『死んでくださいぃぃぃぃ……!』
「……う、っ……!」
回転鋸といつまでも鍔迫り合いをしているわけにはいかない。
だけど、相手のジェスタを改造したガンプラは、出力も相応に強化されていて、執拗にわたしへ食いついてくる。
リンカさんに対して警戒心が芽生えていたのは、この執着と暴力性に対してなのだろう。
そして、メイドさんたちはなにもスタンドプレーをしているわけじゃない。
わたしがリンカさんとの鍔迫り合いで足を止めている間に、デミ子ちゃんを仕留めたステルス機が、今度はノア先輩を狙ったのがちらりと横目で見えた。
舞い上がる砂塵に隠れてはいるけれど、スラスターの噴射光や足音までを完全に誤魔化すことはできない。
問題は、ノア先輩があのステルス機に、ミスミさんの機体に一対一でどこまで持ち堪えられるかだ。
『リンカ、そのまま抑えてて。わたしがあのインパルスガンダムは制圧する』
『は、はいっ! リンカが二刀流の子をお掃除しちゃいます!』
『……ん!』
その言葉通りに、ステルス──ミラージュコロイドを解除したミスミさんのジェスタが、今度は腰裏のハードポイントに装備していたビームライフルと、複数の機能を統合しているのであろうごつごつとした実弾銃で弾幕を展開する。
「くっ……でも、姿を見せてくれたなら好都合! これで、沈めぇっ!」
ノア先輩は大回りな機動でミスミさんが放った弾幕を回避すると、チャージが終わったツインバスターライフルの片方から照射ビームを放った。
なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。
一目見ただけだけど、ミスミさんが巻いていた迷彩柄のマフラーを彷彿とさせるマントをあのジェスタは装備していた。
わたしの思い違いでなければ、あれは。
『初めてだ、わたしにABCマントとアクティブシールドを使わせた相手は』
「しまった、ABCマント……!?」
『わたしは伊達や酔狂でミリタリーメイドをしてるわけじゃない、全ての行動と攻撃に意味がある……!』
両手の銃を放り捨てると、再びコールドナイフを抜刀して、ミスミさんのジェスタはもう片方、エンツィアンGⅡが右手に持っていたツインバスターライフルの片方を切断した。
強い。
比べること自体がおこがましいとはいえ、この前戦ったモヒカン二人組とは戦術も、連携も雲泥の差だ。
しかも、わたしたちはサリアさんと分断された状態でかつ、まだコバトさんとアヤヒさんの機体を確認できていない。
情報というのは、戦場において最も強い手札になる。
相手がどんなビルドを組んで、どんな戦い方を好んでいて、どういう傾向のファイトスタイルなのか──それを把握できているといないとでは、自分たちが取れる動きや選択肢も変わってくるからだ。
そして恐らく、コバトさんたちは見抜いている。
身内ゆえに、サリアさんの戦い方を。
そして、そこから逆算した戦法を。
この絶望的な状況下で、わたしたちが掴めそうな勝ち筋と、自分たちの負け筋を徹底的に潰すそのやり方は、確かに噂と違わない実力者の戦いそのものだった。
だからといって、それに押し潰されなければいけないという道理はない。
負け筋を潰すのが相手の戦い方、そして勝ち筋を掴むのがわたしたちの戦い方なら。
捨てなければいけない。
踏み越えなければいけない。
恐れを、打算を、理屈を。
──わたしが動くべき理由は、意地と本能だけで十分だ!
