真実の愛が、魔法を溶かす   作:ニンニク嫌い

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起-従者とアナ

 

 

「私、大きくなったらフローのお嫁さんになりたいな」

 

 

 

 

 私がフローと出会ったのは、まだ三歳になったばかりの頃だ。

 

 突然パパとママが新しくこの城で暮らす家族だと言って連れて来たのは、私より少し年上の、エルサと同じくらいの年頃の少年だった。

 アレンデールでは珍しい黒髪をした彼は、これから私たちの執事になるフローだと自己紹介して来た。

 

 でも当時の私に執事とかそう言う事はわかんなくて、ただ新しい友達が増えたと言う感覚だった。同年代の男の子の存在を最初怖がっていたエルサと違って、私はまだ幼かったのもあるんだろうけど、性別とかどうでもよくて、城の大人の人たちとは違う歳の近い他人がただ嬉しかった。

 

「ねぇねぇフロー、今日はお城の扉よりも大きな雪だるまを作ろう! マシュマロみたいに可愛いけど、でっかくて強そうな雪だるま!」

「そうですね、それなら両手両足を付けてお城の門番も出来るようなのを作りましょう」

「なにそれ素敵! よーし、じゃあエルサも呼んで、三人で超巨大な雪だるまにするの!」

 

 毎日のようにフローを連れ回して、お城の中でも外でも彼と遊んだ。どこに行っても必ずついて来て一緒に遊んでくれる、エルサ以外の友達が嬉しくて、楽しくて。

 エルサがまだフローの事を恥ずかしがっていた時は、ほとんど彼を一人占めにしていた気がする。そしたら、幼い私の中でフローは私の物って言う小さな独占欲が生まれるようになって、でも同じくらいにエルサにもフローを知ってほしいという欲が強くあった。

 

「ほらエルサ、フローなら大丈夫だって! ねぇねぇ、あれ見せて見せて! ぶあーって雪が出るやつ!!」

「ちょ、ちょっとアナ! あれは私たちだけの秘密だって」

「いいじゃないエルサのケチ! フローからも言ってよ!」

「え、いや僕は何のことかわからないんですが……」

 

 そしてなかなか仲良くならないエルサとフローを繋げるために、フローにエルサの内緒の特技を見せて、みんなで秘密を共有して仲良くなろうとも考えた。

 子供ながらにいい考えだったと思うし、エルサは自分の秘密を見せたことでフローにも気を許すようになった。

 

 それからは私とエルサとフローの三人でよく遊ぶようになって、一日のほとんどを共に過ごした。

 

 でもエルサが大きくなって王女様のお勉強をするようになったら、フローは私だけじゃなくてエルサの側にもよく行くようになってしまった。

 

「ねぇ、フロー! あそこに小鳥の巣が出来たの!見に行きましょうよ!」

「ごめん、アナ。これからエルサのレッスンに着いて行かなきゃいけないんだ。巣を見に行くのは、明日でいいかい?」

 

 この頃になると、私も何となくだけど理解して来ていた。フローは私の物じゃなくて、私とエルサの召使いみたいな人なんだって。

 だから私だけが彼を一人占めする事は出来なくて、エルサと分け合わなくちゃいけないって。

 

 でも、それでも私は嫌だった。

 それは子供らしいわがまま。いつも自分と遊んでくれる仲の良い男の子を姉に取られたくないと言う、幼少期によくある感情。

 

 きっとこの時にはすでに、私はフローに恋心を抱いていたんだと思う。小さい頃から同じ空間で共に育ってきた仲の良い男の子。私にとっては、好きにならない理由がなかったし、漠然とだけどずっとフローと私は一緒にいるんだと信じていた。

 

「私、フローのことだーい好き!! 大きくなったら、フローと結婚するの!」

「ありがとうございます、アナ。でも僕はアナの従者なので結婚はできませんよ」

「えー! なにそれ、知らない! 結婚するって言ったら、結婚するんだもん!」

「ははは、それなら大きくなってもまだその気持ちが変わらなかったら陛下にも相談して考えてあげます」

 

 そのうち、仲の良い男女が大人になってもずっと一緒にいる方法としてお母様から教えてもらった結婚と言うのを、よくわかっていないながらにフローとしようと強請っていた。

 そして幼い私は、お父様やお母様、城中のみんなに大きくなったらフローと結婚すると喧伝して回ってた。もちろん、エルサにも。

 

