ガンダムブレイカー4 クローバーガールズ   作:守次 奏

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お昼の初投稿です。


第四話「気になるあの子は義足のメイド」

「……うぅ、もうお嫁にいけません……」

 

 ノア先輩と一緒に戦ったガンプラバトルで久しぶりに機体を動かせるようになったのは多分喜ぶべきことなんだろう。

 問題はそれが全校中継されていることをすっかり忘れていて、わたしがゲロをぶちまけてしまったシーンが文字通り全学に知れ渡ってしまったことであって。

 あのあと、ゲロまみれのわたしを保健室まで運んでくれたノア先輩には感謝しかなかった。天使の生まれ変わりか、そうでなければ天使そのものだと思う。

 

「んー、熱もないし診た感じ変なとこもないから心因性の症状って感じねぇ」

 

 身長が低い割にバストサイズがスイカぐらいありそうな保健医の先生──サクラノ・レアさんは、簡易メディカルキットでわたしを調べた結論を口に出す。

 

「……あっ、ありがとうございます。多分それで合ってると思います……」

「でも、ちゃんと専門のお医者さん受診しないとダメだよ? 私はただの保健の先生だから」

「は、はい……」

 

 でもお医者さんに行ったら、トラウマを無理矢理乗り越えようとして吐いちゃいました、なんてことを説明しないといけないわけで、確実に怒られそうなのが嫌だった。

 おじいちゃんもおばあちゃんも、わたしがガンプラバトルをまた楽しめるようにって優しくしてくれただけに、申し訳がない。

 ノア先輩にも責任感じさせちゃっただろうし、あとでちゃんと謝っておかないと。

 

 そんなことを考えながら保健室をあとにすると、廊下はさっきのガンプラバトル……わたしとノア先輩が、リューナ先輩たちに勝った試合のことで盛り上がっていた。

 モニターにはご丁寧にもリプレイ映像が映し出されている。

 正直勘弁してほしかった。わたしの嘔吐シーンが全校生徒に見られて変なあだ名とかつけられたら嫌だ、とてもじゃないけど生きていけない。

 

「えっ、あのリューナが負けたのか?」

「確かリューナって名門のサザキ家の……」

「ああ! うわぁ……対戦相手の子、ゲロ吐いてる」

「VR酔いでもしたのかな」

 

 保健室の扉からこっそりと顔を出して廊下の様子を伺えば、モニターを見ている生徒たちの話題はリューナ先輩が負けたことに対する驚きと、案の定わたしがゲロを吐いたことに二分されていた。

 吐いたものは飲み込めないからしょうがないとしても、リューナ先輩って、そんなに強い人だったんだろうか。

 そんなことをぼんやり考えながら、忍び足で保健室を出た瞬間のことだった。

 

「ごめんねっ、ヨツバちゃん!」

「あっあっあああ、ノア先輩……!?」

 

 びっくりして挙動不審になってしまった。

 どうやらノア先輩はわざわざ保健室の外で待ってくれていたらしい。

 ……なんだか、わたしなんかにここまでしてくれて、本当に申し訳ないな。

 

「ヨツバちゃんが吐いちゃったとき、びっくりしたけど……それぐらいガンプラバトルできない身体だとは思わなくて」

「……あっえっ、別に大したことは」

「大したことだよ! 本当もう、ごめんね!」

「……い、いえ、その。わたしも……トラウマを振り切る、いいきっかけになりましたから」

 

 あそこで無理にでもガンプラを動かしたからこそ、吐いちゃったとはいえ、自分の中にあるガンプラバトルへのトラウマを振り切れた。

 そのことに嘘はない。

 代償として全校生徒に嘔吐シーンを見せつけることにはなってしまったけど。

 

「……本当に?」

「ほ、本当です」

「ならいいんだけど、無理はしないでね?」

「はい……だからわたし、ガンプラバトル部に入部します」

 

 わたしがそう口に出すと、ノア先輩はびっくりしたように目を丸く見開いて、問いかけてくる。

 

「えっいいの? あたしは大歓迎だけど、その……ヨツバちゃんにはなんのメリットもないし」

 

 わたわたと身振り手振りを交えながら、そんなことを口走っているノア先輩のことを、不謹慎だけど可愛いと思ってしまった。

 わたしの事情を知ったからだとはいえ、自分から誘ってきたのに。

 それがちょっとおかしくて、つい小さく笑ってしまう。

 

「……わ、わたし。夢が、ないんです」

「ヨツバちゃん……」

「コミュ障だし、喋るときいつもあっ、て言っちゃうし……で、でも。その……こんなわたしでも、誰かの夢の……お手伝いができたら、素敵だなって思うんです、だから」

 

 ──わたしを、ガンプラバトル部に入れてください。

 ぺこりと腰を折って頭を下げる。

 ノア先輩はそんなわたしの様子を見てあたふたとしてはいたけど、覚悟は決まったみたいで、小さく自分の胸をとん、と叩いた。

 

「……わかった。ありがとう、ヨツバちゃん」

「あっ、その、わたしも……」

「ただし!」

「は、はい!?」

 

 ぴしっ、と真っ直ぐに人差し指を立てて、ノア先輩はわたしの唇に突きつけてくる。

 柔らかいな、と思った。

 誰かにこんな風に触れられるのも、おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってから、初めてのことだった。

 

「絶対に無理はしないこと! また吐きそうになったら大人しくバトルから離脱すること! これだけは守ってね?」

「……は、はいっ……!」

「オッケー! それじゃ、あたしたちの拠点に行こっか」

 

 指切りで約束を交わしたノア先輩は、上機嫌そうにくるりと踵を返す。

 拠点?