『リンカのお掃除を……邪魔しないでくださいぃぃぃ!』
「……『
『なっ……!?』
わたしは回転鋸の攻撃を受け止めるのではなく、
そう、無理に抗うことで刃を消耗するのなら、そのパワーを受け流す形で殺せばいい。
そして、一刀目で受け流して隙ができた両腕の関節を、二刀目で両断する。
『あっ、ああっ……!?』
「『
わたしは、ガラ空きになったジェスタの胴体に、すかさず体勢を立て直して放った刺突をねじ込んだ。
刀身が削れていない「フツノミタマ」の一撃は、違わずコックピットを貫いて、相手を爆散させていた。
まずは、これで一つ。
ひとまず、相手が持っていた数的優位というアドバンテージは失われた。
だけど、味方がやられたことにミスミさんは動揺した様子を全く見せていないし、コバトさんもアヤヒさんも焦って飛び出してくる気配はない。
つまり、まだ相手の戦術は崩れていないということだ。
「ヨツバちゃん、援護頼める!? あたしじゃ、この相手は……!」
「あっ、は、はいっ……!」
ノア先輩はなんとかミスミさんを押さえ込んでいたものの、エンツィアンGⅡは左腕を切り落とされ、頭部も損壊しているという状態だった。
コールドナイフを振るうミスミさんのジェスタをビームサーベルで迎撃しているけど、じりじりと追い込まれている。
ここでミスミさんを落とせれば、数的優位はわたしたちのものになる。でも、それは相手もわかっているはずだ。
それだというのに、コバトさんもアヤヒさんも仕掛けてこない。
恐らくコバトさんは前線でサリアさんの足止めをしていると仮定しても、ここまできてフリーなはずのアヤヒさんが動いていないのが不気味だ。
なにかを仕掛けているに違いない。強烈な緊張感がぞくり、と背筋を撫でる。
「……だと、しても!」
『くるか』
「……『
わたしはノア先輩とミスミさんの間へ割り込ませるように斬撃を飛ばし、鍔迫り合いを強引に解いた。
そして、ブーストを全開。
そのままの勢いで、「フツノミタマ」を振りかぶってミスミさんへと斬りかかる。
『まるで別人だ。戦士の目をしている』
「……っ!」
『だけど、カミナギ・ヨツバ。わたしは仲間の犠牲を無駄にはしない』
恐らく、わたしの反射神経による迎撃をわかった上で、ミスミさんは逆手に持ち替えたコールドナイフを振るってくる。
まんまと左手の「無銘雪走」で迎撃してしまう──わかっていても、止められない癖を見抜いた一撃だ。
そして、回転鋸でボロボロになっていた「無銘雪走」の刀身は、ミスミさんの思惑通りに半ばから断ち切られてしまった。
『そして、わたしの犠牲も無駄にはならない……アヤヒ、今だ。わたしごと撃って』
『了解! こっちもチャージ完了だよ……! 聞かせてあげる、これが私のロックンロール!』
遥か彼方で閃光が瞬く。
賢しさを超えて、本能で動く獣を仕留めるように、待ち続けていた四人目の狩人がその引き金を引いたのだろう。
まずい、このままじゃわたしもノア先輩も。
「……ヨツバ」
「さ、サリアさん!?」
「……コバトを振り切るのに手間取った。時間はない、あーしを信じて」
砂嵐が収まったことで姿が見えたサリアさんのダリルバルデは、真っ直ぐにわたしとノア先輩、そして彼方で瞬く閃光の間に割って入る。
信じるって、なにを。
一瞬、そんな言葉が口をついて飛び出しそうになったけど、中途半端な賢しさだ。
このピンチを乗り切るためには、この状況を切り抜けるためには、そこから一歩先へ踏み出さなければ絶対に勝てない!
そうわかっているなら、わたしのやるべきことはただ一つだ。
飛来する超出力のビームに背を向けて、わたしは一瞬だけ隙を見せていたミスミさんのジェスタに、両手で握った「フツノミタマ」を兜割りの要領で叩きつける。
「『
『っ、まさか……!?』
「コバトがあーしを仕留めきれなかったのが悪い」
ジェスタが爆散する寸前、ミスミさんは悔しげに歯を食いしばり、極大のビームの前に身を晒しているはずのサリアさんが不敵に笑った。
信じろ、というのはそういうことだ。
フルチャージで放たれたメガ粒子の閃光が、サリアさんのダリルバルデを飲み込んでいく。
だけど、それがわたしとノア先輩を穿つことはなかった。
相手の切り札を微動だにせず受け止めて、サリアさんは尚も怯まず立ち続ける。
そして、光が消えたその瞬間も、大楯を構えるダリルバルデは、その盾が溶けかけてこそいたものの、本体には傷一つなく佇んでいた。
「……これがあーしの『ダリルヴェーレン』。落とせなかったのは痛かったね、コバト」
『あーっ、もう! こうなるかもしれなかったからサリアちゃんにガチ恋勢みたいに粘着してたのに!』
前線から戻ってきたのであろうコバトさんが操る、シルヴァ・バレトのバックパックを背負い、脚部をスタークジェガンのものに換装したジェスタが、手にしていたビームマシンガンとインコムを展開して突っ込んでくる。
だけど、戦いの趨勢はもう決していたといってもいい。