 誰もが微笑ましい者を見る目で私を見ていた。今思えば当然だと思う。結婚が何なのかもよく理解していない女の子の言葉なんて、将来はパパのお嫁さんになりたいと同じぐらいに実現性もない可愛らしい戯言。

 

 だけど確かにあの時の私は、私なりに本気だった。フローと、お父様やお母様みたいな関係になって、子供も出来て、エルサを加えた三人でアレンデール王国を支えて行くんだと未来を信じていた。

 

 

 

 それが崩れたのは、私が階段から落っこちて怪我をした翌日からだった。

 

 

「ねぇフロー、どうしてエルサと会っちゃダメなの?」

「申し訳ありません、アナ。エルサは少し変わった病気に罹ってしまったんです。だから、しばらくは限られた人以外には会うことはできないんです」

 

 唐突にお父様から伝えられたエルサにはしばらく会ってはいけないと言う言葉の意味を聞きに行った私に対して、フローはいつもの優しそうな顔からは信じられないぐらい深刻な表情でそう言ってきた。

 私が彼の気を引くために廊下の絵に落書きした時とも比べられないぐらいに、暗くて重い顔。

 

 訳もわからず呆然と立つしかない私に背を向けて、フローは唯一接触を許されている家臣としてエルサの元へと向かってしまった。

 

 それから私の生活は一変した。

 

「フロー、雪だるま作ろう!」

「すいません、アナ。僕はこれからエルサの元へと向かわなくてはならないんです。雪だるまは、またに」

 

 フローは、以前とは比べ物にならないほどに私と遊んでくれなくなった。いや、ただ遊んでくれなくなったぐらいでは済まなくて、お城で見かける事さえも日に日に少なくなってしまった。

 

「ねぇ、もし私が悪いことしたなら謝るから……また、三人で一緒に遊ばない?」

「アナは何も悪くありませんよ。少し……ええ、ほんの少しだけ今は忙しいだけなんです」

 

 久しぶりに会ったフローに対して、涙ながらにまた遊ぼうと訴えかける。その時のフローは最後に見た時よりもとても疲れていて、目には深い隈が出来ていたのを覚えている。

 だけど彼は、私の顔を見た瞬間に以前のように笑顔を見せて優しく私を抱きしめてくれた。

 

「本当に? 本当に、また遊べるの? 二人は私を嫌いになったわけじゃないの?」

「ええ、そんな事は天と地がひっくり返ってもありえません。僕もエルサも、アナの事を大切に思っています。だからまたすぐに----」

 

 だけど私を抱きしめながら努めて安心させるような声色で言葉を紡いでいたフローの声は、後ろから「おっほん」なんて威厳のある声と共に聞こえてきた執事長の言葉でかき消された。

 

「フロー、エルサ様がお呼びです」

「! は、はい。直ちに向かいます。ごめん、アナ……もう行かないと」

「――――あっ」

 

 懐かしい彼の体温が、私の元から離れていく。手を伸ばす私に対して軽く会釈して去って行った幼馴染の後ろ姿を、私は雨の中捨てられた猫のように見つめ続けるしかなくて。

 

「…………………………エルサ」

 

 思わずこぼれた姉の名前は、私でも信じられないぐらいにドス黒い感情に染まっていた。

 

 

 

 

 それからも時は過ぎて行く。

 エルサとは未だ一度も会えてなくて、家臣が減った事で少なくなった城は、私以外の人の生活感が感じられないぐらい薄暗い。

 

 城勤めの人が減ったから、食堂は閉ざされて久しいし、そうすると厨房にも滅多に火が通る事はなくなって、料理人の数は二人にまで減ってしまった。

 城を守る兵士さんの数は日が登っている時と月が登っている時の交代制なのに、合計でも10人にも満たない。

 召使いなんて、前は五十人近くいたのに今ではフローを入れても7、8人。最近また一人暇を出したと聞いたから、もしかしたらもっと少ないのかもしれない。

 

 扉は一年中閉ざされて、外の人は一人もやって来ない。昔はよく来た劇団も、海の向こうのお菓子を持って来てくれた商人も、あまり好きじゃなかった他所の国の偉そうな大臣も、もう何年も見ていない。

