教師は何気ない口調で言葉を続ける。

 爆豪を含む全ての生徒の視線全て、今度は、右手をギブスに吊った、緑髪にそばかすの浮いた少年へ注がれる。

 

 ブゥー!! ブゥー!! ブゥー!!

 ププー!! ププー!! ププー!!

 

 そして全員、一斉に吹き出した。

 

「はああ!? 緑谷は無理っしょ!」

「勉強ができるだけじゃヒーロー科には入れねーんだぞ!」

 

 誰もが笑い声を上げ、嘲笑の視線と顔を向けていた。

 

「Brats…(クソガキども……)」

 

「こらデク!!」

 

 そんな緑谷の机に、爆豪は自身の『個性』――爆破を発動。

 机を焦がし、爆炎を浴びさせた。

 

「『没個性』どころか『無個性』、おまけにケガがいつまで経っても治らねー片腕のテメーがぁ、なんで俺と同じ土俵に立てるんだぁ?」

「……」

 

 緑谷は無言で立ち上がり……

 その静かな視線に、見ている生徒たち、担任教師、そして、爆豪もまた、ひるんで……

 

「……いや、違うんだ、かっちゃん、別に、張り合おうとか、そう言うんじゃなくて、ただ、小さいころからの目標だから、それで……」

 

 直後、無事な左手で稚拙なジェスチャーをしながら、つたない口調で弁明している。

 爆破を前にしても整然としていたと思ったら、立ち上がった瞬間、彼らがよく知る『ヘタレな無個性』の姿に変わって。

 周りで見ている生徒も教師も、一瞬前に感じた緊張を忘れて、元の侮蔑と嘲笑を向けた。

 

「……ちぃッ」

 

 そして、爆豪だけは、緑谷を鋭くにらみ据えたまま、舌打ちしていた。

 

「それにその……やってみないと、分かんないし」

「なぁーにがやってみないとだ! テメーに何がやれるんだ?」

 

 他の生徒たちが、クスクス笑い声を押さえている中……

 爆豪だけは、目の前に立つオドオドした無個性のデクに対して、得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

(ヘドロ敵……ヤツを追いかけてきたが、まさかこの街とは)

 

 ただ歩いている。それだけで飽くなく浴びせられる周囲からの視線。

 羨望と憧憬を一身に受ける、筋骨隆々の巨漢は、図らずも再度訪れることになった街を見渡して、感じていた。

 

(また会えるだろうか……銀髪の悪魔、ネロ少年)

 

 

 

「最近、噂聞かなくなったよな? ここらに出てたっていうヴィジランテ」

「ああ、シルバーデビル? 最後に出たのっていつだったっけ?」

「二ヶ月か、そのくらい?」

「噂じゃオールマイトと戦って、逃げ出したって話だけど」

「ハハハ! オールマイトから逃げるのはさすがに無理だ! 多分その時捕まったんだろ?」

 

 全ての授業を終えた、中学校の放課後。

 多くの生徒たちは一日の終わりから得た開放感と自由を謳歌し、自身にとって面白おかしい話題や行為へ意識を向けて、それらをしようと帰路へつく。

 

「おい……話はまだ済んでねーぞ? 片腕のデク」

 

 同じように帰ろうと立ち上がり、机のノートを取ろうとした緑谷の前に、ノートを奪った爆豪が再び立ち塞がる。

 

「勝己なんだそれ?」

「『将来の為のヒーロー分析』? ナンバー13!? マジか!! プププー!!」

 

「い、いいだろ別に、返してよ」

 

 ボム!!

