「それでさー、部活に必要なものってやっぱり部室だと思うの、あたし」
「……まあ、部活やるのに部室がなかったら話にならないし」
「だよね、サリア! 毎回『MAID-MAIDEN』に通ってたら出費も馬鹿にならないし!」
「一応あーしとしては出費してくれる方が嬉しいんだけど」
メイド服のままのサリアさんと、制服姿のノア先輩とわたしたちは今、店内のボックス席の一角に陣取って「今のガンプラバトル部に必要なもの」についての議論を交わしていた。
……コミュ障のわたしはあんまり参加できてないから、こうして注文したメロンソーダフロートをつついてるわけなんだけども。
メイド喫茶ということで相場もお高めなだけに大事に飲まなきゃ。
ちなみに注文したときのサービスはコバトさんとのチェキだった。
ハートを作った方がいいのかと思って恐る恐る指を出したのに、コバトさんはサムズアップをしていたので悲しいチェキが出来上がったことも付け加えておこう。
やっぱりメイド喫茶はオタクの中でも陽のオタクがくるべき場所で、わたしみたいな陰キャの居場所ではないんだ……
「……でもさ、それ以前に部員集めなきゃいけないわけじゃん? ヨツバは加入してくれたけど最低四人と顧問一人で合計五人いないと部活として認められないんだけど」
「そこなんだよねー、ビラ配りとかはしてるけど、効果は全然だし……ヨツバちゃんは知り合いとか友達とかいたりしない?」
「……う゛っ」
友達。その単語を聞いた瞬間、びたーん、とわたしは机に頭を打ちつけていた。
そもそも友達とか知り合いとかがいるなら陰キャやってないんです、ノア先輩。
うっうっ、友達……最後にそう呼べる相手がいたのはいつだっただろう。全然思い出せないし、友達と呼んでくれた相手はわたしの半生においてそもそも皆無なのでは?
「あばばばばばば」
「ヨツバちゃん壊れちゃった……」
「……ノアは無意識に相手の地雷踏み抜くのが得意」
「うっうっ……友達のいないぼっちでごめんなさい……ギターも弾けなくてごめんなさい……」
「なんでギター?」
ぼっちの女の子が実はすごいロックスターだったとか超人気のG-Tuberだったとか、そういう話は世間に溢れているけど、一体ぼっちになにを期待しているのか。
世界は歌のように優しくはない。
どこぞの最後の扉開きたがりなおじさんが言ってたように、ぼっちはぼっち故にぼっちなのだ。
「……まあ、そんな予感はしてたからいいよ。ヨツバ」
「サリアさんの優しさがとても痛い!」
気怠そうな顔が一転して菩薩のような笑みを浮かべるサリアさんも、大概人の地雷を踏み抜いている気がした。
「でも、このままじゃ部室どころか部活として認められないのは確かだし……コバトさんには後輩の知り合いとかいたりしないんですか?」
ノア先輩は、たまたま暇そうにスマホをいじっていたコバトさんに声をかける。
「んー? 知り合いかぁ……私そもそも第二生徒会出身だから、そういうの期待しない方がいいかも」
「あちゃー、第二かぁ……」
「そうそう、そんな風には見えないかもだけど」
なにやらその名前を出すだけで納得したらしく、ノア先輩は残念そうに肩を落として、わかった感じで頷いていた。
第二生徒会って、そんなにアレなところなんだろうか。
わたしを勧誘してきた生徒はお嬢様って感じだったけど。
「……ヨツバ」
「あっはい」
「……聞きたいことあるなら、聞いた方がいい」
「あっえっ、あ、ありがとうございます……じゃ、じゃあ……その、ノア先輩」
どういうわけかサリアさんに背中を押してもらったわたしは、ノア先輩へと胸の内でわだかまっていた疑問を投げかけることにした。
「ん? どしたのヨツバちゃん」
「……え、えっと。あの。第二生徒会って、そんなにアレなところなんですか」
「んー、アレ、ってほどじゃないけど……大企業とか政治家の御曹司とか令嬢とかが多いから、内ゲバが多いんだよね。生徒は比較的大人しい子が多いと思うけど、派閥が絡むと面倒なことになるし、なにより今の生徒会長の一派がどっちかというとあたしたちの活動に反対寄りだから……」
ノア先輩は苦笑しながら肩を竦める。
要するに、第二生徒会は良くも悪くも権力で物事が回っているということらしい。
その最高権力である生徒会長たちがわたしたちの活動に反対だったら、末端の生徒たちも個人としてどう思っていようと、公的には反対の立場を取らざるを得ないと。
「……あ、ありがとうございました。その、なんていうか……」
「息苦しいでしょ? だから私は早々にドロップアウトして音楽で食べてくことを決めたんだよね」
コバトさんは可愛らしく笑いながらそう言った。
音楽で食べていく、のが、コバトさんの夢なんだろうか。
その道のりはきっと平坦なものじゃないし、険しいものなんだろうけど、それでも夢を叶えるために、夢を追いかけて日々を過ごしているのは、少しだけ羨ましいと、そう思った。
「とりあえず今日は解散だねー、サリアもなんかツテあったら勧誘手伝ってよね」
「……あーしも友達なんてノアぐらいしかいないんだけど」
「そこはほら、『MAID-MAIDEN』以外にもメイド喫茶はあるわけだし、メイド繋がりとかあったりしないの?」
「寝言はうちの店の評価を見てから言ってほしい」
「えっ、ここってそんなに……」
もしかしてぼったくりだったり、ヤのつく人と懇意にしているヤバいお店だったのだろうか。
サリアさんの言葉に、わたしはメロンソーダフロートを飲む手を止めて凍りついていた。
お、終わりだ……きっと埋め立てで狭くなったけど、この店の秘密を知った以上、東京湾に沈められる未来が待っているんだ……
「うっうっ……せめて遺言状は書かせてください……」
「なんの話?」
「……あーしの言い方がまずかった、ごめん。うちの店って癖強い人しかいないから同業者からも結構避けられてるんだよね、それだけ」
「と、東京湾に沈められたりは……?」
「しない」
はぁ、と溜息をついてサリアさんは立ち上がる。
右脚の義足が、店内の照明に照らされて鈍く光っていた。
……なんだろう。やっぱり色々抱えてるんだろうけど、サリアさんはノア先輩と一緒で優しい人なのかもしれない。
「それじゃ改めて解散! サリアはバイトだし、あたしもちょっと用事あるし、ヨツバちゃんも寮に帰るとか、ガンプラ探しに行くとかしてていいよ!」
「……あっはい、ありがとうございます……」
メロンソーダフロートを飲み干して、コバトさんと撮ったチェキを右手に持って、わたしは「MAID-MAIDEN」を後にする。
部活として部室は必要だけど、まず前提として部員が揃ってない。
この問題を解決するのは、わたしにはちょっと……というより大分荷が重そうで、ぼっちな人生を歩んできて申し訳ありませんと、心の中でノア先輩とサリアさんに謝り倒すばかりだった。
おかしい……俺たちはちょっと前までブレイバーンを見てゲラゲラ笑ってたはずなのに……