 爆破したりされたりするあれのことだろうか。大昔のゲームだし、違うとは思うけど。

 

「ほら、あたしたち非公認の部活だから、部室がないんだよね……」

「あっすみません……」

 

 一応、校則として部活の要件を満たしていない少数派の集まりは「同好会」や「研究会」という形で部屋をもらうことはできるみたいだけど、なんだか「ガンプラバトル部」は特別な事情があるみたいだった。

 それはきっと、ノア先輩の夢に立ちはだかる壁なのだろう。

 ガンプラのスペシャリストを養成する学園なのに、日常的にガンプラバトルは行われているのに、存在していないガンプラバトル部。

 

 その壁を壊して、まずは部活を作ること。

 それがノア先輩の夢を叶える第一歩で。

 わたしにとっても追いかけるべき、第一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

「い、いいいイキってすみません……」

 

 ノア先輩に連れてこられた「拠点」の中に漂っている気怠くも鋭い空気に当てられて、わたしはただぽろぽろと涙をこぼしながらそう呟いていた。

 学園から程近い場所にあるメイドカフェ、「MAID-MAIDEN」。

 そこが、今現在ガンプラバトル部の活動拠点になっているらしかったけど、なんだか店内にいるメイドさんは皆目がギラギラとした光を放っていて、わたしみたいな陰キャが存在してはいけないような気がしてならない。

 

「えっと……ノアちゃん、この子は?」

「すみません、コバトさん……うちの新入部員のカミナギ・ヨツバちゃんです」

 

 そんな中でも、ノア先輩は臆せずに紫色のメッシュが入った黒髪のメイドさんと会話していた。

 こ、これが陽キャの力……! 悪魔の力よ……!

 などと脳内のボッシュ・ウェラーが囁く傍らで、わたしは観葉植物に身を隠しながらその様子を見守っていた。

 

「そうなんだ! ついに新入部員獲得だね、ノアちゃん!」

「はい! ちょっとだけ問題はあるけどガンプラバトルの実力もバッチリで、頼れる後輩なんですよ!」

 

 た、頼れる。

 そう言ってもらえるのは嬉しい。

 でも、わたしは全校中継でゲロを吐いた女だ。その内コバトさんというらしいあのメイドさんにも噂は伝わってドン引きされるんだ……!

 

 裁判で石抱きの刑が確定したわたしを思い描いて絶望していた、そのときだった。

 

「あの、お客さん……そこにいつまでもいられると邪魔なんだけど……」

「ひ、ひぃっ……ご、ごめんなさい……」

「別に怒ってるわけじゃないけど……」

 

 後ろから声をかけられたわたしがびっくりして後ずさるのを、その声の主であるメイドさんはどこか冷めた目で見つめていた。

 その、ノア先輩より少しトーンが落ち着いた金髪碧眼のメイドさんは、気怠そうに右手でスマホをいじっている。

 全体的にスレンダーで、手足の細さや小顔が羨ましい美人さんだったけど、なにより目を引いたのは。

 

「……あーしの右足、気になるの?」

「い、いいいえ別にそんなことは……!」

 

 フリルでデコレートされた、金属製の義足。

 そこにどうしても視線が吸い寄せられてしまう。

 誰かの事情に踏み入るのには資格がいる。わたしなんかがそんなものを持ち合わせていないのは明白なので、全力でメイドさんの言葉を否定する。

 

「別にいいよ……聞かれるのなんか慣れてるし……ってか、コバト先輩の話聞く限り、あんたがガンプラバトル部の新入部員?」

「あっ、は、はい……っ、か、かかかカミナギ・ヨツバです……っ!」

「ふーん……あーしはサリア。ヤマネ・サリア。一応ガンプラバトル部員だから、よろしく」

 

 それだけ告げると、メイドさん改めサリアさんはわたしを近くの席に座らせて、厨房の方に去っていった。

 ……いい人、なのかな。

 癖が強すぎるメイドさんばかりのメイド喫茶でわたしは、ただただその見た目と中身のギャップに困惑することしかできなかった。




全校放送でゲロシーンを放映された女vsクセつよメイドさん

Tips:

【MAID-MAIDEN】
新台場ギガフロートに存在しているメイドカフェ。一般的なメイドカフェとサービス内容やメニューは大して変わらないものの、所属しているメイドたちが一癖も二癖もある性格をしていることに定評があるため、観光客や一部の通からは「上級者向け」と評される店でもある。店内には当然ガンプラバトルシミュレータも備え付けられているため、メイドたちに戦いを挑むことも可能……だが、大体が実力者なので生半可な実力では返り討ちに遭うことも。備えよう。また、サリアのバイト先でもある。

【ハツユキ・コバト/コバト】
笑顔が可愛らしく、小柄でツインテールの王道メイド……と見せかけて、耳にはバチバチにピアスを開けているし黒髪には紫のメッシュが差し込まれている治安の悪さで初見の客を圧倒するバイトリーダー。本業はバンド活動らしい。私立ドミニオン学園の卒業生かつ、元第二生徒会「トリニティ」所属でもあるため、派閥などの事情にも詳しく、ガンプラバトルの腕前も確かであるなど才色兼備な女性でもある。イケイケェな外見をしているが、ピアスとメッシュは単なるオシャレで、中身は面倒見のいい性格。

「初めまして、ここのバイトリーダーやってるコバトでーす。わかんないこととかあったら気軽に聞いてね!」
「うちの店? あー、色々自由だよね。あれあれ、通好みってやつ!」
「別にサリアちゃんみたいな子はここじゃ珍しくないしねー、うちはダイバーシティ? とかいうのに配慮してるんだよね、多分」
「ガンプラバトルから引退した理由……? あー、同期にすっごいバケモンがいてね。ああいうの見てるとそれでご飯食べていくのに自信なくなるじゃん」
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