クソ雑魚マキマさんの日常(本編完結)   作:訥々

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有り得た未来④ 最強の大会

三人称視点とアキ視点が混ざってるので少し注意。それと今回は難産だったので、普段よりも文字数が多めです。

 

──────────────────────

 

東京郊外のとある由緒正しい料亭。

その一室で、公安の制服を着た2人の男女が大きな座卓を挟んで向かい合っていた。

 

胡座をかく50代程の(岸辺)は金髪のツーブロックで、両耳には黒いピアスを付けている。

左頬の痛々しい縫い目からは、男の凄絶な経歴を垣間見ることが出来た。

長い赤髪に黄色の同心円状の瞳を持つ(マキマ)は、男とは対照的に正座で、折り目正しい様子だ。

 

「適当な日本酒。つまみは要らん」

「かしこまりました。マキマ様は···」

「あ、私はお水を頂きます。下戸なので···」

「かしこまりました」

 

ここは創業以来、数多くの大物をもてなしてきた名店であり、政治的な拠点としての意味すら持つ場所だ。

そのため店員は礼儀正しくも客への過干渉を控えるよう指導されており、注文を聞いてすぐ静かに退出していった。

 

「今回は忙しい中のご指導、ありがとうございました。これからもデンジくんとパワーちゃんを宜しくお願いします」

「俺もうアイツらは嫌になってきちゃったな」

「···?」

「育てた犬が死ぬ度に酒の量が増える。玩具なら壊れても罪悪感は無いと思ってたが···この年になるとボケてきて、玩具にも情が湧く」

「···2人の指導を辞めると?」

「ソレはない。今日の指導で2人は俺に傷を負わせた」

「本当ですか!?」

 

傷を負わせたと言っても『不意討ち上等の2人がかりで、死ぬ思いをして頬に掠り傷を付けた』という程度の戦績でしかない。

だが彼は公安1のベテランにして最高戦力の一角。民間に比べ段違いに優秀な人材が揃う公安内でも、彼に傷を付けられる者は極めて少ないのだ。

 

「ああ。アイツらはまず、モノの考え方からしてデビルハンターに向いてる。だから育てる···いや、そんな事を話したいわけじゃない」

 

「マキマ。くれぐれも【バカなこと】は考えるなよ?」

 

彼は、マキマが弟子(デンジ)へ向けている感情を何となく察している。

事情は知らないが、“恋愛”というたった二文字で纏められるモノではない。

“親愛” “執着” “罪悪感” これら全てが混ざり合い、煮詰まったような···。

彼女がかつて彼に師事していた頃には無かった複雑な“感情”だ。

 

「俺がアイツらを指導するのは本格的に“使える”ようになるまでだ。それ以降はお前が躾けろ」

 

彼は、弟子(デンジ)が女へ向けている感情も知っている···というか本人に言われた。

弟子(デンジ)がマキマを喪わないように···そこまで考えて、俺もボケたな、と男は心の中で自嘲した。

 

「何度も言ってきた事だが、少しは頭のネジを緩めろ。銃野郎を殺したいんならな」

「······はい」

 

今のマキマは、危うい。

これまでに多くの仲間を喪いすぎている。

日々の積み重ね(アルコール中毒)が頭のネジを緩めるように、仲間が死に続ける(デビルハンターの)日常がマキマを蝕んでいる。

 

デンジが生きているうちはいい。それに血を飲めば死んでも生き返るデンジは、そう簡単には死なないだろう。

それでも、力の源である心臓を抉り出されて潰されたら流石に死ぬ。

そして悪魔は、それを平気でやる。

 

もし、デンジが死んだら。

良くて士気はガタ落ち、最悪の場合は暴走して虐殺魔となる可能性すらある。

デンジが死なないように···せめて、自分と同じくらいに強くなるまでは鍛えねばなるまい。

猪口を口に運びながら、定年はまだまだ先だな──と、かつての狂犬は思った。

 

 

◆◆

 

 

岸辺隊長とマキマさんの指揮下、特異4課がヤクザが籠城しているビルへ一斉に突入した。

サメの魔人、暴力の魔人、蜘蛛の悪魔、そして天使の悪魔。

戦力のほとんどが人外なのは癪だが、貢献しているのならば俺も特に言うことはない。

噛まれないように注意しつつ、ゾンビの悪魔を片っ端から斬り伏せていく。

 

「そこのキミ、ハンカチ持ってない?」

 

···天使の悪魔。

小さな身体に白い翼を生やし、頭上には輪を浮かべている。ピンク色の長髪で、顔立ちは中性的。コスプレをした美青年に見えなくもないが、正真正銘、コイツは立派な悪魔だ。

触れるだけで寿命を吸い取ってしまう。

ただし、直接触れなければ能力は発動しない。

だから俺はポケットからハンカチを取り出し、手渡した。

 

