ガンダムブレイカー4 クローバーガールズ   作:守次 奏

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寒暖差にやられそうなので初投稿です。


第十九話「あなたの夢、わたしの夢」

 今日は色々なことがありすぎた。

 部室を獲得して寮に帰る傍らで、わたしは小さく溜息をつく。

 でも、ノア先輩の夢には着実に近づいている。

 

 その証拠に、ノア先輩はすっかり浮かれた様子で満面の笑みを浮かべていた。

 

「やー……嬉しいなぁ。あたし、ガンプラバトル部の再興って内心、絶対無理だと思ってたんだ」

「……だろうね」

 

 サリアさんが相槌を打った通り、ガンプラバトル部を作るというのがそれぐらい難しい話だったのは最近聞いた事情からなんとなく察せられる。

 第一生徒会の人たちが一緒くたにわたしたちの活動に反対している訳じゃなかったし、ミカゲ会長が同意してくれたのは大きい。

 でも、これから立ち向かわなきゃいけないのはわたしたちの活動に明確に反対している人たちだ。そのときわたしたちは、どう立ち向かえばいいのだろう。

 

「これもヨツバちゃんのおかげだね! まさに幸運を運んでくる四つ葉のクローバーだよ!」

「えっあっえっ、わ、わたしはそんなに大層なものでは」

 

 一人で未来を憂えていると、駆け寄ってきたノア先輩がわたしの手をとって言った。

 ヨツバ。四つ葉のクローバー。

 誰かにとって幸運を運んでくる存在であってほしい──その言葉は、奇しくもわたしの名前に込められた祈りと重なっていた。

 

「だって、ヨツバちゃんが入部してくれなきゃ、なにも始まらなかったもん。だからあたしは感謝してる。ヨツバちゃんと出会えたことに」

「あっえっ……あっ……」

 

 いつ以来だろう。

 そんな風に、人から自分の存在を肯定してくれるような言葉をかけてもらったのは。

 おじいちゃんとおばあちゃんがこの世を去ってから、わたしはずっと人波の中で溺れ続けて、誰でもいいから助けてほしいと祈り続けていただけの存在だ。

 

 助けてほしいと口にも出せない。

 だって、口に出したら傷つけられるから。

 離れてほしくないと、ずっとわたしの傍らにいてほしいと言葉にできない。

 

 だって、言葉にしたってそんな願いは叶わないんだとわかっているから。

 だから、こうして。

 ノア先輩から差し伸べられた手が、わたしの掌を包み込む柔らかさとあたたかさが、こんなにも胸を突き刺すほどに痛くて、嬉しくて。

 

「……の、ノア……せ、先輩……いいんですか……わたしなんて……」

「あたしはヨツバちゃんが好き。皆のために頑張ってくれるヨツバちゃんが……って、なんか、告白みたいになっちゃったね」

 

 えへへ、と笑ってノア先輩は頬を紅く染める。

 わたしはただ、そのあたたかさと柔らかさが心を刺してくる優しい痛みに、涙をこぼし続けていた。

 わたしは、燃え尽きた灰だ。なにも残ってないから、なにも持っていないから、ノア先輩の夢が眩しくて、それを応援しようとしていただけだ。

 

「……ぐすっ、ひぐっ、う、うぅっ……」

「ヨツバちゃん、大丈夫!?」

「……だ、大丈夫……です。人から優しい言葉をかけてもらったのが、ひ、久しぶりすぎただけで……ただ、嬉しくて……っ」

 

 それなのに、ノア先輩はこんなわたしのことをちゃんと仲間として、好きだと言ってくれた。

 だったら、わたしにできることは、わたしがやらなきゃいけないことは、ただ一つだろう。

 ちらりとアサムラ先生の方を見ると、「あたしは見てないよ」とばかりに沈んでいく夕陽を眺めていた。

 

「……わ、わたし。もっと、頑張りますね」

 

 例えこの身が燃えて尽きるとしても、必ずガンプラバトル部を再興に導いてみせる。

 そのためなら、わたしは──わたし自身が目を背け続けていたこととも向き合おう。

 結果がどうなるかはわからない。最悪の方向に転んでいくかもしれない。

 

「ヨツバちゃん?」

「……わ、わたしは……もう、負けません。失敗、しません。だから……」

「……うん。信じてるよ、ヨツバちゃんのこと。だからこれからも見せてよ、ヨツバちゃんがあたしたちにとっての四つ葉のクローバーだってこと!」

 

 眩しい、眩しすぎる笑顔だった。

 その輝きに当てられてわたしは溶けてしまいそうだった。

 だけど、例え肉が溶けても、骨だけになったとしても、この右手には掴んでみたいと、そう思った。

 

 ノア先輩が見ている景色と同じ景色を。

 ノア先輩が描いているのと同じ夢を。

 わたしの中に本当の意味で芽生えた、夢を。

 

「……ヨツバ」

「あっ、サリアさん……?」

「……あーしはヨツバが頑張ってないと思ってない」

 

 ぼろぼろとこぼれる大粒の涙をハンカチで拭っていると、サリアさんがぶっきらぼうにそれだけ告げて、踵を返した。

 

「サリアさん……」

「私もおんなじです、カミナギさん」

「……デミ子、ちゃん」

「ミカゲ会長がなにを言いたかったのかはわからないですけど、カミナギさんは今のカミナギさんのままでいいと思いますよ」

 

 デミ子ちゃんはにこっと人好きのする笑みを浮かべながらわたしへ、諭すように告げる。

 今のわたしのままでいい。

 燃え尽きた灰のままで、本当にいいんだろうかと疑いたくなってしまう。でも。

 

「生きてる限り負けじゃない」

「……アサムラ先生」

「あたしの好きなガンダムの名台詞。だからさ、思いっきり悩んで、思いっきり走って、思いっきり泣いて……それでも最後に笑ってたら、勝ちだよ」

 

 じゃあね、と小さく手を振りながら、アサムラ先生は職員用の駐車場へと姿を消していく。

 生きてる限り負けじゃない、か。

 確か、カナード・パルスの台詞だったと思う。その通り最後まで諦めずに戦って、正しい道を歩めるように導かれた人の、言葉。

 

「……あっあの、ノア……先輩」

「どしたの、ヨツバちゃん」

「……え、ええええっと……の、ノアちゃん、って呼んでも……いい、ですか……?」

 

 今歩いている道が正しいかどうかなんて誰にもわからない。

 だから、この道を歩んだ果てに、同じ夢があることを信じたい。

 その意味を込めてわたしは、今振り絞れるだけの勇気を振り絞ってそう問いかける。

 

「もちろん! 改めてよろしくね、ヨツバちゃん!」

「……あっ、はい。えへ……の、ノア、ちゃん……」

 

 自分から提案しておいてなんだけど、結構恥ずかしいなぁ。

 胸の奥をくすぐられたみたいにむずむずする。

 でも、わたしはちゃんと言った。言うことができた。

 

 そして、ノアちゃんはそれに答えてくれた。

 今は、それが全てだった。

 夕暮れに染まっていく空を見上げて、わたしは星に願いをかける。

 

 皆にとっての、四つ葉のクローバー。

 皆を夢に導けるような、存在に、なれますように。

 それが今、わたしの中で芽生えた夢の名前であり、願いの名前だった。




やっと見つけたわたしの願い
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