カモフラージュ用のABCマントに身を包み、遠くに控えていたアヤヒさんのジェスタもビームサーベルを抜き放ってこっちに最後の突撃を敢行してくるけど。
「……
「そう、それがあーしとダリルヴェーレン」
「……ありがとうございます、サリアさん。あとは、わたしが」
「……信じるよ、ヨツバ」
ランスの薙ぎ払いでコバトさんのジェスタを押し返して、サリアさんのダリルバルデ……改め、ダリルヴェーレンは後退する。
ほとんど刹那の出来事だった。
でも、わずかでも。わずかでも、わたしがフリーになったのなら、それだけで十分だ、
「……『神薙』!」
ぐっと力を込めて腰だめに構えた「フツノミタマ」を全力で振り抜く。
音を超え、光に迫る斬撃が、会心の一撃となって、コバトさんとアヤヒさんのジェスタをまとめて断ち切った。
サリアさんが信じてくれた分は、なんとか頑張れただろうか。
【Battle Ended!】
システムがわたしたちの勝利を告げると同時に、悔しさと祝福が入り混じった歓声が上がる。
まるで、昔のように。
わたしは込み上げてきた懐かしさに力を抜かれて、思わず床にへたり込んでしまった。
◇
「あーもー! 悔しいなぁ!」
「コバトちゃん、ほとんどいいとこなかったもんね……」
「サリアちゃんの手の内は完全に読めてたのになぁ!」
「……負け惜しみ」
「うぅー……その通りです……」
バトルを終えたわたしたちは、店内のボックス席に集まって反省会というか、ささやかなお疲れ様会を開いていた。
やっぱり、コバトさんは最初からサリアさんをマークして動いていたらしい。
グラスに建てられた棒菓子をつまみながら、わたしはほっと一息つく。
「皆さんすごい腕前でしたね! 私とデミトレちゃん、すぐやられちゃって……」
「……へこまない。デミ子のおかげでシズの初動がわかった」
サリアさんがフォローを入れてくれた通り、デミ子ちゃんが率先して体を張らなければ、ミスミさんの凶刃はわたしやノア先輩へ向けられることになっていただろうから。
「……で、デミ子ちゃんは。や、役割を果たしただけですから。それだけで、その、偉い、です……」
「本当ですか? 嬉しいです、カミナギさん!」
「あばばばばばば」
感極まったデミ子ちゃんに抱きつかれたわたしは、脳がキャパオーバーを起こして形状崩壊しそうになる。
陽キャは、陽キャは人との距離感がおかしい。
わたしみたいな陰の者にはあまりにも輝きが強すぎるのだ。
「……カミナギ・ヨツバ」
「あっ、はっはい、なんですか、ミスミさん」
「あのときの決断は見事だった。同学年のよしみでシズと呼ぶことを許す」
ミスミさん……改め、シズちゃんはなにかに納得したかのように腕を組んで、こくこくと首を縦に振った。
「……あっ、シズちゃんも一年生だったんですか」
「うむ。バイトしている」
一年生のうちからバイトを始めるなんて、立派な人だなあ。
そのガーネット色のストレートロングも綺麗だし、あとは眼帯とかミリタリーとメイドが悪魔合体した威圧的な格好さえなんとかなればいいんだけど。
でも、そういう「個性」を受け入れて、受け止めてくれるのがこのお店……「MAID-MAIDEN」なのかもしれなかった。
「……え、えっと、いいのかな?」
「……ノアって変なとこで遠慮するよね」
「別にそんなことないってば! もう……それじゃ、色々あったけどまずはガンプラバトル部最初の勝利にー!」
──乾杯。
音頭をとってくれたノア先輩のグラスにわたしは手持ちのグラスをこつん、とぶつけて、中身のコーラをごくごくと喉を鳴らして飲む。
勝利の美酒、というにはジャンクで甘ったるい味だけど。
今はそれが、心地よかった。
メイン盾降臨
Tips:
【ジェスタKC】
ジェスタにスタークジェガンのバックパックとシルヴァ・バレトのバックパックをミキシングし、脚部をスタークジェガンに置き換えたコバトの愛機。設計思想としては「量産型νガンダムのフルスペックをジェスタで引き出し、次の次元に昇華させる」といったところである。装備はクロスレンジに対応するため、アレックスのビームライフルを改造したビームマシンガンと、脚部に増設したホルスターにジムスナイパーK9から流用したハンドガンを装備している。KCはKobato Customの略。
【ジェスタRS】
シェザール隊B仕様のジェスタをベースに、エクストリームガンダムのビームライフルにビームスマートガンのバレルを装着した装備を持つアヤヒの愛機。他のメイドたちと比較してこれといったカスタマイズはされていないものの、基本に忠実に作り込まれており、スナイプだけではなく近接戦闘も難なくこなせる。ただ、バックパックはスタークジェガンのものに置き換えられているため、見た目としては結果的にシェザール隊A仕様に近いものになっている。RSはRock Starの略。それを意識してか、特製ビームスマートガンはアンプ型の大容量エネルギーパックに接続することで、メガ・バズーカ・ランチャーに匹敵する攻撃を繰り出せる。