 

 それでも私の心が曇らないのは、時たま出会えるフローのおかげだ。

 

 目を覚ましてからの私の日課は、フローとエルサの部屋を繋ぐ廊下の間でフローが来るのを待つ事。

 日が昇るよりも早く起きて執事としての仕事を始める彼に会うために、今までの生活習慣を変えた私は、早朝と夜にするフローとの会話が唯一の癒しだった。

 

「おはよう、フロー。私ね、今朝はすっごい夢を見たのよ」

「おはようございます、アナ。それはよかったですね。僕はここ数年一度も夢を見れていないので羨ましいです」

 

「お疲れ、フロー。夜遅くまで大変ね、部屋まで荷物持ってあげるわ!」

「い、いえ! 主人に荷物を持たせるわけには……っ、あ、アナ!? それは中に割れ物が入っているので手荒に扱っては……!」

 

 なんて、くだらないけど私にとってもうフロー以外誰もしてくれなくなった日常会話を繰り広げる。時たまわざと彼を困らせるような事をしては、彼との時間を無理矢理引き延ばした。

 

 だって、私にとってフローと喋っている時間がこの退屈な日々の中で唯一生きていると思える時間になってしまったのだから。

 

 だから一日のほとんどの時間を、フローの部屋の前で過ごすことに辛さはなかった。

 月明かりだけが差す寒い深夜の廊下で、エルサの部屋から帰って来るフローを待ち続ける事だけが、フローといる時以外の私の全てだった。

 寒さで震える手を重ね合わせて、膝を抱えて座りながら、今日はどんな話をフローとしようかと考えるのだけが私の無感動な日々の楽しみだった。

 

「雪だるまつくろう……ずっとひとりでいると、壁の絵とおしゃべりしちゃう……」

 

 誰もいない真っ暗闇の廊下の中で、フローが来る事だけを想いながらすっかり口癖になった独り言を口にする。私の世界には、もうフローと遊んでいた時の記憶しか鮮明に思い出せなくなってしまった。

 

 お父様もお母様もエルサにかかりきりになってしまった中で、それでも私に構ってくれるのがフローだけなのだから。

 

「早く一緒に話そう…………雪だるまつくろう…………」

 

 

 

 

 でも、私にそんな唯一の幸福さえも、エルサは奪って行った。

 

 

 

 

「え……?」

「驚くのも無理はない。だが、エルサの病気はそれだけ深刻なんだ。だからフローにはこれからエルサの部屋で一緒に生活してもらうしかないんだ」

 

 ――わかってくれ、アナ。

 なんて、私に向けて胸が張り裂けそうなほど悲痛な表情を浮かべたお父様は、そんな絶望的な決定を告げて来た。

 

 フローがエルサの部屋で一緒に生活する?

 つまり、フローは一日中エルサの部屋から出て来ないと言う事?

 じゃあ、私はもうフローと会えないの?

 

「は、ははは…………」

 

 お父様の言葉に、私はなんて言葉を返したのか覚えていない。ただいつのまにか自分の部屋に帰って来ていて、乾いた笑いを浮かべていた。

 

「あは、あははは……!」

 

 何もかもがおかしくなってしまいそうな感じがした。今までギリギリで耐えて来ていた一線が、引きちぎれてしまう。

 

「アハハハハ……ッ!!」

 

 限界だよ、もう。

 

「……………………………エルサ

 

 ああ……また、エルサなんだ。

 エルサが、私からフローを奪うんだ。

 私のフローを一人占めするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

許さない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナ……か? 久しぶりだな……その、なんだ…………綺麗になった」

「うん、久しぶりフロー」

 

 フローがエルサの部屋で暮らすようになって数年。お父様とお母様が海の向こうの国へと向かうのを見送るために、私はようやく彼と久しぶりに顔を合わせる事ができた。

 

 目を見開いて私を瞳に映す彼の姿に、私は長年の努力が一つの実を結んだと心中で恍惚に浸かりながら、それをおくびにも出さないように昔の私らしい快活な笑みを浮かべて見せる。

 

 フロー、私はもう、何も知らなかった無垢なプリンセスなんかじゃないの。恋をして、愛を知って、そして心が捻じ曲がってしまったの。

 

「ずっっと会えなくて、寂しかったの。フローとまた会える日を、夢にまで見ちゃうぐらい」

「そう……ですか。本当にすいません、アナ。僕はあなたの従者でもあるのに……」

 

 ああ、その顔が見たかったの。

 

 私への罪悪感に染まった表情。私に深い後悔の念を抱いているフローの姿を。だってそれって、それだけ私のことをフローも想い続けてくれたってことでしょ?