 

 返却を求めたノートを、爆豪は両手につかみ、個性を発動。

 結果、緑谷がまとめてきたノートは燃えて、黒焦げになった。

 

「一戦級のプロヒーローは大抵、学生時から逸話を残している。俺はこの平凡な市立中学から初めて、そして唯一の『雄英進学者』っつー箔をつけてーのさ」

 

 焦がしたノートを窓から放り、妙にみみっちい願望を唱えて、言葉を失う緑谷の肩に手を置いて、満面の笑みを向けた。

 

「てことで、雄英受けるな、ナード君?」

「……」

 

 ここまでされても、何も言わない。

 やはり、ただのヘタレな糞ナード。

 そう割り切るのは簡単なのに……

 

「いやいや、さすがに何か言い返せよ」

「言ってやんなよ。かわいそうに、中三になっても彼はまだ現実が見えていないのです」

 

 緑谷に対して感じずにいられない、得体の知れない気持ち悪さをごまかすために、爆豪はとかく、喋り続けた。

 

「そんなにヒーローに就きてーんなら、効率良い方法があるぞ? 来世は個性が宿ると信じて……屋上からワンチャンダイブ!」

 

 ガッ

 

「なっ……うおおおお!?」

 

 言った直後。襟首をつかまれ、グイっと引っ張られる。

 教室の出口に立っていた爆豪の身は、真逆の窓際へ投げ飛ばされた。

 

「か、勝己!?」

「緑谷が、爆豪を投げ飛ばした! 片手で!?」

「うわ、俺知らね……」

 

 ずっと見下してきた『無個性』の反抗に、驚く者もいれば、直後に見え透いている生末に憐れむ者もいる。

 

「……!」

 

 そんな中、壁に背中を打ち付け、痛がり尻もちを着く爆豪の顔の横に、緑谷の、足が突き立った。

 

「テメ、クソデク……!」

 

 呼びかけると、緑谷はその顔をグイっと、爆豪の顔に近づけて……

 

「That’s good…」

「ああん? それ、良い、な……?」

 

 そう、爆豪が英語を聞き返した次の瞬間……

 緑谷は、爆豪の後ろの窓に足を掛け、背中から、窓の外へ――

 

 

「――!?」「――!?」「――!?」

「――!!」「――!!」「――!!」

 

 

「バカかよ!!?」

 

 考えるより先に、体が動いていた……

 

 

「クソデクが……本当に飛ぶヤツがあるか……!」

 

 とっさに続いて飛び降り、緑谷の体をつかんで、『個性』の爆破で落下速度を殺して、下にちょうど木があったことも手伝って、どうにか生きて着地。

 それでも、さすがに無傷とはいかず、かすり傷程度だがケガをしていた。

 

「So good.」

 

 そんなケガや、落下の恐怖やらもろもろのせいで動けずにいる、爆豪に対し。

 平然と立ち上がった緑谷は、笑顔を向けた。

 

「良かったね、かっちゃん。ヒーローの夢が、危うく自殺教唆で潰れちゃうところだった」

「……! デク、テメー、試したのか? 俺を?」

 

 そんな、爆豪の疑問には応えることもせず。

 緑谷は、途中ある池から黒焦げのノートを拾って、帰路についた。

 

「クソデクが……!!」

 

 

 

 

 人は生まれながらに平等じゃない……

 それを緑谷(みどりや) 出久(いずく)が痛感したのは、齢4歳の時。

 

 笑顔で人々を救けるNo.1ヒーロー、オールマイト。

 この少年もまた、幼なじみである爆豪勝己と共に、彼の存在に憧れた。

 だが、『ヒーロー向けの個性』と評された力を授かった幼なじみに対して、緑谷に突きつけられた現実。

 それが、『無個性』。なんの力も持ち合わせない普通人の烙印。

 プロヒーローの中にも、没個性だとか地味だとか、決して戦闘向きとは言えない力を駆使して活躍する者たちはいる。それでも、その前提条件でもある『個性』を持ち合わせていない人間は一人もいない。

 つまり、『無個性』がヒーローになることは、絶対にできない。

 

 そんな現実を突きつけられ、憧れを否定されて、絶望したのと同じころ、父親の海外への転勤が決まった。

 大いに傷つき、友達とも良好とは言えない仲に変わってしまって。

 そんな息子の環境を変えた方がいいと判断して、母親も、息子ともども父親へついていくことを決意。

 

 旅立った先……アメリカでは、当然だが、様々な出来事があった。

 日本で起きたように、『無個性』で嫌な思いをしたことも一度や二度じゃない。それでも、そんなことを気にしていられないくらいに、目まぐるしく大変な日々。

 そして、そんな忙しない日常の中で果たした、尊き出会い。感謝すべき人々。最愛のあの子……

 