「よく僕に近づけるね。触れられたら寿命短くなるのに···」

「布越しだったら大丈夫なんだろ」

 

不意にヤクザが飛び出して発砲してきたが、天使が片翼を広げて弾いた。

銃弾が弾かれて動揺したのだろう、隙だらけのヤクザの眼前まで距離を詰めて、峰打ち。

相手は床に思い切り頭を打ち付けて気絶した。

 

「悪魔。こいつを外に運べ」

「命令された···まあ戦うよりはいいけど···」

 

地下にいるゾンビ共にあたる戦力は十分だろう。

そう判断し、俺は地下通路へ向かった。

そこには爬虫類に似た目を持つ女──襲撃の主犯格と目される女が一人で立っていた。

この女が契約している蛇の悪魔のことは初見じゃない。今度こそは対応してみせる。

 

「大人しく投降──」

「ヘビ、吐き出し

 

女はハンドサインを作り、「吐き出し」という未知の攻撃手段を告げた。

···蛇の悪魔の能力は狐の悪魔と同じく“捕食”だと思っていた、だが床から出てきたのは···幽霊の悪魔だった。

 

「糞ったれ······」

「幽霊、あいつを殺せ」

 

まずは十本、幽霊の腕が迫りくる。

先輩の力を敵が使っているのは業腹だが、そんなことはこの際どうでもいい。

逃げられる前に早くこの女を捕らえないと。

 

剣を振り下ろし、横に薙ぎ、斜めに斬り上げる。

未来の悪魔との契約で、俺の右目は少し先の未来が見える。

···そう、ほんの少しだけだ。

未来が見えると言っても数秒先だけで、その未来に体が反応できるか分からない。

もしくはそれが“絶望の未来”だった時···この能力(ちから)は無力だ。

 

ほんの数秒先に襲い来る、夥しい数の腕を俺は視た。回避を試みるも、拳を水下にぶつけられた。

あまりの衝撃に刀を取り落とし、直後に首を掴まれて持ち上げられた。

 

「アアアアっ······!」

 

顔の高さまでゆっくりと持ち上げられる。

武器もなしに、俺がこの腕から脱出する方法は無い。回らなくなってきた頭で、俺は窒息死するのか喰い殺されるのか、そんなことを考えた。

 

「そのまま絞め殺せ」

 

絞める力が強まった。気管は完全に閉じられ、軟骨が潰れるような音を出す。

恐怖と諦めに呑まれ、俺は意識を手放した。

 

 

✛✛✛✛✛✛✛

 

 

 

「一本あげる」

 

最近までよく通っていた、平凡な中華料理屋。

テーブルには料理がところ狭しと置かれている。

そして俺の対面には···死んだはずの姫野先輩が座っていた。

 

「骨が腐るから吸わない」

「長い付き合いになりそうだから吸ってほしいな〜···」

 

このやり取りは···そうだ。

バディを組んですぐ、初任務を終えた後だ。

 

「一本だけ吸ってやる。一生で吸うタバコはこの一本だけだ」

「やった〜、火つけてあげる」

「未成年に吸わせるなんて最低な先輩だな」

 

でも結局俺は、姫野先輩につられて普段からタバコを吸うことになったんだ。

 

「未成年なの!?」

「そうだけど···」

「じゃあ吸っちゃダメに決まってんじゃん!······はあ〜···。よこせ」

「ん」

「···じゃあこの一本は私が預かっておこ」

 

 

 

「キミが大人になって、何かに寄りかかりたくなったら返してあげる」

 

 

 

姫野先輩、アンタは最低だ。

未成年にタバコを吸わせようとしてくるし、人の部屋にも勝手に上がり込む。

宅飲みした時はゲロ吐くし、その口で俺にキスしてくることもあった。

そのくせ、絶対に“一線”は越えてこない、変な真面目さもあった。

 

 

 

「アキくんは、死なないでね」

 

 

 

アンタは俺にそう言ったのに。

勝手に、死にやがった。

 

 

 

✛✛✛✛✛✛✛

 

 

気が付くと俺は床に転がっていた。

あの中華料理屋の床じゃない、ここは確かにヤクザのビルだ。

幽霊の悪魔に絞め殺されたはずなのに、何故か俺は呼吸をして、物を考えられている。

 

萎えかけた意識に鞭打ち、上体を起こす。

眼前の悪魔は俺に一切の攻撃を仕掛けず、ただ一つの握りこぶしを俺に“差し出している”。

ゆっくりと手が広がり、その掌の上にあったのは···一本のタバコ。

手にとって見ると、ペンで文字が書いてあった。

 

──Easy revenge(気楽に復讐を)!