 

「うん、私とっても悲しかったんだ。エルサもフローも、お父様たちも私に構ってくれなくなっちゃって……」

 

 わざと彼の罪悪感をさらに刺激するような言葉と声色を心がけて言葉を紡ぐ。

 なんでもないように気丈に振る舞う、お転婆だけど実は心は繊細な彼の知るアナを演じて見せる。

 

 そうするとフローは、分かりやすいほどに顔を痛ましく歪めて。私を今にも壊れてしまいそうなガラス細工を見るように見つめてくる。

 

 もうとっくに壊れているのに、ね。

 

「アナ……安心してください……! 詳しくは言えませんが、陛下たちが戻ってくればこの現状も終わります! そうすれば、以前のように……とは行きませんが、僕とエルサとアナの三人でまた一緒に過ごせるようになります!」

「……! へ、へえ……そ、そうなの?」

 

 必死の形相でフローが伝えて来た言葉に、一瞬私の仮面が剥がれかけてしまいそうになる。フローと一緒に過ごせると言うワードに、私の中の女が顔に出て来てしまいそうになった。

 

 でも、そう。今回の遠い国へのお父様たちの遠征、何か怪しいと思ってたけど、やっぱりエルサ絡みだったんだ。

 

 

 

 また、エルサだけが特別扱いなんだ。

 

 

 

「そっか…………じゃあ、その時でいいから。私のお願い、一つ叶えてくれないかしら?」

「は、はい! 僕ができる範囲であれば、なんでも聞きましょう!」

 

 ああ、でも今ばかりは都合がいいかな。だって、フローに『何でも』を約束させるいい機会になったんですもの。

 彼の私への罪悪感を利用する計画の、最後の一押しになってくれたんだから。

 

「うん……約束ね、フロー。破ったら駄目だよ」

 

 上目遣いで彼を見上げて、念を押すように囁いて。これで、フローはもう私のお願いを断れない。可哀想な私の願いを拒絶できない。

 

「楽しみだね、お父様たちが帰って来るの」

 

 本当に、楽しみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、なのに……なんで、どうして。

 

 どうして運命は、エルサにばっかり味方するの?

 

 

「私たち、ずっと一緒だからね」

「…………はい。永遠に、エルサの側にいます」

 

 

 お父様とお母様の葬儀を終えた夜。キスをする二人の姿を見た時、私の中でドス黒い炎が燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 もうすぐエルサの戴冠式。

 閉ざされた門を開いて、世界中からお越しくださった招待客の前でエルサが女王として即位する。

 

 

 そう、世界中から来た人が見守る前で、エルサからフローを取り戻すの。

 フローを悪い魔女の手から自由にするの。

 

 

「フロー、約束したよね。お願いを叶えてくれるって。忘れてないよね、昔の約束」

 

 

 ああ、楽しみだな。

 

 

「大きくなったら私と結婚…………してくれるんだものね?」

 

 

 エルサは今まで、ずっと美味しい思いをしてきたんだから。私が最後に大勢の前でエルサの大切な物を奪うくらいが、丁度いいでしょ?





主人公
 自分が詰んでいる事に気づいていない。どう足掻いてもヤンデレ姉妹に食われる未来しかない。アレンデール崩壊の危機を止められるかは彼にかかっている。

アナ
 誰も彼もがエルサエルサで自分の事を構ってくれなくなった中で、唯一仲のよかった異性の主人公にどっぷり依存して人生の生き甲斐その物にしてしまった。天真爛漫な原作のアナは影も形もなく、どんな手段を使っても主人公をエルサから奪い取ろうとする魔性の女へと変貌した。

エルサ
 アレンデール王国と他国の人間を巻き込んで愛に狂った永久凍土の女王へと変貌するまであとわずか。

ハンス王子
 次回! そこには二人の二大ヤンデレ地雷原の上でタップダンスを踊るハンス王子の姿が……!!


 これにて序章は終わり、あとはLet it goするだけ。
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