 そんな人たちを守りたい、力になりたいと願って肉体を鍛えてきたのに、結局護ることができず、ケガまでして、何もかもが変わった。

 それが耐えられなくて、逃げ出して、帰ってきた。

 彼女に何も言わないまま……

 

 

 見下げ果てた、最低最悪の臆病者。

 何にもできない、無個性の木偶の棒。

 そのくせ、身についてしまった力を持て余し、相手は敵だけとは言え、そんな敵と同じように、力を振るい、自己満足を得ている。

 

 いつか、誰かに言われた通り。

 ヒーローじゃない。ヴィジランテでもない。

 ただのヴィラン。

 

「That is me…」

 

 

 GLOOP

「Mサイズの隠れ蓑」

 

 

 ギブスに吊った右腕のうずき。直後に感じた、背後への悪寒。

 とっさに前へ跳び、腰に刺してあるものに左手を伸ばす。

 

「逃げたか……でも、だいじょーぶ。身体を乗っ取るだけさ。苦しいのは最初だけ。すぐ楽になる」

 

 避けられても、再び少年へ迫っていく。

 そんな敵を、緑谷は冷静に分析する。

 

(流動体……ブルーローズは使えそうにない。レッドクィーンはそもそも手元に無いし。となると、やっぱり――)

 

 今は昼日中。ただでさえ目立つ力を、誰が見ているとも知れないこんな時間のこんな場所で行使するのはまずい。

 それでも……直前に感じていたブルーな気分を発散させたくて。

 

(また僕は、自分の身勝手のために……)

 

 右手の包帯に触れようとした左手を引っ込めて。

 せめて、勝てないなら逃げなければと、身をひるがえそうとした――

 

 

「もう大丈夫だ少年――なぜって?」

 

 私が来た!!

 

 TEXAS SMASH!!

 

 

 そこからは、一瞬の出来事。

 突然現れた男の、巨大なる一撃。それによって起きた風圧で散ったヘドロは、そのままペットボトルに詰められた。

 

「……む? 少年、ケガをしているのか? というか君、どこかで――」

「そうだ! サイン! サインを……そうだ、このノートに、してあるー!!?」

 

 目の前に立つ、右腕をギブスに吊った少年。

 風体と言い姿と言い、オールマイトは約二ヶ月前に出会った人物を頭に浮かべたのだが……

 

(明らかに普通のオタク少年。この子がネロ少年であるはずがない、か……)

 

「じゃあ! 私はこいつを警察に届けるので、これで!」

 

 少々落胆の気持ちを感じつつ、二度と現れないのなら、それが一番良いのだと自身に言い聞かせた。

 

 

「って、こらこら!」

 

 飛び上がった瞬間、足に感じた体重。

 見ると、直前に救けた少年が、左手一本でオールマイトのズボンをつかんでいた。

 

「握力すご! てか、放しなさい! 熱狂が過ぎるぞ!」

「今放すと死にます!」

「確かに!!」

「強引なことをしてごめんなさい! 僕、どうしてもあなたに直接聞きたいことが――」

「ゴホ……Shit!」

 

 

 

 同じころ、別の街中にて。

 

「勝己よー、緑谷、幼なじみなんだろ? さすがに言い過ぎじゃね?」

「そのせいでマジで飛び降りちまうしな。お前が助けなきゃマジで死んでたぞ、アイツ」

 

 たしなめているようで、そうなったらそうなったで面白かったと、陽気な邪悪さを隠す気も無い。

 そんな二人の声に、前を歩く爆豪は……

 

(クソどもが……アイツはそんな理由で飛び降りたんじゃねー。俺なら助け出すって確信してやがった。それだけじゃねぇ、下には木もあったし、仮に俺が飛ばなくても、自分なら無傷で着地できるって自信があったんだ。つまり、どっちにころぼーが、あのクソデクは死にゃあしなかったんだよ、ボケが!)

