「そして、貴女に……いえ、貴女たちに挑戦を申し込む者です」
リカさんは、わたしを真っ直ぐに見据えてそう告げた。
挑戦を申し込む、というのは考えるまでもなくガンプラバトルのことだろう。
ここに呼び出してきたということは、リカさんたちが第二生徒会の所属である以上、なにかしらの因縁をつけるためにガンプラバトル部への挑戦を申し込んだ、というところか。
だとしたら、少しだけ不可解な点がある。
ガンプラバトル部の活動が目障りで、真っ向から排除したいのであれば、呼び出すべきはわたしじゃなくてノアちゃんだ。
あれこれと噂を立てられることも多くなってきたとはいえ、わたしはあくまで一介の部員にすぎない。
つまるところ、挑戦を受ける受けない以前にその決定権を持っていないのだ。
「……あっあの、そういう話はわたしじゃなくて、ノアちゃんを通して……」
「ええ、これが頭を飛び越えたお願いであることは承知しています。なので、カミナギさん。私たち『ロイヤルフリート』と取引をしませんか?」
「……と、取引……?」
取引という言葉を持ち出してきたということは、わたしたちにも相応のメリットを提供してくれる、ということに他ならない。
無論、ギブアンドテイクの関係である以上、リカさんたちにも相応のメリットが含まれている話だ。
それを決めるのであれば、尚更わたしなんかじゃなくてノアちゃんやサリアさん、アサムラ先生が出てくるべきだろう。
でも、リカさんたちが取引の相手にわたしを指名したということは、その三人ではダメな理由があるということになる。
ごくり、と固唾を呑むわたしに対して、リカさんは場慣れした様子で楚々と浮かべた微笑みを崩さない。
これが派閥争いや内部闘争に慣れた第二生徒会「トリニティ」の猛者か。わたしとは絶対的に違う、芯の強さがリカさんからは凛と漂っていた。
「まず、こちらがカミナギさんたちに提供できるメリットは二つ……一つは、『ロイヤルフリート』が勝敗の結果は問わず、以後ガンプラバトル部の活動をバックアップさせていただくこと」
「……っ!?」
いくらなんでも破格すぎるメリットに、わたしは思わず目を見開いていた。
リカさんたちとバトルをするだけで、反対派が多数いる第二生徒会における一つの派閥が丸々わたしたちの味方になってくれる。
代わりにどんな要求をふっかけられるのかが今から恐ろしくなってくるレベルのメリットだ。
「もう一つは、私たち『ロイヤルフリート』の長は現第二生徒会最大の派閥にして、第二生徒会長であるヒジリサワ・ミアさんが属している『キリエ・ユニオン』とのコネクションがあります。この意味はわかっていただけると信じています」
「……あばばばばばば……」
それに加えていきなり第二生徒会の最大派閥であり、生徒会長とのコネクションまでくれるというのだ。
代償として内臓をいくつか売ってこいと言われてもおかしくはないレベルの美味い話に、自分の耳を疑いたくなった。
だけど、リカさんは大真面目だ。嘘をついている気配も、この取引に抜け穴を作っている気配もなく、真剣に話を聞く用意があるとばかりに正々堂々と構えている。
「……そ、そんな破格の条件……い、一体なにを考えて……?」
「そう思われるのも仕方ありませんね。なので私たちがカミナギさんと戦うことで享受できるメリットをお話しします」
「ごくり……」
「それは……ミナミちゃんのお願いを、お友達のお願いを叶えてあげられることです」
その瞳に一点の曇りもなく、リカさんはわたしにそう告げた。
ただ、友達の願いを叶えてあげられる。
たったそれだけのために、これだけのメリットをわたしたちに捧げようとしている?
普通なら考えられない。
絶対に裏があるか、別の意図があっておかしくない、というよりはあって当然と見るのが道理だろう。
でも、リカさんがそんな見え見えの罠を仕掛けるようなこと言っていると、わたしにはどうしても思えなかった。
その眼差しが、あまりにも真剣すぎるから。
そして、客観的な証拠として、最初にわたしへの挑戦を仕掛けてきたのは、ミナミさんだったから。
だから、わたしは──
◇
「それで、その『ロイヤルフリート』からの挑戦を受けちゃったわけだ、ヨツバちゃんは」
「……あっはい……あまりにも、断りづらくて……」
「そういう話を持ちかけられたら、顧問のあたしか最低限部長のノアちゃんを通してくれないと……でも、そのメリットと真剣勝負がしたいって話は本気みたいだし、結果オーライか」
放課後、わたしは部室に集まった皆に申し開きをしていた。
もちろん、アサムラ先生からはこつん、とバインダーの角で頭を軽く叩かれる程度ではあったけど怒られた。当たり前だと思う。
顧問のアサムラ先生と部長のノアちゃんを飛び越して、勝手な約束を取り付けてきたのだから。
「ヨツバちゃんって、限定セールとかそういう言葉に弱そうだよね」
「う゛っ」
「……わかる。特に買う必要はないけど一個しか残ってないガンプラとか買ってそう」
「う゛ぅ゛っ……」
全くもってその通りです。
苦笑いを浮かべているノアちゃんと、呆れたような表情をしているサリアさんにわたしは渾身の土下座をするほか、できることはなにもなかった。
今だけ限定とか、特価品とか。そういう言葉に弱い典型的な日本人なんです、わたしは。
「気にしないでください、カミナギさん! わたしなんか見かけ次第デミトレちゃんを確保してますから!」
「……あっあっ、デミ子ちゃんが優しい……」
「……それはそれでお金の使い道考えた方がいい気がするけどね」
今日も布教用に持ち歩いているHGデミトレーナーを学生鞄から取り出して、デミ子ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
サリアさんがぼそっと突っ込んだ通りだとは思う。
だけど、趣味に全力で投資するのもその人の自由だから、わたしからはなにも言えることがなかった。
「で、『ロイヤルフリート』ね……」
「アイカ先生はなにか知ってるんですか?」
「んー、あたしはあんまり生徒会関連のことに詳しくないけど……一応、中等部三年生で『GHC』の御令嬢なクレダ・ユニって子が派閥のトップだったかな? だから、第二生徒会長とのコネがあるって話も本当だと思うよ、ってぐらいかな」
突然とんでもないビッグネームが聞こえてきて、わたしだけでなくノアちゃんも、サリアさんも、デミ子ちゃんも揃って目を白黒とさせる。
アサムラ先生が言った「GHC」──グローリー・ホークス・カンパニーは、世界一の商社として名高いだけでなく、この学園と新台場ギガフロートの設立にも一枚噛んでいる超巨大コングロマリットだ。
そこの御令嬢がトップの派閥から支援を受けられるというのは、わたしが思っていた以上に破格の……いや、そんな言葉じゃ足りないぐらいにとんでもないメリットだったけど。
「……わ、わたし……明日東京湾に沈んでたりしませんよね……?」
「多分しないと思うけど……」
とんでもない相手と取引をしてしまったのだと自覚して、わたしの手は震えが止まらなかった。
プレミアムな財団Bの商品とかついつい買っちゃうタイプのヨツバ