 

 

···幽霊の悪魔には目が無いから恐怖心を見る。姫野先輩が言っていた事だ。

 

夢だったとしても、もう一度彼女に会えた。

今の俺に恐怖心なんか在るわけも無く。

俺は当たり前のように立ち上がって歩き出し、悪魔の体を登っていく。

胴体を埋め尽くす弔花を踏みつけながら、刀を振り被り···悪魔の首を斬り落とした。

 

姫野先輩······俺はまだ、死ねません。

どうしてもやらなきゃいけないことが、最近になって増えたんです。

 

「ッ···ヘビ!」

 

女は慌てて蛇の悪魔を呼び出そうとするが···もう遅い。

 

「殺すな」

 

音もなく背後に忍び寄っていたコベニが、女の喉にナイフ···ではなく包丁の切っ先を向けた。

 

「コベニ、お前はどうして公安に残ったんだ?」

「···マキマさんが、いるので······」

 

 

◆◆

 

 

女──沢渡アカネをコベニに任せ、ゾンビとヤクザの掃討もあらかた終えて、周辺の残党を探していると、デンジが組長の息子(サムライソード)と話しているのを見つけた。

2人とも上裸だが、まあそれはどうでもいい。

 

「今から大会を開く!」

「···あ?」

「大会···?」

「おあ、いいトコに来たなあ!」

 

···とりあえず、岸辺隊長に連絡するか。

 

「こちら4課早川。時計館前線路内にて、拘束済みの目標を発見。応援を求む」

「早川の先輩も参加するか?最強の大会によ」

「お前は何を言ってんだ?」

「コイツは姫野先輩を弾で撃った。だからコイツも()()を撃たれるべきだろ」

 

「だから大会を開く!お互いにコイツのキンタマを蹴っていって···警察が来るまでに一番デケえ悲鳴を出させた奴の勝ち!」

 

ウソだろお前。

 

「正気かお前」

 

敵討ちの方法が、よりにもよって()()かよ。下らねえ···。ニヤつくデンジを見てると、真面目に仕事してるこっちがバカみたいに思えてきた。

思わずへたり込んで、特大のため息をついた。

 

「ああ?やんねえのか?」

「···俺たちの仕事はコイツを捕まえることだ。いたぶって憂さを晴らす事じゃない。···そんなことしたって、姫野先輩は喜ばない」

「···あ、そう」

 

いや···案外面白がるかもしれないな。

なんなら自分も参加するかもしれない。

あの人はきっとそういう人だった。

 

···胸ポケットにしまっていたタバコを取り出し、【Easy revenge!】の文字を見て、決めた。

後で多少叱られてもいい、俺はもう少し、コイツ(デンジ)みたいに自分勝手に生きようと思った。

 

「なあ···勝ったら何くれんだ?」

「そりゃもちろん、コイツの玉金よ!」

「···面白そうなことしてるね」

「「マキマさん!?」」

 

自分勝手に生きようとか考えた奴誰だよ。

俺だよクソがよ。

 

「別荘も特異5課の皆が鎮圧してくれたって連絡来たから、2人にお疲れ様、って言おうと思ったんだけど」

「······すいません」

「いや?別に咎めようとしたわけじゃないよ。ただ面白そうだなって」

「······マキマさんもやります?」

 

おいデンジ、その提案はさすがに──

 

「やる」

 

──ウソだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

シリアスは死んだ!

決闘(デュエル)開始の宣言をしろ!

 

 

 

 

キン

 

 

キン

 

 

キン

 

 

ヤアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

姫野先輩···天国まで聞こえるか?

俺とデンジとマキマさん···3人で奏でる、アンタへの《鎮魂歌 〜レクイエム〜》だ

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

※自分の死で曇りまくったアキとマキマさんを観ていた天国の姫野先輩は、罪悪感と仄かな喜悦で震えていたよ。

※最強の大会も観ていた天国の姫野先輩は、笑いすぎて腹筋が死んで、もう一回三途の川を渡りかけたよ。

 

 

【オマケ】

マキマ「アキくんはどの悪魔と契約するの?」

アキ「狐と呪い(カース)です」

マキマ「カースは寿命削るやつじゃーん!ダメ!絶対ダメだよ!」

アキ「ええ···じゃあ狐だけにします」

 

 

 

 

 

CHAINSAW BLOOD

 

 

──────────────────────

 

PS もうちっとだけ続くんじゃ。

 

 

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