特にやることがないモデラーは大体中古ショップを訪れる。
と、いうと大分主語が大きい気がするけれど、中古ショップには思わぬ掘り出し物や、あの日買い逃したプレミアムな限定商品があったりするから、心ときめく場所であることには違いない。
新台場ギガフロートに引っ越してきて、寮の位置と学校の位置、そしてさっきナビアプリに登録した「MAID-MAIDEN」の位置は覚えたけど、知らない場所の方が多い。
そんな中で、「スマイルエンペラー」というらしい中古ショップにわたしは足を踏み入れていた。
ひんやりとした冷房の空気が心地いい。
コバトさんやサリアさんには申し訳ないけど、メイド喫茶みたいな陽のオタクが集う場所じゃなく、こういう陰のオタクが集うところの空気の方が、わたしには合っている。
お客さんを見ても、親子連れでガンプラを探してたりする微笑ましい空気はなくて、皆ギラついた目で掘り出し物を探していた。
「こういうのでいいんです、こういうので……」
なにかを買うつもりはなかったけど、陽の空気に当てられすぎて少し疲れていた心を回復させるために、わたしは「スマイルエンペラー」の店内を当てもなく歩く。
大きな店構えに違わず、品揃えも豊富だ。
近くのショーケースの中には、激レアキットとして名高いトールストライクガンダムグリッターの未開封品が陳列されていた。
……それだけに、お値段は結構するけど。
現金の持ち合わせは少ないし、この新台場ギガフロートでは一般的な電子決済、GP決済──「グローリー・ペイ」に対応しているか、レジを見てみたけど対応してなかったみたいだった。
珍しいな、と思ったけど、EnPayこと「エンペラー・ペイ」には対応しているみたいだから、GPの親企業「GHC」とは仲が悪いのかもしれない。
別にミキシングの素材にするわけでもなく、なんとなくレアキットを見かけたから確保しなきゃいけない、という衝動を抑え込みながら、店内を歩き回っていると。
「おいおいデミ子ちゃん、そのキットはお前には無用の長物だろ?」
「そっ、そんなことないです! これは、私のデミトレちゃんを強化するために……!」
「バトルがド下手クソなお前がレアキット持ってたってしょうがないだろ? なあ、俺らに譲ってくれよ」
「い、嫌です! ギガフロートを歩き回って、ようやく見つけたんです、この『水星の魔女拡張パーツセット1』は!」
なにやら揉め事の気配がした。
水星の魔女拡張パーツセットは、滅多に再販がかからないことで有名なキットだ。
恐らくそれをめぐって喧嘩をしているのかもしれない……と、わたしはショーケースの陰から少しだけ顔を出して、揉め事が起きている現場を見る。
「それなら俺らだって同じだよ、ようやく俺のファラクトを5号くん仕様にできるかもしれねェってのによォ〜」
「大体デミ子、お前みたいな雑魚にはダリルバルデのダヤ・アンビカーもミカエリスのドリルジャベリンも使いこなせねえだろ? 使いこなせるってんなら、証明してみせろよォ〜」
「う、ううっ……!」
デミ子と呼ばれていた、ドミニオン学園の学生服に身を包んだ赤毛の女の子は眦に涙を浮かべて、水星の魔女拡張パーツセットを抱きかかえる。
その子に絡んでいる二人組も、うちの学生服に身を包んでいた。
でも、その体は筋骨隆々としていて、天に逆立てたモヒカンヘアーが近寄りがたい威圧感を放っている。
「簡単だろ? 俺らとガンプラバトルしようぜェ、デミ子ちゃん」
「お前が正しいってんなら、俺らに勝って証明してみせろよ、負けたらその水星の魔女拡張パーツセットは俺らのものってことでよォ、ヒャハハハ!!!!」
「……わ、私は……っ……!」
……どう、しよう。
あの女の子は、きっとバトルに自信がない。
それなのに一方的に舞台に引きずり出されて、不利な賭けを強要されている。
わたしに、なにかできるだろうか。
あんな怖い人たちに絡みに行ったら、あとで因縁をつけられて袋叩きにされるかもしれない。
仮にガンプラバトルでデミ子(仮)ちゃんを助けて、あの人たちを倒したとしても、先輩とかを呼ばれてお礼参りされるかもしれない。
怖い。
見なかったことにして帰っても、きっと誰も文句は言わないだろう。
気づいた店員さんがなんとかしてくれるかもしれない、だからわたしみたいな意気地なしは早く寮に戻って──
「私は……私のデミトレちゃんを強くしてあげたい! だから、戦います!」
デミ子ちゃんは、涙目で不良生徒二人に向けて啖呵を切った。
……わたしは、なにをやってるんだろう。
怖いはずなのに、勇気を出して一歩踏み出したあの子に背を向けて、帰れるだろうか。
──帰れる、はずがない!
「あっえっあっ、その! ま、ままままま待って、くださいぃ……!」
「あぁん? なんだ、テメー! どこ中だゴルァ!?」
「ひ、ひぃっ……中学校は、東北の田舎です……」
「じゃあ引っ込んでろや田舎者がよォ! 俺らは真剣な賭けバトルを……」
「……と、トールストライクガンダムグリッター……!」
「あン?」
「に、二対一はひ、卑怯です! だから……わたしがこの子とチームになります! それで……負けたら、あのトールストライクガンダムグリッターをわたしがあなたたちに奢ります!」
びしっ、とはいかないけど、震える指でショーケースに飾られているトールストライクガンダムグリッターを指差して、わたしも啖呵を切る。
「おい、どうするよ?」
「トールストライクグリッター……新品未開封じゃ一万五千円か、悪くねぇ。いいぜ、テメーとデミ子ちゃんでチーム組んで、俺らに勝てたら見逃してやるよ。負けたらそのときは……」
「……は、はい。た、戦います! いいですよね、その……デミ子? ちゃん?」
わたしは置き去りになっていたデミ子ちゃんに意思を確認する。
突然の出来事だったからか、デミ子ちゃんは呆然としていた。
けれど、すぐに元の闘志を取り戻して、大きく頷く。
「わかりましたっ! ありがとうございます、えっと……」
「……よ、ヨツバ……カミナギ・ヨツバ、です」
「ありがとうございます、カミナギさん! 頑張ってあの人たちを倒しましょう!」
ふんす、と気合いを入れて、デミ子ちゃんは店の奥にあるガンプラバトルシミュレータに駆け出していく。
──勝たなきゃ。
わたしも、ぴしゃりと頬を叩いて気合いを入れ直した。
再販どこ……ここ……?