私、李厳正方には変な幼馴染がいる。
私が2~3才位の頃に司隷からやってきた橋瑞伯嶺ってやつがそうだ。
背は6尺(だいたい180センチ位)はありそうなくらいとひょろ長く、腰までおろした黒髪をもち、ツリ目で碧がかった瞳にメガネをかけている。
普段の態度は怠け者。
仕事は辛うじて人並みという絵に描いたような凡人だ。
その癖して変な所で真面目で賄賂も取ろうとしなければ税のピン撥ねもしようとしない。
最初は清廉さを売りにして出世しようしているのかと思ったんだが、どうも違うらしく、普段から徳や礼には興味すら抱かず、むしろ嫌っているふしすらある。
何がやりたいのかいまいちわからない上に、そのせいで出世もできないから年がら年中困窮しているというそんな変な奴だ。
だが私はなぜかこいつと一緒にいる。
まぁ、あいつが私に向かってよく言う腐れ縁というやつかもしれない。
ある雨の日の休日、私は伯嶺と一緒にあいつが言うぼーどげーむとかいう奴をやっていた。
休日には水無月とか言う菓子を売っている伯嶺だが、雨の日には家でごろごろしている。
麻布に描いた地図を線で区切ってそこに両軍の駒を用意して遊ぶというものだ。
どうも、象棋を改良したものらしい。
規則がかなり複雑でわかりにくかったりするが、一度はまれば意外と気に入るもので、今ではすっかり嵌ってしまい、よくこいつと一緒に遊んでいる。
こいつは「電気やPCがなくても十分使えるし、ソロプレイもある程度楽しめる!」とか言って喜んでいた
あと、「ハリコフ攻防戦やバルジ大作戦でイワンやヤンキーをボコりたかったんだけれどねー」とかなんか変なことを愚痴ってもいた。
針子布?場瑠字?・・・どこかの邑だろうか?
さて、そんなゲームであるが、作り方は意外と簡単だ。
駒と区切った地図、そしてサイコロがあれば最低限はできる。
「という訳で、ターン終了です。」
「という訳でって誰に向かっていっているんだ?」
私の目の前でお気楽そうに伯嶺は言った。
「そんなことはどうでもいいのです。ほら、あなたの番ですよ」
「はぁ・・・じゃ、早速」
そういうと私は駒を進めて幾つかの部隊と対峙させると、サイコロを振った。
「与えた損害は3・・・この部隊は壊滅だな」
「ウ・・・」
それだけ言うと、私は伯嶺の駒を盤上から除去した。
あいつはと言うとうんうん唸っている。
「う~ん、やっぱり兵力差が圧倒的だと厳しいですね」
「やはり戦いは数だぜ伯嶺?」
私はこともなげにいうとあいつの作った大豆珈琲とか言うのを飲んだ。
すっごく苦い。私には会わない味なんだが、なぜか奴はそれが好きらしい。本当に変わっている。
さて、今回はもしも頴川郡方面から宛にむけて3万の軍が進撃してきたら?というのを想定したらしい。あいつが防御側で2万を。こちらは攻撃側を選択した。
伯嶺は南陽の入り口にある博望に500程の兵力を残すと、主力を全軍一気に後退させた。
博望は捨石にして時間を稼ぎつつ、反撃のための兵力配置をさせるのだろう。
ならばこちらは2000程の兵力を博望に配置して牽制させておき、残りで全力で宛を目指すことにした。
するとあいつは宛に5000、周辺都市にそれぞれ500程度の兵力を配置して今度は南の端にある新野まで後退する。なるほど、伯嶺が狙っているのはどうやらこっちの補給切れを待っているらしい。
この戦いにおいて、伯嶺のやつはひとつの決まりを作った。
攻撃側の最初の行動力はおよそ30日。
防御側は都市を確保する限り補給が得られるというものだ。
その代わり攻撃側は都市を攻略すると一都市につき10日間の行動力を得られるというものだ。
そして防御側は一度占領された町を奪還しても補給は得られない。
少しずるい気がするが、間違ってはいない。
現実の戦いでも防御側は町を補給拠点にするし、攻撃側は都市や村を制圧すると必ずといっていいほど略奪が発生するのだから。
つまり奴は、年を最低限守って敵に損害を蓄積させつつ補給が厳しくなった時点で一気に決戦に転じるつもりだということだ。間違ってはいないむしろ教科書どおりの戦術でもある。
でも伯嶺はひとつ間違いを犯した。
「それはその相手が私だってことだぜ」
「そう簡単に負けるわけないでしょうが」
フンッと鼻を鳴らして受けてたつ構えをする。いい覚悟だ。
私は9000の兵力で宛を包囲すると、残った兵力20000で周辺の幾つかの都市を落としていった。
まぁ、兵力を分散させていることがかえって仇になったようだ。
そして、あわてて伯嶺は軍団を北上させてきて宛郊外の育陽で決戦になった。
ふん、出てこなかったらこっちの勝利条件の宛を落としているところだったぜ
こっちは兵力も多いし、行動力もある。
だがあいつは12000程度の兵力しか残っていない。周辺都市などに兵力を分散させすぎたのだ。
結果は火を見るより明らかだった。
「ほい、野戦軍は壊滅・・・後は宛を陥落させるだけだな」
「・・・参りました。」
悔しそうな顔をする伯嶺を実ながら私は賞品の水無月を齧っていた。
ちなみに、。私が負けたらこいつに飯をおごってやるという約束だった。
まぁ、私に負けはありえないが
「兵力を少し分散させすぎたな」
「あ、やっぱり?」
「宛を包囲させてこちらの兵力をそごうとしたんだろうが、お前は周辺都市まで兵力を分散させ、かつ中途半端な兵力しか配置しなかった。」
「う~ん、やっぱりそれか~。なかなかマンシュタインのようにはなれませんね」
「誰なんだその将軍?」
「あー・・・大秦の方の将軍かな?」
「ふーん・・・何でお前はそんな変なことは知っているんだ?」
「さぁ、なんででしょう?」
シレッと伯嶺は珈琲を飲む。
こいつは本当に変なことだけはよく知っている。もちろん、ホラや嘘である可能性も否定は出来ないが・・・この満州侘印だって、こいつの話を聞く限りあまりによくできていて一概にほらではなさそうだ。実際に大秦などの外国の話にはなぜか詳しく、以前西の方から帰ってきたとかいう僧侶と話をして意気投合していたりするし
それに、羅典とかいう胡の向こうにあるという国の変な文字もある程度は読めるし本当になんでなんだと首を傾げるほどだ。
いや、だからだろうな。
このボードゲームや水無月だってこいつが作り出したものだ。
このわけのわからない奴は本当に訳のわからない行動ばかりをする。
だが、馬鹿ではないし狂人でもない。
だからだろうか?
どうも私には橋瑞伯嶺という女が得体の知れない何かに見えている。
だが、不思議と不気味だという感じはまったくしない。
むしろ、決して他では見ることのできない存在
そんな風に映っている。
まぁ、簡単に言うとだ「見ていたら退屈しない奴だ」ってことなんだろうな。
どうも皆様お久しぶりです。
今回は李厳からの視点にしてみました。
うーむ、文字数が少ない・・・