「そう、ガンプラバトル部! 今部員募集中で、ヨツバちゃんがよければだけど入っていかない!?」
「あっあっあっあっ」
両肩をがっしりと掴んだ先輩の圧に押されながら、わたしはがくがくと首振り人形のように首を振っていた。
ガンプラバトル部。
その単語から連想する通り、ガンプラバトルをするための部活なんだろうけど、こんなに生徒がいる学園なのに、部員募集中っていうことがあるんだろうか。
パンフレット曰く、この私立聖ドミニオン学園はガンプラバトルのスペシャリストを養成するために建てられたらしい。
そんな学園に、ガンプラバトル部が存在することは必然だろう。
でも、普通だったら満員御礼になっているのが相場なはずなのに、わざわざノア先輩が手書きのチラシまで作って勧誘に勤しんでいるくらい人手不足なのには、なにか理由があるはずだ。
「あっあの、わざわざわたしなんか誘わなくても他にいくらでも部員候補はいるんじゃ……」
「残念だけどいないんだよ、ヨツバちゃん……だからお願い! 入ってくれないかなあ!?」
「あっ、だってその……この学園は、ガンプラバトルが盛んだって聞いてますし……」
わたしがそう口にすると、ノア先輩は気まずそうに視線を逸らしてしまう。
よほどなにか込み入った事情があるのだろうか。
だって、入学式で体育館に移動するまでにわたしはガンプラバトルシミュレータと、それを中継するモニターをいくつか目にしているのに。
「……えっと、それを説明するには事情があるし結構長くなるんだけど、聞いてく?」
「あっ長くなるなら大丈夫です……」
「結構いい性格してるねヨツバちゃん」
かといって、長話を聞きたい気分じゃないのも確かなことだった。
正直なところ、ノア先輩には申し訳ないけどわたしは早く生徒会の所属届があるならそれを出して帰りたかった。
なぜなら人の多いところが、とにかく苦手で仕方ないから。
多数の視線に晒されているというだけで胃が痛くなってくるのに、ガンプラバトルシミュレータからモニターで校内全体に試合が中継されると思うと、今からわたしの胃袋は、もうきりきりと悲鳴を上げ始めそうだ。
「あっあの、わたし……とにかく人の視線が苦手で仕方なくて……ガンプラも、その。ちゃんとできてるかわからなくて」
「全然大丈夫! もしヨツバちゃんが初心者さんだったらあたしが手取り足取り教えてあげるから!」
「あっあっあっ」
眩しい笑顔を見せるノア先輩の圧倒的な陽のオーラに当てられて、わたしはもう蒸発寸前になっていた。
なんだかそこまで優しくされると本当に断りづらいというかなんというか。
……非常に、気まずい。
「……わ、わかりました……わたし、ガンプラバトル部に」
「その必要はないわ!」
ノア先輩のキラキラした瞳と情熱に押されて、ガンプラバトル部に入部しようとした、そのときだった。
空き教室の扉が開け放たれて、ぴしゃりとわたしの返事を遮る声が響く。
声の方向へ振り返ると、そこには二人ほどの生徒を引き連れた、赤毛をショートカットにまとめた女子生徒が自信ありげに佇んでいた。
「……リューナ!」
「全く、空き教室から声がすると思ったら貴女、いたいけな編入生を丸め込んでまで部活を立ち上げようだなんて、落ちるところまで落ちたって感じね」
「えっあっ、あの」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私はリューナ。サザキ・リューナよ。高等部二年で所属は第二生徒会『トリニティ』」
リューナと名乗ったその先輩は、呆然としていたわたしの手から入部希望者募集のチラシを手に取ると、はっ、と吐き捨てるように笑う。
「こんなお粗末なビラ配ったところで、貴女の思想にわざわざ賛同してくれる生徒なんてここにはいないわよ」
「そんなの、やってみなきゃわからないでしょ!?」
「やる前からわかってるって言ってんのよ。少なくとも第二生徒会と第三生徒会で過半数以上の生徒が不支持を表明してるっていうのに、部活が立ち上げられるわけないじゃない」
「……それは、皆を認めさせれば」
ノア先輩はリューナ先輩からぶつけられる正論に、悔しさの滲んだ表情を浮かべて固めた拳を振るわせる。
少なくとも、現時点で過半数以上の生徒が不支持を表明していて、わたしみたいななにも知らない編入生くらいしか入ってくれる望みがないガンプラバトル部は、生まれる前に詰んでいるとしかいいようがない。
なのに、どうしてノア先輩はそれにこだわっているんだろう。
「ガンプラバトル部はあたしの夢なの! あたしは……あたしは、お姉ちゃんの……!」
「負け犬が負け犬の夢なんか継いだところで恥の上塗りをするだけよ、お馬鹿さん」
そう言ってリューナ先輩がノア先輩が頑張って作ったのであろうチラシを破り捨てたそのとき、わたしの心は決まった。
心はリューナ先輩に傾きかけていたけど、今の行為で、天秤は一気に傾きを変える。
夢。きっと、ノア先輩にとって、ガンプラバトル部を作ることは、他の学校じゃなく、この学園で立ち上げることは、他の何物にも代えがたいものなのに。
「……だ、だだだだダメです……っ!」
「痛ったぁ!?」
気づけばわたしは、リューナ先輩のお尻にすぱーん、と張り手を打ちつけていた。
「なにすんのよ編入生! 私は貴女のことを思って……!」
「ひ、人の……人のゆ、ゆゆゆ夢を、笑っちゃ、ダメです……っ! おじいちゃんが、言ってました……っ!」
それが夢と呼ぶべきもので、大事にしていることならば、笑っちゃいけない。
おじいちゃんが、生きてる間にわたしに教えてくれたこと。
だから、わたしはノア先輩の味方に回ることに決めたのだ。
「の、ノア先輩……わたし、ガンプラバトル部に、入ります」
「ヨツバ、ちゃん……」
「だ、ダメダメですけど、な、なんにもできないかもですけど……」
わたしはぼそぼそと、自分で決意しておきながら歯切れの悪い言葉を紡いでいた。
コミュ障が多少怒ったところで治るわけじゃないとはいえ、我ながら情けない。
ただ、それが癇に障ったのか、リューナ先輩は額に青筋を立てて、生徒手帳も兼ねているスマートフォンをわたしたちに突きつけてくる。
「いい感じになってんじゃないわよ! とにかく、ガンプラバトル部の創設なんて私は認めない! 文句があるなら……ドミニオン学園らしく、ガンプラバトルで決めなさい!」
最寄りのバトルシミュレータの使用申請と対戦相手への決闘申し込みが同時に、ホログラフィックで空間に投影される。
そして、わたしとノア先輩の生徒手帳にも、ガンプラバトルの申請が届いていた。
「行こう、ヨツバちゃん」
「……あっ、えっ、えっと」
「大丈夫。なにもできなくても……あたしがヨツバちゃんを守るから!」
ノア先輩はそう言って、ガンプラバトルの申請を承認する。
……どうしよう。
ノリと勢いで言っちゃったけど。
──わたしは、ガンプラバトルが全然ダメなことを、完全に忘れていた。
夢を笑うな、蔑むな