 

 飛び降りても死なない。けどせっかくだから、飛び降りを勧めたヒーロー志望を試してやろう。

 あの時の笑顔には、そんな悪戯心を浮かべていた。

 

(なのに……まるで、あのまま死んじまっても構わねーって、ヤケクソになってたような……)

 

 今思えば、アイツはずっとそうだった。

 5歳になる前にアメリカへ引っ越したかと思えば、半年ほど前にフラっと帰ってきて。

 その時から、ヒーロー好きのオタクムーブはガキの頃と変わらなかったが、まるで、この世の地獄を全部見てきたような目と、全てがどうでも良いというような態度が見え隠れする時があった。

 半年経っても右腕から外れないギブスや、『無個性』なこともあって、そんな悲劇の主人公ズラした態度に加えて、今日突然見せた、強い力。それ以前から常々感じてきた、得体の知れない恐怖。

 

 何もかも、爆豪にとって、緑谷という幼なじみの存在は気に入らない。

 

「つーかタバコやめろっつったろーが!! 俺の内申にまで響くじゃねーか!!」

 

 そんな気持ちをごまかすため後ろを振り返り、年齢的に許されていないタバコを制した。

 

「お、おい……!」

「あぁん?」

 

 

「良い個性の、隠れ蓑……!」

 

 

 

「私が笑うのは……ヒーローの重圧、そして内に湧く恐怖から己を欺くためさ」

 

『個性』が無くてもヒーローになれますか?

 そう、少年は尋ねてきた。

 No.1ヒーローはその質問に、図らずもさらすこととなった自身の秘密と合わせて答えた。

 直前まで見せていた、筋骨隆々の巨人ではない。

 

「プロはいつだって命懸け……個性(ちから)が無くても成り立つなんて、とてもじゃないが、口にはできないよ」

 

 ガリガリに痩せこけた、貧弱で傷だらけの肉体をさらしながら……

 

「夢を見ることは悪いことじゃない……それでも、相応に現実を見ないとな」

 

 送るべき答えを返した後は、着地したビルの階段を降り、敵を閉じ込めたペットボトルの入ったポケットに手を……

 

「無い……まさか!」

 

 直後、窓の外から、爆発が起こった――

 

 

 

 

「あれは……」

 

 あれからどう歩いていたか、覚えていない。

 ただ気がつけば、爆発が起こり、人々が集まっていた場所まで歩いていた。

 やはり、自分はヒーローになれない。

 そんな資格、生まれた時から無かったのだから。

 まして、今の(・・)僕には、なお更……

 

 それでもフラっとそこへ来てしまったのは、ずっとヒーローを追いかけ続けてきた、昔からのクセのせいだろう。

 これ以上は、考えるだけ虚しくなるだけだっていうのに……

 

「……て、アイツ!」

 

 野次馬の先に見えたのは、ついさっき、自分に襲い掛かってきた、ヘドロ敵。

 

「僕が、オールマイトにしがみついたせいで……!」

 

 自身の我がままのせいで起きてしまった、起きるはずの無かった事件。

 誰だか知らないが、敵に体を乗っ取られ、個性ごと操られているんだ。

 

「私、二車線以上じゃなきゃ無理~!」

「爆炎系は我の苦手とするところ! 今回は他に譲ってやろう……」

「そりゃサンキュー! 消火で手一杯だよ! 状況どーなってんの!?」

「ベトベトでつかめねーし、強い個性の少年が人質になってる!」

「これ解決できるヤツ、この場にいねーぞ!」

「誰か有利な『個性』持ったヤツ来るまで、あの少年には耐えてもらおう!」

 

(あの時だ……時間にばかり気を取られて、あんなミスを……情けない!)

 

 その場の誰も……ヒーローも、オールマイトさえ、何もできず、諦めていた。

 そしてそれは、緑谷も同じ。

 

(ヒーローたちだって言ってる。誰かが……ヒーローが、すぐ――)

 

 

 その時……

 ヘドロの隙間から、幼なじみの目が見えた時――

 

 

「Shit!!」

 

 

 考えるより先に、体が動いていた。

 

「バカヤロー!! 止まれー!!」

 

 野次馬の中から飛び出し、吊っていた右手を伸ばし、包帯もギブスも外していく。

 

(これを見せたら、もう言い逃れはできない、いやそもそも、公共の場で個性の使用は法律違反、今はフードもウィッグも無い、逮捕、将来、敵と同じ――)

 

