「よし勝ったぁ! これで第一生徒会長に会わせてくれるんだよね、ユウコ!」
「……ぐぬぬ、そういう取り決めだもの。今会長にコンタクトを──」
「その必要はないよ」
ユウコ先輩が生徒手帳で生徒会長さんを呼び出そうとした直後に、その透き通るような声が凛とバトルシミュレータ室に響く。
声のした方へ振り返ると、車椅子に腰掛けた黒髪の女子生徒が、エレベーターからすっと出てくる姿があった。
恐らく、というより十中八九この人が第一生徒会「ミレニアム」の生徒会長なのだろう。
全自動化された車椅子に腰掛けて楚々と微笑む姿は花のように綺麗だったけど、瞳の奥に隠された闘志は、まるで研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
「会長! 会長がわざわざ出向く必要なんて」
「そう怒らないでくれたまえよ、ユウコくん。ぼくも暇だったのでね、このヨイミヤ・ミカゲが自ら出てきたというわけだよ」
どうやらミカゲというらしい第一生徒会長は、大仰な仕草で自分の胸に手を当てると、滔々と語り出した。
「ぼく抜きのバトルだったとはいえ、きみたちも少し手ぬるかったのではないかな?」
「うっ……」
「そこに関しては仕方あるまい。だが、我が生徒会の実力者を倒したダークホースが現れたとなれば、一介のファイターとしては興味も湧こうというもの」
車椅子のレバーを操作してわたしたちに近づきながら、ミカゲ会長は不敵な笑みを浮かべる。
まさかこのあと、ミカゲ会長とも剣を交えなければならないのだろうか。
改めて近くで見ると確信できる。この人は恐ろしく強い存在だと、本能が訴えかけてくるからだ。
「特にきみ──カミナギ・ヨツバくんだったかな」
「えっ、あっ、はい。わ、わたしはいかにもカミナギ・ヨツバですが」
「素晴らしい剣の冴えだった……と言いたいところだが、残念なことにその言葉はまだお預けだ」
ミカゲ会長は本当に残念そうな顔をして、溜息をつく。
まさか、この人は知っているのだろうか。
わたしの剣が未だに不完全であることを、そして、アサムラ先生とサクラノ先生から「覚醒」の兆しを止められているということを。
「……な、なななななんの話ですか……? わ、わたしはあれが精一杯で」
「嘘はよくないよ、ヨツバくん。しかしぼくも個人の事情を公の場で掘り返して語る趣味もない。ただし、もし本当にきみがガンプラバトル部の成立を目指しているのなら、それは大きな足枷になる。それだけは言い含めておくよ」
ミカゲ会長は表情一つ変えることなくわたしにそう告げて、ノア先輩へと向き直った。
本気でガンプラバトル部の成立を目指しているなら、今のわたしが足枷になる。
それは薄々と勘づいていたことではあった。
ノア先輩とミカゲ会長のやり取りすらどこか遠く、他人事のように聞こえてくるほど心臓の鼓動がうるさい。
多分、ミカゲ会長は全部知っている。
わたしの過去も経緯もそして今も。それを知った上で、釘を刺してきたのだ。
でも、その言葉を飲み込んでしまったら、素直に受け入れてしまったら、わたしは、アサムラ先生とサクラノ先生との約束を破ってしまうことになる。
それに、向き合わなきゃいけなくなる。
わたしがずっと心の奥底に沈めて、鍵をかけて鎖で縛りつけた想いと。
「──じゃあ、部室はくれるって認識でいいんですよね?」
「ぼく個人としてはきみたちの活動に反対しているわけではないからね。部活動として、最低限の要件を満たしていて申請されればそれを拒む理由もない」
「やった! ありがとうございます、会長!」
「うむ。ただし今のきみたちの扱いは『同好会』だ。正式に部活動として学園から認可されるためには、第二生徒会と第三生徒会からも承認が必要となるけどね」
そんなことを考えているうちに、とりあえずは「同好会」という形で部室をもらえることは確定したようだった。
これでしばらく「MAID-MAIDEN」のボックス席を占有しなくて済む。
コバトさんやシズちゃんに会えなくなるのは少し寂しいな、と思ったけど、お店なんだから通いたいときに通えばいい話だ。
「やったー! まだ同好会扱いだけど、念願の部室だよ部室!」
どうやらミカゲ会長が生徒会長権限で使用していない部屋をガンプラバトル部の部室として登録したらしく、ノア先輩の端末にはそのデータが表示されていた。
室内の写真データもいくつか登録されていて、なんだか物件探しのサイトみたいだな、なんてことを思ってしまう。
でも、見た感じ悪くはなさそうだった。
「……意外と広いね」
「デミトレちゃんがいっぱい飾れそうです!」
「いやいや、ここに机とか椅子とかバトルシミュレータとかも運んでこないといけないからそんなにデミトレで埋め尽くそうとしないでフミカちゃん」
ノア先輩たちが口々に部室の所感を語っている中でわたしは、ただぼんやりとその様子を見ていることしかできなかった。
本気で夢を追いかけるのなら、それ相応の痛みを伴うし、その覚悟も必要になってくる。
例えそれが、向き合いたくない、もう燃え尽きた灰に手を突っ込むようなことだとしても。
「……ヨツバ」
「あっはいすみませんサリアさん!?」
「……別に、誰かがなにかを言ったからって自分の意見を曲げる必要はない」
「……サリア、さん?」
「……どうするかを決めるのは自分。人の話を無視しろとは言わないけど、最後に決定権を持っているのは自分だから」
それだけは、忘れないで。
サリアさんはそう言い残して、くるりと踵を返す。
わたしがミカゲ会長に言われたことを、気遣ってくれたのかな。
だとしたら、サリアさんはやっぱり優しい人だ。
それはサリアさんだけじゃなく、ノア先輩もデミ子ちゃんもアサムラ先生も、皆優しくていい人だから。
だから、わたしは──わたし自身の選択として、決断として、もっと強くなって皆に報いることができるだけの道を選ばなきゃいけないんだ、きっと。
それが二度と触れたくないような、過去にまた戻るようなことだとしても。
それが自分の心と体を蝕むような、いつまでも苦しみ続けるような選択だったとしても。
夢を追いかけるというのは、そういうことだから。だからノア先輩がそうしているように、わたしも覚悟を決めなきゃ、いけないんだ。
試される覚悟
Tips:
【ヨイミヤ・ミカゲ】
私立聖ドミニオン学園の第一生徒会「ミレニアム」の生徒会長。多数という言葉で括ることすら馬鹿馬鹿しいレベルの生徒数を誇る学園において学年主席の座を不動のものとしている美少女であり、夜を織ったような美しい黒髪と月のように朧な灰色の瞳を持つ。学内において「ミカゲに答えられないことはない」と言わしめるレベルの天才美少女。そのため機械類の扱いにも長けており、噂ではGBBBBの開発にも一枚噛んでいるとか。しかし、中学二年生の折に「鉄道」に絡む事故に遭って両脚を切断、以来下半身不随となっている。
【ターンエーガンダム・グランシャリオ】
ターンエーガンダムシンをベースに、ネプテイトウェポンを装備したミカゲの愛機。最大の特徴は武装を持ち合わせていないことであり、これらは全て、本機が「ナノ粒子の操作」「サイコフィールドの形成」「ナノマシンの散布」に特化しているためである。紛れもなく学園屈指で「最強」の座に近い位置にいるのだが、普段は本機を封印している。