翌日。いろんなことがあったけど、わたしの学生生活は当たり前だけど、そんなに変わらなかった。
強いていうならちょっとだけ視線を向けられる回数が増えたような気がするけど、元々クラスで目立たないわたしと積極的に関わろうなんて物好きはいない。
でも、それでいいんだ。わたしなんて最初から変な方向で注目を浴びてしまっただけで、目立たないのが正常なのだから。
同じクラスに友達がいなくたって、寮に帰ればデミ子ちゃんとお話ができるし、それにガンプラバトル部の皆もいる。
そう考えればわたしは恵まれている方なんだ。
ぼっちだけどぼっちじゃないという安心感を抱きながら、お弁当を食べようと思ったお昼休み。
青空から雷が降ってくるように、その校内放送がわたしの耳に飛び込んでくる。
『一年A組、カミナギ・ヨツバさん。繰り返します、一年A組、カミナギ・ヨツバさん。至急第二生徒会談話室までお越しください』
教室中の視線がわたしに集まってくるのを感じながら、びくりと背筋を振るわせる。
第二生徒会からの呼び出し。まさか、ガンプラバトル部が同好会として第一生徒会に認可をもらったことで早速因縁をつけられたのだろうか。
第二生徒会っていうことは政財界の御曹司や御令嬢が集まっている場所で、わたしをピンポイントで呼び出してきたということはきっと狩りやすい相手から狩って東京湾に……!
「あばばばばばばばば……」
思わず形状崩壊しかけてしまったけど、呼ばれたからには行くしかない。
例え行かなかったらサイレントで東京湾に沈められて、行ったら直接東京湾に沈められるぐらいの違いであったとしても。
陰キャには拒否権というものが存在していないのだ。そういう生き物なのだ。
海の藻屑になるのなら、せめてお弁当を食べてからの方がよかったなぁ、と涙を流しながら後悔しつつ、わたしは第二生徒会室へと急ぐのだった。
◇
「第二生徒会室は七階建てなんだ……」
ビルの案内板に書かれている情報によれば、この前立ち寄った第一生徒会室と違って、第二生徒会室には三階に「談話室」なる部屋が設けられているらしい。
他にも第一生徒会室のいかにもオフィスビル然とした内装と違って、第二生徒会室はまるで高級ホテルみたいにシックな装いをしている。
一階のエントランスホールにもそこはかとなくお優雅な雰囲気が漂っていて、わたしのような田舎娘がここにいていいのかと不安になってしまいそうだった。
でも、呼び出してきたのは向こうなんだから行くしかない。
エスカレーターに乗って三階まで上る。
途中ですれ違った人たちにゴミを見るような目で見られた気がするのは多分気のせいだと思いたい。
おしゃれに気を遣ってる方ではないけど、ちゃんと毎日お風呂に入ってるし、髪の毛だって傷まないようにしてるのに。
などとちょっぴりショックを受けながら、たどり着いた三階の談話室前。
そこには生徒手帳をかざして開けるタイプのロックが施されていて、おそるおそる生徒手帳を読み込ませると、ゆっくりと両開きの扉が開いていく。
「わ、わぁ……本格的……」
本当に高級ホテルかお金持ちのお家にあるラウンジみたいな装いをしている談話室にはいくつかの机と椅子が並べられていて、そのどれもが気品を感じさせる年季が入ったものだ。
「……入っていいよ」
気後れして入り口で止まっていたわたしに、ぼそりと囁きかける声があった。
「……あっ、は、はい、お邪魔します……」
声の主はソファに三角座りをして、このシックで格調高い部屋には似つかわしくない炭酸飲料のペットボトルを抱えていた。
六百ミリリットルサイズのコーラだ。
確か、学内にあるコンビニこと「アークエンジェル24」で売っていたと記憶している。
「あっあの」
「……」
ぐびぐびと炭酸飲料を飲んでいる、枝毛が目立つ銀髪をツインテールに括ったその子に声をかけてみたのはいいけど、答えてくれる気配はなかった。
一体わたしはどうしてここに呼び出されてしまったのだろう。まさかこの中等部の子が炭酸飲料を消費する様子を観察するためだろうか。