 様々な感情や考えが、頭でグルグル渦巻きながらも。

 足も、手も、止まらない。

 

 全ての包帯を取り去って……

 

 現れた、赤黒い外殻、青白い輝き――

 

「かっちゃん!!」

 

 生身の肉体から逸脱した、悪魔的な異形の右腕から、本体とは別の、巨大な腕が伸びていく。

 それが、巨大化したヘドロの隙間に見える、人質の手をつかみ取り。

 

「Booyah!!」

 

 力のかぎり引っ張り出して、ヘドロから、人質――爆豪勝己を引き剥がすことに成功した。

 

「デク……なんだテメー、その、右腕は……!」

 

 学校で見せていた、弱々しい糞ナードの姿は、そこには無い。

 目の前に立っているのは、明らかに異形の右腕を構える、圧倒的強者。

 そんな存在を前にしていると……

 直前まであんなにも脅威に感じていたヘドロ敵の、なんと、弱々しく感じられる。

 

「ヒーロー……」

 

 この瞬間。爆豪はやっと、緑谷に感じてきた、得体の知れない違和感の正体に気づいた。

 どんな脅威や強い存在も、圧倒的強者――それこそ、オールマイトのような存在を前にすれば、どれだけ強かろうが、一気に存在は霞んでしまう。

 ずっと、ただの糞ナードだと思っていた。何もできない『無個性』だと思ってきた。道端の石ころだと思っていた。

 

 けど、実際は違う。

 俺も、周りの人間も全員、コイツの見てくれに騙されていただけ。

 騙されて、自然と見下していた。

 本当に見下すべきなのは、コイツ以外の、全部。

 

(石ころだったのは、俺――)

 

 

「Now I know…(そうさ……)」

 

 爆豪を救い出して、緑谷は、その場から飛び上がり、右腕を伸ばす。

 

「きれい……」

 

 野次馬かヒーローか。

 誰かが思わずつぶやくほどの、まばゆい光を全身から溢れさせ。

 伸ばした右腕から、肥大化したヘドロをまるごとつかみ取れるほど、巨大な腕が伸びる。

 

 

「This hand was made for sending someone like you back to hell!!(この腕はお前みたいなヤツをぶち殺すためにあるってわけだ!!)」

 

 

 And…

 

 

 now…

 

 

 you…

 

 

「DIE!!!」

 

 

 絶叫。そして、握りつぶす。

 その瞬間……ヘドロ敵は動かなくなり。

 巨大な腕が消えたと同時に、地面へ滴り落ちた。

 

 

 

 見た目から、生存を危ぶまれていたヘドロ敵だったものの、そもそもが流動体だったこともあり、命に別状はなかった。

 そんな、ヘドロ敵を倒した緑谷は……

 

 事件の解決と同時に、ヒーローたちに怒られた。

 逆に、強個性な上にヘドロ敵の支配に耐え続けた爆豪は、みんなから褒められた。

 

 その後、警察も介入し、個性を無断使用した緑谷の処遇も問われたものの……

 

「彼こそ本当のヒーローよ!」

「プロヒーローたちが動けなかった中、必死に人質を救ったんだ!」

「むしろ、その子が現れるまで何もしなかったヒーローたちこそ怠慢だ!!」

 

 そんな野次馬からの声や、現場の混乱もあって、警察もそれらに対応している内にナアナアとなったことで、緑谷は無事、解放されることになった。

 

(違う……僕は、ヒーローじゃない。ヴィジランテですらない。ただの……)

 

 

 

「クソデク!!」

 

 夕刻の帰路。

 右腕を隠す気さえ無くなり、トボトボと歩く緑谷の背に、掛けられた声。

 

「俺は……テメェに救けなんか求めてねー! 俺は一人でもやれたんだ! てか、テメー、個性があったの隠してたんか! 俺をダマしてたのか!?」

「かっちゃん……」

「俺は……テメーより上だ! 見下すんじゃねーぞクソデク!! No.1ヒーローになるのは、俺だ!!」

 

「……うん。僕は、ヒーローにはなれないよ」

 

 爆豪からの挑発に対して、緑谷は、そんな諦観にまみれた返事を返した。

 

「かっちゃんなら、立派なヒーローになれるよ……僕も、応援してるから」

 

「~~~~~!! クソがああああああああ!!」

 

 返事を聞いて、余計に苛立った様子で叫ぶ。

 なにが気に障ったのやら、全く理解できない緑谷を置いて、去っていく。

 それを見届けた緑谷も、歩き出した。

 

 歩きながら、身の丈に合った将来を――

 

 

 DETROIT SMASH!!

