『ルールは簡単だァ、二対二で全滅した方の負けのベーシック形式だ』
『俺らが勝ったら水星の魔女拡張パーツセットとトールストライクグリッターをいただく』
「……わ、わたしたちが勝ったら、デミ子ちゃんを見逃す」
『いいねェ……水星の魔女を思い出す! フィックス・リリースってなァ! ヒャッハー!』
モヒカンの男子生徒が奇声を上げると同時に、システムが【Battle Started!】と戦いの火蓋を切る。
バトルステージは廃墟都市。さっきの話を聞くに、相手の編成には間違いなくガンダム・ファラクトがいると見ていいだろう。
そうなると、恐らくもう一人が出してくるのは、狙撃機からヘイトを散らし、前線を引き受けるタイプの格闘機といったところだろうか。
「頑張りましょう、カミナギさん!」
「あっ、は、はい」
デミ子ちゃんは威勢よく言ってくれたけど、出したガンプラは素組みのデミトレーナーだ。
スミ入れとつや消しはされているみたいだけど、それだけ。
正直、戦力としては心許なかった。
『ヒャア! カモがネギとスープと鍋とコンロを背負って来やがったぜェー! この俺のディランザアイアンブラッドの前に散りやがれ!』
相手の前衛は、案の定格闘に偏重した機体だった。
グエル専用ディランザに増加装甲を施して、両腕をバルバトスルプスレクスのものに換装し、超大型メイスを担いでいる。
GBBBBでは凶悪な武器として名が知れているらしい超大型メイスだけど、旧世代のバトルシミュレータではあまり関係ない。
「いきます! さあ、どこからでも──きゃあっ!?」
先行したデミ子ちゃんのデミトレーナーが、死角からの狙撃で爆散した。
……ファラクトは、近くにいる?
でも、今の攻撃はどう考えても展開速度から考えたらありえないところから飛んできた。
なら、考えられる可能性は一つだけだ。
『ヒャア! ぼーっとしてる間にミンチにしてくれるぜ……ェ……!?』
「カミナギ流抜刀術」
超大型メイスを振りかぶったディランザアイアンブラッドの両腕を、わたしは居合の要領で関節から断ち切る。
装甲がいかに厚いとしても、関節のような脆い場所は確実に存在しているのが相場だ。
なら、そこを見極めて断ち切ればいい。
そして、わたしのフィアンマフリーダムが装備している二振りの刀は、ナマクラなんかじゃない。
相手が動揺している間にディランザアイアンブラッドを三枚おろしにして、わたしは神経を研ぎ澄ませる。
相手が撃ってくるならここしかない。そして狙うはきっと。
『く、クソッ! オニヅカをよくも……! 代償はテメェの命で払いやがれ! ヒャッハー!』
「遅い」
相手が狙うならただ一点。
背後から、フィアンマフリーダムのスラスターを破壊してしまえば、コックピットを外したとしても足を封じられる。
それを読んだ上で、わたしは機体をバク宙の要領で回転させて、死角からの一撃を回避していた。
『ば、バカな!? タイミングは完璧だったはずだ!』
「……リフレクタービットと組み合わせた狙撃。初見殺しとして有名ですね」
『なっ……なんでわかった!?』
「……そして、ガンビットのペイロードをリフレクタービットに割いている以上、あなたのファラクトにガンビット……コラキは積み込まれていません」
『クソッ! タネが割れたところでこの攻撃は予測不可能回避不能だァ! 二度目の偶然はないぜ、ゲロ女!』
……あっ、やっぱりそれ知られてたんだ。
ドミニオン学園の生徒だから仕方ないか。
正直そう呼ばれるのは嫌だけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「確かに、二度目の『偶然』はありませんね」
『な……ッ!?』
「あるのは、必然だけです」
死角から来ることがあらかじめわかっているなら、回避することは容易だ。
わたしはスロットルを全開にして、ファラクトが隠れていると当たりをつけた建物に全力で前ブーストを噴かす。
──そして。
「『
『な、なんだァ!? 斬撃が、飛んで……ッ!? ち、ちくしょおおおお!!!! チート使ってんじゃねえぞゲロ女ぁぁぁぁ!!!!』
チートなんて使ってない。
ただ、神速の斬撃は、音を超えて飛ぶ。それが摂理だ。
わたしが交差させて振るった斬撃で、ビルごとぶった斬られる形で胴体を四分割されたファラクトは爆発四散した。
◇
「ち、畜生! インチキだ! チート使って勝って楽しいのかゴルァ!?」