【三角・N・志津(ミスミ・ニィニヤ・シズ)/原案:「X2愛好家」様】
MAID-MAIDENのバイト。サリアと同じくドミニオン学園在学中であり、所属は第三生徒会ゲヘナの高等部一年生。
他の所属メイド達に負けず劣らずのクセ強メイドであり、メイド服の上に迷彩柄のマフラーを重ね、ホワイトブリムも迷彩柄でホワイトではなくなっている。膝上までを加工した鉄板で防御し、靴は軍用ブーツ。グローブも嵌めており、どこの戦場に出向く気だと言われる姿をしている。
左目に眼帯を着けているが、怪我をしているのかファッションなのかは不明。
髪は美しいガーネット色のストレートロング。染めたのではなく地毛である。
ミドルネームがある事や髪色からハーフかクォーターと思われるが、表情筋が死んでいるのではというレベルの無表情と、あまりにも少ない口数が祟って真相を知る者が居ない。
冷徹という訳ではなく、可愛らしい動物、特にモフモフした種類を好んでいたり、友好的に接してくれる者が困っている時は誰に言われずとも駆け付け手を差し伸べたりと内面はとても優しく仲間思い。
特に仲の良い生徒の一人にハバラ・アイネが居り、アイネ伝いに知り合ったヒナモリ・ソラからは「間違いなくゲヘナの中で一番まとも」と言われるほど。
MAID-MAIDENの面々やアイネなどの「好きなひとたち」には、お気に入りの証である「一番デカール」を渡す……というか目立つ所に貼り付けるという彼女なりの親愛表現を取る。メイド達以外ではアイネしか受け取っておらず、コバトからは「シズちゃんのVIP様」という認識をされている。
ガンプラバトルの腕前はもちろんの事、そのミリタリースタイル(?)に違わず(何故か)リアルファイトも滅法強い。
「……ん」
「ミスミ・ニィニヤ・シズ、シズと呼ぶ事を許す」
「お帰りなさい。……ませ」
「アイネは一番のお気に入り。味のある目をしている」
「モフモフはいい……死ぬ時はモフモフに埋もれるか、好きなひとたちに見守られながら死にたい。なんでそんな顔、する?わたしは死なないから安心していい」
「わたしがシフトに入ってる時は店の護衛も兼ねてる。警察が来るまでに制圧するから任せて。……?時間稼ぎ?違う、制圧」
【ジェスタCZ】
シズの愛機。
迷彩柄のABCマントを装備したロービジカラーのジェスタ。
ABCマントに加えてミラージュコロイドの発動が可能。姿を消し、レーダーにも映らなくなるステルス機能以外はジェスタそのまま。
武装は原型機から流用されているビームライフルとフレキシブルシールド、複数の実弾銃を組み合わせたアンチマテリアルレールライフル、右サイドスカートのハンドグレネード、左側のグレネードをオミットして装備するコールドダガー。
状況によってはキャノン装備やEWACユニットも用意される。
総じて「シンプルゆえにパイロットの腕前がストレートに出る射撃機」といった所。シズの実力が高い事の裏付けにもなっている。
【一番デカール】
スクエア型の枠にデカデカと「1」が描かれたシンプルかつ主張の強いデカール。
特にこれといった追加機能やバフ効果は無いが、これを着けている者や機体はシズの「お気に入り」であるという証明になる。
【クヌギ•リンカ/リンカ/原案:「青いカンテラ」様】
新台場ギガフロートにあるメイドカフェ“MAID-MAIDEN”で働くメイドの一人。気弱で自信なさげな言動とは裏腹に、耳にはゴツいピアスを開けており髪も濃いめの紫に染めている。常に猫背なのでわかりにくいが、背は高い方。なので、背を伸ばすと意外に大きいと驚かれることも。
ドミニオン学園の卒業生で、第一生徒会「ミレニアム」に所属していた。ガンプラバトルの腕は他の二人には劣っていると常々口にしているものの、学園在籍時に試作した、メイスを柄にしてギャンシュトロームの自航防盾2枚を組み合わせた特製の回転ビームチェーンソーで、相手のガンプラをガリガリ削りながらパーツをバラバラにするバトルスタイルはエゲつないの一言に尽きる。
「い、いらっしゃいましぇ•••!あぅ、か、噛んでしまいました•••リンカはダメなメイドです•••」
「お掃除、しちゃいますね•••」
「バラバラになってくださいぃぃぃ!」
【ジェスタEX】
濃い紫に塗装されたジェスタのカスタムビルド機。名前のEXはエクスターミネーションの頭文字。
リンカが使用するガンプラで、バックパックはウィザードシステムに対応できるよう改造されており、戦場に応じてボレロAとボレロSのどちらかを装備する。両腕にはドラウプニル4連装ビームガンを備え、接近戦向けに調整されている。
メイン武装はリンカがドミニオン学園の生徒だった頃に試作した、回転ビームチェーンソー。これはギャンシュトロームの自航防盾2枚にメイスとしても使える長柄を組み合わせた特製の近接武装で、展開したビーム刃を高速回転させ相手のガンプラに連続でダメージを与える。