 

 

「Shit!!」

「Shit!?」

 

 同じ言葉と同時に。

 オールマイトの拳と、緑谷の右腕がぶつかり、空間が揺れる。

 

「やあ……二ヶ月ぶりかな? ネロ少年」

「オールマイト……」

 

 言葉を交わし、互いに拳を下ろす。同時に、血の咳と共に、オールマイトはガリガリの姿に変わる……否、戻る。

 

「僕を逮捕しますか?」

 

 さっきは世論の声で何となく許されたものの、それでも実際には、許されないに違いない。

 身の丈に合った将来。それが、目の前に現れただけだ。

 敵として、逮捕されるという、相応しい将来が……

 

「No!! 少年、礼と提案、そして謝罪をしにきた」

「へ?」

「君がいなければ、私は口先だけのニセ筋になるところだった。ありがとう」

「ニセ筋て……いや、そもそも僕が悪いんです。仕事の邪魔して。『無個性』のくせに……今は違うけど、どっち道、生意気なこと言って……」

「そう!! あの場の誰でもない、『無個性』の君だったから私の心は動かされた! 私だけじゃない。君の行動が、見ていた大勢の人々の心を動かしたんだ!!」

「オールマイト……」

 

 か細い身体で、時折咳き込みながら、それでも力強い声を上げ、語り続ける。

 

「トップヒーローは学生時から逸話を残している……彼らの多くが、話をこう結ぶ。考えるより先に、体が動いていた」

 

 その時……

 胸が高鳴る緑谷が思い浮かべたのは、母の言葉。

 母は、無個性だと分かった息子を抱きしめ、ヒーローにはなれない現実に、涙を流していた。

 

「君もそうなんだろう?」

 

 泣きながら、母は何度も言っていた。

 

 ――ごめんね……ごめんね、出久……

 

 あの時、出久が欲しかった言葉は、謝罪じゃない。

 あの時の出久が、本当に欲しかった言葉は……

 

 

「君はヒーローになれる」

 

 

「……No」

 

 他でもない、憧れのNo.1ヒーローに言われて。

 ひざを着いて、涙が出るくらい嬉しい言葉なのに。

 この言葉が欲しかったから、仕事の邪魔までして問いただしたのに。

 

「ダメなんです……僕は、ヒーローには、なれない……」

 

 それでも……

 変えようのない過去とトラウマが、出久の心を塞き止めた。

 

「だって、僕は……逃げ出したから。あの子を置いて、この国に、逃げてきたから……だから――」

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 同じころ。

 高度約10000メートル。

 その高さを亜音速で飛ぶプライベートジェット。

 アメリカを発って約10時間。

 目的地は、今は夕方らしいことが、飛行機の窓からはよく見える。

 

 一時間後には到着するであろう故郷を前にして。

 

(緑谷出久さん……この国のどこかに、いるのでしょうか?)

 

 幼少時以来となる生まれ故郷への郷愁よりも。

 ずっと住み続けてきたアメリカを離れた郷愁よりも。

 

(ずっと、私のことを守ってくださった。あの時も……そんなあなたの、後ろではなく、隣に立つ資格が、私にあるでしょうか?)

 

 八百万(やおよろず) (もも)が心に浮かべ、想い続けるのは、アメリカでずっと一緒だった、一人の男の子の顔だった。

 

 

 

 




この右腕なら、ヘドロでも握り潰せる気がする……


この続きは、ぶっちゃけ考えてないです。




日本が舞台のDMC続編出ねーかなー。

ヒロインは博麗霊夢みたいな武闘派の巫女だか陰陽師でさ。
普段は制服姿でスマホポチポチしてる感じの…

刀と銃と宇理炎を駆使して屍人や闇人を蹴散らすわけだw
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