わからない。お金持ちのお家に生まれた人の考えがわたしにはとても理解できない。
そんな具合に大体二、三分フリーズしていると、オートロックで閉じられた談話室の扉が再び開く気配があった。
「わー! あなたがカミナギ・ヨツバさんですか? 一度会ってみたかったってミナミちゃんが言ってたんです! お弁当食べますか? ノゾミン弁当はまだ在庫がありますよ!」
「リカ、車椅子の調子はどうです?」
「大丈夫ですよ、ミナミちゃん。ここまで運んでくれてありがとうございます」
女三人集まればなんとやらとはいったものだけど、突然駆け寄ってきた女の子がお弁当を渡してきたり、車椅子に乗っている片脚のない女の子と、その後ろに立っているアイボリー調の白に髪の毛を染めたポニーテールの女の子が突然やってきたことで、わたしは完全にキャパオーバーを起こしていた。
「あっ、あばばばばばば……」
「わー!? なんか輪郭が溶け始めてますけど大丈夫ですかカミナギさん!?」
「……人と話しすぎて疲れたのかもしれない」
「ぼっちにはあるあるです、気にしないでもいいですよノゾミ」
「人のことをぼっち呼ばわりしちゃいけませんよ、ミナミちゃん」
「うぅ、拳骨は勘弁です、リカ……」
なんかぼっちなことも看破されてるし、一体なにがなにやら、と混乱を極めていたわたしに、リカと呼ばれていた女の子に拳骨を落とされていたミナミと呼ばれていた女の子が歩み寄ってくる。
「カミナギ・ヨツバで合ってるですか」
「えっあっはい、わたしはカミナギ・ヨツバですが……」
他に同姓同名の生徒がいたという話も聞いたことはない。
そして、ミナミさんはわたしのことを完全に知っている体で話しかけてくるけど、わたしの方は全くもってミナミさんのことを知らなかった。
わたしを呼び出した主はこの子みたいだけど、一体なんの理由があって。
「……気炎のサムライガール」
「……っ!? あ、あぁああぁああ……い、イイイイイキってすみません……!」
その二つ名を出された瞬間にわたしは、反射的に土下座していた。
全ては過去の過ちというか若気の至りというか、その名前で呼ばれるのだけは勘弁してほしかったというか……!
つい土下座していたけど、床に頭を擦り付けてる最中に、わたしは一つの違和感に気づいてしまう。
もしかしてこの子は、ミナミさんは、わたしの過去を──忌むべき黒歴史を知っているのだろうか。
「すっかり腑抜けたですね、あの『カミナギ・ヨツバ』ともあろうファイターが」
「……あっあの、そ、それは……わたしの……」
「この前は偶然の一致だろうと疑ってたです、でも経歴を調べたらビンゴだったです」
「……っ!」
ミナミさんは、失望と敵愾心を露わにした瞳でわたしを睨む。
思い出したくもない過去のわたし。
この前はただのファンだと勘違いされたままだったからよかったけど、この人は、わたしの過去を完全に把握した上で敵視している。
「……頭を上げるです、そんな腑抜けた『カミナギ・ヨツバ』を、『気炎のサムライガール』を倒したくてわたしは呼びつけたんじゃないです痛ったぁ!」
ミナミさんの言葉が重くのしかかってきた刹那、再びリカと呼ばれていた女の子の拳骨がミナミさんの後頭部に落ちた。
「ごめんなさい、カミナギさん。ミナミちゃんも悪気があって言ったわけじゃないんです」
「……あっ、あばばばばば……」
「申し遅れましたね。私はフタミ・ヒルデガルド・リカ。第二生徒会の派閥、『ロイヤルフリート』に所属しています」
「……あっその、ご丁寧にどうも……」
片脚のない女の子は気品を感じる所作で、土下座していたわたしに一礼する。
ザ・お嬢様という感じだった。
派閥のことはわからないけど、その名の通りロイヤルな感じが全身から溢れ出している。
「そして、貴女に……いえ、貴女たちに挑戦を申し込む者です」
楚々と微笑みながら、リカさんはわたしに改めてそう告げるのだった。
Tipsはまた今度