シミュレータから出て来た、ファラクト使いのモヒカン生徒は怒髪天をつくといった様子で激怒しながらわたしたちに詰め寄ってきた。
あれはチートでもなんでもないんだけど、こうなっている相手には話が通じないと相場が決まっているから厄介だ。
どう説明したところで、この人が納得してくれることはないのだろう。
「やめろよイタ、見苦しい……俺たちは負けたんだよ」
「オニヅカ、お前だって納得してねぇだろ!?」
「……俺のディランザアイアンブラッドはそこらのヤツには負けねーぐらい装甲を強化してた、ソイツをぶった斬られたら……否が応でもわかるぜ」
「ち、畜生……お、俺は認めるもんか! チートゲロ女、デミ子ァ! そのキットは力づくでも……!」
イタと呼ばれていたモヒカン生徒がとうとうリアルファイトを挑もうとしてきた、そのときだった。
「やめておきなさい」
凛とした声が、ショップのバトルシミュレータコーナーに響き渡る。
黒い制服に身を包み、同じ色のロングコートを羽織った小さな女の子が、何人もの黒制服を従えて、わたしたちに詰め寄ってくる。
その子は身長こそ低いけど、その目には鋭く研ぎ澄まされた刃のような輝きが宿っていた。
「ひ、ヒナモリ・ソラ……! 風紀委員長が、なぜ……!」
「ええ。ここで校則では禁止されている賭けバトルが行われていると通報があったから。手間をかけさせないでちょうだい」
「……イタ、諦めろ」
「ち、ちくしょおおおおお……!」
「連れて行きなさい」
ヒナモリ・ソラと呼ばれた黒制服に銀髪が映える女の子は、配下と思しき生徒たちにそう命令して、オニヅカとイタ、二人のモヒカン生徒をどこかに連れていく。
「……あなたたちも災難だったわね」
「あっ、いえ、その……デミ子ちゃんは、大変だったと思います」
「その口ぶりだと、貴女は別に大変ではなかったと?」
「……は、はい」
だって、戦ってみると正直威圧的な外見と言動以外に怖いところはなかったから。
わたしがそう呟くと、ヒナモリさんはふっ、と小さく微笑む。
なんだか試されているみたいで、わたしはごくり、と生唾を飲み込んだ。
「そう……じゃあ行くわよ、カコ」
「そこの二人はよろしいので?」
「彼女たちは被害者よ。余計な仕事を増やしたくないもの」
「承知しました」
カコ、と呼ばれた黒制服の女子生徒にそう告げると、ヒナモリさんは去っていった。
緊張が一気にほぐれたからか、なんだか、どっと疲れが湧き出てくる。
でも、デミ子ちゃんと、デミ子ちゃんが見つけた水星の魔女拡張パーツセットは無事に守り抜くことができた。
「ありがとうございます、カミナギさん!」
「……あっいえ、その、ど、どういたしまして……」
「カミナギさんはデミトレちゃんの恩人です! デミトレちゃんを守ってくれたお礼に……そうだ! カミナギさんのお願いをなんでも聞いちゃいます!」
私にできる範囲でですけど、と、デミ子ちゃんは照れながらそう付け加える。
お願い……なにかしてほしいこととか、入り用で欲しいものとかもないし、どうしたものかと考え込む。
……あっ、そうだ。
「……あっえっと、その、デミ子ちゃんがよければ、ですけど」
「はい!」
「……が、ガンプラバトル部に、入ってくれませんか……?」
デミ子ちゃんが入ってくれれば、必要人数は揃うから、わたしはそう提案した。
困っていることといえばこれぐらいだけど、デミ子ちゃんが嫌だと言ったら諦める。
それぐらいのつもりでの話だったけど、でも。
「わかりました! デミトレちゃんの恩人であるカミナギさんのお願いなら、このデミ子……サワイデ・フミカ! ガンプラバトル部に入ります!」
……なんだか、二つ返事で承認されてしまった。
本当にいいのかな、と思ったけど。
デミ子ちゃんの目はキラキラと輝いていて、今更それをなしにしてほしいというのも、なんだか憚られたから。
「……え、えっと。あ、明日の放課後……『MAID-MAIDEN』ってメイド喫茶に……」
「はいっ! よろしくお願いしますね、カミナギさん!」
ぎゅっ、とわたしの両手を握って、デミ子ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
あっ眩しい。
陽キャスマイルに灼かれたわたしは、小さく「よろしくお願いします」と言うのが精一杯だった。
ヨツバの本気、その片鱗